裁判例

Precedent

交通事故
上肢
10級
逸失利益
労働能力喪失の有無【後遺障害10級10号】(大阪地判 平成21年7月28日)

事案の概要

X(34歳、宅配作業員)の運転する自動二輪車が道路左端を走行中、同方向に走行していたYの運転する普通貨物自動車が路外ガソリンスタンドへ入るために左折した結果、両車両が衝突。
Xは、右手舟状骨骨折、右膝外側半月板損傷の傷害を負い、自賠責保険会社から後遺障害等級10級10号に該当する旨の認定を受け、賠償請求に及んだ。

<主な争点>

①Xの残存症状は後遺障害等級何級相当か?
②Xには逸失利益がどの程度認められるか?

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 7万3486円 28万1798円
通院交通費 2万2280円 2万2280円
休業損害 8万4495円 8万4495円
通院慰謝料 150万0000円 150万0000円
逸失利益 3163万6902円 3163万7891円
後遺障害慰謝料 550万0000円 530万0000円
過失相殺 5%
損害の填補 ▲570万4098円
弁護士費用 310万0000円
合計 3428万0103円

<判断のポイント>

(1)後遺障害等級認定

本件では、Xの右手の可動域制限について訴訟提起前に「1上肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」として後遺障害10級10号が認められていました。

この後遺障害は、手首、肘、肩のうちの一箇所が、健康な方の腕と比べて3分の1までしか曲がらないというものです。

しかし問題となったのは、通院先病院のカルテに、右手の可動域の測定結果が記載されていなかったことです。

これをもって、Y側は、後遺障害診断書の記載は症状固定時のものではないと反論したのです。

裁判所は、確かにカルテには記載はないものの、通常後遺障害診断書に記載されているのは症状固定時点の測定結果だと推定できるとし、さらに医療記録の中にも測定結果として記載があることから、可動域制限の事実を認めました。

このことから、やはり裁判所は、後遺障害診断書にどのように記載されているかをかなり重要視していることが分かります。

(2)逸失利益

本件では、Xが症状固定後も、事故以前と同じ職場で同様に勤務し、実際の減収は生じていないことから、逸失利益が発生するのか、発生するとしてもどの程度なのかも問題となりました。

逸失利益とは、後遺障害が残存することによって労働に支障が出る結果、労働の対価である収入にも影響(減収)が生じるだろうという発想のもとに認められるものです。

ですから、後遺障害が残存していても、労働には支障がなかったり、収入に影響しなかったりする場合には逸失利益は発生しないともいえます。

この点本件では、Xの職業が宅配便の集配作業であり、重量が500キログラム近くになる運搬用の箱を押して移動したり、台車を押したりするなど、手を使う作業が多くあり、利き手である右手首が十分に曲がらないために非常に苦労しているとし、そのような後遺障害がありながら、自らの努力で仕事の効率を低下させないようにしていることも認められるとし、労働能力喪失率を27パーセント、喪失期間を67歳までの33年間として、逸失利益を認めました。

この判断は、とても重要です。

障害が残ってしまったが、何とかこれまでと同じように稼動しようと努力をした者には逸失利益が認められず、漫然と支障を来たしたものにだけ補償が与えられるとなっては、不平等です。

裁判所に対して、実際の仕事内容、後遺障害が仕事に与えうる支障、被害者の苦労や努力を具体的に主張していき、逸失利益を認めさせることが大切になります。

まとめ

本件は、請求額とほぼ同額が認定されている、珍しい裁判例です。

判決は大分簡略化されているため詳細は不明ですが、当初から金額についてはそこまで大きな争いはなかったのかもしれません(実際は上記争点の他に、事故態様が大きな争点となっていました。)

もっとも、「カルテに記載がない」や「減収が生じていない」という反論は、事前に把握をしていないと一瞬ドキリとするものです。

これらの反論に対して、適切な証拠を用いて、きちんとした対応をしていかなければ、後遺障害が認められなかったり、逸失利益がゼロになったりする可能性もあります。

自身に有利な証拠、不利な証拠を見極めたうえで、適切な対処を心がける必要があるといえるでしょう。

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