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高次脳機能障害
変わってしまった夫【後遺障害併合2級】(名古屋地判平成26年4月22日)

事案の概要

Yは、片側1車線の追い越しのための右側部分はみ出しが禁止されている道路において、渋滞を避けるために対向車線にはみ出して普通乗用車両を走行させていたところ、路外から同道路へ侵入してきたX1(当時62歳)運転の原動機付自転車と衝突。

X1は、外傷性くも膜下出血、広範性脳損傷、高次脳機能障害、右頬骨・眼窩・右鎖骨骨折及び右上顎中切歯外傷性歯牙破折の傷害を負ったため、X1、及びX1の妻であるX2と、子であるX3及びX4は、本件損害賠償請求に及んだ。

<争点>

・後遺障害の有無及びその程度
・介護の必要性

<請求額及び認定額>

<X1の損害>

主張 認定
治療費等 156万2033円 156万2033円
入院雑費 10万0500円 10万0500円
入院付添費 107万2000円 53万6000円
通院付添費 229万0000円 103万0000円
通院交通費 5万3681円 2万7630円
家族の交通費 36万7104円 36万7104円
休業損害 70万4760円 68万8333円
入通院慰謝料 350万0000円 230万0000円
後遺障害逸失利益 3064万4338円 324万3114円
後遺障害慰謝料 3500万0000円 2400万0000円
症状固定後の介護費用 8822万2690円 4411万1345円
書籍代 11万9858円 11万9858円
物損 17万1619円 15万4457円
既払金 ▲2518万0000円 ▲2518万0000円
弁護士費用 1380万0000円 260万0000円

<X2の損害>

主張 認定
慰謝料 500万0000円 100万0000円
旅行キャンセル料 6万1740円 6万1740円
弁護士費用 50万0000円 10万0000円

<X3の損害>

主張 認定
慰謝料 400万0000円 50万0000円
旅行キャンセル料 6万1740円 6万1740円
弁護士費用 40万0000円 5万0000円

<X4の損害>

主張 認定
慰謝料 400万0000円 50万0000円
弁護士費用 40万0000円 5万0000円

<判断のポイント>

(1)高次脳機能障害とは

脳は、感覚器官から入力のあった情報を認識したり、認識した情報に基づいて行動や言動を起こすための重要な役割を果たしています。

これは、脳の各部位が連携することによって実現されているため、脳に損傷が生じるとその連携が崩れることによって、様々な症状が生じます。

これを高次脳機能障害といいます。 被害者自身には病識がないことも多く、周囲の人間の協力が必要となる障害といえます。

「高次脳機能障害」について詳しくはこちら

<症状の推移>

高次脳機能障害は、脳がダメージを受けたことによって脳機能が不全を起こすことをいいます。

しかし、それらの症状は外部からは分かりづらいことも多くあります。例えば、人格変化や易怒性などは、医師からすると「もともとそういう人間なのか」「障害によってそうなっているのか」という判断がつきづらい場合が多くあります。

また、受傷直後の症状は一過性のものもあるため、ある程度の期間をもって様子をうかがわなければ、障害が残存しているか否か乃判断がつきづらいという面もあります。

本件では、X1は、事故直後の入院中から興奮性が強く、大声で叫ぶ、看護師に抵抗して叩く、蹴る、脱抑制などの行動が多く見られており、これは明らかに通常の範疇を超えていると言えます。

その後、症状が落ち着く時期もありますが、運転中のX3に暴力を振るい怪我を負わせたり、食器を洗う音にも敏感に反応し、3日間怒り続けたりすることもあったようです。

このような入院治療上、及び日常生活上の支障や生活状況をひとつひとつ認定していく作業が必要になります。

<後遺障害の程度>

一口に「高次脳機能障害」と言っても、その症状の種類や重症度によって、後遺障害として認められる等級も様々です。

重症のものでは1級や2級、比較的軽症なものだと9級の認定もあり得ます。

これらの等級判断の際には、介護の必要性と、労働可能性がキーとなります。

本件では、X1は買い物に出かけたり、ソフトボールへ出かけたりなどの行動は可能で、一定程度の社会活動を行っていました。

しかし、裁判所は、上述の通りのX1の症状を認定した上で、「人格変化、健忘症状は著しく、易怒性等の精神症状の悪化による社会適応性の欠如は明らかである」と判断し、「高次脳機能障害による症状のため、生命維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが、『労務に服することができないもの』として、後遺障害等級3級に相当する後遺障害が残っている」と認定しました。

<介護の必要性>

上では、高次脳機能障害の判断は、介護の必要性と労働可能性がキーとなると説明しました。

一般的な後遺障害としては、1級及び2級が介護を要するものと判断されます。

しかし、高次脳機能障害では、3級だとしても介護の必要性が認められることがあります。

確かに、高次脳機能障害があっても、一般的な会話や行動は出来るという場合もあります。

そのような場合、例えば遷延性意識障害(植物状態)や半身不随などのような介護は必要ではないかもしれません。

しかし、高次脳機能障害の方は、自分自身病識がない場合も多く、また他人からも一見して障害者であるとは分かりづらい場合があります。

その中で、健忘症状や易怒性のある方が何ら他人のサポートなく生活が出来るかというと、相当な疑問が残ります。

語弊を恐れずに言えば、暴力や暴言、失見当識など社会的に問題となる行動を、ふと取ってしまうことがありうるのです。

本件では、確かにX1は、買い物やソフトボールは行えることは認められます。

しかし、上述の通り、社会適応性は著しく欠落しており「X1の症状を理解している家族や医療、福祉の専門家による随時の看視や見守りの限度での介護の必要性はある」と判断し、介護の必要性が認められました。

もっとも、X1らは、自宅における職業介護人による介護を前提とした請求をしていましたが、これまでのX2の行動や症状の程度、及びそれらによってX2らがうつ症状を呈していることからすると、「現段階において完全な在宅介護を実施できる蓋然性は認め難い」とし、「今後も医療保護入院が続く蓋然性が高いといえる」と判断しました。

このように、「介護が必要か」と一口に言っても、どの程度の介護が必要か、どのような介護方法が適切か、などの様々な観点からの検討が必要となります。

まとめ

現代の医学や科学においても、脳の機能は完全に解明できていません。

従って、高次脳機能障害も、厳格に「脳のどの部位が損傷しているためどのような症状が出ている」という特定は困難です。

そのため、高次脳機能障害は、そもそも後遺障害として認定させることから簡単ではありません。

事故直後の意識障害・画像上の異常所見・運動機能や認知能力に対する支障等の様々な事実を証拠によって積み上げなければなりません。

また、後遺障害が認定された場合にも、本件のようにその程度や介護の必要性等で争いになることもあります。

交通事故により頭部を受傷され、意識障害があったような場合には、お早めに弁護士にご相談ください。

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