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生活を助け合っている家族が亡くなったとき~扶養利益~(大坂地判平成27年10月14日)

事案の概要

東西に通じる道路と、その道路に南方から通じる道路が丁字に交わる交差点の東方に設けられた横断歩道上で、青信号に従って南方から交差点に進入し東方に右折したY車が、横断中の亡Cに衝突。

その結果、亡Cは死亡し、(1)亡Cの内縁の夫X1は、自己固有の人的損害を、(2)亡Cの子であるX2らは、亡Cの人的損害の相続分について、それぞれ支払を求めた事案。

<主な争点>

①X1は「内縁の夫」か否か
②X1の固有の損害の有無・額
③X2らの損害額

<主張及び認定>

①X1

主張 認定
扶養利益の喪失 2070万8069円 655万0533円
固有の慰謝料 1200万0000円 600万0000円
弁護士費用 320万0000円 100万0000円

②X2ら

主張 認定
葬儀費用 518万4426円 150万0000円
死亡逸失利益 3451万7484円
・稼動分 2457万8619円
・年金分 993万8865円
1791万2885円
・稼動分 1310万1066円
・年金分 481万1819円
死亡慰謝料 2800万0000円 1800万0000円
弁護士費用 680万4808円 各100万円

<判断のポイント>

(1)内縁関係

「内縁」とは、結婚する意思をもって一緒に生活し、社会的にも夫婦と認められているけれども、婚姻届を提出していないため、法律上の配偶者と認められない関係を意味します。

内縁の妻または夫は、パートナーについて、法律上の配偶者ではないため、相続権がありません。

ですので、パートナーが交通事故で亡くなった場合、パートナー自身が加害者や保険会社に請求できる権利を相続して行使することはできません。

もっとも、裁判実務では、たとえば、内縁の妻または夫は、パートナーが亡くなったことに対する自分自身の慰謝料=「固有の慰謝料」を請求することができると考えられていますし、一定範囲の家族に認められる「扶養利益」も認められる場合があります。

本件で、裁判所は、「X1は、昭和60年頃から本件事故時までの約28年間、継続して亡Cと同居し、二人の収入による同一家計で生活しており、亡Cの子であるX2らの結婚式や結納にも、父親(亡Cの夫)という立場で出席していた。しかも、X1は、X2らが全て独立した後で、本件事故の約4年半前の平成21年2月には、亡Cの申出により、亡Cと結婚式を挙げ、その際二人で今後も夫婦としての共同生活を続けることを誓っている。

そして、X1と亡Cに対しては、家族以外の者からも連名の年賀状が送られており、これらの事実を総合すれば、X1と亡Cは本件事故当時、事実上の夫婦共同生活を送る意思を有し、かつ、社会通念上夫婦としての共同生活の実態も有していたと評価することができる。」として、X1が亡Cの内縁の夫であったことを認めました。

(2)扶養利益

民法上、親子や同居の親族については「お互いに助け合う必要がある」と規定されています。

この「お互いに助け合う必要がある」とは、お互いに扶養義務を負っているということを意味します。

扶養利益は、この義務に基づき、被害者から扶養される利益といえます。

内縁の妻または夫は、配偶者と同視できるので、この扶養利益が認められる可能性があるのです。

そして、扶養利益は、簡単に言うと、扶養されていた額×扶養を受けられたであろう期間(ライプニッツ係数)で計算されます。

X1は、「本件事故前、X1と亡Cは、X1の年金(月額約15万円)と亡Cのアルバイト収入(月額約13万円)によって二人で生活しており、亡Cが家事をしていた。ところが、本件事故によって亡Cが死亡したため、原告X1は、亡Cのアルバイト収入が得られなくなるとともに、亡Cによる家事も受けられなくなったから、扶養利益を喪失したというべきである。」として、X1に扶養される利益を失ったと主張しました。

そして、X1は、平成25年賃金センサスの女性労働者・学歴計・60歳~64歳の平均賃金である年額298万8600円を基礎とし、生活費控除率を30パーセント、喪失期間を14年として、喪失した扶養利益を計算しました。

これに対して、裁判所は、X1に扶養利益の喪失の損害が生じたことは認めましたが、その額は,平成25年賃金センサス女性労働者・学歴計・60歳~64歳の平均賃金である298万8600円を基礎とし,亡Cの生活費控除率を30パーセント,就労可能年数を61歳女性の平均余命の約半分である13年間として算定した上で,その3分の1に当たる金額をもって相当と認めました。

上のX1の主張では、亡Cの稼いだお金などは全てX1の生活費などに充てられていた=X1の扶養に充てられていたということになります。

裁判所は、その主張は認めず、(期間も若干短く認定しましたが)その約3分の1の金額をXが扶養されていた金額としました。

亡C本人の生活費については、「生活費控除率30パーセント」というところで考慮されているにしても、亡C本人の生活費以外=X1の扶養に充てられた金額とは単純に考えられないということですね。

(3)年金の生活費控除率

生活費控除率とは、被害者が亡くなったことで将来かからなくなった生活費を逸失利益の計算の際に差し引くために使われる概念です。

この点、年金は、生活を保障するために支払われるものなので、年金は、他の収入に比べ、生活費の占める割合が高いと考えられています。

X2らは、亡Cの逸失利益に関して、アルバイトでの収入も年金収入も同じく生活費控除率30%として計算しています。

これに対して、裁判所は、アルバイトでの収入については生活費控除率30%、年金収入については生活費控除率60%として計算しました。

X2らと裁判所との計算方法には、他にも細々として違いがありますが、大きなところではこの生活費控除率を何%と考えるかの違いが、金額の差に影響していると考えられます。

また、裁判所は、亡Cのアルバイトでの収入についての逸失利益のうち、X1の扶養利益として認定した額は、X1の扶養に充てられるべき金額であるので、これを除いた金額が、亡Cの逸失利益として認められるべきと判断しました。

まとめ

扶養利益と死亡被害者の逸失利益との間にはこのような関係もあるので注意が必要ですね。

身近な方が亡くなっただけでも大きな精神的ダメージを被ることと思います。

しかし、その方が、自分の生活を経済的に支えてくれていた場合に、その経済的損失を加害者に請求したいというのは当然のことです。

交通事故で大切な方を亡くされた場合、扶養利益が請求できるのか、その金額はどの程度になるのかなど、どうぞ当事務所の弁護士にご相談ください。

死亡事故の場合は、請求金額も高額となりますので、プロの法律家の目で漏れなく主張・立証していくことが大切です。

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