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裁判例: 素因減額

交通事故
神経・精神
首・腰のむちうち(捻挫)

玉突き事故とヘルニア【後遺障害なし】

事案の概要

X車にY2車が追突、Y2車にY1車が追突した連続追突事故で、XがY2とY1に、Y2がY1に賠償請求をした2件の事案。

<主な争点>

①過失
②素因減額

<主張及び認定>

①Xの損害

主張 認定
治療費関係費 9万8585円 9万8585円
交通費 2523円 2523円
休業損害 2万3625円 2万3625円
傷害慰謝料 49万0000円 33万0000円
素因減額 なし なし
人身傷害保険料受領による請求権移転額 ▲36万4133円 ▲36万4133円
車両修理費等 73万2443円 31万1790円
代車使用料 113万3685円 19万2150円
弁護士費用 24万8086円 6万0000円

②Y2の損害

主張 認定
車両損害 32万9000円 32万9000円
弁護士費用 3万2900円 3万2900円

<判断のポイント>

1.Y2に過失があるか

本件は、広い意味でいえば、いわゆる玉突き事故です。

このような場合、①-1:誰が“加害者”なのか=誰が“損害を賠償する責任を負うのか”、①-2:追突車から他の追突車に対する損害賠償請求において「過失割合」はどうなるのかが問題となります。

①-1:誰が“加害者”なのか=誰が“損害を賠償する責任を負うのか”

Xは、「X車両に対するY2車両の追突は、Y2の前方不注視及び減速不十分の過失又は被告Y1の前方不注視及び減速不十分の過失により発生した。したがって、Yらは、共同不法行為により、連帯して、Xに対する賠償責任を負う。」と主張しました。

この点、Yらが主張する玉突きの態様は以下のとおり、それぞれ異なりました。

Y2は、「Y1車両がY2車両に追突したため、Y2車両が前進し、X車両に追突した。」と主張し、

Y1は「X車両に追突したY2車両が急停止したため、Y1車両がY2車両に追突した。」と主張したのです。

これに対して、裁判所は、

① Y2車両の後部に、Y1車両の前部に取り付けられたナンバープレートのボルトが接触したとみられる跡が、4か所ついている。

→Y2車両の後部とY1車両の前部は、二度接触したと認められる。

②Y1の主張する追突順序(X←Y2追突が先、Y2←Y1追突が後)では、Y2車両とY1車両は一度しか接触しないはずであるのに対し、Y2の主張する追突順序(Y2←Y1追突が先、X←Y2追突が後)では、両車両は、Y1車両がY2車両に追突した際及びY2車両がX車両に追突した反動の際の二度接触する機会がある。
→①の損傷状況は、Y1車両による追突が先に発生したことを推認させる。

③Y2車両による追突が先であれば、X車両は二度追突されたはずであるが、Xは、実況見分実施当時に一度の追突を前提に指示説明をしており、本件訴訟におけるX本人尋問結果によっても二度の衝突を感じたと認めることもできない。

④Y1は、Y2車両がX車両に追突する際、Y2車両の後部が浮き上がるのを見たと主張しているところ、これによれば、Y2車両は最初の追突の際ノーズダイブしたということになる。他方、二度目の追突の際にはY2車両は既に停止しておりノーズダイブは生じていなかったはずであるから、二度の追突があれば、X車両の後部には高さの異なる衝突痕が生じるはずである。

しかし、X車両には、二度の衝突を示す痕跡はみられない。

→Y1車両による追突が先に生じたとすれば整合的である。

①~④によれば、Y2の上記証言は信用でき、本件事故は、Y1車両が先にY2車両に追突し、その勢いでY2車両がX車両に追突した順次追突事故であると認められる。

さらに、Y1は、「Y2車両の前部の損傷のほうが、Y1車両の前部の損傷よりも大きいこと」を、Y2車両のX車両への追突が先に発生したことの根拠として主張していました。

しかし、裁判所は、「確かに、通常玉突き事故であれば、最初の追突のほうが、後の追突よりもエネルギーが大きく、損傷も二台目の車両と三台目の車両間のほうが、一台目と二台目の車両間のそれよりも大きくなる。

しかし、本件では、①X車両の後部バンパーが下に折れ曲がり衝撃を吸収する役割を十分果たしていないことや、②Y2車両のボンネットの折れ曲がりは、クラッシャブルポイントがあることによるもので、これのみをもって、Y2車両X車両間の追突のほうがY2車両Y1車両間の追突よりエネルギーが大きかったとはいいがたいこと(D証言)、③Y2証言によれば、Y1車両に追突された際Y2車両は走行中であり、追突により加速したように感じる状態で停止しているX車両に追突したということであり、停止している車両が追突されて前方の停止車両に追突する通常の玉突き事故とは事故態様が異なること等も考慮すれば、各損傷の見た目の大きさをもって、上記認定を覆す事情ということはできない。」と判断しました。

そして、裁判所は、

という本件事故様態によれば、Y1には前方不注視の過失があると認められるので、Y1はXに対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負う。

Y2には、本件事故につき過失は認められないので、Xに対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。

と判断したのです。

①-2:追突車から他の追突車に対する損害賠償請求において「過失割合」はどうなるのかY2からY1に対する請求に関しても、裁判所は、上記事故態様を前提として、「Y2は、本件事故当時、停止したX車両に続いて停止すべく減速していたにすぎず、何らの落ち度は認められない。したがって、本件事故によるY2の損害につき過失相殺をすべきでない。」と判断し、過失相殺を認めませんでした。

本件は、誰が“加害者”か=誰が“損害を賠償する責任を負うのか” を考える際にも、追突車から他の追突車に対する損害賠償請求において「過失割合」はどうなるのかを考える際にも、「追突の順序」が非常に重要なポイントとなりました。

そこで、それぞれの車両の損傷状況や、当事者の証言に照らして、丁寧に事実認定しているところに特色があります。

人の証言は、大切な証拠のひとつですが、人の記憶は曖昧で不確かなところがあるうえ、それが当事者となると利害関係が絡んで嘘や思い込みが混じってしまうことが多いものです。

そこで、裁判では、証言の「信用性」を他の客観的な証拠との関係から見極めていくことになります。

2.ヘルニア等で素因減額されるか

もともと症状の原因になるような素養がある場合、「今回生じた症状・損害は、全てが事故のせいとはいえない」として、加害者が負うべき賠償額が何割か割り引かれることがあります。これが「素因減額」というものです。

Y1は、
「Xは、本件事故以前から腰部痛を有していたところ、これは腰椎椎間板ヘルニアに起因するものであり、同腰部痛が、本件事故による治療に影響したといえる。

また、は、本件事故以前から右膝痛を有していたものであり、これらの影響につき、5割の素因減額をすべきである。」と主張しました。

これに対して、裁判所は、「Xには腰椎椎間板ヘルニアがあったところ、本件事故の態様等からすれば、同ヘルニアは、本件事故以前から存在していたものと考えられる。また、同原告は、本件事故当時、腰痛及び右膝痛につき治療中だったものと認められる。しかし、本件事故による衝撃の程度は相当のものだったと考えられること、診断内容及び本件事故による同原告の通院が回数も少なく短期間で終了したこと等も考慮すると、上記ヘルニア及び事故前から有していた腰痛並びに右膝痛が、本件事故による同原告の傷害に影響を及ぼし又は治療の長期化に寄与したとまで認めるに足りない。したがって、素因減額をするのは相当でない。」と判断しました。

被害者の方ご本人が相手方保険会社と交渉していく中で、「もともと腰痛持ちであった」ことや「医師からヘルニアは本件事故によるものとは言えない」ことを理由に、「素因減額!」と声高に主張されて、弱気になってしまうことがあるかもしれません。

しかし、本件のように、もともと腰痛等で治療中であり、腰のヘルニアももともと持っていたと認定されても、素因減額されないケースはあります。

大切なのは、事故前の症状の程度や治療の内容・程度、事故後の症状、事故の衝撃の大きさなどから、“事故後の症状は、事故のせい”と言えるか否かです。

過失の有無や程度、素因減額の有無や程度については、最終的な判断者である裁判官がどう考えるかを予想しながら賠償請求を進めていく必要があります。

裁判官は法律家であり、法律家には法律家の考え方、感覚に基づいて判断します。

突然交通事故に見舞われた被害者の方々は、法律に馴染みのない方がほとんどだと思います。

同じ法律家としての視点から、分かりやすく説明させていただきますので、ぜひお気軽に当事務所の弁護士にご相談ください。

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交通事故
下肢

事故前の怪我の影響【後遺障害併合12級相当】

事案の概要

X(原告:32歳女性)が、交差点を歩行横断中、左後方から右折してきたY(被告)が運転する普通乗用自動車に衝突されて転倒し、腰椎捻挫、頚椎不安定症、外傷後梨状筋症候群坐骨神経痛等の傷害を負ったため、約2年1ヶ月入通院して自賠責併合12級後遺障害認定を受け、Yに対して訴えを提起した。

<主な争点>

① 本件事故の具体的態様と過失相殺の可否
② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容
③ 素因減額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 480万5037円 628万5427円
入院雑費 2万5500円 2万5500円
入院看護費 10万2000円 0円
通院看護費 129万9000円 0円
通院交通費 84万8650円 84万8650円
文書料 53万7419円 50万5319円
装具購入費 30万5450円 0円
休業損害 769万8684円 384万9342円
後遺障害逸失利益 846万8701円 765万3645円
入通院慰謝料 380万0000円 260万0000円
後遺障害慰謝料 400万0000円 280万0000円
素因減額 ▲20%
過失相殺 ▲5%
既払金 ▲1609万7690円 ▲1760万円7812円
弁護士費用 158万0000円 10万0000円
合計 2663万5841円 116万3778円

<判断のポイント>

① 本件事故の具体的態様と過失相殺の可否

本件では、Yは、Xに20%の過失があると主張しているのに対して、Xは、道路横断前に左右の安全を確認し、かつ、左方の安全を確認した際には、左後方の一旦停止線を越えて進入してきている車両がないことを確認しており、必要十分な安全確認を行っているとして過失はないと主張していました。

この点につき裁判所は、Xにおいても、右折車が走行してくることは予測することができたのに、左方の状況を十分確認していたとは認められないから、本件事故の発生については、原告にも左方の状況を十分確認しなかった点で過失があるとし、本件では5%の過失相殺をするのが相当であると判示しました。

ここでは、原告が、現に衝突までYの運転する自動車の存在に気付いていないことが認定されてしまい、左方の安全確認が不十分であるとして5%の過失相殺がされてしまいました。

② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

Xは、上記の傷害結果を負い、左臀部から左下肢にかけての痛み等の症状が残存していることから、自賠責の認定通り後遺障害等級12級13号に該当すると主張しました。

これに対してYは、Xはもともと坐骨神経が梨状筋の中を通過するタイプDという坐骨神経痛が発症しやすい稀有な身体条件を備えていたこと、本件事故以前から坐骨神経痛を訴えていたことなどから、Xの罹患した梨状筋症候群は本件事故前からあったものであり、本件事故で発症したものではないとして、事故との因果関係は認められないと主張しました。

そもそも、梨状筋症候群とは、尾骨の上にある三角形の仙骨と大腿骨の付け根の大転子とをつなぐ梨状筋という筋肉(要はおしりの筋肉の1つです)が原因で生ずる鈍痛のことをいいます。

これは、骨盤から足にかけて伸びている神経(坐骨神経といいます)が梨状筋部で圧迫を受けることによって現れる痛みです。

そして、坐骨神経が骨盤から足に至る経路は4タイプあります。

その中にYが主張している坐骨神経が神経幹として梨状筋を貫通するタイプがあり、それは全体の約1%という割合と確かに稀有なタイプではあります。

しかし、裁判所は、ⅰ本件事故によりXは、衝突地点から約1,2メートル離れた地点で臀部や肘をついて転倒したと認定でき、このような事故態様からXに加わった衝撃は相当程度のものであったと推認できること

ⅱ通院していた整骨院で、本件事故前の施術録には記載されていなかった「左臀部利状M」との記載が本件事故の施術録にあること

ⅲ本件事故前から訴えていた痛みの範囲が本件事故により広がり、さらに痺れも訴えるようになっていること

から、本件事故とXの梨状筋症候群発症との間には相当因果関係が認められるとしました。

そして、頚椎捻挫・頚椎不安定症に伴う頚部から肩甲部にかけての疼痛等及び腰痛も認めたうえ、自賠責同様併合12級の後遺障害等級を認めました。

ただ、Yの主張した坐骨神経のタイプには結局触れずに、事故態様や施術録の記録、本人の自覚症状から後遺障害を認定しています。

このように、本人の自覚症状と客観的な記録が矛盾なく整合している場合には、後遺障害等級は認定されやすいことがわかります。

③ 素因減額

まず、「素因減額」とは、交通事故による損害の発生・拡大が、被害者自身の素因に原因がある場合に、賠償金を減額することをいいます。つまり、何らかの怪我や病気を抱えている人が交通事故に遭い、その怪我や病気がひどくなった場合には、全ての損害に対する補償を加害者に負担させることは公平性に欠けるということで、ひどくなった分の補償額部分が減額されることになります。

本件でも、Yから、本件事故の負荷の程度、発症時期、Xの身体的特徴を考えると、Xの症状に寄与した割合が圧倒的に大きいから、70%程度の減額を行うことが公平であると主張していました。

この点につき裁判所は、Xは本件事故前にも腰痛、左臀部痛、左坐骨神経痛という症状が出ており、左梨状筋を切除した後も後遺障害が残ったことに照らせば、Xの既往症(過去にかかった病気で現在は治癒しているものをいいます)が影響していると考えられると述べ、20%を同素因によるものとして減額するのが相当であると判示しています。

まとめ

本件のように、交通事故においては、過失割合や素因減額など様々な要素が考慮されて賠償額を確定することは少なくありません。

そして、訴訟においては、そのような要素を立証するために多くの事実を用いて裁判官を説得しなければなりません。

訴訟でなくても、保険会社と過失割合などについて話し合うためには、ある程度の法的知識が必要になってきます。

交通事故に遭い、保険会社から過失割合の話をされて、判断に困ってしまったら、是非当事務所の弁護士にご相談ください。

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交通事故
下肢

後遺障害が認定されても安心はできない【後遺障害12級7号】(大阪地判平成27年11月26日)

事案の概要

52歳の男性Xの乗用車が、駐車場の出口で一時停止中、後退してきたYの乗用車に逆追突され、両膝半月板損傷の傷害を負ったため、XがYに対し、損害賠償を求めた事案。

Xの右膝について残存した症状は、膝関節機能に傷害を残したものとして、損害保険料率算出機構(損保料率機構)より後遺障害等級12級7号が認定されていた。

<主な争点>

①本件事故の態様はどのようなものだったか
②本件事故と両膝半月板損傷の因果関係、素因減額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費(既払金) 81万0019円 81万0019円
入院雑費 1万0500円 1万0500円
通院交通費 2万3115円 2万3115円
文書料 6300円 6300円
休業損害 515万5000円 125万6191円
入通院慰謝料 130万0000円 130万0000円
逸失利益 1367万1705円 199万8862円
後遺障害慰謝料 290万0000円 84万0000円
既払金 ▲311万2099円 ▲393万7700円
弁護士費用 210万0000円 23万0000円
合計 2286万4540円 253万7287円

<判断のポイント>

①本件事故の態様

本件事故の態様で具体的な争いになったのは、Y車の後退速度です。

Xは、Y車の後退速度がそれなりの速度であったことを前提に、衝突された瞬間、X車がバウンドするような衝撃を受けたと主張したのに対し、裁判所は、これを認めず、Y車はゆっくりとした速度で後退してX車に衝突し、その衝撃の程度はそれほど大きくなかったものと認定しました。

X側は、X自身の本人尋問のほかに、X車の後方で待機していた車両の運転者Zの、X車が衝撃で動いた旨の陳述書も証拠として提出して、X車がバウンドするほどの衝撃であったことを主張しましたが、裁判所はそのどちらの信用性を認めませんでした。

裁判所は、本件事故直後にYがXに負傷の有無を尋ねたところ、Xが大丈夫であると返答し、Xがジュースを買いに現場を離れた際に足を引きずるような様子は見られなかったこと、衝突による車の修理費用が、XYどちらもそれほどの金額にならず、運転にも支障がなかったこと、事故後に警察官が臨場したものの、実況見分も行われなかったことなどの客観的事実を根拠としてY車の後退速度を認定したのです。

第三者の供述は、特別な事情がなく、合理的な内容であれば信用性が認められるものですが、XとZは知人であり、ZにはXに有利に陳述する動機があったことがZの陳述内容の信用性判断に影響したと考えられます。

また、本件では上記のような客観的な事実が認められたため、それらから認定される事実と整合しない、不合理な供述として信用性が認められなかったのではないでしょうか。

②本件事故と両膝半月板損傷の因果関係、素因減額
(1) 上記のように、裁判所は本件事故の衝撃の程度はそれほど大きなものではなかったと認定しましたが、Xの右膝の半月板損傷については、本件事故と相当因果関係があると認めました。

半月板損傷は、膝を強く打ったり、激しく動かしたりねじるなど、膝に大きな負荷がかかった場合に、膝関節の外側・内側に1個ずつある三日月型の軟部組織が傷付いて、膝に強い痛みが生じるようになるものであるため、Yは、本件事故の衝撃の程度はそれほど大きくなく、膝にかかる負荷も小さかったとして、本件事故とXの両膝半月板損傷との間には因果関係は認められないと主張しました。

裁判所も、本件事故当時のXの両膝の位置関係からすると、両膝関節の内側半月板を同時に損傷することは考え難い、としながらも、本件事故後、それ以前にはなかった膝の痛みが出現していたこと、特に右膝の痛みが強いこと、Xが右膝の半月板切除手術を受けていたことなどの事情から、少なくとも右膝の半月板損傷は、本件事故によって生じたものと認められるとして、本件事故と右膝半月板損傷の間の相当因果関係を認めたものです。

裁判所の判断のポイントは、受傷状況としては、因果関係が否定されるようなものであったにもかかわらず、事故前後の症状の有無や、治療状況を重視して、事故と受傷の因果関係を認めたところにあります。社会通念からすれば、事故の状況からは考えられないような怪我を負っていても、事故以前になかった症状のために、医師も手術をしなければならないと考えて、実際に手術が行われていたのであれば、これは事故と半月板損傷との相当因果関係自体を認めるほかない、という判断であったのだと思います。

(2) もっとも、Xの右膝の半月板には、加齢性の変形性関節症という疾患があり、Xの半月板損傷は、本件事故と、その疾患がともに原因となって発生したものといえるとして、Xに生じた右膝半月板損傷について、裁判所は70%の素因減額をしました。

素因減額とは、当事者間の損害の公平な分担という見地から、被害者に、損害の発生・拡大に寄与する事情がある場合に、損害のすべてを加害者に負担させるのは公平でないとして、その被害者の事情を斟酌して、損害賠償額を減額するという理論です。

裁判所は、半月板損傷と事故に相当因果関係があることは認めつつも、事故の衝撃の程度が軽微であり、通常であれば半月板損傷が生じるような事故ではないということを考慮して、半月板損傷の要因の70%はXのもともとの疾患にあると認定したのです。

結局、Xの半月板損傷は、後遺障害としては認められたものの、素因減額で70%を引かれてしまい、後遺障害に関する損害に関しては、12級の自賠責保険金290万円よりも少ない金額しか認められない、という結果になりました。

まとめ

後遺障害等級が認定されると、損害額自体が跳ね上がるのは確かですが、素因減額や過失割合など様々な事情によって、実際に受けられる賠償金がかなり少なくなってしまうということもあります。

そのため、被害者の方が、自分が遭った事故では、どのような事情で減額されてしまう可能性があるのか、ということを把握しておくことはとても重要ですので、もし気になるようなことがあれば、当事務所までお気軽にご連絡ください。

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交通事故
外貌醜状
神経・精神
顔(目・耳・鼻・口)

ぶつけていないほうの目も…!?【後遺障害併合7級】(東京地方裁判所平成21年12月10日 )

事案の概要

国道において、Y1運転のタクシーが、駐車あるいは停車中の事業用大型貨物自動車(Xが乗客として乗っていた)の後部に、時速約70キロメートルの速度で追突。

XはY1(タクシー運転者)とY2(タクシー会社)に対して、損害賠償請求をした事案。

Xは、外傷性くも膜下出血、左眼球破裂、左頬骨骨折、頸椎椎体骨折、脳挫傷等の傷害を負い、自賠責保険からは、異議申立を経た上で、①左眼球破裂に伴う左眼球の摘出(目脂の腐敗臭、左眼球摘出後流涙を含む。)について、1眼を失明したものとして後遺障害等級8級1号に、②左眼瞼の障害(左眼瞼のまつげはげを含む。)について、1眼の瞼に著しい欠損を残すものとして同11級3号に、③頭部外傷に伴う脳挫傷痕の残存について、局部にがん固な神経症状を残すものとして同12級12号に、④左頬骨骨折後の頬部知覚障害について、局部にがん固な神経症状を残すものとして同12級12号に、⑤鼻骨骨折に伴う骨・軟骨性斜鼻、気管切開術に伴う頸部の瘢痕について、男子の外貌に醜状を残すものとして同14級11号にそれぞれ該当するとして自賠等級併合7級適用に該当するとの判断がなされた。

<争点>

その他の後遺障害(特に右眼の視力低下)がXにあるといえるか
:因果関係の有無、素因減額の可否

<主張及び認定>

主張 認定
入院雑費 22万5000円 22万5000円
通院交通費 3万8480円 3万8480円
付添看護費 34万4500円 34万4500円
通院付添費 10万2300円 10万2300円
逸失利益 1億2656万9633円 3743万1739円
入通院慰謝料 500万0000円 400万0000円
後遺障害慰謝料 2100万0000円 1200万0000円
弁護士費用 1071万8377円 200万0000円

<判断のポイント>

①外傷のない右眼の視力低下と事故との間に因果関係があるか
②素因減額すべきか
③保険金や年金を損害賠償金の元本に充当すべきか

交通事故による「後遺障害」といえるためには、その残ってしまった症状と事故との間に「因果関係」がある、つまり“その事故から、この症状が生じた”といえる必要があります。

本件では、「右眼の視力が低下したというけれども、右眼はぶつけていないのだから、事故から生じたものとはいえないのでは?」という点が問題となりました。

X側は、右眼の視力低下については、①器質的病変が認められる検査結果は得られていないが、あくまで検査結果として認められていないだけで、現実に器質的病変が存する余地はあるし、仮にそうでなかったとしても、②本件事故により心因性の視力低下を発症したとも考えられる。

また、③自賠責の等級認定において、頭部画像上、脳挫傷痕の残遺が指摘されていること、家族の日常生活状況報告書によれば性格変化が指摘されていること、主治医の所見においても、神経学的に明らかにとらえられる後遺症はないが、本人の話から総合的に判断すると、性格変化の可能性があると指摘されていることからすると、本件事故により、原告に高次脳機能障害が残存し、そのために右目の視力が低下したと考えることもできるし,④①~③の事情が複合的に作用し、このような症状が生じたと考えることも十分可能であるとして、様々な角度から因果関係があることを主張しました。

これに対し、裁判所は、②事故により心因性の視力障害を発症したものと判断しました。

具体的には、右眼について器質的病変は認められないものの、(ⅰ)心因性視力障害の特徴とされる求心性視野狭窄や螺旋状視野の所見がみられ、視力の測定値が変動していること等から、心因性の視力低下であると認めることが相当であるとしたうえで、(ⅱ)右眼の視力低下は事故の発生及び事故による傷害を契機として出現していることは明白であること、本件事故の態様は激しいものであったこと、Xは事故により重篤かつ多数の傷害を負ったものであり、特に左眼を摘出して失明するという深刻な傷害を負い、その後もこれに付随して症状が継続していること、Xが本件事故により甚だしい衝撃・苦痛を受け、かつこれが継続していることは明らかであるとして、本件事故と右眼視力低下との間に相当因果関係を認めたのです。

つまり、裁判所は、Xの右眼の視力低下は(ⅰ)心因性のものであること、(ⅱ)事故によって引き起こされた心の状態が視力低下の原因となったと判断しました。

また、本件では「素因減額」も問題となりました。

「素因減額」とは、要するに“被害者側の要因で損害が大きくなっている場合には、その分加害者が払うべき賠償額は少なくする”という考え方です。「心因性」も“被害者側の要因”といえるのではないかということで、本件でも問題になったのです。

本件では、裁判所は、慰謝料(カ・キ)や逸失利益(オ)の算定にあたり、右眼の視力低下にはXの神経質な性格など本件事故以外の要因が寄与していること等を考慮しましたが、その他の項目を含めた全体について「素因減額」はしないとしました。

外傷による症状のように分かりやすいものではなく、「心因性」による症状となると、そもそも因果関係が認められないとする裁判例もあります。

また、因果関係が認められたとしても、「素因減額」すべきとする裁判例もあるのです。

さらに、本件では、Xがもらった保険金や年金が損害の“どこ”に充当されるべきか問題となりました。

Xは自賠責保険、労災保険、国民年金及び厚生年金から、Xに残ってしまった障害の重さに応じた保険金や年金を受け取っていました。

このような保険金や年金は、Xに生じた“損害の穴”を“埋める”ものであるため、法的にYに請求できる損害賠償金はその分“減る”と考えられます。

ただ、“損害の穴”には2つあり、1つは損害賠償金の「元本」、もう1つは「遅延損害金」と呼ばれています。

「遅延損害金」は簡単に言えば、損害賠償金に生じる“利息”のようなものです。法的には、事故が発生した瞬間から、加害者は被害者に対して、損害賠償しなければならず、損害賠償金の「元本」について、事故発生日から“利息”のように「遅延損害金」が少しずつ発生するのです。

保険金や返金が「遅延損害金」の穴を埋めるものだとすれば、損害賠償金の「元本」は減らないので、そこにまた「遅延損害金」が発生していくことになり、最終的な損害賠償額(損害賠償金の元本+遅延損害金)は大きくなります。

反対に、損害賠償金の「元本」の穴を埋めるものだとすれば、損害賠償金の「元本」が減るので、そこから発生する「遅延損害金」も小さくなり、最終的な損害賠償額が小さくなるのです。

Xとしては、保険金も年金も「「遅延損害金」の穴を埋めるものだ!」と主張しましたが、裁判所は、①自賠責保険からの保険金については「不法行為に基づく損害賠償債務の支払の性格を有する」ので、「遅延損害金」の穴を埋めるものだが、②労災保険や国民年金、厚生年金からの年金については、「いずれも加害者の損害賠償責任を前提とするものではなく、支給額全額が労働者や受給権者に生じた障害に対する給付」であり、「これらの給付がされた場合は、給付者である政府はその給付の価額の限度で損害賠償請求権を取得することとされ、給付額の一部が損害賠償金の遅延損害金に充当されることを予定しているとは解されない」として、損害賠償金の「元本」の穴を埋めるものと判断しました。

裁判所の判断の前提として、事故の「損害賠償」としてなされた支払いは、まず、「遅延損害金」の穴を埋めるという考え方があります。

自賠責保険からの保険金は、「損害賠償」の性質があるけれど、労災保険等からの年金は「損害賠償」ではないし、また、労災保険等からの年金の場合、「支払を受けた分だけ、加害者に損害賠償請求権できる立場が被害者から政府に移る」という仕組みになっていることを考えても、労災保険等からの年金は損害賠償金の「元本」の穴を埋めるものと考えるべきと、裁判所は判断したのです。

まとめ

どのような理屈で「因果関係」が認められるか、どのような事情があれば「因果関係」が認められるか、弁護士でも見通しが難しいことがあります。

それに加え、本件ではもう一つのハードルとして「素因減額」の可能性が立ちはだかりました。

このような場合に、最終的に勝ち取れる金額をあらかじめ見通すことは極めて困難です。

しかし、本件のように訴訟提起したことにより、自賠では認められなかった症状(右眼の視力低下についても、「後遺障害」として裁判所に認めてもらい、併合の等級も1つ上がることもあるのです。

必ずしも成功することばかりではありませんが、適切な賠償を目指す場合には、難しい問題や高いハードルにもチャレンジしていく必要があるということが分かりますね。

チャレンジしたい!そんなときは、ぜひ当事務所にご相談ください。全力でサポートさせていただきます。

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