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裁判例: 交通事故

交通事故

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修理費以外に請求できるもの~評価損~とは?(東京地判 平成12年3月29日)

事案の概要

Y運転の自動車が、赤信号で停車中のX運転の自動車(新車引渡し後20分のベンツ、X所有)の後部に衝突した交通事故で、X車が損傷したので、XがYに対し損害賠償を求めた事案。

<主な争点>

損害額の算定

<主張及び認定>

①主意的請求

主張 認定
新車購入費用 813万6100円 0円
代車費用 280万3500円 0円
弁護士費用 100万0000円 0円

②予備的請求

主張 認定
修理費 405万7160円 339万2392円
評価損 202万8580円 135万0000円
代車費用 282万7650円 87万4000円
諸費用 54万9850円 0円
弁護士費用 90万0000円 70万0000円

<判断のポイント>

(1)事故車の車両時価額と修理費のどちらが高額か

交通事故で、自動車が損傷した場合、いくら請求できるか?
別の裁判例解説(物的損害 連鎖事故~解けた冷凍チキン~)でもお話しましたが、「自動車の『時価額』と『修理代』とで安いほう」を請求することができます。

本件でも、X側は主意的請求として「時価額」での賠償を求めましたが、裁判所は「時価額」と「修理代」とで安価な方で損害額を決定すべきであるとして、X自身の主張によっても、「修理代」の方が「時価額」に比べて安価であることは明らかであるとして、X側の主張を退けました。

もっとも、X側は予備的請求として、「修理代」バージョンも請求していました。

そこで主張されたのが「評価損」です。

「評価損」とは、“格落ち損”とも呼ばれ、「十分に修理しても、修理後の車両価格が、事故前の価格を下回る」場合に認められます。

評価損が認められる理由は、①修理技術にも限界があるため、自動車の性能や概観等が、事故前に下がってしまうこと、②事故の衝撃で、車体、各種部品等に負担がかかり、修理後まもなくは不具合がなくても何年も経つと不具合の発生が起こりやすくなること、③修理の後も隠れた損傷があるかもしれないという心配が残ること、④事故に遭ったということで縁起が悪いと嫌われる傾向にあること等のポイントから、中古車市場において、事故歴のない自動車より減価されることにあります。

そのため、評価損は、初年度登録からの期間、走行距離、修理の程度、車種等を考慮して認定されます。

具体的には、初年度登録から日が浅く、走行距離も短いうえ、車体の損傷が激しく構造部分の修理も必要であり、外国産の高級車であった場合などは、評価損が認められやすくなります。

本件でも、購入したばかりの新車ベンツ(購入引渡し後20分)で、エンジン不調が疑われるなど事故の衝撃が中枢部まで影響していることが危惧されたこと等の事情があり、裁判所は評価損を認めました。

(2)評価損はいくらか

では、評価損として“いくら”請求できるのでしょうか?

本件において、原告は、修理費の50%の金額が評価損として認められるべきと主張しました。

これに対して裁判所は、新車納車直後であったこと、X車の新車価格が722万5000円であるのに対し、修理したと仮定した場合(本件では、Xが修理せずに売ってしまっていたため)の査定価格が401万6000円であること、X車の受けた衝撃がX車の中枢部への影響を危惧される程度のものであったこと等を考慮すると、修理費の約40%の金額を評価損として認めるのが相当と判断しました。

実は、評価損の算定方法は、これと決まったものがありません。

裁判例においても、本件のように「修理費のO%」という形で算定するものや、購入時の価格を基準にするもの、一般財団法人日本自動車査定協会が作成した「事故減価額証明書」等の査定価格で認定したもの、ストレートに結果の金額だけ示したものとその算定方法は様々です。

また、「修理費の○%」という算定方法によった場合でも、被害車両それぞれの事情(初年度登録からの期間、走行距離、修理の程度、車種等)によってパーセントの部分は上下します。

そして、本件のように40%も認められるケースは稀です。

交通事故に遭ってしまい、自動車が損傷してしまった。

評価損を請求できるのか?いくら請求できるのか?

ご事情をお伺いしながら、お答えさせていただきますので、お気軽にご相談ください。

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交通事故

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亡くなったペットの補償について~盲導犬の場合~(名古屋地判 平成22年3月5日)

事案の概要

X2(視覚障害者の男性)が、盲導犬Aと横断歩道を横断中に、Y1の運転する大型貨物自動車に跳ねられ、X2は負傷し、Aは死亡した。

そこで、X2とX1(Aを貸与していた盲導犬協会)が、Y1とY2(会社)に対して、Aの死亡によって生じた損害を請求した事件。

<主な争点>

①Aの死亡自体による損害(X1)
②Aの死亡による精神的損害(X1)
③示談契約の効力が及ぶ範囲(X2)

<主張及び認定>

①X1の損害

主張 認定
Aの死亡自体による損害 453万1073円 260万0000円
民法710条に基づく無形損害 100万0000円 0円
火葬代 4万0000円 4万0000円
弁護士費用 50万0000円 30万0000円

②X2の損害

主張 認定
精神的損害 200万0000円 0円
弁護士費用 20万0000円 0円

<判断のポイント>

(1)盲導犬の客観的価値

ペットが交通事故に遭ったとき、相手に何を請求できるか。

実は法律上、動物に生じた損害は「物的損害」として扱われます。

家族のように大切に思っていたペットを“物”だと考えることに驚かれる方・憤りを覚える方も多いことと思います。

ですが、法律の世界では、“人”に生じた損害は「人的損害」、“それ以外”に生じた損害は「物的損害」と形式的に分けられてしまうのです。

その上で、相手に何を請求できるのか。

物が滅失した場合の物的損害として、その物のもつ客観的価値相当額を請求することができます。

本件では、Aが盲導犬という特殊な立場の犬であったことから、客観的価値がどのくらいになるのかが争点となりました。

X側は、訓練犬のうち盲導犬となれるのは一部であるから、盲導犬1頭当たりの育成費用は、実際の盲導犬の完成頭数で除して算定すべきとし、Aが訓練を受けた年度におけるX1の盲導犬の育成費用を、同年度のX1における盲導犬の完成頭数(10頭)をもって除した金額は453万1073円であるから、同額がAの交換価値となる。

一般的に物の価値は経年劣化により使用期間が長くなるほどその交換価値が減るとされるけれど、盲導犬の場合は、共同訓練を経て視覚障害者に貸与された段階では盲導犬として必要最低限のレベルに達しているにすぎず、盲導犬の使用者である視覚障害者との日々の共同生活によって盲導犬としての技能が向上し続けるものなので、本件事故時のAの交換価値は、上記育成費用453万1073円を下回るものではないと主張しました。

これに対して、裁判所は、盲導犬は、視覚障害者の目の代わりとなり、精神的な支えともなって、当該視覚障害者が社会の一員として社会生活に積極的に参加し、ひいては自立を目指すことをも可能にする点で、白杖等とは明らかに異なる社会的価値を有していること、盲導犬を、社会的価値のある能力を有するものとしてその価値を客観的に評価する場合には、当該社会的価値のある能力を身に付けるために要した費用、すなわち、当該盲導犬の育成に要した費用を基礎に考えるのが相当というべきとしましたが、一方で、盲導犬としての活動期間が長くて10年程度とされていること等から、基本的には,当該盲導犬の活動期間を10年間とみた場合の残余活動期間の割合に応じて当該盲導犬の育成費用を減じるのが相当とし、Aの盲導犬としての残余活動期間は約5.13年であったこと等から、Aの客観的価値は260万円であると判断しました。

(2)法人による慰謝料請求

法人、要するに“会社”には、感情がないとして、一般的に慰謝料は認められていません。

しかし、X側は、Aが盲導犬として半分以上の稼働期間を残しながら事故死したことで、Aの育成に尽力した多くの人々、Aを家族の一員としていたX2の家族らなど、数多くの関係者らが多大なる精神的苦痛を被ったが、Aの事故死により関係者らが被った精神的損害を慰謝するには、本件事故によって阻害されたX1における盲導犬の育成普及事業を再び推進するべく、その賠償請求権を原告協会に帰属させて、支払われた賠償金を原告協会に組み入れることを可能とする必要があるとして、Aの事故死により関係者らが被った精神的損害についての賠償請求権は原告協会に帰属すると主張しました。

これに対して、裁判所は、Aの育成には多くの人々が関与し、原告X2の家族もAを家族の一員のように受け入れていたこと,これらの人々がAの死亡によって大きな悲しみや落胆等を抱いたことが認められるけれど、このような精神的損害は、本人自身によって損害賠償請求権が行使されるべきものというほかないから、Aの事故死により関係者らが被った精神的損害についての賠償請求権は原告協会に帰属するという主張は採用できないと判断しました。

(3)損害が示談当時予想できたか

本件では、本件訴訟以前に、X2は自らに発生した損害について、Y側の保険会社と示談書を交わしていました。

そして、その示談書の中には「X2は、本件事故により生じた人身損害につき、保険会社より215万9907円を受領することにより,Y2その他すべての賠償義務者に対する損害賠償請求権を放棄するとともに、今後、裁判上、裁判外を問わず、何ら異議の申立て、請求をしない。」という記載がありました。

この権利放棄条項によって、Aに関する損害についても、もう請求することができないのではないかが争点となりました。

X2は、Aの死亡による精神的損害については,X1が被告らと交渉することと取り決めていたため自らその賠償を請求する必要はないと認識していたのであり、他方当事者である被告側保険会社の担当者もこの点を認識してX2の精神的損害は対象外として示談交渉を進めていたのであるから、その結果成立した本件示談の権利放棄条項がX2の精神的損害に及ばないことは明らかだとして、X2はAを失ったことによる精神的損害を請求できると主張しました。

これに対して、裁判所は、本件示談に至るまでの経緯や、X2とY側の保険担当者との間でX2の精神的損害を示談の対象外とする旨の合意がされたとの事実も認められないことを考え併せると、少なくともY側保険会社としては、Aの死亡によるX2の精神的損害も考慮して本件示談を成立させたとの認識であったと認めるのが相当である。

他方、X2についても、「Aと一心同体での生活が突然失われたのだから,それに対する何某かの請求はできると当初から思っていた。」旨のX2の供述からすると、Aの死亡による精神的損害がX2自身の損害として発生していること自体は、本件示談当時にX2自身も認識していたと認めることができるとして、Aの死亡による精神的損害が加害者側に請求し得る損害として発生していることをX2が本件示談当時に予想し得なかったとは認められず、また、少なくともY側保険会社は上記の精神的損害も考慮した上で本件示談を成立させたとの認識を有していると認められる以上は、X2の精神的損害を認識することも予想することもできない状況で本件示談が成立したとも、上記損害を対象外とするとの合意の上で本件示談が成立したとも認めることはできないから、本件示談においてX2がした損害賠償請求権の放棄の効力はX2の精神的損害にも及ぶと解さざるを得ないと判断しました。

まとめ

盲導犬は一般的なペットとは違いますが、ペットを失った場合でも客観的価値の損失や慰謝料が問題となります。

なかなか高額なものは認められないのが現実ではありますが、単なる“物損”とは一緒にできないところでもありますよね。

また、示談書の締結についても気をつけないと、後々の請求に響いてくるということもよく分かる事件でした。

ペットの損害が“物損”であることや、自分では示談の中に含んでいないつもりの請求についても示談書を交わしたことで制限されてしまうことなど、法律になじみのないお客様には理解しにくいところが多いと思います。

そんなときは、ぜひ当事務所にご相談ください。ひとつひとつ説明しながら、適正な賠償を得られるようにサポートさせていただきます。

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交通事故

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連鎖事故~解けた冷凍チキン~(東京地判 平成26年2月21日)

事案の概要

同一交差点付近で、Yの従業員Bの運転する事業用大型貨物自動車(Y車)の運転が引き金となって発生した第1事故から第4事故まで連続する多重衝突事故の中で、Xの従業員Aの運転する事業用中型貨物自動車(X車)と、Y車との間で発生した衝突事故により、冷凍チキンを運送していたX車に損害が生じた事件。

<主な争点>

①X車の時価額
②自動車重量税
③積載物の損害
④過失割合

<主張及び認定>

主張 認定
X車の時価額 640万0000円 500万0000円
残存車検費用(自動車重量税) 5040円 0円
レッカー代 19万1211円 19万1211円
積載物に係る損害 131万2401円 131万2401円
過失相殺 80%
弁護士費用 79万0865円 13万0000円

<判断のポイント>

(1)X車の時価額~レッドブック~

交通事故で破損した自動車について、修理すればまた使えるようになるけれども、修理代が高額な場合、加害者に何を請求できるのか?

シンプルにいえば、自動車の「時価額」と「修理代」とで安いほうを相手方に賠償請求することができます。

本件も、X車の時価額が、壊れたX車を修理する修理代よりも安かった(「経済的全損」といいます)ので、X車の時価額が損害として認められる金額となる場合でした。

この「時価額」というものが曲者で、“何をもって算定するのか”本来は非常に難しいものなのです。

なぜなら、「時価額」とは要するに“事故に遭った自動車が、事故に遭っていなかったらいくらの値が付いたか”を考えるものですが、既に事故に遭ってしまった自動車を前にして、そんなことは誰も分からないはずだからです。

しかし、そんなことを言っていたら、誰も賠償請求なんてできませんし、裁判所も賠償責任を認めることができません。

そこで、裁判所は、時価額について、原則として、事故に遭った自動車と「同一の車種や型・年式・同程度の使用状態・同程度の走行距離などの自動車を、中古車市場によって取得するために必要な価額」によって定めることとしています。

事故に遭った自動車と「同じ物」は存在しないので、「同一の車種・型・年式、同程度の使用状態・走行距離」等の自動車の値段を、事故に遭った自動車の「時価額」としているのです。

ここで「同一の車種・型・年式、同程度の使用状態・走行距離等の自動車の値段」の資料として、裁判所からもかなり重視されているのが通称「レッドブック」と呼ばれる雑誌です。

この「レッドブック」とは、有限会社オートガイドというところが毎月発行しているもので、様々な自動車の価格が、年式や車種や型に分けられ、下取価格・卸価格・小売価格の3つの点から掲載されていて、走行距離や車検の残り期間による修正要素も設定されています。

かなり抽象化された価格なので、地域的な価格差が反映されていなかったり、インターネット上で取引されている金額に比べるとかなり低額だったりするので、不満を持たれる被害者の方も多いですが、抽象化されているからこそ裁判所は基準として使いやすいのかもしれませんね。

裁判所は基本的にこのレッドブックを基準に時価額を認定するといっても過言ではありません。

裁判所に、このレッドブック以上の金額で時価額を認定させるためには、被害者側で資料を集めて裁判所に提出する必要があります。

本件でも、Xは、X車の時価額は640万円であるとして、640万円と714万円で売り出されているX車と同程度の中古車2件の広告を提出しました。

しかし、裁判所は、その中古車2件のいずれも、初度登録がX車より後の年だったり、走行距離がX車より少ない車両だったので、これら2件の広告だけで640万円がX車と同程度の自動車の平均価格であると認められないと判断しました。

(2)自動車重量税~還付制度~

また、X車はまだ車検期間が残っている自動車だったので、Xは、残存車検費用として、車検の際に支払った自動車重量税のうち5040円を車検の未経過分として損害賠償請求しました。

要するに、事故によって廃車となってしまうため、車検のときに払った自動車重量税のうち一部は“払い過ぎた”ことになるということですね。

この「“払い過ぎた”分が損害になる」という理屈事態は、裁判所も認めるところであり、少し前まで自動車重量税の未経過分は損害として賠償請求できることになっていました。

しかし、本件で、裁判所は、事故に遭った自動車の「自動車重量税の未経過分は、使用済自動車の再資源化等に関する法律により適正に解体され、永久抹消登録すれば、還付されるものである」という理屈で、自動車重量税の未経過分については損害として認められないとしたのです。

この「還付制度がある」という理屈は他にも、自動車税や自賠責保険料等の諸費用についても使われており、やはり損害として認められません。

(3)積載物の損害~相当因果関係~

そして、本件では、X車が冷凍チキンを運ぶトラックだったことから、Xは、その冷凍チキンを配送先に届けることは食品衛生上不可能であるため、破棄することとなり、代替商品を手配した上で、配送先に対し、別途用意した車両によって運送することになったとして、①運送中であった商品の代金相当額99万8976円、②運送中であった商品の破棄処分に要した費用相当額13万4925円、③代車による運送代相当額17万8500円の合計131万2401円の損害を被ったと主張しました。

これに対して、裁判所はXの主張をそのまま認め、①~③の合計131万2401円を本件事故と「相当因果関係のある損害」として認めました。

事故によって発生した損害については、「事故のせいでこんな出費やあんな損が生じた!」と拡大していくため、どこまでを加害者に“賠償させるべき”損害とするか、一定のところで区切る必要があります。

その区切りに使われるのが「相当因果関係」という概念です。

(4)過失割合~事故態様~

さらに、本件はY車の不注意で生じた第1事故が連鎖的に次々と別の事故につながり第4事故まで発生したものですが、X車とY車の事故は第3事故にあたります。

この第3事故は、Y車が対向車線の別の自動車に衝突し(第2事故)、対向車線をふさぐような形で止まっていたところに、後ろから対向車線を走ってきたX車が衝突してしまったというものです。

Xは、Y車を運転していたBの過失のみ主張していましたが、裁判所は、X車を運転していたAが前方注視を怠ったために、Y車等が停止していることに気付くのが遅れ、X車をY車に衝突させた過失が認められ、他方で、Y車を運転していたBが安全運転義務に違反して第2事故を発生させたことが、本件第3事故発生の原因の一つとなっていることからBにも本件事故発生に関する過失が認められるとして、Aの過失が80%、Bの過失が20%としました。

まとめ

今回は論点がたくさんありましたね。

どういう資料があれば、レッドブック以上の時価額を裁判所に認めてもらえるのか、時価額以外にどんな費用が損害として認められるのか、どこまでの損害に「相当因果関係」が認められるのか、特殊で複雑な事故態様の場合に過失割合はどうなるのか。

いずれも、実際には裁判をしてみなければ分からないことが多いものですが、論点がたくさんあるものほどチャレンジのしがいがありますし、見通しのポイントとなる点はいくつもあります。

ひとつひとつのポイントを丁寧に検討し、みなさまが適正な賠償を得られるように全力でサポートさせていただきます。

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交通事故
高次脳機能障害

将来介護費に関する裁判例【後遺障害2級1号】(さいたま地裁 平成31年3月19日判決)

<事案の概要>

63歳の男性会社員Xが、店舗敷地内にあるマンホールの蓋を開いて作業していたところ、Yの運転する乗用車が敷地内に進入し、Xの頭部を礫過した。

Xは、外傷性くも膜下出血、頭蓋骨開放性陥没骨折、脳挫傷等の傷害を負い、右上下肢麻痺、失語及び嚥下障害等の症状が残存したため、損保料率機構より、後遺障害等級2級1号の後遺障害が認定された。その後、XはYに対して、損害賠償を求めて訴訟を提起した。

<主な争点>

将来介護費(常時介護の必要性)

<請求額及び認定額>

<Xの損害>

主張 認定
治療関係費 2976万1420円 2976万1420円
症状固定後治療費 253万2550円 145万0236円
入院雑費 73万0500円 68万8500円
通院交通費 31万4412円 5万8375円
入院付添費 316万5500円 260万0000円
将来介護費 9971万8183円 5828万0061円
家屋改造費等※ 996万6168円 724万8395円
休業損害 704万6784円 704万6784円
逸失利益 4586万7902円 4586万7902円
傷害慰謝料 500万0000円 400万0000円
後遺障害慰謝料 2500万0000円 2500万0000円
小計 2億2910万3419円 1億8200万1673円
既払金 ▲7441万1779円 ▲7441万1779円
遅延損害金 1551万1847円
弁護士費用 1758万4283円 1231万0174円
合計 1億9342万7110円 1億3541万1915円

※家屋改造費のほか、福祉機能付自動車や介護福祉用具の購入費用

<将来介護費について>

(1)特に重篤な後遺障害が残存した被害者については、自分自身で日常生活の基本動作のほとんどを行うことが困難となり第三者の介護が必要となった場合、親族や職業として介護に従事する人(職業介護人)への介護の対価、すなわち介護費用を負担しなければならなくなります。

そのため、将来にわたって発生する介護費用(将来介護費)も損害賠償の対象となりますが、将来介護費は、基本的に被害者が亡くなるときまでにかかる介護費用であるため、特に高額になることが多いことから、当事者間において対立が大きくなり得る損害費目の1つです。

(2)そして、将来介護費が認められるか否かにおいて大きく争われる点が、介護の必要性及びその程度です。

高次脳機能障害の場合、後遺障害としてはその症状の重さに応じて、第1級~第3級、第5、第7、第9級に該当する可能性があります。

その中でも第1級1号の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」と第2級1号の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」は、被害者に介護を要することが前提ですので、将来介護費が認められることはほぼ間違いないですが、「常に介護を要する」か「随時介護を要する」かという点で異なります。

特に第2級1号の場合、「随時介護」であるため、将来にわたってどの程度の介護が必要になるのか、職業付添人による介護が必要かなどで将来介護費の金額が変わってくることになるのです。

なお、第1級、第2級に達しない高次脳機能障害であっても、介護を要する事情が認められる場合には、将来介護費が認められる場合があります。

また、いわゆる赤い本では、職業付添人の介護費用は実費、近親者付添人は日額8000円が目安とされており、職業付添人の介護費用のほうが一般的には高額になります(東京地裁では第1級の場合日額1万5000円ないし1万8000円程度を認めることが多いです)。

まとめ

(1)本件では、Xに認定された高次脳機能障害が第2級1号であったものの、Xの妻が67歳(就労可能年限)になるまでの近親付添人としての将来介護費日額2万円と、それ以降平均余命までの職業付添人の将来介護費日額2万5000円が認められるべきであると主張しました。

これに対して、Yは、Xが自力で日常生活の基本動作を行えている部分があること、後遺障害2級の随時介護と判断されていることを主張し、将来介護費は近親付添人による介護を前提にした日額7000円とし、これが困難となった場合に職業付添人の費用を検討すべきであると主張しました。

(2)裁判所は、Xの介護を要する程度を判断するうえで、後遺障害の内容や、医師の見解、Xが食事動作や車椅子の操作はときどき介助を要し、排泄動作はほとんどすることができないなどの日常生活動作の観点から見る限りは、随時の介護で足りるものの、現実には常時に近い適宜の見守りが必要ということができ、また、Xの妻と一緒にXと同居して介護に当たっている息子が、近く独立して別居する生活をするであろうことを想定すべきである、としました。

そのうえで、Xの妻が67歳になるまでは日額8000円、それ以降、Xの平均余命までの期間の職業付添人による介護費を日額1万8000円とするのが相当であると認定しました。

(3)Xの請求した日額までは認めなかったものの、第2級1号の高次脳機能障害であっても、現実のXの日常生活動作の状況等から、常時に近い見守りが必要であるとして、Xの平均余命までの全期間について近親者介護及び職業付添人による介護の費用を認めたという点において意義を有するものといえます。

高次脳機能障害は、それ自体重い後遺障害であり、将来介護費以外の請求費目も多岐にわたり、金額も高額になる傾向にあります。

そのため、被害者自身や親族の方のみの力だけでは適切な賠償を受けることは難しく、専門家に相談すべき案件であるといえます。まずは当事務所までご相談ください。

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交通事故
下肢
脊柱・体幹

就活中の被害者の逸失利益を、事故前年収入の7割を基礎収入として計算した事例【後遺障害併合12級】(さいたま地裁 平成30年12月28日判決)

<事案の概要>

Xは、見通しの悪いカーブ地点で自動二輪車を運転走行中、対向車線のY運転の乗用車に衝突され、右肩甲骨骨折、右鎖骨遠位端骨折、左大腿骨転子部骨折等の傷害を負った。

Xは、自賠責保険より、右肩につき後遺障害等級12級6号に該当する関節機能障害、左大腿部痛につき14級9号に該当する神経症状が認定されたため、併合12級の後遺障害が残存したとして、Yに損害賠償を請求した。

<主な争点>

1 過失割合
2 逸失利益を算定するに当たっての基礎収入額

<請求額及び認定額>

<X1の損害>

主張 認定
治療費 232万7370円 232万7370円
入院雑費 12万0000円 12万0000円
通院交通費 6375円 6375円
休業損害 462万2950円 231万1475円
入通院慰謝料 230万0000円 230万0000円
逸失利益 754万8312円 528万3818円
後遺障害慰謝料 290万0000円 290万0000円
小計 1982万5007円 1524万9020円
高額療養費還付金 ▲100万4981円 ▲100万4981円
過失相殺(4割) ▲609万9608円
人身傷害補償保険金 ▲574万4606円 ▲4万6990円
物損 48万9602円 27万6392円
過失相殺(4割) ▲11万0557円
人損+物損 1356万5022円 866万5268円
弁護士費用 130万0000円 87万0000円
確定遅延損害金 29万4290円 29万4016円
合計 1515万9312円 982万29284円

<過失割合について>

本件事故は、見通しの悪いカーブ地点において、X運転の自動二輪車が道路中央部分を走行していたため、対向車線を走行していたY車に衝突したものです。

裁判所は、事故現場の道路は、中央線がない峠道で、右カーブで見通しの悪い状況にあったことから、Y車は道路左側を進行して、また、対向車両との衝突を回避する措置を採り得る適切な速度に減速して走行すべき義務を負っていたにもかかわらず、中央部分を若干はみ出し、また、十分に徐行していなかったとして、Yに上記の義務違反を認定しました。

他方、Xについても、本件道路の左側を走行すべき義務があるにもかかわらず道路中央部分を走行していた、また、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転すべき安全運転義務があったにもかかわらず、十分に減速することなく走行していたとして、注意義務違反を認定しました。

そして、本件事故の原因がX・Y双方が本件道路の中央部分を走行したことにあるとして、Xの過失割合を4割、Yの過失割合を6割としました。

道路交通法17条4項では、車両は、道路(車道)の中央から左の部分を通行しなければならない、と定められており、本件事故に関しては、X、Y双方とも道路の中央寄りを走行していたという点において、道交法違反が認められます。

この場合、どちらも同程度の過失が認められると考えられますが、Xのほうが自動二輪車で普通乗用車よりも優先して保護される立場にあったことから、Xに1割有利に考えてXを4割、Yを6割と過失割合を認定したのだと思われます。

<逸失利益を算定するに当たっての基礎収入額について>

本件においてもうひとつ争いとなったのが、Xの逸失利益を算定するに当たっての基礎収入の金額です。

Xは本件事故の約3か月前に前職を退職し、事故の前日に就職活動で会社の面接を受け、採用が決まりかけていたものの、本件事故が原因で就職がなくなったという事情がありました。

面接を受けた会社では、月額15万円の給与が予定されていたことから、裁判所は、本件事故によって生じた休業損害については、同額を基礎収入として算定しました。

一方、逸失利益については、Xが前職の会社で事故前年に得ていた収入が約420万円であったことから、裁判所は、基礎収入の金額を休業損害と同様に月額15万円(年額180万円)とするのは相当でないとし、少なくとも、前職の年収の7割に当たる約295万円収入を得られる蓋然性が認められるとして、これを基礎収入として逸失利益を算定しました。

逸失利益は、その算定の基礎とすべき収入に、後遺障害による労働能力喪失率と、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて計算します。

そして、通常は、事故前年の年収額を基礎収入とすることが多いのですが、事故当時に職に就いていない場合、事故前年に収入があっても、それをそのまま基礎収入とすることは困難です。

なぜなら、逸失利益は、あくまでも後遺障害によって将来にわたって得られるはずの収入が得られなくなったことに対する補償なので、事故当時に就職していなければ、事故前年と同様の収入額が得られるとは認められないからです。

もっとも、事故前年の年収額は、被害者が、事故当時、どれだけ収入を得る能力を有しているかを、一定程度示す指標となり得るため、全額は認められなくとも、ある程度事故前年の年収に寄せた金額を基礎収入とする手法は、よく用いられています。

本件でも、裁判所は、Xの事故前年の年収からすると、事故当時就職予定であった会社の当初収入では、Xの逸失利益を適切に算定することはできないと考えて、Xの事故前年の年収を基準に、その7割を基礎収入としたのです。

後遺障害による逸失利益は、基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間のいずれもが適切な数値で計算されないと、認定される金額が大きく減ってしまう可能性があります。ご自身に生じた後遺障害の逸失利益はどれくらいが適正なのかとお悩みの方は、弁護士にご相談ください。

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