東京事務所八重洲口「東京駅」徒歩3

宇都宮事務所西口「宇都宮駅」徒歩5

大宮事務所東口「大宮駅」徒歩3

小山事務所東口「小山駅」徒歩1

裁判例: 交通事故

交通事故
上肢

他覚所見がなくとも後遺障害が認定された事例【後遺障害14級9号相当】(横浜地裁 平成28年3月24日判決)

事案の概要

X(原告:28歳男性)が、自動二輪車を運転して進行中、右前方を走行していたY運転の乗用車が左折をするためハンドルを左に切って衝突、転倒して右肩関節腱板炎、右上腕二頭筋長頭腱炎等の傷害を負い、約10ヶ月通院して、右肩関節痛等から12級13号後遺障害を残したとして、既払金288万9473円を控除して1935万7076円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>

①Xの過失の程度と過失相殺の可否
② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 87万1885円 87万1885円
通院交通費 2万5046円 2万5046円
休業損害 278万5415円 154万8420円
通院慰謝料 146万5000円 89万0000円
後遺障害慰謝料 290万0000円 110万0000円
小計 2048万6815円 516万4317円
既払金 ▲288万9473円 ▲288万9473円
弁護士費用 175万9734円 22万0000円
合計 1935万7076円 249万4844円

<判断のポイント>

(1)Xの過失の程度と過失相殺の可否

本件では、Yが安全確認を怠ったまま直近で左折した著しい不注意があるとXが主張していたのに対し、Yは、Xの運転するバイクの右側前方で、左折の方向指示器を出した後に左折を開始したのであり突然左折したのではない、また、XはY車が左折することを予見し回避することができたことから過失があるとして争っていました。

まず、本件のような事故態様では、一般的には、自動二輪車の側が2割、自動車の側が8割の過失割合と考えられています。

ここで一般的とは、交差点の手前30mの地点で、自動二輪車に先行している自動車が左折の合図を出して左折を開始した場合が想定されています。

自動二輪車に2割の過失があるとされているのは、交差点の30m以内は追越しが禁止されているので(道路交通法38条3項)、先行する自動車がある場合には、その前に出ようとすることは許されないという考えがあるためです。前方に自動車があることをわかっているのだから、自動車が左折するなどの動きを見せるかもしれない、その場合には減速するなどして事故を回避しなさいというような注意義務が課せられているのです。

ただ、本件でXが主張するように、突然前方の自動車が左折して事故を回避できない場合には、過失割合が修正されて、自動二輪車に1割の過失だったり、過失なしの認定がなされたりします。

本件において裁判所は、Y車が左折方向指示器を出した地点と本件事故現場(約10m)との距離や、本件事故直前のY車のスピードから、Y車が左折指示器を出してから左にハンドルを切るまでに進んだ時間は2秒にも満たない時間であると認定しました。

そして、Yにそのような過失がある以上、Xには何らの過失もないとして過失相殺を認めませんでした。

本件において裁判所は、方向指示器を出して左折するまでの距離(10m)ではなく方向指示器を出して左折するまでの時間(2秒未満)を重視しているようです。

進路変更するにあたっては、その3秒前に合図を行う義務(道路交通法53条1項、同法施行例21条)があることはみなさんご存知かと思われます(もしかしたら忘れている方もいるかもしれませんが…)。

しかしながら、残念なことに、進路変更する直前に方向指示器を出される方もたまに見かけます。

近所の慣れている道路で、交通量の少ない道路であれば大丈夫と考えている方もいるでしょう。

ですが、仮にそれで事故を起こしてしまった場合、2割の過失相殺もされない可能性があるのです。

逆に、被害者となってしまった方は、もしかしたら警察などから一般的な基準を用いられて2割の過失はあるなどと言われるかもしれません。

しかし、警察の言うことは、最初の段階でまだ十分な検討がなされていない状況で判断されている場合も多いのです。

相手の保険会社から言われる場合も同様です。

そこであきらめず、実況見分調書などの客観的な資料に基づいて、事故を回避できないことを証明することによって、過失相殺などされず損害の全額が支払われることは十分にあります。

警察や相手方保険会社から言われた過失割合に納得できないときには、是非当事務所にご相談ください。

(2)Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

本件では、Xの後遺障害逸失利益も争点となりました。

Xは、本件事故により、右肩関節痛などの症状が残存し、後遺障害等級表12級13号に該当すると主張し、Yはレントゲン検査やMRI検査で、外傷性の異常所見は認められていないとして全面的に否認しました。

確かに、後遺障害の認定には、画像所見や神経学的所見などの他覚所見が有効になります。

自覚症状だけでは、裁判所も後遺障害の認定には消極的と思われます。

しかし、画像所見や神経学的所見などの他覚所見が認められなくても、①事故態様が相当程度重いものであること、②当初から通院を継続(多数回あればなおよし)していること、③通院当初から症状が一貫していることなどから、後遺障害が認められることもあります。

本件において裁判所は、自動二輪車を運転していた際の転等による衝撃の程度も決して軽微とはいえないこと、事故当日ではないものの、通院の当初から右肩鎖関節部をはじめとする右肩痛を訴えていたことなどから、Xは、右上腕二頭筋長頭腱炎の傷害を負ったことが認められるとしました。

また、MRI検査の画像上、異常所見が確認されないのは、上関節上腕靭帯の断裂という軽度損傷である可能性があり、MRI検査が受傷から1ヶ月が経過していたためと考えられると述べています。

そして、12級13号は認められないが、以上の事実から14級9号の後遺障害を負ったものと認めるのが相当という判断をしました。

このように、画像所見や神経学所見など他覚所見がなくとも、後遺障害が認定されることは十分にあります。

MRIを撮って、医者から異常なところは見当たらないなどと言われてしまったとしてもあきらめてはいけません。

事故当初から、継続的に通院をし、症状を訴え続けることが大事です。

当事務所でも、MRI画像などの他覚所見がない方でも、事故当初からアドバイスをしていたことにより、後遺障害認定がされたケースはたくさんあります。

ただ、事故当初から、後遺障害が認定される見通しをつけるのは困難ですし、わからない方がほとんどだと重います。

しかし、これまで述べたように、事故直後の行動が大事になってきますので、もし事故に遭われてしまったら、後遺障害の有無や見通しについても相談に乗ることができますので、早い段階で当事務所にご相談いただければと思います。

閉じる
交通事故
上肢

MRI検査の重要性 【後遺障害14級】(福岡高裁 平成27年9月24日判決)

事案の概要

X(原告:60歳女性)は,双方一時停止規制のない丁字路交差点を自転車に搭乗して直進進行中,左方道路から左折進入してきたY乗用車に衝突された。

Xは本件事故により,頸椎捻挫,腰部打撲,右肩腱板断裂等の傷害を負い,自賠責保険では後遺障害等級14級が認定された。

<主な争点>

①本件事故と右肩腱板断裂の因果関係
②Xの被った損害額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費関係 184万9349円 7万7161円
入院料 48万8499円 0円
通院交通費 11万8010円 2万0060円
入院雑費 20万2400円 0円
休業損害 306万6600円 0円
傷害慰謝料 143万3124円 100万0000円
逸失利益 100万8170円 100万8170円
後遺障害慰謝料 40万0000円 40万0000円
過失相殺 10%
損益相殺 190万9790円 195万0000円
弁護士費用 67万0000円 0円
合計 732万6362円 30万4851円

<判断のポイント>

事故によって生じた傷害に対する治療費や後遺障害逸失利益などの損害を請求するためには,その事故と傷害結果との間に「因果関係」が認められる必要があります。すなわち,その事故が原因でその傷害が生じてしまったことをこちらが立証しなければなりません。

そして,因果関係の有無は,被害車両の状態や医師の診断書などから,裁判所が客観的に判断します。

本件においてXは,右肩腱板断裂は本件事故によるものであると主張していましたが,裁判所は以下のように判示して,本件事故と右肩腱板断裂との因果関係を否定しました。

①中年以降になると腱板は退行変化を起こし,損傷しやすくなるため,肩腱板損傷は,40歳以上に起こりやすく,腱板に好発するとされているところ,Xは右肩関節脱臼当時62歳であり,腱板が断裂している。

②肩関節は,高く手を挙げる程度でも脱臼することがある上,肩の脱臼の合併症として,特に壮年から高齢者においては腱板断裂が挙げられており,また,肩腱板の断裂や損傷は,高齢者ならば通常の生活をしても起こることがあるところ,A医師は,Xに肩関節の脱臼とともに腱板の断裂が起きた可能性はあり,これを否定する根拠はない旨供述している。

③他方,腱板の状態を判断するためにはMRI検査が不可欠であり,A病院にはMRI検査機械が備え付けられていたので,必要があればMRI検査を実施することは容易であったが,B医師は,Xを本件事故直後及びその後約3か月間診察している間に,肩関節自動挙上不能や挙上時の脱力,筋力低下等の腱板断裂・損傷を疑うような主訴や症状等がなかったことから,同検査をする必要性がないものと判断して,検査を実施しなかった。

④腱板の状態を検査するMRI検査が肩脱臼後まで実施されていないため,本件事故当時の腱板の状況を明らかにする客観的資料はない。

以上の事実を総合考慮すれば,Xの右肩腱板断裂や損傷が,本件事故によって生じたものとは認められない。

また,Xの治療費の範囲については,「本件事故により,頸椎捻挫,腰部・臀部打撲の傷害を負い,連日のようにA病院を受診してリハビリを受けていたところ,右肩脱臼が判明した日までの治療費等は,すべて相当因果関係の範囲内の損害と認めるが,それ以降の通院及び入院治療は,本件事故と相当因果関係が認められない右肩脱臼,腱板断裂に対するものであるから,相当因果関係がない」としました。

まとめ

本件では,Xの右肩腱板断裂は,本件交通事故によるものとは客観的に認められないとして因果関係を否定しています。

そして,本件において重要なのは上記③,④の記載です。

この裁判例は,「腱板の状態を判断するためにはMRI検査が不可欠」であると述べています。

MRI検査(他の検査についても同様のことが言えます)が,事故があった日に近ければ近いほど,判明した傷害が事故によって生じたものと立証しやすくなります。しかし,本件では,本人からの訴えや明確な症状がなかったため,早い段階でのMRI検査がなされませんでした。

上記でも述べましたが,傷害結果が生じたことはその事故が原因であるということを,被害車両の状態や医師の診断書などからこちらが立証し,それを裁判所が客観的に判断することになります。

そして,本件事故当時,腱板がどのような状態であったかを判断する客観的な資料がなく,さらには,高齢者においては,通常の生活をしていても,関節の脱臼や腱板の断裂が起こることがあるという認定をしたことで,他の原因によって生じた可能性があると判断されてしまいました。

このように,傷害が事故によって生じたと言うためには,客観的な資料が必要となります。

本件でも,事故直後にMRI検査を受けていれば違う結果となったかもしれません。

しかし,事故直後に適切な対応をすることは,なかなかできるものではありません。

適切な賠償額を得るためにも,医者だけではなく,通院や治療方法についても弁護士にぜひ相談してください。

閉じる
交通事故
上肢

肩の可動域制限が認められなかった裁判例【後遺障害14級9号】(名古屋地判 平成28年3月16日)

事案の概要

47歳の主婦であるXが、交差点を自転車で進行中、右側交差道路から進入してきたY運転の乗用車に出合い頭に衝突され、左上腕骨骨幹部骨折の傷害を負ったため、XがYに対し、損害賠償を求めた事案。

Xに残存した症状は、左肩関節機能に障害を残したものとして、損害保険料率算出機構(損保料率機構)より後遺障害等級10級10号が認定されていた。

<主な争点>

①Xに残存した症状が後遺障害に該当するか、該当するとすればどの程度か
②Xの労働能力の喪失はどの程度か

<主張及び認定>

主張 認定
治療費(既払金) 197万8098円 197万8098円
入院雑費 8108円 8108円
通院交通費 4万3000円 0円
文書料 3150円 3150円
旅行キャンセル代 13万4800円 13万4800円
休業損害 163万2624円 63万9936円
逸失利益 1157万4624円 136万6470円
入通院慰謝料 114万9333円 114万9333円
後遺障害慰謝料 550万0000円 120万0000円
弁護士費用 134万0733円 0円

※ただし、Xの過失割合20%分が控除され、また、自賠責保険から、裁判所が認定した金額より多い額である後遺障害等級10級10号の保険金461万円がすでに支払われていたため、Yに請求できる金額はないとしてXの請求は棄却されました。

<判断のポイント>

(1)後遺障害の有無・程度

本件では、訴訟提起以前に、Xが左上腕骨骨幹部骨折によって残存した左肩の可動域制限について、損保料率機構から後遺障害等級10級10号に該当するとの判断を受けていたため、Xはそれを前提に、Yに対して損害賠償請求訴訟を提起しましたが、Xの後遺障害について裁判所は後遺障害の程度としては、左肩の動作時痛について14級9号(局部に神経症状を残すもの)のみを認定し、可動域制限については、より下位の等級も含めて後遺障害とは認めませんでした。

本件訴訟において、Y側は、Xの後遺障害診断書作成以前の治療期間中に、Xがゴルフの練習でフィニッシュまでするようなスイングを行っていた事実を指摘し、後遺障害等級10級10号の認定基準となる肩の可動域の数値よりも広い可動域まで回復していたとして、Xには認定基準をみたす可動域制限は認められず、後遺障害は存在しない、と主張しました。

そして裁判所も、Y側のこの主張を認め、また、後遺障害診断書の作成以前にXの通院先の病院で測定された可動域の数値では、かなり回復していたにもかかわらず、後遺障害診断書上の数値は、明らかにそれを下回る数値が記載されていたため、後遺障害診断書の記載の測定値は不自然なものであるとして、その測定値及びそれに基づく後遺障害認定は採用できないと判断し、Xの左肩の可動域制限を後遺障害として認めなかったのです。

損保料率機構の審査は、請求者より提出された資料のみから認定判断がなされ、提出されていない資料や把握できない事情は考慮されないため、その審査には限界があるといえるでしょう。

それに対して裁判では、後遺障害等級の認定において、後遺障害診断書の記載が重視されるのは事実ですが、それだけでは測りきれない事情も含めて総合考慮されて、適切な後遺障害等級が認定されることとなるので、損保料率機構の認定結果と異なる判断がなされることもあるのです。

損保料率機構で後遺障害が認定された場合、通常であれば、相手(の保険会社)は、示談交渉でもその結果に従って後遺障害慰謝料や逸失利益の支払に応じることがほとんどですが、なかには本件のように、認定された後遺障害の有無や程度を裁判まで争ってくることもあります。

本件では、うかつにも(?)Xが治療期間中にゴルフの練習をしていたことが露見して、そのことに疑問をもったY側が、可動域制限を認めずに争ったというような事情があったのかもしれませんね。

(2)労働能力喪失の程度

本件訴訟では、Xの可動域制限は認められませんでしたが、後遺障害等級14級9号は認定されたため、後遺障害に関する損害として、後遺障害慰謝料及び逸失利益が損害として認められ、後遺障害としての動作時痛によるXの労働能力の喪失期間を10年と判断しました。

後遺障害とは、交通事故による受傷で生じた症状が、将来においても回復の見込めない状態になったものであり、その意味内容からすると、後遺障害によって労働が制限される期間(労働能力喪失期間)は生涯に渡って続くとも思われます。

もっとも、後遺障害の種類によっては、必ずしも労働がずっと制限されるものとは考えにくいものもあり、たとえばむち打ちによる神経症状は、時間が経つにつれて馴れてきて、支障が軽減、あるいは生じなくなると考えられているため、裁判では、労働能力喪失期間は、14級9号では5年、12級13号では10年とされている例が多く見られます。

ただし、一律に5年あるいは10年とされているわけではなく、具体的症状に応じて、それ以上の期間が認められる場合もあります。

本件でXに認められた後遺障害も14級9号ですが、Xの場合、左肩の動作時痛が、骨折という明らかに重い怪我に起因するものであることが考慮されて、むち打ちの場合よりも長い10年という労働能力喪失期間が認められたのです。

①のように、損保料率機構で後遺障害等級が認定されたからといって、必ずしも裁判でも同様の認定がされるとは限りません。

本当に後遺障害がないのに認定されるということであれば問題ですが、実際に認定どおりの後遺障害が生じているにもかかわらず、それが裁判では覆されてしまって適切な賠償を受けられないこともありえなくはないのです。

そのような事態をできる限り避けるためには、交通事故に精通した弁護士に依頼することが重要といえます。

当事務所では、多数の交通事故案件を取り扱っている弁護士がおりますので、まずはお気軽にご相談ください。

閉じる
交通事故
上肢

労働能力喪失の有無【後遺障害10級10号】(大阪地判 平成21年7月28日)

事案の概要

X(34歳、宅配作業員)の運転する自動二輪車が道路左端を走行中、同方向に走行していたYの運転する普通貨物自動車が路外ガソリンスタンドへ入るために左折した結果、両車両が衝突。
Xは、右手舟状骨骨折、右膝外側半月板損傷の傷害を負い、自賠責保険会社から後遺障害等級10級10号に該当する旨の認定を受け、賠償請求に及んだ。

<主な争点>

①Xの残存症状は後遺障害等級何級相当か?
②Xには逸失利益がどの程度認められるか?

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 7万3486円 28万1798円
通院交通費 2万2280円 2万2280円
休業損害 8万4495円 8万4495円
通院慰謝料 150万0000円 150万0000円
逸失利益 3163万6902円 3163万7891円
後遺障害慰謝料 550万0000円 530万0000円
過失相殺 5%
損害の填補 ▲570万4098円
弁護士費用 310万0000円
合計 3428万0103円

<判断のポイント>

(1)後遺障害等級認定

本件では、Xの右手の可動域制限について訴訟提起前に「1上肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」として後遺障害10級10号が認められていました。

この後遺障害は、手首、肘、肩のうちの一箇所が、健康な方の腕と比べて3分の1までしか曲がらないというものです。

しかし問題となったのは、通院先病院のカルテに、右手の可動域の測定結果が記載されていなかったことです。

これをもって、Y側は、後遺障害診断書の記載は症状固定時のものではないと反論したのです。

裁判所は、確かにカルテには記載はないものの、通常後遺障害診断書に記載されているのは症状固定時点の測定結果だと推定できるとし、さらに医療記録の中にも測定結果として記載があることから、可動域制限の事実を認めました。

このことから、やはり裁判所は、後遺障害診断書にどのように記載されているかをかなり重要視していることが分かります。

(2)逸失利益

本件では、Xが症状固定後も、事故以前と同じ職場で同様に勤務し、実際の減収は生じていないことから、逸失利益が発生するのか、発生するとしてもどの程度なのかも問題となりました。

逸失利益とは、後遺障害が残存することによって労働に支障が出る結果、労働の対価である収入にも影響(減収)が生じるだろうという発想のもとに認められるものです。

ですから、後遺障害が残存していても、労働には支障がなかったり、収入に影響しなかったりする場合には逸失利益は発生しないともいえます。

この点本件では、Xの職業が宅配便の集配作業であり、重量が500キログラム近くになる運搬用の箱を押して移動したり、台車を押したりするなど、手を使う作業が多くあり、利き手である右手首が十分に曲がらないために非常に苦労しているとし、そのような後遺障害がありながら、自らの努力で仕事の効率を低下させないようにしていることも認められるとし、労働能力喪失率を27パーセント、喪失期間を67歳までの33年間として、逸失利益を認めました。

この判断は、とても重要です。

障害が残ってしまったが、何とかこれまでと同じように稼動しようと努力をした者には逸失利益が認められず、漫然と支障を来たしたものにだけ補償が与えられるとなっては、不平等です。

裁判所に対して、実際の仕事内容、後遺障害が仕事に与えうる支障、被害者の苦労や努力を具体的に主張していき、逸失利益を認めさせることが大切になります。

まとめ

本件は、請求額とほぼ同額が認定されている、珍しい裁判例です。

判決は大分簡略化されているため詳細は不明ですが、当初から金額についてはそこまで大きな争いはなかったのかもしれません(実際は上記争点の他に、事故態様が大きな争点となっていました。)

もっとも、「カルテに記載がない」や「減収が生じていない」という反論は、事前に把握をしていないと一瞬ドキリとするものです。

これらの反論に対して、適切な証拠を用いて、きちんとした対応をしていかなければ、後遺障害が認められなかったり、逸失利益がゼロになったりする可能性もあります。

自身に有利な証拠、不利な証拠を見極めたうえで、適切な対処を心がける必要があるといえるでしょう。

閉じる
交通事故
上肢

労働能力喪失の有無【後遺障害10級10号】(大阪地判 平成21年7月28日)

事案の概要

X(34歳、宅配作業員)の運転する自動二輪車が道路左端を走行中、同方向に走行していたYの運転する普通貨物自動車が路外ガソリンスタンドへ入るために左折した結果、両車両が衝突。

Xは、右手舟状骨骨折、右膝外側半月板損傷の傷害を負い、自賠責保険会社から後遺障害等級10級10号に該当する旨の認定を受け、賠償請求に及んだ。

<主な争点>

①Xの残存症状は後遺障害等級何級相当か?
②Xには逸失利益がどの程度認められるか?

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 7万3486円 28万1798円
通院交通費 2万2280円 2万2280円
休業損害 8万4495円 8万4495円
通院慰謝料 150万0000円 150万0000円
逸失利益 3163万6902円 3163万7891円
後遺障害慰謝料 550万0000円 530万0000円
過失相殺 5%
損害の填補 ▲570万4098円
弁護士費用 310万0000円
合計 3428万0103円

<判断のポイント>

(1)後遺障害等級認定

本件では、Xの右手の可動域制限について訴訟提起前に「1上肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」として後遺障害10級10号が認められていました。

この後遺障害は、手首、肘、肩のうちの一箇所が、健康な方の腕と比べて3分の1までしか曲がらないというものです。

しかし問題となったのは、通院先病院のカルテに、右手の可動域の測定結果が記載されていなかったことです。

これをもって、Y側は、後遺障害診断書の記載は症状固定時のものではないと反論したのです。

裁判所は、確かにカルテには記載はないものの、通常後遺障害診断書に記載されているのは症状固定時点の測定結果だと推定できるとし、さらに医療記録の中にも測定結果として記載があることから、可動域制限の事実を認めました。

このことから、やはり裁判所は、後遺障害診断書にどのように記載されているかをかなり重要視していることが分かります。

(2)逸失利益

本件では、Xが症状固定後も、事故以前と同じ職場で同様に勤務し、実際の減収は生じていないことから、逸失利益が発生するのか、発生するとしてもどの程度なのかも問題となりました。

逸失利益とは、後遺障害が残存することによって労働に支障が出る結果、労働の対価である収入にも影響(減収)が生じるだろうという発想のもとに認められるものです。

ですから、後遺障害が残存していても、労働には支障がなかったり、収入に影響しなかったりする場合には逸失利益は発生しないともいえます。

この点本件では、Xの職業が宅配便の集配作業であり、重量が500キログラム近くになる運搬用の箱を押して移動したり、台車を押したりするなど、手を使う作業が多くあり、利き手である右手首が十分に曲がらないために非常に苦労しているとし、そのような後遺障害がありながら、自らの努力で仕事の効率を低下させないようにしていることも認められるとし、労働能力喪失率を27パーセント、喪失期間を67歳までの33年間として、逸失利益を認めました。
この判断は、とても重要です。
障害が残ってしまったが、何とかこれまでと同じように稼動しようと努力をした者には逸失利益が認められず、漫然と支障を来たしたものにだけ補償が与えられるとなっては、不平等です。裁判所に対して、実際の仕事内容、後遺障害が仕事に与えうる支障、被害者の苦労や努力を具体的に主張していき、逸失利益を認めさせることが大切になります。

まとめ

本件は、請求額とほぼ同額が認定されている、珍しい裁判例です。

判決は大分簡略化されているため詳細は不明ですが、当初から金額についてはそこまで大きな争いはなかったのかもしれません(実際は上記争点の他に、事故態様が大きな争点となっていました。)

もっとも、「カルテに記載がない」や「減収が生じていない」という反論は、事前に把握をしていないと一瞬ドキリとするものです。

これらの反論に対して、適切な証拠を用いて、きちんとした対応をしていかなければ、後遺障害が認められなかったり、逸失利益がゼロになったりする可能性もあります。

自身に有利な証拠、不利な証拠を見極めたうえで、適切な対処を心がける必要があるといえるでしょう。

閉じる