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裁判例: 交通事故

交通事故
死亡

電動アシスト自転車の特殊性を過失割合に反映しなかった事例【死亡事故】(神戸地判平成26年3月28日)

事案の概要

X(73歳男性)は、信号機のない丁字路交差点において、一時停止規制のある交差道路から右折侵入しようとしたところ、丁字路交差点を直進するY運転の電動アシスト自転車と出会い頭に衝突した。Xは脳挫傷、腰椎捻挫等の傷害を負い、労働者災害補償保険では後遺障害5級が認定された。

Xは、本件事故に起因しない膵臓がんによって死亡したため、Xの相続人(原告)は、Xの生前の損害賠償請求権を相続し、Yにその支払いを求めた。

<主な争点>

①過失割合

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 300万7412円 300万7412円
入院雑費 7万0500円 7万0500円
付添看護費 90万3000円 87万9500円
通院交通費 5万8925円 5050円
休業損害 420万8820円 420万8820円
逸失利益 1222万1856円 1205万4671円
入通院慰謝料 223万6667円 216万円
後遺障害慰謝料 1440万円 1440万円
過失相殺 20% 85%
既払金 ▲770万3234円 ▲770万3234円
(損益相殺含む)
弁護士費用 308万6010円 24万8000円
合計 3394万6116円 273万2000円

<判断のポイント>

(1)電動アシスト自転車の特徴と過失割合

電動アシスト自転車は、漕ぎ出しがスムーズで初速が速いことや、道路形状によってスピードが変わらないことが特徴的です。

一方で、相手方からすると、通常の自転車と見た目がそれほど変わらず、エンジン音等もないため、通常の自転車と大して変わらないだろうと甘く見がちです。

通常、過失割合は、道路形状、交通規制(信号機や一時停止の標識)、双方の車両の種類(車、二輪車、自転車)、双方の進路、速度などの事情によって定められます。

電動アシスト自転車の特殊性は、双方の車両の種類、速度に密接に関わります。

(2)Xの及びYの主張

Xの相続人は、「Xの自転車の速度は、一時停止をした後、右折しようと進行を始めた直後であったため、ほぼ歩行者と同様の速度であった。」、「Yの電動アシスト自転車は、ほとんど力を入れなくても進行し、衝突後Xが数メートル先の本件電柱まで飛ばされていることから、Yの電動アシスト自転車が、相当な高速度で交差点に進入した。」、「両者の速度からして、本件事故は、実質的に歩行者と二輪車の事故と同視できる。」として、Xの過失は20%を超えることはないと主張しました。

これに対し、Yは、「Xの自転車は一時停止していなかった。」、「Yの電動アシストのスイッチを切っていた。Yの電動アシスト自転車の速度は、時速10キロメートルないし15キロメートル程度にすぎなかった。さらに、Yは、本件交差点手前でブレーキを掛けて減速していたから、衝突時の速度は更に遅くなっていた。」として、Xには85%の過失があると主張しました。

<裁判所の判断>

裁判所は、損害の公平な分担との見地にたって、過失割合の判断を行います。

本件では、電動アシスト自転車の特殊性(初速が速いことや、道路形状によって速度が変わらないこと)を過失割合の判断要素としませんでした。

裁判所は、「電動アシスト自転車だから速度が速い」、「自動二輪車と同等だ」と短絡的に判断するのではなく、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの事情を総合的に考慮した結果、Yの主張を認めており、実態に則した適正な判決といえます。

本件のように、電動アシスト自転車の特殊性は、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの基本的な事情と密接に関わります。

ご自身が電動アシスト自転車に乗っていた場合、相手方が電動アシスト自転車に乗っていた場合のいずれであっても、当事務所にお気軽にご相談下さい。

<判断のポイント>

裁判所は、損害の公平な分担との見地にたって、過失割合の判断を行います。本件では、電動アシスト自転車の特殊性(初速が速いことや、道路形状によって速度が変わらないこと)を過失割合の判断要素としませんでした。裁判所は、「電動アシスト自転車だから速度が速い」、「自動二輪車と同等だ」と短絡的に判断するのではなく、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの事情を総合的に考慮した結果、Yの主張を認めており、実態に則した適正な判決といえます。

本件のように、電動アシスト自転車の特殊性は、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの基本的な事情と密接に関わります。

ご自身が電動アシスト自転車に乗っていた場合、相手方が電動アシスト自転車に乗っていた場合のいずれであっても、当事務所にお気軽にご相談下さい。

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交通事故
死亡

生活を助け合っている家族が亡くなったとき~扶養利益~(大坂地判平成27年10月14日)

事案の概要

東西に通じる道路と、その道路に南方から通じる道路が丁字に交わる交差点の東方に設けられた横断歩道上で、青信号に従って南方から交差点に進入し東方に右折したY車が、横断中の亡Cに衝突。

その結果、亡Cは死亡し、(1)亡Cの内縁の夫X1は、自己固有の人的損害を、(2)亡Cの子であるX2らは、亡Cの人的損害の相続分について、それぞれ支払を求めた事案。

<主な争点>

①X1は「内縁の夫」か否か
②X1の固有の損害の有無・額
③X2らの損害額

<主張及び認定>

①X1

主張 認定
扶養利益の喪失 2070万8069円 655万0533円
固有の慰謝料 1200万0000円 600万0000円
弁護士費用 320万0000円 100万0000円

②X2ら

主張 認定
葬儀費用 518万4426円 150万0000円
死亡逸失利益 3451万7484円
・稼動分 2457万8619円
・年金分 993万8865円
1791万2885円
・稼動分 1310万1066円
・年金分 481万1819円
死亡慰謝料 2800万0000円 1800万0000円
弁護士費用 680万4808円 各100万円

<判断のポイント>

(1)内縁関係

「内縁」とは、結婚する意思をもって一緒に生活し、社会的にも夫婦と認められているけれども、婚姻届を提出していないため、法律上の配偶者と認められない関係を意味します。

内縁の妻または夫は、パートナーについて、法律上の配偶者ではないため、相続権がありません。

ですので、パートナーが交通事故で亡くなった場合、パートナー自身が加害者や保険会社に請求できる権利を相続して行使することはできません。

もっとも、裁判実務では、たとえば、内縁の妻または夫は、パートナーが亡くなったことに対する自分自身の慰謝料=「固有の慰謝料」を請求することができると考えられていますし、一定範囲の家族に認められる「扶養利益」も認められる場合があります。

本件で、裁判所は、「X1は、昭和60年頃から本件事故時までの約28年間、継続して亡Cと同居し、二人の収入による同一家計で生活しており、亡Cの子であるX2らの結婚式や結納にも、父親(亡Cの夫)という立場で出席していた。しかも、X1は、X2らが全て独立した後で、本件事故の約4年半前の平成21年2月には、亡Cの申出により、亡Cと結婚式を挙げ、その際二人で今後も夫婦としての共同生活を続けることを誓っている。

そして、X1と亡Cに対しては、家族以外の者からも連名の年賀状が送られており、これらの事実を総合すれば、X1と亡Cは本件事故当時、事実上の夫婦共同生活を送る意思を有し、かつ、社会通念上夫婦としての共同生活の実態も有していたと評価することができる。」として、X1が亡Cの内縁の夫であったことを認めました。

(2)扶養利益

民法上、親子や同居の親族については「お互いに助け合う必要がある」と規定されています。

この「お互いに助け合う必要がある」とは、お互いに扶養義務を負っているということを意味します。

扶養利益は、この義務に基づき、被害者から扶養される利益といえます。

内縁の妻または夫は、配偶者と同視できるので、この扶養利益が認められる可能性があるのです。

そして、扶養利益は、簡単に言うと、扶養されていた額×扶養を受けられたであろう期間(ライプニッツ係数)で計算されます。

X1は、「本件事故前、X1と亡Cは、X1の年金(月額約15万円)と亡Cのアルバイト収入(月額約13万円)によって二人で生活しており、亡Cが家事をしていた。ところが、本件事故によって亡Cが死亡したため、原告X1は、亡Cのアルバイト収入が得られなくなるとともに、亡Cによる家事も受けられなくなったから、扶養利益を喪失したというべきである。」として、X1に扶養される利益を失ったと主張しました。

そして、X1は、平成25年賃金センサスの女性労働者・学歴計・60歳~64歳の平均賃金である年額298万8600円を基礎とし、生活費控除率を30パーセント、喪失期間を14年として、喪失した扶養利益を計算しました。

これに対して、裁判所は、X1に扶養利益の喪失の損害が生じたことは認めましたが、その額は,平成25年賃金センサス女性労働者・学歴計・60歳~64歳の平均賃金である298万8600円を基礎とし,亡Cの生活費控除率を30パーセント,就労可能年数を61歳女性の平均余命の約半分である13年間として算定した上で,その3分の1に当たる金額をもって相当と認めました。

上のX1の主張では、亡Cの稼いだお金などは全てX1の生活費などに充てられていた=X1の扶養に充てられていたということになります。

裁判所は、その主張は認めず、(期間も若干短く認定しましたが)その約3分の1の金額をXが扶養されていた金額としました。

亡C本人の生活費については、「生活費控除率30パーセント」というところで考慮されているにしても、亡C本人の生活費以外=X1の扶養に充てられた金額とは単純に考えられないということですね。

(3)年金の生活費控除率

生活費控除率とは、被害者が亡くなったことで将来かからなくなった生活費を逸失利益の計算の際に差し引くために使われる概念です。

この点、年金は、生活を保障するために支払われるものなので、年金は、他の収入に比べ、生活費の占める割合が高いと考えられています。

X2らは、亡Cの逸失利益に関して、アルバイトでの収入も年金収入も同じく生活費控除率30%として計算しています。

これに対して、裁判所は、アルバイトでの収入については生活費控除率30%、年金収入については生活費控除率60%として計算しました。

X2らと裁判所との計算方法には、他にも細々として違いがありますが、大きなところではこの生活費控除率を何%と考えるかの違いが、金額の差に影響していると考えられます。

また、裁判所は、亡Cのアルバイトでの収入についての逸失利益のうち、X1の扶養利益として認定した額は、X1の扶養に充てられるべき金額であるので、これを除いた金額が、亡Cの逸失利益として認められるべきと判断しました。

まとめ

扶養利益と死亡被害者の逸失利益との間にはこのような関係もあるので注意が必要ですね。

身近な方が亡くなっただけでも大きな精神的ダメージを被ることと思います。

しかし、その方が、自分の生活を経済的に支えてくれていた場合に、その経済的損失を加害者に請求したいというのは当然のことです。

交通事故で大切な方を亡くされた場合、扶養利益が請求できるのか、その金額はどの程度になるのかなど、どうぞ当事務所の弁護士にご相談ください。

死亡事故の場合は、請求金額も高額となりますので、プロの法律家の目で漏れなく主張・立証していくことが大切です。

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交通事故
死亡

相場を超えた判断(さいたま地判平成24年10月22日)

事案の概要

A(32歳・女性)は自転車を運転し歩道上を走行していたところ、車道から路外の駐車場に進入するために左折してきたY運転の普通貨物自動車に衝突させられた。

Aは、緊急搬送され集中治療を受けたが、事故から13日後に脳挫傷により死亡した。

これにより、Aの配偶者であるX1及びAの両親であるX2、X3がYに対して損害賠償請求をした。

<主な争点>

①葬儀費用としての損害はいくらか
②死亡に対する慰謝料はいくらか

<主張及び認定>

主張 認定
文書料 2250円 2250円
入院付添費 9万1000円 9万1000円
入院雑費 2万1000円 2万1000円
付添人交通費 1万6300円 1万6300円
葬儀関係費用 738万8949円 300万0000円
損賠請求関係費 6450円 6450円
休業損害 13万4243円 13万3824円
傷害慰謝料 35万0000円 35万0000円
死亡逸失利益 4011万5644円 3999万0708円
死亡慰謝料 3400万0000円 2900万0000円
小計 8212万5836円 7261万1532円
既払金 ▲3747万4145円 ▲3747万4145円
損害合計 4465万1691円 3513万7387円
確定遅延損害金 151万9320円 151万9320円
弁護士費用 462万0000円 366万0000円
総計 5079万1011円 4031万6707円

<判断のポイント>

(1)葬儀費用としての損害はいくらか

現在の我が国では、人が亡くなった際には葬儀が執り行われるのが一般的です。

したがって、交通事故被害者がお亡くなりになった場合には、葬儀費用が損害として認められます。

もっとも、葬儀に要する費用もその規模やグレードによってピンからキリまであります。

華美で豪奢な葬儀を執り行い、何千万もかかったとしても、その全てを加害者に支払わせるのは酷といえる場合もあります。

そこで、裁判所は原則として相当な葬儀費用を150万円と考えています。

そして、それを超える金額については、故人の地位や属性によって、そのような葬儀を行う必要があったといえるか否かを判断することになります。

本件では、Xらは、Aのために新たに墓を建立したことから、150万円を超える金額の請求をしました。

これに対して、Yは、墓は一家全員のために購入するものであるから、補償範囲に入らず、150万円の限度で認められるべきだと反論しました。

この点、裁判所は、まず本件の事故態様がYの重大な注意義務違反によって起こされた悲惨なものであったと認定し、その上、Aが婚姻後3年も経過していない若い女性であり、事故後一度も意識を回復せずに死亡したことから、「遺族である原告らが葬送等に手厚く対応しようとしたことは無理からぬものというべき」と判断しました。

その上で、「墓の建立費用に関し、亡Aの夫の原告X1は、当初、原告X1の家の墓として納骨することを考えたが、原告X2ら夫婦において、原告X1が若く、将来再婚した時のことを考慮し、かつ、原告X1と原告X2の双方の自宅から近い霊園に、亡Aのための墓を建立することを提案し、亡Aのためだけの墓として、新たに建立するに至ったことが認められ、本件事故がなければ、上記の亡Aの墓が建立されることはなかったといえる」と説示し、「その建立に要した費用のうち社会通念上相当と認められる額について、本件事故による損害として認められるべき」と300万円を認定しました。

この金額は、通常の2倍の金額であり、他の裁判例と比較してもなかなか見られない高額な認定です。

本件では、亡Aのためだけに新たに墓を建立したという点、そしてその理由が極個人的なものではなく、一般にも受け入れられるものであるという点で、大幅な増額が認められています。

(2)死亡に対する慰謝料はいくらか

交通事故被害者が死亡した場合には、被害者自身に発生する慰謝料と、被害者の近親者に発生する慰謝料の2種類が認められます。

もっとも、これらの金額についても、過去の裁判例の蓄積により、一定の均一化が図られており、裁判所は亡くなった人が一家のどのようなポジションかという点で下記のような認定をする傾向にあります。

①一家の支柱  2800万円
②母親、配偶者 2500万円
③その他    2000万円~2500万円
注意が必要なのは、これは被害者自身と近親者の慰謝料を合計した金額が、上記金額程度になるということです。

例えば、一家の支柱が亡くなり、その妻と子どもが二人残された場合には、被害者本人が2200万円、配偶者が300万円、子どもがそれぞれ150万円ずつ、といったような認定がされることが多いのです。

本件では、被害者は兼業主婦である女性だったため、上記②の範疇に該当することとなります。

本件事故時は、上記②は2400万円程度とされていたため、裁判所も「原則として一般的には、配偶者の場合は2400万円が相当とされ」ると明言しています。

しかし、増額に値する具体的事情があるとして、合計2900万円もの慰謝料が認められることとなりました。

本件で増額事情となったのは、まずAの生活状況です。

Aは、X1と結婚をして、兼業主婦として家族を支え、子どもを授かれば専業主婦となって子育てに従事して家族で暮らすためのマイホームを購入したばかりの、いわば「幸福の絶頂期」に本件事故に遭い、「結婚後3年も経たない32歳の若さで、一度も意識を戻すことなく、生命を絶たれたものであり、その無念さは、筆舌に尽くせない」と判示されています。

加えて、Yの態度も問題視されています。

Yは、本件事故の刑事手続において「今後、ご遺族の方々には、直接お会いしてお詫びし、一生謝罪し続けるつもりです。」と誓ったにもかかわらず、執行猶予となるや遺族に対して面会はおろか、謝罪文や献花等も一切行っていません。

さらに、その点を本件裁判の中で裁判所から指摘されても、言い訳を述べ、謝罪を行わないYに対し、裁判所は「遺族に対して謝罪の気持ちを表して慰謝すべき思慮と自覚をうかがうことができない」と判断しています。

これらの事情と、本件事故態様からすると、「亡A本人及び原告らそれぞれの受けた精神的苦痛は、あまりにも大きく、甚大」として、上記2900万円を下回ることはないと認定されています。

このように、喪われたものはいかに重大なものだったのか、その喪われ方やその後の対応はいかなるものだったのか、という点が、慰謝料という精神的損害を判断する上では重要となってきます。
本件では、加害者の事故時の不注意やその後の無関心さに加え、Aがどれだけ充実した日々を生きていたのかという点が大きな意味を持ちました。

まとめ

本裁判例は、いわゆる「相場」や「基準」という金額から、大きく増額を認めたもので、被害者に寄り添った内容となっています。

また、判決文は「愛する家族」「幸福の絶頂」「(精神的苦痛が)察するに余りある」等の表現が用いられていて、かなり被害の内容に踏み込んだ判断をしているといえます。

どうしても裁判所は、冷静な視点でぶれない判断を強いられるため、その認定は硬直化していく傾向にあります。

人の命に値段を付けられるのか?貴賎を付けられるのか?というジレンマもあります。

しかし、被害者やその遺族の負った苦しみや辛さは、抽象化や均質化には馴染みません。

どのような人生を送っていた命が奪われたのか、それに対して周囲の人間がどのような苦痛を味わっているのかを詳細に訴え、適切な評価を目指すべきです。

「相場から行くとこんなものか」と示談してしまう前に、弁護士にご相談ください。

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交通事故
死亡

遺された子どもと内縁の夫(東京地判平成18年6月7日)

事案の概要

A(59歳、女性)が信号規制のある交差点を青信号に従って横断歩行中、Yの運転する貨物自動車が赤信号無視により交差点へ進入しAと衝突。

Aは、頸椎脱臼骨折を原因とする頸椎損傷により即死したため、Aの子であるX1、X2及び内縁の夫であるX3が、Yに対して損害賠償の請求をした。

<争点>

本件事故に基づく損害額はいくらか?

<主張及び認定>

<Aの損害額>

主張 認定
逸失利益 2511万0000円 2426万6813円
慰謝料 2400万0000円 2400万0000円
合計 4911万0000円 4826万6813円

<X1の損害額>

主張 認定
相続
(Aの損害額の3分の1)
2455万5000円 2413万3406円
死体検案費用 1万5000円 1万5000円
葬儀関係費用 156万2620円 130万0204円
弁護士費用 261万0000円 200万0000円
合計 2874万2620円 2744万8610円

<X2の損害額>

主張 認定
相続
(Aの損害額の3分の1)
2455万5000円 2413万3406円
葬儀関係費用 1万5750円 1万5750円
弁護士費用 246万0000円 200万0000円
合計 2703万0750円 2614万9156円

<X3の損害額>

主張 認定
固有の慰謝料 200万0000円 200万0000円
弁護士費用 20万0000円 20万0000円
合計 220万0000円 220万0000円

<判断のポイント>

(1)死亡事故の際に請求できるもの

通常、交通事故の損害賠償は、被害者が自身の被った損害を加害者に対して請求します。

しかし、被害者が死亡してしまった場合には、被害者が請求することはできません。

従って、被害者の被った損害を相続人が相続し、相続人が加害者に対して請求していくことになります。

また、死亡事故の場合には、近親者に固有の慰謝料が認められます。

これは、家族の命が事故によって奪われてしまったという精神的損害を被ったことを理由としています。

法律上被害者の父母、配偶者及び子どもに認められていますが、本件のように内縁であることの立証ができれば、婚姻をしていなくとも配偶者に準じて慰謝料を認められることができます。

(2)葬儀費用はいくらまで認められるか

被害者が死亡した場合に、多くの場合が葬儀を執り行うことになります。

以前は、葬儀はいつか死亡した際にも執り行うのだから、交通事故によって発生した損害ではないという考え方もありましたが、裁判所は基本的に交通事故による損害として葬儀費用の賠償を認めています。

しかし、ここで気をつけなければならないのは、葬儀費用はかかった実費分全額が認められるとは限らない点です。裁判所は原則として葬儀費用は上限150万円までと考えており、それ以下の場合には実際に支出した額を認めます。150万円を超えて認定されるためには、細やかな立証が必要となります。

本件では、X1が支出した葬儀費用のうち、130万0204円は本件事故による損害として認められましたが、残り26万2416円については事故との因果関係の立証ができず認められませんでした。

まとめ

交通事故によって、突然命を奪われてしまうという痛ましい事件は後を絶ちません。

そして、そのような事故の場合、誰が、どのような損害の賠償を受けられるか、ということが、被害者存命の事故よりも分かりづらくなります。

本件では、X3につき、13年ほどの交際期間および9年以上にわたる同棲が認められ、実質的には夫婦同様であると認定されたため、内縁配偶者として慰謝料の請求が認められました。

しかしこれが単なる交際相手、同棲相手という程度だった場合には判断が異なる可能性があります。

また、葬儀費用はどこまで認められるのか、香典の処理はどうするのか、生命保険等はどうなるのか、など懸念される事項は多岐にわたります。

交通事故で大切な方を亡くしたうえに、賠償や相続といった手続きを十全にこなすのは、かなりの困難を伴うと思われます。

相続から損害賠償に至るまで、専門家である弁護士に御相談いただいた上で、適切な解決を目指すのが望ましいでしょう。

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交通事故
脊柱・体幹

変形しているだけではダメ?【後遺障害12級5号】(大阪地判平成27年3月30日)

事案の概要

信号機のない交差点において、東西道路を東進して直進進入したY1(Y2会社の従業員で業務中)運転の自動車と、南北道路を南進して直進進入したX運転の原動機付自転車が出合い頭に衝突した事故で、傷害を負ったXがYらに対し損害賠償を求めた事案。

<主な争点>

①過失割合
②逸失利益

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 55万7816円 55万7816円
文書料 800円 800円
通院交通費 2万1000円 2万1000円
休業損害 259万2000円 144万0000円
後遺障害逸失利益 714万7123円 255万2544円
通院慰謝料 150万0000円 110万0000円
後遺障害慰謝料 280万0000円 280万0000円
物損 (ア)原告車両修理費    12万9294円
(イ)ヘルメット買換費用  1万0000円
(ウ)衣服買換費用     4万3000円
0円

<判断のポイント>

(1)交差点の見通し状況と進入状況

出会いがしらの事故において、過失割合は基本的に避けられない論点です。

「お互いに、前方をもう少し注意すれば事故を避けられたよね」という考慮が働くわけですね。

当事者の方の感覚からすれば、「相手が飛び出してきた!」といいたいところもあるかと思いますが、過失割合を考える際には、冷静に「どういう状況で事故が起きたのか」という客観的な事故状況を分析することが重要になります。

本件事故が起きた交差点では、交差点の北東側角に鉄塔とフェンスが存在しているため、交差点北側から同交差点東側方向に対する見通しは不良であり、本件交差点の南西側角付近にはカーブミラーが設置されていました。

他方、交差点北側から同交差点西側、交差点西側から同交差点北側方向に対する見通しを特段妨げるような障害物はありませんでした。

そのような交差点に、Xは、原付で南北道路を北から南方向に向かって進み、本件交差点に差し掛かって、一時停止線付近で一時停止をしました。その後、Xは、見通しの悪い左側の動向を確認しながら徐行程度の速度で進行したのです。

他方、Yは、自動車で東西道路を西から東方向に時速15km程度の速度で進み、本件交差点に直進進入したところ、原告車両に気付き、ブレーキをかけましたが、衝突してしまいました。

このような交差点の構造と事故態様において、裁判所は「Xには、本件交差点に進入するに当たり、左方の状況に気をとられて右方から進行する車両の有無及び動向の注視を怠った過失があったというほかはない。

まとめ

本件交差点は、原告車両の走行経路上に一時停止の標識及び一時停止線がある交差点であるから、本件交差点を通過するに当たっては、Y車両に通行上の優先関係があるというべきこと、Xは、上記標識等に従い一時停止は行ったものの、その後本件交差点に進入した後、被告車両の存在に気付いたのが衝突直前であったことの各点に照らせば、Xの本件事故に対する過失の程度は相当程度大きいといわざるを得ない」として、XとYの過失割合を55:45と判断しました。

Yの過失よりもXの過失が少し大きいと判断したわけですね。

過失割合というのは“損害の公平な分担”のための論理であって、「事故の当事者間でどちらにどれだけ負担させるのが公平か」という相対的な問題です。

そこで、これが自動車対自動車の事故だった場合について考えてみると、Xの過失割合はもっと高くなった可能性が大きいのです。歩行者より自転車の方が、自転車より原付・バイクの方が、原付・バイクより自動車の方が、事故を起こした場合に相手方に与える損害が大きいと考えられ、よくよく注意して進行しなければならないとされて、その注意を怠った場合の注意義務違反=過失の度合いも高く考えられるわけです。

(2)鎖骨の変形に伴う症状

Xは、本件事故により左肩関節脱臼の怪我を負い、鎖骨に変形が残ったため、自賠責保険から「鎖骨に著しい奇形を残すもの」として後遺障害第12級5号の認定を受けています。

12級の労働能力喪失率は、形式的にいえば14%と決められているので、Xは労働能力喪失率14%を前提に逸失利益を計算してYらに請求しました。

これに対して、裁判所は「鎖骨変形そのものから直ちに労働能力の喪失を認定することはできない。

もっとも、鎖骨の変形による派生障害として、左肩の痛み及び脱力感が認定されていることやXの業務内容等に照らせば,一定程度労働能力に影響があることが認められる。

以上の諸事情を考慮し,労働能力喪失率は5%を相当と認める。」と判断しました。

後遺障害として認められる鎖骨の変形は、裸になったときに変形が明らかにわかる程度のものです。“程度”として明らかな変形が残ってしまったことになるので、12級という等級が認められるわけですが、一般的に言えば、鎖骨が変形しても、それだけで労働に何か支障が出るものとは考えられません。身体を動かしたり、物を考えたりする際に、鎖骨が変形していても影響がないということですね。

ですから、鎖骨の変形で後遺障害が認められた場合、それだけで逸失利益を請求するのは難しくなります。

そこで、鎖骨の変形にともなって、他に何か症状が残っていないか、その症状がお仕事にどう影響するかがポイントとなるのです。

本件でも、「鎖骨の変形による派生障害として、左肩の痛み及び脱力感」があったこと、Xの仕事が庭師であったこと等から、逸失利益が認められました。

鎖骨に変形が残るようなお怪我をされた場合は、痛みや周辺部位の動かしにくさ(=可動域制限)等のお仕事に支障を来たすような症状についても、しっかりと医師に伝え、診断書やカルテの記載として残しておいてもらうようにしてくださいね。

本件では、結果的に逸失利益は認められましたが、それでも12級で形式的に認められる14%ではなく、5%の労働能力喪失率が認められたにとどまります。鎖骨の変形で逸失利益を請求していくことが難しいことがよく分かりますね。

自賠責から後遺障害の認定を受けたなら、しっかり賠償額に反映させていきたいところです。

しかし、後遺障害の等級やそれに伴う形式的な数字が、必ずしも全ての場合に当てはまるわけではありません。

適切な賠償を得るためには、それぞれの賠償項目の趣旨をよく理解し、適切に対処していくことが重要です。

ぜひ一度当事務所にご相談ください。ひとつひとつ丁寧に説明し、アドバイスさせていただきます。

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