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労働災害
雇用主への損害賠償請求2 ~年少労務者に対する安全教育義務違反の末の事故~ (東京地裁昭和35年1月26日判決)

事案の概要

工場にて造粒加工作業に従事していたXは、造粒機が作動中に手を差入れたことで、造粒機に付属するロータリーバルブ(以下、本件バルブという。)に右腕が巻き込まれ、右前腕を切断する傷害を負った。

Xは、労災保険から補償を受けた後、安全配慮義務違反又は不法行為責任に基づき、元勤務先会社Yに対して損害賠償請求訴訟を提起した。

<争点>
勤務先会社Yの
①安全設備設置義務違反、及び
②安全教育義務違反の有無

判決の内容

<争点①安全設備設置義務違反の有無について>

(原告の主張)
ローラーの停止スイッチが作業者の手の届く範囲に存在すれば、また、制動装置その他災害予防設備があれば本件事故は防げたにもかかわらず、会社Yはかかる措置を怠っていた。

(裁判所の判断)
・停止スイッチについて
ローラー作動についての検証の結果、停止スイッチにより通電を遮断しても、惰性により完全停止まで数回回転を続け、かつ、最初の数回は回転スピードも直ちに減じられることはない。

すなわち、停止スイッチがあっても、指が押しつぶされるものと考えられる。

したがって、停止スイッチがあったとしても本件事故は防げないため、停止スイッチが無かったことは本件事故に原因に関係が無い。

・制動装置のないことについて
本件機械は、労働基準監督署の安全検査に合格しており、安全設備を欠いているとはいえない。

・その他災害予防装置について
例えばローラー接触部に手が届かないように障害物を設置することが考えられる。

しかし、かえって他の作業の妨げとなり、実際、過去に事故が生じたことがあった。

そうであれば、かかる装置がないことをもって不備があるとはいえない。

したがって、設備に問題は無い。

<争点②安全教育義務違反の有無>

(裁判所の判断)
本件装置の掃除は、Xの担当する仕事に含まれていることを前提として、以下のとおり示した。

会社Yとしては、当時17歳で機械について知識経験が十分とは到底認められないXに対して、具体的注意事項を教え込むことは条理上当然の義務である。

多少の危険が伴う程度であれば、より手っ取り早い方法で作業を進めてしまうのが一般の傾向であるから、そういうことにならないよう、安全教育を実施すべきであって、Xらの注意力にのみ頼って放任すべきではなかった。

したがって、操作に関する具体的安全教育を行う義務があった。

しかし、会社Yには、安全教育について社則があるのみで、かかる義務を果たしたとはいえない。

したがって、原告の軽率さが事故の原因であることは否定できないが、会社Yの落ち度があったことが認められる。

解説

本訴訟では、安全装置設置義務違反と安全教育義務違反の有無が争われました。

このうち、特に取り上げるべきは、後者の安全教育義務違反の有無です。

本件では、労働者が17歳という年少者であったためです。

本判決でもあるように、年少者の場合、知識や経験に乏しく、教育の重要性がより高まります。

本判決では、例えば、手を挟まれないよう柄の付いた雑巾を使用することや、ローラーの上部より外側を拭くようにするなどの教育が必要であったと示されています。

本判決から学ぶべきことは、年少者を雇用する者は、一般に高度な安全教育義務が求められ、かつ、具体的な指導が必要ということです。

但し、当該作業が当該年少者の仕事の範囲外であった場合は、どこまで教育が必要であるかは問題となり得ます。

場合によっては教育の必要はないといえるでしょう。

また、人はより手っ取り早い方法で作業をする傾向があることに触れられている点については、世間に受け入れられやすい判決といえるのではないでしょうか。

以上のとおり、年少者を雇用する会社は安全教育を細やかに実施する必要があります。

もしこれらの教育を施されないまま働いている年少者の方で、事故に遭ってしまった方は、会社の責任の有無やその程度について一度弁護士にご相談下さい。

会社に対して、損害賠償を適切に求めるべきです。

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