労災における後遺障害

労災保険は、正式には、「労働者災害補償保険法」といい、その名のとおり、労働者が災害にあった場合に備える保険です。 労働災害により、身体的・精神的症状が生じた場合は、労災保険法に定める範囲で、治療や休業損害に対する各種補償を受けることができます。 ここでは、労働災害による身体的・精神的症状が障害として残ってしまった場合の補償である「障害補償」について説明します。

労災保険上では、障害補償には「障害補償給付」と「障害給付」という2種類の補償があり、疾病の原因となった労働災害が何かによって分かれます。 具体的にいうと、「業務災害」の場合は「障害補償給付」、「通勤災害」の場合は「障害給付」が補償されることになります。

この「障害補償」は、労働災害による身体的・精神的症状が「なおった」後に、障害が残ってしまった場合に、その残存した障害の程度に応じて支給される補償です。 ここでいう「なおった」とは、医学上適切だと考えられる治療や療養を試みても、その効果が期待できなくなったときをいい、この「なおった」状態のことを、「症状固定」といいます。

症状固定するとどうなるのか

労災保険による治療の補償は、症状固定日までとされています。 症状固定になると、以降は療養補償や休業補償を受けることができなくなります。 症状固定日以降は、残ってしまった障害に応じて、「障害補償(障害補償給付・障害給付)」が支給されます。

障害等級

障害補償は、障害の程度に応じて給付されます。 障害の程度は、労災保険法施行規則の障害等級表上で、身体障害の内容に応じて14段階に分類されています。

障害等級表

後遺障害認定基準
第1級
第2級
第3級
第4級
第5級
第6級
第7級
第8級
第9級
第10級
第11級
第12級
第13級
第14級
第1級
身体障害
1 両眼が失明したもの
2 そしゃく及び言語の機能を廃したもの
3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
4 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
5 削除
6 両上肢をひじ関節以上で失ったもの
7 両上肢の用を全廃したもの
8 両下肢をひざ関節以上で失ったもの
9 両下肢の用を廃したもの
第2級
身体障害
1 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
2 両眼の視力が0.02以下になったもの
2の2 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
2の3 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3 両上肢を手関節以上で失ったもの
4 両下肢を足関節以上で失ったもの
第3級
身体障害
1 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
2 そしゃく又は言語の機能を廃したもの
3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
4 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5 両手の手指を全部失ったもの
第4級
身体障害
1 両眼の視力が0.06以下になったもの
2 そしゃく及び言語の機能に著しい障害を残すもの
3 両耳の聴力を全く失ったもの
4 1上肢をひじ関節以上で失ったもの
5 1下肢をひざ関節以上で失ったもの
6 両手の手指の全部の用を廃したもの
7 両足をリスフラン関節以上で失ったもの
第5級
身体障害
1 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
1の2 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に簡易な労務以外の労務に服することができないもの
1の3 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に簡易な労務以外の労務に服することができないもの
2 1上肢を手関節以上で失ったもの
3 1下肢を足関節以上で失ったもの
4 1上肢の用を廃したもの
5 1下肢の用を全廃したもの
6 両足の足指の全部を失ったもの
第6級
身体障害
1 両眼の視力が0.1以下になったもの
2 そしゃく又は言語の機能に著しい障害を残すもの
3 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
3の2 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
4 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの
5 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
6 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
7 1手の5の手指又は母指を含み4の手指を失ったもの
第7級
身体障害
1 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
2 両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
2の2 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
3 神経系統の機能又は精神に障害を残し、簡易な労務以外の労務に服することができないもの
4 削除
5 胸腹部臓器の機能に障害を残し、簡易な労務以外の労務に服することができないもの
6 両1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指を失ったもの
7 1手の5の手指又は母指を含み4の手指の用を廃したもの
8 1足をリスフラン関節以上で失ったもの
9 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
10 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
11 両足の足指の全部の用を廃したもの
12 外貌に著しい醜状を残すもの
13 両側のこう丸を失ったもの
第8級
身体障害
1 1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの
2 脊柱に運動障害を残すもの
3 1手の母指を含み2の手指又は母指以外の3の手指を失ったもの
4 1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指の用を廃したもの
5 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
6 1上肢の3大関節中の1関節を廃したもの
7 1下肢の3大関節の1関節の用を廃したもの
8 1上肢に偽関節を残すもの
9 1下肢に偽関節を残すもの
10 1足の足指の全部を失ったもの
第9級
身体障害
1 両眼の視力が0.6以下になったもの
2 1眼の視力が0.06以下になったもの
3 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
4 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
5 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
6 そしゃく及び言語の機能に障害を残すもの
6の2 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
6の3 1耳の聴力が耳に接しなければ多声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
7 1耳の聴力を全くうしなったもの
7の2 神経系統の機能又は精神の障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
7の3 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務ヶ相当な程度に制限されるもの
8 1手の母指又は母指以外の2の手指を失ったもの
9 1手の母指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの
10 1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの
11 1足の足指の全部の用を廃したもの
12 生殖器に著しい障害を残すもの
第10級
身体障害
1 1眼の視力が0.1以下になったもの
1の2 正面視で複視を残すもの
2 そしゃく又は言語の機能に障害を残すもの
3 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
3の2 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
4 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
5 削除
6 1手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの
7 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
8 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
9 1下肢の3大関節の1関節の機能に著しい障害を残すもの
第11級
身体障害
1 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
2 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
3の2 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
3の2 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
4 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
5 脊柱に変形を残すもの
6 1手のひとさし指、中指又は薬指を失ったもの
7 削除
8 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
9 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の運行に相当な程度の支障があるもの
第12級
身体障害
1 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
2 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3 7歯以上に対して歯科補綴を加えたもの
4 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの
5 鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
6 1上肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの
7 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
8 長管骨に変形を残すもの
8の2 1手の小指を失ったもの
9 1手のひとさし指、中指又は薬指の用を廃したもの
10 1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの
11 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
12 局部に頑固な神経症状を残すもの
13 削除
14 外貌に醜状を残すもの
第13級
身体障害
1 1眼の視力が0.6以下になったもの
2 1眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
2の2 正面視以外で複視を残すもの
3 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
3の2 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
3の3 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
4 1手の小指の用を廃したもの
5 1手の母指の指骨の一部を失ったもの
6 削除
7 削除
8 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの
9 1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの
10 1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
第14級
身体障害
1 1眼のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの
2 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
2の2 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
3 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
4 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
5 削除
6 1手の母指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
7 1手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
8 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
9 局部に神経症状を残すもの
10 削除

上に記載した障害等級が認定されたら

残存した障害が、障害等級表に該当し、労働基準監督署により等級の認定を受けた場合は、厚生労働省から労災保険上で定められた障害補償を受けることができます。 労災保険上では、障害等級に応じて、それぞれ以下の補償を受けることができます。

<障害等級1級~7級>
障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金
<障害等級8級~14級>
障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金
<給付の内容>
障害等級 障害(補償)給付年金/一時金 障害特別支給金 障害特別年金/一時金
第1級 給付基礎金額の313日分 342万円 算定基礎日額の313日分
第2級 277日分 320万円 277日分
第3級 245日分 300万円 245日分
第4級 213日分 264万円 213日分
第5級 184日分 225万円 184日分
第6級 156日分 192万円 156日分
第7級 131日分 159万円 131日分
第8級 503日分 65万円 503日分
第9級 391日分 50万円 391日分
第10級 302日分 39万円 302日分
第11級 223日分 29万円 223日分
第12級 156日分 20万円 156日分
第13級 101日分 14万円 101日分
第14級 56日分 8万円 56日分
※基礎給付金額とは
労働基準法の平均賃金に相当する額のことを指します。 平均賃金とは、原則として、労働災害による疾病の発生が医師の診断によって確定した日の直前3ヶ月の給与の総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金は含みません)を日数で割った1日あたりの賃金額のことです。
※算定基礎日額とは
算定基礎日額は、労働災害による疾病の発生が医師の診断によって確定した日以前の1年間に支払われた特別給与の総額を356で割った額です。特別給与とは、ボーナスなど3ヶ月をこえる期間ごとに支払われる賃金のことをさします。ただし、臨時的に支払われる賃金は含まれません。

障害(補償)給付手続の流れ

障害補償は、障害の程度に応じて給付されます。 障害補償の支払いを受けるためには、障害(補償)給付請求書等の所定の書式を使用し、申請を行います。書式は、管轄の労働基準監督署で入手することができるほか、厚生労働省が公開している公式ホームページ上でダウンロードすることができます。 特別支給金の支給申請は、障害(補償)給付の請求と同一の書式です。基本的にこの二つは同時に申請します。 申請書類は種類や数が多くて内容も複雑です。障害(補償)給付は、疾病が「なおった」日から5年を経過すると、時効により請求権が消滅してしまいますので、申請準備は専門家に任せることをお勧めします。
■1.事業者から、「障害(補償)給付支給請求書」に証明を受ける

「障害(補償)給付支給請求書」には、事業主の署名押印欄があります。 労災保険から給付を受けるためには、事業主に請求書に署名・押印をしてもらい、労働災害が発生した原因や発生状況について証明を受ける必要があります。

■2.医療機関に診断書を作成してもらう

請求書の裏面は診断書になっています。担当医に診断書を作成してもらいます。 障害等級が認定されるにあたって、判断の材料となる重要な資料となります。 また、診断書だけでなく、XPやMRI等の画像を添付書類として提出する必要があります。

■3.申請・支給

揃えた書式は、管轄の労働基準監督署に提出します。 労働基準監督署から支給決定を受けた場合、厚生労働省から給付の支払いを受けることができます。

適切な補償を受けるためには

適切な障害等級の認定を受けるためには、ポイントを押さえた診断書を作成する必要があります。医師は、治療の専門家で、労災保険制度や障害等級の認定要件についての知識は持ち合わせていないことがほとんどです。医師にまかせきりでは、適切な障害等級の認定を受けることはできません。 適切な障害等級の認定を受けるためには、治療をどのように進めるか、いつを症状固定の時期と判断するか、診断書に記載する事項等、専門的な知識が必要です。労災保険についての知識、疾病についての知識の両方に精通した弁護士のサポートが不可欠です。

是非一度、当事務所の弁護士にご相談ください。