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不貞女性への報復と不法行為

不貞女性への報復と不法行為

(東京地方裁判所平成27年6月3日判決)

<事案の概要>

妻Y(被告)は、夫Bと不貞行為をしていた女性X(原告)の勤務先である保険会社AのF支店長宛に、不貞の事実を記載した内容証明郵便(判決文中、「内容証明②」)を送った。

これにより女性Xは、名誉が毀損されたうえ退職を余儀なくされたとして、不法行為に基づき損害賠償を求めた事案である。

<争点>

妻の行為は、不法行為にあたるか。

<判決の内容>

被告は,内容証明②は特定人に対する文書である旨主張し,確かに内容証明②はF支社長という特定人宛ての封書であるが,会社としての対応を要求している以上,原告の不貞の事実が社内の必要な部署に伝播することは当然に想定されていたといえる上,現実に伝播していることは上記説示のとおりである。

また,被告は,Aの保有する被告家族の個人情報が心配であり,かつ,原告の勤務先を通じてしか不貞関係を断つことができないと考えて勤務先に内容証明②を送付した旨述べるが(被告本人),被告は,G弁護士を通じて原告宛てに内容証明①を発送しながら,その回答や対応を確認することなく,同日のうちに,自分自身で原告の勤務先に宛てて内容証明②を発送していることなどからすると,勤務先に不貞の事実を認識させることにより原告に社会的制裁を加える意図も有していたことがうかがわれる。

そうすると,原告とBの不貞関係が事実であることや,Aに対し管理監督責任を追及したり会社としての対応を求めたりすること自体は直ちに不当とはいえないことなどを考慮しても,被告による内容証明②の送付は方法として相当性を欠くものであり,原告の名誉を毀損する不法行為を構成するというべきである。

解説

裁判所は、不貞関係にある相手の勤務先に不貞の事実を書いた書面を送る行為が不法行為にあたることがあるとの判断を下しました。

不法行為が成立するためには違法性が必要です。この際の判断基準は、妻の行為が一般人の行動として理解しうる範囲内のものであるか否かであり、具体的には妻の行為の動機や目的、どのような手段を用いたのか、結果などを総合して判断されることとなります。

本件では、妻の上記行為は報復目的によるものであったこと、またその方法は(住所が不明である等なんら致し方ない理由がないにもかかわらず、)勤務先へ内容証明郵便を送りつけるという相当性を欠くものであったことから、違法性があると判断されました。

ただし、あくまでも妻の行為が一般人の行動として理解しうる範囲外であるのでなければ違法性があるとは言えません。

例えば本件のような事案であれば、妻がAに対し使用者の業務上の監督責任を追及したり不貞関係の解消に協力を求めるといったような場合には一般人の行動として理解しうる範囲内のものであるとして、違法性がないと判断されることが多いと考えられます。

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