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離婚問題
養子関係をめぐる問題①~実親と養親の責任~(長崎家庭裁判所昭和51年9月30日審判)

事案の概要

夫婦は婚姻し、子をもうけたが、やがて夫婦関係に破綻をきたし、調停離婚をした。

調停の際、子の親権者を妻と定め、「夫は子が満二〇歳に達するまでの養育料として金120万円を昭和○○年○○月末日限り支払う。」旨定めるとともに、「今後相互に名義の如何を問わず金銭その他一切の請求をしない。」旨定め、夫は、養育料も全額支払って債務を履行した。

夫婦の離婚後、子は、妻(子にとっては「実母」である。)の両親であるBC(子にとっては「祖父母」)と養子縁組を結び、BC両名及び妻と共に生活を営んでいる。

BCは、夫(子にとっては「実父」である。)に対し、毎月20万円の養育費の支払いを求めて、家庭裁判所に養育費増額の申立をした。

<審判の内容>

本件申立は、昭和××年に成立した調停において設定された養育料の一括払債務に関する調停条項の変更を求めているものであるが、夫が同条項に定められた養育料債務を本件申立以前に既に全部履行し、変更の対象・基礎となるべき養育料債権がもはや消滅している以上、その変更を求めることは許されないものと解されるところ、養育料の性質上、たとい将来の養育料を一括払いし、扶養義務を終局的に打切りとする合意が成立していたとしても、これによって扶養義務者は常に全面的にその義務を免れうるものではなく、事情如何によっては再びその義務を負担することがあり得ることに鑑み、本件申立の趣旨を前記調停(審判)以降の子の養育費の分担を求めているものと善解し、判断を進めることとする。

BC両名は子(BCにとっては孫である。)を養子とし、一体的共同生活を営んでいるものであるから、このような場合、事実上子に対する監護権を代行しているとしても、通常一般の縁組と同様、未成熟子である子の福祉と利益のために、親の愛情をもつてその養育を、扶養をも含めて全面的に引受けるという意思のもとに養子縁組をしたと認めるのが相当であって、このような当事者の意思からいっても、養子制度の本質からいっても、子に対する扶養義務は先ず第一次的に養親であるBC両名に存し、養親が親としての本来の役割を果しているかぎり、実親の扶養義務は後退し、養親が資力がない等の理由によって充分に扶養義務を履行できないときに限って、実親である夫は次順位で扶養義務(生活保持の義務)を負うものと解すべきである。

BC両名の収入は家族の生活を維持するに充分というべく、むしろ通常一般よりもはるかに高水準の生活を営むに充分な収入を得ていると認められる。

そればかりでなく、BC両名は、いわゆる資産家としてばく大な不動産を所有しており、これらの一部を換価して自己需要を補足することも期待できること、その他一切の事情をあわせ考えると、子を養育するに充分な資力を有するBC両名が、次順位で扶養義務を負うところの夫に対して養育費の分担を請求するのは失当というべきである。

まとめ

養子縁組は資産家の家系でよく見られますが、養親が実親に対して、養子の養育費を求めることはあまり事例としては多くないものと思います。

本件は、未成熟子の養育費の負担につき、実際に子と生活を営む養親と、すでに夫婦間での養育費の取り決め額の支払い義務を果した実父の責任が問われました。

本件で注目すべき裁判所の判断は、①離婚時に取り決めをした養育費の支払い義務を果した者も、その後の子の養育環境の変化によっては、追加で養育費の支払い義務が生じる可能性があることを示唆した点と、②扶養義務を第一次的に負担すべきは、実際に子と共同生活を送る養親であるとの判断をした点です。

このように、養育費の支払義務は、取り決めを行った後の事情の変化によって、変動をする可能性があります。

取り決めの際には、先を見据え、両者が十分に納得できる結論を探る必要があるといえます。

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