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損害賠償請求6 ~クレーン車横転事故~ (神戸地裁洲本支部昭和55年11月18日判決)

事案の概要

Xは、クレーン車の運転手として、鉄筋のつり荷作業に従事していたところ、地盤が軟弱で、アウトリガー(車体から横に張り出される足様のもの)が適切に設置できておらず、また、過重なつり荷であった(にもかかわらずXは荷重計を見ていなかった)ことから、クレーン車が横転し、Xが負傷した。

Xは、会社Yらに対して、損害賠償請求訴訟を提起した。

<争点>

Yの責任及びのX責任の有無とその程度。

判決の内容

(Yの責任)

Yの安全配慮義務の具体的内容
①本件事故前日に、本件工事現場付近では雨が降っていた。

そのため、Yの工事責任者は地盤の硬さ等を点検し、アウトリガーの設置について、監督者として十分注意すべき義務であった。

②監督者として、クレーン車に荷卸しが過重であるか、運転者の操作能力は十分か、吊り上げ下げ位置が適切か、過重でないかなどを実際に見て、作業が安全に遂行するかどうかについて指揮監督し、作業員の安全保護について配慮すべき注意義務があった。

上記義務違反の有無について
①→地盤の硬さなどの点検は行っていない。

②→鉄筋の吊り上げ場所を指示しただけで、後は原告に任せ、事務所へ行ってしまった。実際、事故についても後から知った。

→Yらは、地盤の硬さ点検や、実際に作業を見て安全に遂行されるよう指揮監督する措置を怠ったから、安全配慮義務違反がある。

(Xの責任)
Xにも、
①クレーン運転者の基本的な注意義務として、アウトリガー設置に際して地盤の状態を慎重に点検し、軟弱であると疑われれば鉄板を敷くなどの措置を行う義務がある
②クレーン操縦者としての基本的な注意義務として、つり荷の荷重を正確に確認しながら安全に作業すべき義務がある。

上記義務違反の有無について

①→なんら点検せず、漫然とアウトリガーを設置した。
②→Xは普段から荷重計を確認せず、自己の勘に頼って作業をしていた。

本件事故時も、自己の勘だけに頼っていた。

本件事故直前に作業が2回うまくいっていたところ、3回目の作業時に、つり荷が持ち上がらなかった。

Xはここで第一に荷重計を確認すべきであった。

それにもかかわらず、Xは確認を怠り、先ほどのとおり吊り上げて下げられると漫然と判断した結果、クレーンは横転した。

(結論)
Xは基本的な上記注意義務を怠った過失が認められることから、Xにも60パーセントの過失割合が認められるというべきである。

解説

本件では、被災者に6割もの過失割合が認められています。

それは、上記のとおり、Yらにも、指揮監督者として、作業が安全に遂行できるように監督する義務が認められるものの、クレーンの運転者が基本的な注意義務を怠った過失が重視されているためです。

つまり、全般的な指揮監督に当たる会社側の注意義務も重要です。

もっとも、そもそも重機を直接扱う者にも、当然、注意義務が課されます。

そして、その基本的な注意義務さえ遂行されていれば、本件のような事故は十分に回避できたと考えられ、また、それは容易なことだったといえる場合は、被災者には、会社よりむしろ大きな割合で過失が認められることになります。

このように、直接重機を扱う方は、その重機の操作に対し非常に大きな責任を負っていることを改めて確認してください。

上記のような操作者としての基本的な注意を怠ったことによる事故の場合、自分で大きな責任を負わなければならない可能性があります。

もっとも、本件でもそうですが、会社側の注意義務が万全であれば事故を防げたといえる場合も多くあるでしょう。全てを自己の責任とする必要はありません。

一度、弁護士にご相談下さい。

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