雇用主への損害賠償請求7 ~工場敷地内での交通事故~ (神戸地裁平成7年7月31日判決)

事案の概要

Xは、帰宅のため原動機付自転車で工場敷地内を走行していたところ、勤務先会社Yの従業員Aが運転するフォークリフトの積荷であるエキスパン床板の先端に顔面を衝突させて負傷する事故が発生した。これによって、Xは、顔面挫創、左頬骨鼻骨開放性骨折、左眼窩内開放性骨折等の傷害を負った。
Xは、Y社に対して、損害賠償請求訴訟を提起した。

 

<争点>
Yの責任及びX責任の有無とその程度。

 

判決の内容

(事故態様)
本件事故は、午後7時10分頃、Aが、フォークリフトの爪の部分でトラックから積み荷の床板(幅約3.6メートル、奥行き約2メートル)を持ち上げ、その状態で90度左方に旋回しながら後進した後、工場に前進して搬入するため一旦停止した直後、原動機付自転車に乗ったXが床板に衝突して発生した。

(Yの責任)
前提となる事実
①本件事故が発生した時間帯は、残業を終えたY従業員の帰宅時間帯であった。
②本件事故発生地点は、工場に一か所ある出入口に通ずる一般通路であって、Y従業員は、フォークリフトが作業していた左右いずれかの地点を通行しなければならなかった。
③本件事故発生直前から夕立が降りだしており、事故発生当時にはかなりの降雨があった。
④付近には電灯等の照明がないため、かなり暗くて見通しの悪い状況にあった。
⑤Aは本件フォークリフトのライトを点灯せずに作業をしていた。
⑥フォークリフトの車体幅は約1.2メートルであるのに対し、本件事故発生当時の積み荷である鋼材の幅は約3.6メートルで、車両本体より左右にそれぞれ1メートル以上はみ出していた
⑦鋼材の高さは20センチメートル弱に過ぎず、遠方から確認しづらいものであった。

具体的注意義務
以上の事実によれば、上記のような状況で作業を実施する場合には、Aとしても、ライトを点灯して現場付近を見やすくするか、Y従業員の全ての帰宅を待って開始すべきであった。
しかし、Aはこれらの義務を怠ったため、Y社には損害賠償責任がある。

(Xの責任)
具体的注意義務違反の内容
Xにおいても、原動機付自転車を運転するに際し、前方を注視していれば、フォークリフト及び積み荷の状況を発見して、進路を変更するとか、ブレーキをかけて停止するなどして本件交通事故を回避しえた。
しかし、漫然と進行した結果、本件フォークリフトの積み荷の右端に衝突したものと認められる。

したがって、Xには、前方不注視の過失があったものと推認される。

(結論)
Xの過失と、本件交通事故の態様、特に薄暗がりの状況でしかも降雨により見通しの悪い状況でライトを点灯せずに作業をしていたAの過失を比較勘案すると、Xの過失割合は40パーセントと解するのが相当である。

解説

本件では、被災者に4割の過失割合が認められています。  フォークリフトは一時的であるとしても停止していたことからすれば、フォークリフトに突っ込んだXの側にもっと過失が認められていてもおかしくありません。  しかし、上記(Yの責任)で挙げられた①から⑦の事実の下では、フォークリフト側でより注意していれば、事故を防げた可能性が高いと考えられ、フォークリフト側に大きな割合が認められました。但し、工場内であることから作業中のフォークリフト等がいることなどを原動付自転車の運転者も想定できるでしょうから、降雨などで見通しが悪い状況であれば、原動機付自転車の運転者も前方を注視する義務がより高まるといえるでしょう。本件事故の発生原因についてはお互い様のように思えます。
本件は、工場内の交通事故についての事案ですが、敷地内での事故についても、注意しなければなりません。慣れ親しんでいる敷地内だからといって注意を緩慢にしていると、大きな事故に繋がります。
また、本件とは直接関係しませんが、敷地内での車両の通行について、規則が厳格にある場合、その規制を守っていないことで事故が発生した側には、その運転者には大きな責任が認められ易いでしょう。敷地内での通行区分制限や、速度規制、一旦停止義務など、わずらわしくも思える規制も、しっかり守って事故を防ぐことが重要です。
なお、弁護士法人みずきでは、交通事故案件も多数扱っており、経験豊富です。
本件のような工場内での交通事故も対応できます。事故に遭われた方はぜひご相談下さい。