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裁判例: 8級

交通事故
外貌醜状
顔(目・耳・鼻・口)

損害拡大防止義務と外貌醜状等の逸失利益に関する裁判【後遺障害併合8級】(横浜地裁平成29年12月4日判決)

事案の概要

ハーフヘルメットを着用して原付バイクを運転していた20歳男性のXが、交差点で停止している先行車の左側を通過した際、対向車線から交差点を右折してきたY運転乗用車と衝突し、上顎骨骨折、顔面挫傷、口唇裂傷、多発歯牙欠損等の傷害を負い、後遺障害が残存したため、Yに対して損害賠償を求めた事案。

Xは、自賠責保険から、顔面部の外貌醜状につき9号16号、歯牙障害につき12級3号に当たるとして、併合8級の後遺障害認定を受けた。

<争点>

1 Xが着用していたのがハーフヘルメットであったことが損害を拡大させたといえるか
2 外貌醜状及び歯牙障害の後遺障害に逸失利益が認められるか

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 674万9290円 458万5238円
付添看護費 48万7500円 12万3500円
入院雑費 2万8500円 2万8500円
通院交通費 10万5630円 8万5730円
休業損害 197万0000円 172万2600円
逸失利益 4191万9326円 0円
入通院慰謝料 238万4666円 220万0000円
後遺障害慰謝料 830万0000円 1030万0000円
慰謝料増額 213万6933円 0円
将来治療費 310万4517円 54万6121円
小計 6718万6362円 1959万1689円
過失相殺(40%) ▲783万6675円
既払金 ▲839万6072円 ▲839万6072円
弁護士費用 453万5301円 35万0000円
合計 4988万8319円 370万8491円

<判断のポイント>

(1)被害者側の損害拡大防止義務について

損害拡大防止義務とは、損害軽減義務ともいい、交通事故の被害者側が負う、発生する損害をむやみに拡大させない義務のことをいいます。

この義務は、被害者が、ある行動を取っていれば、損害の拡大を容易に防止できたにもかかわらず、その行動を取らなかったことで損害が拡大した場合は、拡大した分の損害は被害者が負担すべき、という考え方に基づくものです。

法律に規定されているものではありませんが、当事者間の損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨から認められるものであり、実際の裁判例でも、被害者側の損害拡大防止義務について判断したものが多数存在します。

損害拡大防止義務違反の例として、医療機関への通院手段として、電車などの公共交通機関が利用可能であり、傷害の程度からも利用することに特段支障がなかったにもかかわらず、毎回の通院にタクシーを利用したという場合が考えられます。

この場合、タクシー代と電車代との差額分は、被害者があえて損害を拡大させたものとして、裁判でも、被害者が負担すべきと判断される可能性があります。

また、損害拡大防止義務違反は、乗用車の運転手がシートベルトの不着用が原因で大怪我をした場合など、事故当時に、被害者側に損害拡大の原因が存在した場合にも認められることがあります。

その場合は、その原因を考慮して過失割合を修正することで調整され、本件の事案でも、過失割合の判断においてこれが問題となりました。

(2)本件について

本件のような、交差点における直進のバイク対右折の四輪車の事故の場合、事故態様別に過失割合が掲載されている、別冊判例タイムズ第38号という書籍では、バイク15%:四輪車85%が基本的な過失割合とされています。

しかし、本件の事案では、裁判所は、Xが事故当時着用していたヘルメットが、フルフェイスタイプではなく、ハーフタイプのものであったことが、Xが顔面や歯牙を負傷し、損害が拡大したことの大きな原因の1つとなったとして、過失割合をX 40%:Y 60%と、Xに不利に修正して認定しました。

主に頭頂部からこめかみ付近までが保護範囲となるハーフタイプのヘルメットは、これを着用していれば、道路交通法上は、ヘルメットの着用義務違反にはならないのですが、確かに顔面部まで覆うフルフェイスのヘルメットよりも頭部を保護する範囲が限定されており、顔面部は無防備な状態となってしまいます。

とはいえ、ハーフヘルメットも一定の頭部の保護機能を備えているのであり、バイク事故によって頭部を負傷した場合でも、ハーフヘルメットの着用が必ずしも被害者の損害拡大義務違反に直結するものとはいえません。

この裁判例の約1か月後に出された京都地裁平成30年1月11日判決では、本件と同様ハーフヘルメット着用の被害者が、事故によって側頭部を打ちつけて、脳挫傷や急性硬膜下出血等の傷害を負った事案について、被害者にフルフェイスヘルメットを着用する義務があったとまでは認められないとして、ハーフヘルメット着用による損害拡大義務違反を否認しました。

(3)外貌醜状及び歯牙障害の後遺障害逸失利益について

顔面部に傷跡が残る外貌醜状や、歯が欠ける・失われる歯牙障害などの後遺障害は、一般的に、モデルや料理人など外貌や食感等が重要になる職業でない限り、労働能力への影響に乏しい後遺障害と捉えられています。

そのため、仕事への影響によって生じる逸失利益損害が認められるかどうかについて、当事者間で頻繁に争いが生じます。

まとめ

本件で裁判所は、Xの主な仕事が、木箱等の梱包作製であり、顧客との交渉等が必要となる部分があるとしても、外貌や歯牙の後遺障害が仕事の内容や収入に直接影響する職種ではないことや、事故後に転職をして、収入が増加していることなどから、労働能力の喪失による逸失利益損害の発生は認められないと判断しました。

しかし、後遺障害等級が認定されるような顔面部の醜状は、対人関係において、その人の印象に影響を与えることは否定できず、本人が仕事相手との人間関係を構築するのに萎縮してしまうなど、仕事そのものがうまくいかなくなる可能性は十分にあります。

また、Xは事故当時20歳と若く、将来、転職して営業職に就く道を選びたいと考えたとしても、醜状が足かせとなって、職業選択の自由が制限されてしまいます。

この点について、さいたま地裁平成27年4月16日判決は、事故当時39歳であった貨物自動車の運転手である被害者の外貌醜状の逸失利益について、「男性においても外貌醜状をもって後遺障害とする制度が確立された以上,職業のいかんを問わず,外貌醜状があるときは,原則として当該後遺障害等級に相応する労働能力の喪失があるというのが相当」と判断しています。

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産道狭窄と逸失利益【後遺障害併合8級】(大阪地判平成17年1月31日)

事案の概要

車道を自転車走行中だったX(19歳・女性)は、すぐ横を通り過ぎようとした路線バスと接触し転倒。骨盤骨折等の傷害を負ったため、同バスの運行会社であるYらに対して、損害賠償の請求に及んだ。

<争点>

①Xに過失相殺されるだけの不注意があるか
②Xの後遺障害は何級か?
ⅰ)労働能力喪失率は何%か?
ⅱ)後遺障害慰謝料はいくらか?

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 209万8640円 199万9820円
付添看護費 109万8500円 109万5500円
交通費 38万7000円 4万1650円
消耗品費 36万2320円 36万2320円
休業損害 1003万8525円 497万9529円
逸失利益 5720万2846円 2586万2503円
将来分消耗品費 279万4298円 266万1229円
入通院慰謝料 280万0000円 280万0000円
後遺障害慰謝料 2000万0000円 1200万0000円
入院雑費 21万7100円 21万7100円
物損 1万0000円 1万0000円
損害のてん補 ▲936万5035円 ▲936万5035円
弁護士費用 900万0000円 400万0000円

<判断のポイント>

(1)Xに過失相殺されるだけの不注意があるか

①Xに過失相殺されるだけの不注意があるか  本件事故は、車道を走行する自転車と路線バスが接触して、自転車が転倒したものです。

この点、Y側からは「Xがふらついて勝手にぶつかってきた」「路側帯ではなく車道を走っているのが悪い」等の主張がされ、過失相殺がなされるか争われました。

裁判所は、刑事事件の記録上、Yの運転手が事故の原因を「自転車を追い抜いて行くことが分かっていながら、…対向車の動きにばかり気がいってしまい、相手の自転車に全然注意しなかったこと、それに、相手は私の車が追い越すときは、当然除けてくれるものと思って進んでしまったこと」と供述していることから、Y側に重大な不注意があったと判断しました。他方で、Xは自転車で走行をしていただけであるため、過失相殺は認められませんでした。

自転車は、道路交通法上は軽車両として車両に含んで扱われています。

そして車両は、路側帯と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならないと定められています。Y側は「路側帯を走らなければならなかった」と主張していますが、自転車が車道を走行することは法律上問題ありません。

もっとも、軽車両は自動車等に比べて走行速度が遅いため、車道を走行する際には左端に寄って走行し、追いつかれた際には適切な避譲措置をとることが求められます。

本件では、Xは路側帯寄りを走行していたため、特段過失相殺となるような不注意は認定されませんでした。

(2)Xの後遺障害は何級か?

Xは、本件事故によって身体の各部に傷害を負い、以下のような後遺障害が残存したと主張しました。

(1)人工肛門装着による身体の各所の痛み、全身の疲労感(後遺障害5級3号)
(2)骨盤骨変形(後遺障害12級5号)
(3)骨盤骨変形による通常分娩の困難性(後遺障害9級16号)
(4)外貌の醜状(後遺障害7級12号)
(5)右下肢の短縮(後遺障害13級8号)
(6)頭痛、右手痺れ感等(12級12号)

これらのうち、(1)、(2)、(5)、(6)については、裁判所はXの人工肛門による弊害や実際の就労状況等を詳細に認定した上で、それぞれ9級11号、12級5号、14級12号に該当すると認定しました。((5)については、(2)で評価されていると判断しました。)

また、(3)については、骨盤骨が変形し、それによって賛同が競作し、通常分娩が困難な状況となっていることを認定しながらも、労働能力には影響しないため逸失利益の算定には考慮しないとし、具体的に後遺障害何級に該当する、という判断はしませんでした。

(4)について、Xは人工肛門になってしまったこと及び背部や大腿部に小さな瘢痕があることを主張していましたが、人工肛門自体は外貌醜状とはいえないし、瘢痕も大きさが規定に達しないことから、後遺障害には該当しないと判断しましたが、慰謝料の算定に考慮するとしました。

以上から、裁判所はXの後遺障害を併合8級と判断し、労働能力喪失率は45%と認定しました。

しかし、裁判所は「女性でありながら生涯にわたり人工肛門を装着しなければならないこと、骨盤骨の変形によって産道が狭窄し、通常分娩が困難な状況にあるといえること、腹部や大腿部などに複数の醜状痕をのこしていること」などから、後遺障害慰謝料は8級の基準額である830万円を大きく超える1200万円を認定しました。

まとめ

昨今、自転車の交通ルールについて厳罰化が進められ、それに伴い自転車側に過失があるという主張は以前より強まっているように感じます。

本件事故は平成9年のものなので、厳罰化傾向となる前ですが、現在の道路交通法に照らしても、Xには特に過失相殺すべき不注意は認められないでしょう。

自転車は歩行者よりも高速度かつ制動困難であり、自動車に比べればはるかに脆弱なので、交通ルールをしっかり守って、万が一に備えることが重要といえます。

なお、上述のとおり自転車を含む軽車両は、歩道と車道が区別してある場合には原則として車道を走行しなければなりません。

しかし、歩行者の通行を著しく妨げない限り道路左側の路側帯を通行することもできますし、車道を走行することが危険である場合には歩道を走行することもできます。

自動車や歩行者の妨害にならないように、臨機応変な運行が求められますが、なによりも優先すべきは、自身や他人の安全ということですね。

本事案で注目すべきところは、後遺障害の認定の仕方です。一般的には後遺障害の認定がされた場合、その認定された等級にあわせた後遺障害慰謝料と逸失利益が認められます。

これらは、各等級である程度の基準化がなされています。例えば、後遺障害8級の場合には、慰謝料は830万円、逸失利益の算定の基となる労働能力喪失率は45%となります。

もっとも、残存障害によって肉体的精神的に受ける損害と、労働に関して生じる支障は必ずしもリンクしないこともあります。

例えば、外貌醜状であれば、精神的には大きなダメージを受けるでしょうが、顔に傷痕が残ることは必ずしもお仕事上の支障や収入減にはつながらないでしょう。

そうすると、「後遺障害が何級か?」ということと、「後遺障害慰謝料がいくらか?」及び「逸失利益はいくらになるか?」ということは、論理必然性がないことになります。

そこで本裁判例では、まずXに残存している症状をひとつひとつ認定した上で、それが労働能力に影響を与えているかを検討しています。

その意味では、骨盤骨変形による通常分娩の困難性や、人工肛門装着等は、労働能力には影響しないとしています。

しかし、それらの症状が残存しているのは確かであるため、これらが与える精神的損害は確かに存在するとして、後遺障害慰謝料を後遺障害8級どころか、6級をも上回る1200万円もの金額を認めています。

これは、非常に合理的な認定のされ方のように思われます。特に本件のように負傷部位が多く、様々な症状が残存しているような事案においては、それらを一律に「後遺障害」という言葉で論じていては、具体的で妥当な解決には結びつきません。

重要なのは、その症状が仕事にどのような影響を与えるか?ということと、その症状が精神や肉体にどのような影響を与えているか?ということです。

これらを裁判所に適切に認めてもらうには、地道な立証作業が必要です。

傷害部位や残存症状が多い場合には、是非とも弁護士にご相談ください。

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