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裁判例: 4級

交通事故
下肢

義足の一般的な水準【後遺障害併合4級】(福岡地判小倉支部平成25年5月31日)

事案の概要

Yが追い越し禁止場所であるトンネル内部で、先行する大型貨物自動車をその右側から追い抜こうと加速し対向車線に進出したところ、同対向車線を走行してきたX1と衝突。

X1は右大腿骨幹部開放骨折、右下腿骨幹部開放骨折、右上腕骨顆上部粉砕骨折等の傷害を負い、右大腿切断処置等を受けた結果、右大腿以下を喪い、その他の障害も残存したため、X1がその賠償をYに請求した。

また、X1の妻であるX2も、X1の障害につき固有の損害を請求した。

<主な争点>

①X1の事故と因果関係ある損害範囲はどこまでか?
②X2には、事故と因果関係の有る損害が認められるか?

<主張及び認定>

X1の損害

主張 認定
治療関係費 404万2572円 392万6462円
症状固定前の装具代 158万4159円 158万4159円
入院雑費 30万1500円 30万1500円
付添人交通費 18万1866円 18万1866円
通院交通費 9万6690円 9万6690円
付添介護費用(入院中) 140万7000円 140万7000円
付添介護費用(通院中) 318万4000円 131万3400円
将来の付添介護費用 5698万4607円 569万1372円
義足(日常用) 3539万5587円 587万5900円
義足(作業用) 1156万7930円 0円
義足(運動用) 1196万5836円 0円
右手指義手 366万2009円 46万7784円
車いす 106万5823円 66万6600円
入浴補助用具 31万1125円 4万3641円
四輪車改造費用 38万8010円 33万9866円
三輪バイク(通勤用) 144万7968円 188万0288円
三輪バイク(ツーリング用) 702万357円 0円
家屋改造費 655万6278円 655万6278円
将来家屋立替費用 6553万7679円 0円
休業損害、傷病逸失利益 615万0976円 68万0364円
給与逸失利益 1億0201万3577円 7474万8742円
退職金逸失利益 569万4480円 0円
傷害慰謝料 410万0000円 379万0000円
後遺障害慰謝料 2300万0000円 2388万0000円
既払金控除後元本 3億4795万8763円 1億2772万7433円
弁護士費用 3067万0000円 1277万0000円
合計 3億4860万8434円 1億4049万7433円

X2の損害

主張 認定
休業損害 105万3318円 0円
固有慰謝料 300万0000円 0円
弁護士費用 40万0000円 0円

<判断のポイント>

①X1の損害と因果関係

本件でX1は様々な費目の損害を請求していますが、中には0円と認定されているものがあります。

これは、本件事故と因果関係が認められない損害と認定されたということです。

損害賠償は、事故をきっかけに生じた損害なら何でも補償がなされるわけではありません。

そのような事故によって通常生じる損害であると法的に認められて初めて補償を受けることが出来ます。

この考え方を「相当因果関係」といいます。

例えば本件ではX1は日常用の義足の他に、作業用や運動用の義足費用についても請求しています。

この点について裁判所は「複数の義足を用いることでより快適になることは否定されないが、性能が良く汎用性の高い義足及び車いすの併用の範囲を超えて、本件事故との相当因果関係内にある損害と認めること出来ない」と判断しています。

これはツーリング用の三輪バイクについても同様の判断がなされています。

また、日常用の義足についても、実際にX1が使用しているものは300万円以上する高性能なものでしたが、裁判所はそのような高性能なものが必要であるとはいえないとし、一般的な水準として100万円の範囲で認め、これを基準として将来の交換費用等を産出しました。

②X2の損害と因果関係

本件では、事故には直接遭っていない妻のX2も損害賠償請求をしています。

X2の主張としては、「X1の介護のために休業したためその補償を求める」「配偶者であるX1が重傷を負ったことからX2も精神的損害を負ったため、賠償を求める」というのが大筋です。

この点、裁判所は前者についてはX1の損害として「付添い介護費用を認めており、重ねて休業損害を認めることはできない」と否定しました。

また、精神的損害についても「X1の症状、生活状況、X2が平成23年8月にX1と離婚していること等を考慮すれば」慰謝料は認められないとしました。

配偶者や子どもなどは、近親者が死亡した場合に固有の慰謝料が認められます。

これは必ずしも死亡に限らず、死亡に匹敵するような場合(植物状態等)にも近親者固有の慰謝料が認められる可能性があります。

しかし本件では、X1は重傷とはいえ仕事にも復帰できていることや、その後のX2との生活状況からすると、「近親者の死亡」に匹敵するほどの精神的損害がある場合ではないと判断されました。

まとめ

本件は、損害費目をかなり細かくかつ多様に請求している点が特徴です。

民事損害賠償は「損害の公平な分担」という理念があるので、事故をきっかけにかかった費用なら全てが認定されるというわけではないのが、法律の現状です。

本件では、義足について「一般的な水準」というもので、仮定的な算定がされています。

もっとも、全てにおいてこの「一般的な水準」が妥当するとも限りません。

義足の美観目的費用(機能的には変わらないが、見た目を実際の脚に近づけるための費用)につき争われた事案で「不法行為における賠償の対象となる財産的損害とは、不法行為前の状態と不法行為後の現実の状態との差を財産的に評価したものと解される」としたうえで、「本件事故がなければ有したであろう状態と比較して、控訴人の精神的苦痛の点を捨象しても上記義足等の代金相当額を下回らない差が存することは明らかといわなければならない」として、認めた裁判例があります(福岡高判平成17年8月9日)。

損害賠償は「損害の公平な分担」と同時に、「原状回復」をも目的としていることからすれば、下肢を喪失したという不可逆の事実に対して、「一般的な義足で良いだろう」というのはいささか乱暴な議論にも思えます。十全な脚の代わりというものは、現在のテクノロジーでも未だ不可能であることからすれば、可能なかぎり快適な義足を求めたいのは当然の願いだと思います。この線引きをどこにするかというのが、難しいところです。

結局のところ、事故による症状と、その不都合性、解消の必要性などを、事案に応じてひとつひとつ主張立証していくしかないと思われます。

なお、義足の点については、「この先テクノロジーが進歩した結果、安くなるかもしれない」という点と、「この先テクノロジーが進歩した結果、より良いものが(高額だが)手に入るようになるかもしれない」というような不確定要素もあります。

これらの点も、将来義足費用の部分の賠償額にかかわってくることがあります。

このように、多岐にわたる論点がありうるので、専門家と相談の上、適切な賠償請求をする必要があります。

ぜひご相談ください。

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交通事故
神経・精神
顔(目・耳・鼻・口)

事故と早産の影響【後遺障害4級相当】(東京地判平成4年11月13日)

事案の概要

Yは2トン車両で制限速度時速40キロメートルの道路を、時速約50キロメートルで走行中に前方不注意により被害車両に追突した。被害車両は追突の衝撃でさらに前方車両へ衝突し、玉突き事故となった。

なお、被害車両にはAが乗車しており、AはXを身ごもっていた。

事故から約2ヵ月後に、AはXを妊娠7ヶ月で出産したが、Xは難聴及び精神発達遅滞等の障害を有していた。

Xは同障害を事故によるものであるとして、Yに損害賠償の請求をした。

<争点>
・Xの障害が、本件事故によって発生したものといえるか
・Xの労働能力喪失率はどの程度か

<主張及び認定>

主張 認定
逸失利益 2724万7631円 1777万1372円
後遺障害慰謝料 1373万0000円 600万0000円

<判断のポイント>

(1)Xの障害が、本件事故によって発生したものといえるか

本件は、事故時に胎児だったXが、障害をもって産まれたことで、同障害は事故によって生じたものであるという主張がなされ、裁判所はこれを認めました。

事故の加害者に対する損害賠償請求が認められるためには、その損害が事故によって発生したものであるという因果関係の立証が必要になります。

そしてこの因果関係の立証は、事故から時間が経てば経つほど難しくなるのが通常です。

本件では、
①事故によって、早産となった
②早産によって、障害が生じた

という二つの因果関係を立証することによって、障害の発生と事故との因果関係を結びつけることに成功しました。

①事故によって、早産となったこと
本件では、Xは妊娠7ヶ月で誕生しており、これは明らかに早産であるといえます。

したがって問題は、この早産が事故の影響によるものといえるかどうかという点です。

本件では、まず、事故前には母子ともに健康で、特段の異常はないことが確認されています。

そのような状況の中、2トン車が時速50キロメートルで追突をし、かつ玉突き事故になっているという本件事故状況からすると、Aには相当強度な衝撃が加わったと裁判所は推察しました。

また、Aは、本件事故前は健康であったにもかかわらず、本件事故後に性器出血、腹部の緊張、下腹部痛等の異常が出現していました。これらの異常は一時的におさまるも、結局事故から2ヵ月後、Xは妊娠7ヶ月で産まれるに至っています。

これらの事実からすれば、Xの早産は、本件事故による母体Aへの衝撃が影響しているといえ、Xは本件事故によって、早産となったと認定されました。

②早産によって、障害が生じたこと
Xの障害は、聴覚障害、言語発達遅滞及び精神発達遅滞です。

これらの障害について、脳や鼓膜に器質的損傷はなく、事故の衝撃で直接Xが怪我を負った、障害が発生したと考えるのは、難しいところです。

しかし、X及びAの診察をした医師らは、「未熟児が感音性難聴になる比率はきわめて高い」「低体重出生の場合、先天性難聴の発症が普通の10倍になる」ことに加え、Xが仮死状態であったことから「仮死状態での出産は脳の酸素欠乏状態が継続することにより高度難聴や精神運動発達遅滞となる確率が高い」と意見を述べました。

これらの意見によれば、Xの障害は、未成熟児として仮死状態での早産が原因であるとは、医学上いえそうだということになります。

裁判所は、上記①及び②を認定することによって、Xに生じた障害はつまるところ事故によって発生したものであるという、因果関係を肯定しました。

(2)Xの労働能力喪失率はどの程度か

Xに事故による障害が残存し、これが治癒の見込がないのであれば、通常の交通事故受傷と同様に、後遺障害の判断をすることになります。

本件では、Xは生まれながらに障害を負うこととなり、聴力は全周波数域で80デシベル以上の損失であり、知能指数は3歳11ヶ月の時点でIQは60~69程度となっている。

これらの症状について、裁判所は後遺障害等級の4級に相当すると判断しました。

ここで問題となるのは、Xの労働能力喪失率です。

成人が後遺障害を負った場合には、その時点から労働能力の喪失が認められ、将来得られるはずだった賃金について逸失利益が生じます。

しかし、本件ではXは未だ3歳11ヶ月であり、実際に(年齢的に)労働に従事することができるようになるまでには、かなりの期間を要します。

したがって、必ずしも現在時点での障害の程度が、将来の労働に影響するとはいえないことになるのです。

本件で裁判所は、「難聴自体には改善の可能性はほとんどみられない」としつつ、「比較的早期の時点から、難聴や精神発達遅滞の用事・自動のための専門的施設で教育・訓練を受けていることが認められることから、その将来の労働に従事する年齢に達した際の労働能力の低下やこれに伴う収入減については、通常人に比して60パーセントが減じられたものとみるのが相当」と認定し、労働能力喪失率を60%と判断しました。

通常、自賠責保険においては、後遺障害4級であれば92%もの労働能力喪失が規定されています。しかし本件では労働可能年齢になるまでに相当の訓練をすることが可能である点から、労働能力喪失率が再検討されたものです。

まとめ

日本の民法上、権利の主体となるためには、原則として出生することが求められます。

つまり、胎児の状態では、どのような障害が生じたとしても、胎児からの損害賠償請求はできないのです。

他方で、事故から時を経て出生してからの請求では、因果関係の判断がぼやけてしまうという難点があります。

事故の衝撃で直接頭蓋骨が割れた、等であれば因果関係の判断はしやすいですが、そうでないとすると「果たして事故の影響なのか」という点の立証は簡単ではありません。

本件では、直接事故の衝撃で障害が生じた、という認定ではなく、事故の衝撃で早産となり、早産となった影響で障害が生じた、という認定がなされています。

このような細かい分析によって、事故との因果関係の立証に成功しているのです。

胎児の問題に限らず、「事故によるものといえるかどうか」という問題は多くあります。

さまざまな要素が絡む難しい問題ではありますが、詳細な分析のもとに主張を組み立てることで認定を受けることができる場合もあります。

本判例は、労働能力喪失率の認定の点では、被害者側としては釈然としない認定ともいえますが、因果関係判断については詳細な分析をした好例といえるでしょう。

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