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裁判例: 3級

交通事故
神経・精神
顔(目・耳・鼻・口)
高次脳機能障害

後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めた裁判例【後遺障害3級3号】(札幌高裁 平成30年6月29日判決)

事案の概要

4歳の男児X1が、市道を歩行横断中、Yの運転する大型貨物車に衝突され、脳挫傷、びまん性軸索損傷等の傷害を負い、症状固定後も残存した高次脳機能障害につき、後遺障害等級3級3号が認定された。

その後、X1とその両親X2及びX3は、Yに対して、将来介護費と後遺障害逸失利益については定期金賠償を求める形で、損害賠償請求訴訟を提起した。

<主な争点>

後遺障害の逸失利益の支払方法について、定期金賠償が認められるか

<本事案の経過>

(1)当事者の主張と第一審判決
本件では、X1が3級3号という重度の高次脳機能障害により、将来において単独で日常生活を送ることは到底不可能であるとして、将来介護費の定期金賠償を求めました。

また、本件事故によって労働能力が100%喪失したとして、男子学歴計全年齢の平均賃金を基礎収入として、18歳から67歳までの49年間にわたり、月1回の定期金賠償を命じる判決を求めました。

これに対しては、Yが、定期金賠償を求めている点を含め、逸失利益自体を争ったところ、第一審である札幌地裁(平成29年6月23日判決)は、判決において、X1の高次脳機能障害について、将来において完全に自立した生活を送ることができる見込みがないと認定したうえで、X1は本件事故により労働能力を完全に喪失したと認めました。

そしてそのうえで、逸失利益の定期金賠償の可否についても、X側が求めるとおりの算定方法により計算した金額の月1回の定期金賠償を認める判断を行いました。

(2)控訴審判決
控訴審判決も、第一審判決同様に、後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めました。

同判決は、その理由として、

①実務上定期金賠償が一般的に認められている将来介護費と比較した場合、事故発生時にその損害が一定の内容のものとして発生しているという点や、将来の時間的経過によって請求権が具体化するという点で、後遺障害逸失利益も共通していること

②定期金賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えについて規定する民訴法117条も、後遺障害逸失利益について、定期金賠償が命じられる可能性があることを前提にしていること

③本件におけるX1の後遺障害逸失利益については、将来の事情変更の可能性が比較的高いものと考えられること

④被害者側が定期金賠償によることを強く求めていること

⑤④が、後遺障害や賃金水準の変化への対応可能性といった定期金賠償の特質を踏まえた正当な理由によるものであること

⑥将来介護費について長期の定期金賠償が認められている以上、本件において後遺障害逸失利益について定期金賠償を認めても、Y側の損害賠償債務の支払管理等において特に過重な負担にはならないと考えられることを挙げました。

まとめ

(1)定期金賠償
定期金賠償とは、交通事故によって発生した損害の賠償方法のひとつで、その損害を一括ではなく分割して、将来にわたって定期的に賠償をする方法です。

定期金賠償は、損害の性質上、交通事故の場合に多くみられる一括払いの方法(一時金賠償)では不都合が生じると考えられる場合に用いられる方法で、たとえば、本件でも認められているように、一生涯にわたって他者による介護を要するような重度の障害を負ってしまった場合の将来介護費などは、現実にいつまで必要となるかが分からないので、「被害者が死亡するまで」、という不確定期間の定期金で支払が行われることが多いです。

定期金賠償については、色々なメリット・デメリットがあるのですが、この点についてもう少し詳細が知りたいという方は、当サイトの「定期金賠償のメリットデメリットを解説!一時金賠償方式との違いとは?」のコラムをご覧ください。

(2)本件について
本件では、第一審判決、控訴審判決のいずれも、後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めました。

将来介護費については、定期金賠償での請求方法が確立されているため、これを請求する場合、そのほとんどが定期金賠償の方法で行われていますが、これに対して、後遺障害逸失利益については、基本的に一時金賠償で請求されているため、後遺障害逸失利益の定期金賠償の可否について問題になることはありませんでした。

もっとも、上記①で指摘されているように、後遺障害逸失利益も、将来介護費と同様に、事故の時点で一定の内容として発生し、将来において具体化する損害という点で共通していますので、本来は、一時金賠償よりも定期金賠償になじむものといえます。

それにもかかわらず、後遺障害逸失利益については一時金賠償で請求されることが多いのは、第一審判決で指摘されている、適切な金額の算定が可能であり、多くの場合、被害者側が一時金による賠償を望んでいるから、という理由に尽きます。

そのため、被害者側が望み、また、定期金賠償によることが相当といえる場合には、定期金賠償を認めても何ら問題ないと考えられます。

そして、定期金賠償の方法が相当かどうか、という点について、控訴審判決は、上記③~⑥の事情を総合的に考慮して、これを認めたのです。

一時金賠償は、短期間にまとまった金額が得られるという意味でのメリットは大きいものの、中間利息控除によって、定期金賠償よりも得られる総額が少なくなる可能性があるというデメリットもあるため、どちらの方法も選択できるというのは、被害者にとって望ましいことといえるでしょう。

本事案は、後遺障害逸失利益についても定期金賠償が可能であるということを明確にしたという点で、大きな意義があるものといえます。

損害賠償の請求において、どのような方法をとることができるのか、そして、被害者の方にとってどの方法が一番望ましいか、具体的な事情に応じてそれを提案するのも、弁護士の役割であるといえます。

交通事故でお困りの方は、当事務所にご相談ください。

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高次脳機能障害

意識障害もなく画像所見もはっきりしない被害者につき高次脳機能障害を認めた裁判例(札幌高等裁判所平成18年5月26日判決)

高次脳機能障害とは

高次脳機能障害が争われる場合には、被害者の精神症状が脳の器質的損傷に基づくものなのか、もっぱら精神的なものが原因なのか(非器質的)が問題となります。

そもそも高次脳機能障害とは、脳の器質的損傷(身体の組織そのものに生じた損傷のことをいいます)に基づいた精神症状をいい、精神的なものを原因とする場合、高次脳機能障害は認められません。

高次脳機能障害の症状は目に見えないため、医学的に証明することが難しいと言われています。

上記のとおり、器質的損傷に基づくものといえなければ高次脳機能障害は認められません。

しかし、意識障害もなく画像所見もはっきりしない被害者において、脳の器質的損傷による高次脳機能障害を認定し、約1億1000万円の支払いを命じた裁判例があります。

この裁判例において、被害者側はどのような立証をして、裁判所はどのような認定をして高次脳機能障害を認めたのか、説明したいと思います。

事案の概要

平成9年6月14日午前10時25分ころ、中学3年生女子X(原告)がシートベルトを装着し、A運転の車の後部座席に同乗中、赤信号交差点手前で停止していたところ、後方からY(被告)運転のトラックが追突し、Xはむち打ち症を負いました。

第一審(札幌地方裁判所)では、XのMRI等の画像から、頭部外傷を疑わせる形跡が見当たらなかったことを理由に高次脳機能障害を否定したため、これを不服としたXが控訴をしました。

<争点>

Xの後遺障害(高次脳機能障害)の有無

<請求額及び認定額>

主張 認定
治療費 92万6692円 92万6692円
通院交通費 7万7600円 7万7600円
通院慰謝料 198万円 190万円
後遺障害慰謝料 1990万円 1990万円
後遺障害による逸失利益 8986万1130円 8605万9619円
弁護士費用 1213万3683円 1000万円
既払い額 ▲92万6692円 ▲93万2292円
合計 1億2395万2413円 1億1793万1619円

<争点の具体的内容>

高次脳機能障害が認められるかどうかについては、日弁連交通事故相談センターが発行している「高次脳機能障害相談マニュアル」が用いられます。

そこでの判断基準は以下のとおりです。

1.交通事故による脳の損傷があること
2.一定期間の意識障害が継続したこと
3.一定の異常な傾向が生じること

本件においても、この判断基準が用いられましたが、Xが高次脳機能障害でないとする医師も、Xに精神症状があること自体は認めていたため、「3.一定の異常な傾向が生じること」については、大きな論争の対象にはなりませんでした。

結局、本件では、むち打ち程度の軽度の外傷で脳に器質的損傷が起こりうるかどうかということであり、上記1、2をどう判断するかが問題となりました。

<Xの主張>

Xは、①各種検査において高次脳機能障害を示す検査結果が示され、学業成績も大きく下降したこと、②Xの脳機能障害は本件事故以外に見当たらないこと、③画像検査や客観的なデータに基づく検査においても高次脳機能障害が認められる結果が出ていること、④鑑定結果は、「MRS検査が信頼できるとすると、責任病巣は前頭葉白質である」というものであったことを理由に、脳に器質的損傷が生じたと主張しました。

<Yの主張>

これに対して、Yは、脳の器質的損傷による高次脳機能障害は認められないと反論しました。

すなわち、①上記の3要素がいずれも基準を満たしていないこと、②本件事故による衝撃は軽微であり、意識障害が継続していた記載がなく、事故後の入試の試験結果でも記憶障害は認められないこと、③事故後の初期診療で脳機能障害が疑われていないこと、④Xの症状は心因反応であること、⑤各検査でもXが高次脳機能障害であることは証明されなかったことを理由に、脳に器質的損傷は生じていないと反論しました。

<裁判所の判断>

1.判断基準の有効性

裁判所は、まず、上記の3要素の判断基準の有効性について、以下のように言及しました。

⇒「2.一定の期間の意識障害が継続したこと」の要素については、意識障害を伴わない軽微な外傷でも高次脳機能障害が起きるかどうかについては見解が分かれており、これを短期間の意識消失でもより軽い軸索損傷は起こるとする文献がある。

外傷性による高次脳機能障害は、近時においてようやく社会的認識が定着しつつあるものであり、今後もその解明が期待される分野であることからすれば、「2.一定の期間の意識障害が継続したこと」の要素は、厳格に解する必要がないものといえる。

2.Xの高次脳機能障害の有無

そして、X及びYがそれぞれ提出した、合計6人の医師の意見について以下のように言及し、Xに後遺障害等級3級3号に相当する高次脳機能障害を認めました。

⇒本件が、高次脳機能の要素を充足しているかについては、医学的見地から十分な判断ができない状況にある。

そして、専門家の間でも、Xが高次脳機能障害であるとする見解(肯定説=3人)、条件付で高次脳機能障害がないとは言い切れないとする見解(条件付肯定説=2人)、高次脳機能障害ではないとする見解(否定説=1人(Z医師))に分かれており、Z医師の弁明は到底採用できないとされました。

これは、肯定説を呈した医師2人が、Z医師自身の論文で望ましいとされている鑑定方法を実施したところ、高次脳機能障害がないとはいえないとの結論が出されたため、Z医師の見解は信用されませんでした。

そして、本件で採用するに足りる専門家の意見は、肯定説と条件付肯定説となったとして、Xの頭部外傷による脳の器質的損傷による高次脳機能障害を認めました。

まとめ

本件では、X及びYの主張、多数の医学的文献、見解の異なる多数の医師の意見などを総合判断して高次脳機能障害が認められました。

この裁判例は、意識障害もなく画像所見もはっきりしない被害者において、脳の器質的損傷による高次脳機能障害を認定しており、その後の裁判でも、この札幌高裁の裁判例自体や、この裁判で提出された医学文献が提出されています。

高次脳機能障害は立証が困難と言われており、本件のように多数の医学的文献や多数の医師の意見が必要です。

また前提として、いくつもの検査を行う必要があります。

これらを個人で行うのはかなりの負担ですし、まず何をすればいいのかわからないことが多いと思います。

高次脳機能障害が認められるかどうかお困りの際には、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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神経・精神
脊髄損傷

治療費・リフォームはどこまで認められる?【後遺障害等級3級】(東京地判平成26年12月24日)

事案の概要

X(51歳男性、自営業)は、大型自動二輪車で第2車線を直進していたところ、その前方道路において路外駐車場へ後退進入するために切り返し中だったY(被告)車両と衝突。

Xは、脊髄損傷、四肢麻痺等の傷害を負い、後遺障害等級3級3号が認定されたため、Y及びその勤務先である会社に対し、損害賠償を請求した。

<請求額及び認定額>

請求額 認定額
治療費 737万0957円 653万2343円
リハビリ費用 719万1240円 7万4340円
下肢装具費 51万9825円 35万4938円
自宅付添費 5046万2452円 1716万7504円
入院雑費 21万6000円 21万6000円
その他諸雑費 96万7889円 86万2639円
通院交通費 3416万1112円 1803万5079円
家屋改造費 1301万4605円 46万2953円
休業損害 3069万4755円 2897万8737円
逸失利益 2億2133万7678円 1億4443万5642円
入通院慰謝料 264万0000円 264万0000円
後遺傷害慰謝料 1990万0000円 1990万0000円
物的損害 500万1761円 374万0081円
過失相殺(5%) ▲1217万0014円
損害の填補 ▲2472万3850円
弁護士費用 3776万0748円 2065万0000円
合計 2億2715万6392円

<判断のポイント>

一般的に、治療費やリハビリ費用は症状固定時までしか相手方に請求することはできません。

しかし、症状固定後も治療やリハビリ等の必要性があると立証することができれば、相当といえる範囲内で将来分の費用の賠償請求が可能となります。

本件では、原告側は、原告の症状(左手指の巧緻運動障害、左下肢支持性低下、膀胱直腸障害等)の程度からすれば、症状固定後も治療やリハビリが必要だと主張して、将来分の治療費やリハビリ費用、通院交通費を請求していました。

これについて裁判所は、主治医らの「今後増悪の可能性がありアフターケアを要する」や「永久に自己導尿が必要と考える」等の診断結果から、症状固定後も、平均余命に至るまで、症状の増悪防止及び排尿管理のため、整形外科及び泌尿器科を継続的に受信する必要性・相当性が認められると判断し、整形外科及び泌尿器科への通院については将来分の治療費を認めました。そして、これに伴う範囲での、リハビリ費用や通院交通費も認容されました。

もっとも、内科や眼科など、後遺障害それ自体と直接関連しない通院については、必要性を認めませんでした。

<家屋改造費について>

脊髄損傷により四肢麻痺等になると、家屋をバリアフリーに改造する必要が生じることがあります。

本件でも、原告は階段昇降機の設置や、トイレのウォシュレット機能増設等の改造が必要だとして、これらの費用を請求していました。

もっとも、裁判所は、Xの症状の内容や程度に加え、Xが退院後も本訴訟に及ぶまでの間階段昇降機やウォシュレットが未施工であるにもかかわらず日常生活を送っていることから、自宅付添費とは別にこれらの設置の必要性はないと判断しました。(一部トイレは既に改修済みであり、この費用は認めています。)

<過失割合について>

本件は、過失割合の認定も興味深いところです。

本件事故は、路外の駐車場にバックで進入しようとしていたY車両が、切り返しの際にXが直進進行していた第2車線まで前進して塞いでしまい、衝突したという事案です。

原告側は、Yは、Y車両を幹線道路の第2車線まで前進させる際には、十分に走行車線の安全を確認すべきであり、また、そもそもそのような運転行為をしなくても十分に切り返しはできるため、Yに著しい過失があり、Yの一方的な過失であると主張しました。

対して、被告側は、Xは見通しのいい幹線道路を走行していたのであるから、Y車両と衝突するにはXの側にも脇見運転に近い前方不注視があったとし、Xに3割の過失があると主張しました。

この点裁判所は、Yは、X車両が走行してくることに気づいたにもかかわらず、切り返しを行い、Y車両を第2車線まで前進させたという過失があり、この過失は大きいとしながらも、Xとしても、ハザードランプを点灯させた状態で駐車場前の路側帯に停車していたY車両を認識していたのであるから、この動静に注意すべきであったとして、Xに5%の過失を認めました。

まとめ

非常に丁寧な事実認定を行い、一つ一つの論点に判断を下している裁判例です。

過失割合にしろ、損害額にしろ、「どのような事実があるのか」ということが大切で、これを立証できるかが鍵となります。

本件でも、主治医の診断書や意見書の記載が重要視され、それに基づく事実認定がされていますので、通院期間を通して、主治医の先生とのコミュニケーションをうまくとり、自身の症状や医師としての見解を書面に固定化してもらっておくことが肝要となります。

ひとつの事実が認められるか否かで大きく賠償額が変わってくることもあるので、重度後遺障害が見込まれる場合には、お早めに弁護士にご相談いただき、後の立証に備えていただきたく思います。

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