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裁判例: 首・腰のむちうち(捻挫)

交通事故
神経・精神
首・腰のむちうち(捻挫)

14級9号の後遺障害を認めた裁判例【後遺障害14級9号】(東京地裁 平成15年1月28日判決)

事案の概要

X(原告:58歳女性)が、普通乗用車を道路左側に寄せて停止していたところ、後方からYの運転する普通乗用車に追突され、頚椎捻挫、腰部捻挫の傷害を負い、左上肢のしびれ、左手握力低下などの後遺障害を残したとして(自賠責非該当)、後遺障害等級12級を主張して訴えを提起した。

<主な争点>

後遺障害の有無及び内容

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 102万5734円 41万5823円
通院交通費 12万0180円 3万3580円
装具代 6万3669円 6万3669円
休業損害 825万7920円 364万8003円
入通院慰謝料 185万0000円 130万0000円
後遺障害逸失利益 2213万2475円 72万5499円
通院慰謝料 113万0000円 114万円0000円
後遺障害慰謝料 483万0000円 110万0000円
小計 3755万9978円 712万6574円
既往症 ▲20%
既払金 ▲395万7806円 ▲395万7806円
合計 3911万5412円 174万3454円

<Xの主張及びYの反論>

(1)後遺障害の有無及び内容

Xは、左下腿のしびれと痛みによる歩行障害があり、頚部のMRI検査により異常所見が認められ、医師による異常所見もあることから、後遺障害等級12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当すると主張しました。

その中でXは、サーモグラフィーによる検査により、身体の痛い箇所は血流が悪いために低体温となり青色に映るが、Xにしびれが残存する部分は、サーモグラフィーの検査により青色に映っている部分と一致していることから、同症状は他覚所見によって裏付けられていると主張しています。

これに対し、Yは、本件事故の形態及び衝撃の程度等を考えると、Xの主張するような後遺障害が生じることはあり得ない、後遺障害診断書には、本人の愁訴(患者自身の症状の訴え)による自覚症状が記載されているだけで、他覚的、客観的所見は何ら記載されていない、サーモグラフィーは単に疼痛部位を示すにすぎず本件事故と因果関係を示すものではないと反論しました。

本件でXに生じた傷害は、頚椎捻挫、腰部捻挫であり、いわゆるむち打ちと言われるものです。

むち打ちは、自覚症状が残っているにもかかわらず、後遺障害が認められるかについてはよく争われるところであり、認定されるかどうかも難しい症状です。
そこで、むち打ちについて少し説明をしたいと思います。

(2)むち打ちとは

いわゆるむち打ちは、交通事故でもっとも多い症状と言っても過言ではありません。
しかし、後遺障害認定を求めるにあたり、とてもやっかいな症状であるともいえます。

そもそも、むち打ちとは、正式な医学用語ではありません。診断書に記載される傷病名としては、「頚椎捻挫」「頚部挫傷」「外傷性頚部症候群」「外傷性頭頚部症候群」「むち打ち損傷」など様々です。

一応、むち打ちの医学的説明としては、「骨折や脱臼のない頚部脊柱の軟部支持組織(靭帯・椎間板・関節包・頚部筋群の筋、筋膜)の損傷」とされるのが一般的です。

そして、むち打ちがやっかいな症状であると述べたのは、痛みやしびれなどの自覚症状があるにもかかわらず、レントゲンやMRIで異常が発見されにくいという点です。また、MRIの結果、変性所見が認められたとしても、それが交通事故によって生じたものであるとの説明がつかないと判断されることもあります。

そこで、むち打ちで後遺障害認定を求めるにあたっては、検査結果や医師の意見が重要となってきます。

(3)むち打ちで後遺障害が認められるには

むち打ちは、自賠責保険における後遺障害認定において、局部の神経系統の障害として取り扱われます。
後遺障害等級としては、

12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」

14級9号の「局部に神経症状を残すもの」

の2つがありますが、この区分が客観的に明白になっているわけではありません。

ただ、実務的には、
12級13号は、「障害の存在が医学的に証明できるもの」
14級9号は、「障害の存在が医学的に説明可能なもの」あるいは「自覚症状が故意の誇張でないと医学的に推定されるもの」
であれば認定されています。
他方、自覚症状のみで、それに対する医学的説明すらないものは後遺障害非該当となります。

12級、14級のどちらに該当するか、あるいは非該当となるかは、上で述べたように、検査結果や医師の意見に影響されることになります。具体的には、他覚所見、すなわち画像所見や神経学的所見が認められるかどうかにかかってきます。

したがって、むち打ちで後遺障害認定を求めるためには、訴えられている症状に対して、どのような検査所見が、どのように、どの程度揃っているかを慎重に評価することが重要となります。

そこで、交通事故に遭ったら、早い段階でレントゲンやMRIを撮ったり、関節可動域や筋力、反射などの測定をして、たくさんの検査所見を集めるようにしましょう。

<判断のポイント>

本件に戻って裁判所の判断を見てみます。
Xは、本件事故により頚椎捻挫、腰部捻挫などの傷害を負ったが、その後同事故を契機として、左腕のしびれ感、脱力感などの神経症が出現し、同症状は悪化と軽快を一進一退に繰り返していると認定しました。
そして、CT、MRIなどの検査によって精神、神経障害が医学的に証明しえるものとは認められないものの、Xは受傷後から一貫して疼痛を訴えていること、医師作成の後遺障害診断書があること及び受傷時の状態や治療の経過などを総合すると、その訴えは医学上説明のつくものであり、故意に誇張された訴えではないと判断できるとして、後遺障害等級14級9号を認めました。

また、裁判所は、サーモグラフィーの検査により他覚所見があるとのXの主張に対しては、サーモグラフィーは、機能的な障害による温度変化から疾患の障害領域を判断できるメリットがあるにとどまり、本件事故によって神経障害が生じていることを医学的に証明しうるものではないとしました。

確かに、画像所見であっても、サーモグラフィーの所見は多くの要因によって変動しやすいため、再現性の点で劣り、客観性は低いとの指摘があり、本件でもそのような判断がされているようです。

ただ、MRI画像など他の他覚所見と併せることによって、医学的に説明ないし証明することは可能であり、そのように判断した裁判例もあります。

本件では、サーモグラフィーの検査結果を単独で見て、症状を医学的に証明することはできないと判断されていますが、検査結果は必ずしも固定的に評価されるものではありません。どのような検査がどの程度揃っているかを評価することが重要です。

Xにしびれが残存する部分は、サーモグラフィーの検査により青色に映っている部分と一致していることから、同症状は他覚所見によって裏付けられている。

まとめ

今回は、交通事故で多く生じるむち打ちに焦点を当てましたが、一口にむち打ちといっても、適切な賠償額を得るために考えなければならないことはたくさんあります。

後遺障害認定を求めるにあたり考えなければならないことは述べましたが、この他にも、そもそも治療費や休業損害がいつまで支払われるか、必要性・相当性を欠く診療(過剰診療)ではないかなど、むち打ちは、様々な場面で様々な問題が生じうる症状です。

たかがむち打ちと思って、あまり病院に行かなかったり、具体的に症状を伝えなかったりして適切な検査を受けないと、治療費や休業損害、後遺障害慰謝料で適切な賠償額が得られないかもしれません。

交通事故に遭われましたら、適切な賠償額を得るためにも、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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入院治療期間の相当性について判断をした裁判例(東京高裁平成26年4月24日判決)

事案の概要

X1(父)、X2(母)、X3(長女)、X4(次女)の4名の乗る普通乗用車が、交差点において赤信号で停止していたところ、その後方から来たY運転のタクシーに追突され、それぞれ、頚椎挫傷、腰部挫傷の傷害を負った。

Xらは、事故後、搬送された整形外科で治療を受け、頚部や腰部の疼痛、めまい、嘔気、上肢のしびれ等が激しいなどとして、全員について入院が必要と判断された。

そのため、Xらは別の整形外科に入院をし、X1は48日間、X2は36日間、X3は28日間、X4は36日間の入院治療を行った。

その後、XらがYに対して、損害賠償請求をしたところ、Y側はXらの治療の必要性・相当性を争ったため、XらがYに対して損害賠償請求訴訟を提起した。

<主な争点>

①Xらに入院治療の必要が認められるか否か
②必要性が認められるとしても、入院治療期間として相当であったか否か

<争点のポイント>

交通事故により負傷した場合、その治療にかかった費用の賠償責任は、加害者が負い、通常の場合、加害者の加入する任意保険会社が負担してくれますが、事故の態様や程度からすると負傷をしていない、もしくは負傷していても治療が過度になされていると判断した場合には、治療費の支払を拒んでくることがあります。

また、事故後しばらくは治療費の支払を認めていても、医療機関での通院記録などを見て、もはや治療の必要がない段階(症状固定)に至っていると判断する場合には、治療費の支払いを打ち切ってきます。

そして、裁判においても、治療の必要性や相当性がないと判断される場合には、加害者の治療費の支払義務は認められません。

ただし、どの程度の治療が必要なのか、相当なのかという判断は困難を伴い、特に、一見して外傷が明らかでないむち打ち症などについて、治療として相当な範囲を明確にすることは、裁判所であっても、極めて困難であるといえます。

本件においては、以下のとおり、Xらの入院治療の必要性が認められるか否か、認められるとしてもそれらの入院治療期間は相当な範囲にあったといえるか否かが争われました。

<Y側の主張>
本件事故により生じた物的損害は極めて軽微であり、また、Xらの症状や入院期間中の頻繁な外出等の事情をも考慮すると、入院の必要性は認められず、また、認められたとしても相当な入院期間は数日程度である。

<X側の主張>
Xらの入院は、病院や担当医師が入院の必要性があると判断したことによるもので、その判断は相当であり、Xらはその指示に従っただけである。また、Xらの症状は決して軽微ではなく、入院期間中の外出についても、やむを得ない事情があった。

(1)原審(地方裁判所)の判断

Xら及びYに主張について、原審の横浜地裁相模原支部(以下、単に「横浜地裁」といいます。)は、治療のための入院が相当な長期にわたらない限り、担当医師の裁量の範囲内であり、不相当とはいえないとして、Xら全員の入院治療の必要性、入院期間の全期間について相当性を認めました。

(2)高等裁判所の判断

上記のような原審の判断に対して、東京高裁は、入院治療の必要性を認めつつも、相当な入院期間の範囲については、X1については48日中17日、X2については36日中15日、X3については28日中4日、X4については36日中7日に限定して認定しました。

この判決においては、X1について、裁判所は、原審でX1の本件事故による傷害について相当と認められる入院治療期間は、10日間との鑑定されていたこと、X1が入院期間中に合計9回の外出もしくは外泊をしていたことを前提事実として、「それぞれの外出又は外泊には一応相当の理由が認められるものの、そのような外出や外泊が可能であったことは、上記鑑定結果のとおり、入院後約10日を経過したあとは通院治療が可能な状態になっていたことを推認させるものである。」と判示しました。

そのうえで、X1の症状に関する医学的意見書の内容を考慮して、X1が別の整形外科に転院するために退院した日までの17日間について、相当な入院期間であると認定されています。

まとめ

以上のように、Xらの入院の必要性については、地裁と高裁のいずれも認めていますが、入院期間の相当性については、判断が分かれています。

(1)横浜地裁の判断について
横浜地裁は、受傷後の症状の変化については予測が困難なため、被害者が医師に入院を要望したなどの特段の事情がない限り、被害者の症状やその変化を診ている医師が、入院治療が必要であると判断すれば、それはその医師の裁量の範囲内に属する判断として、入院期間が相当長期でなければ、不相当とはいえないとの認定基準を設定して判断しています。

横浜地裁の示した認定基準は、言ってしまえば、医師が治療のために入院が必要と判断すれば、明らかに相当でないような長期間でない限り、基本的には実際に入院した期間は相当な範囲であるとするものであり、これは、被害者にとってみれば、かなり有利な基準です。

ただ、このような基準では、被害者の実際の症状や治療の経過ではなく、医師の判断次第で相当か否かが判断されることになるため、第三者的な立場からみると、それが実態に即した公平な判断といえるのか疑問ではあります。

また、横浜地裁は、医師が相当と認めた入院期間については、「入院させなかったり、早期に退院させたときの方が後に病状が悪化した場合など医師の責任が問われかねない」ということも考慮されており、それも含めて医師の裁量であると考えられているようですが、被害者本人の症状に対する治療の相当性を考えるときに、本人に直接関わらない事情を考慮するのが適切妥当なのかも一考の余地があるでしょう。

(2)東京高裁の判断について
これに対して、東京高裁は、Xらの受傷の程度や外出の頻度等の事情、第三者による鑑定結果などの客観的な事実を総合的に考慮して、相当性を判断しています。この判断は、横浜地裁のある意味大雑把な認定にNGを出したものといえるでしょう。

確かに、担当医師は被害者の症状を直接診てきた医療の専門家であり、その判断が重視されるべきであることは間違いありません。

もっとも、裁判での事実認定は、裁判において提出されたすべての証拠に基づいて行われるものであるため、一部の証拠のみから判断されるべきでないのも事実です。

今回、東京高裁が重視したのは、Xらが入院中にもかかわらず、頻繁に外出をしていたという点です。

通常、入院が必要な患者さんとして考えられるのは、入院をしなければ怪我の治療に必要な処置や手術ができない場合や、歩行ができない、または困難であるために通院治療が難しい場合などです。しかし、Xらの怪我は頚椎捻挫や腰椎捻挫などに留まり、特に手術等が必要な場合ではなく、また、1度や2度に留まらず、頻繁に外出していたという事実は、歩行にも特に困難が生じていなかったことを推認させるものであるため、少なくとも外出ができるようになった時点で、入院を続ける必要はなくなったと考えるのが素直です。

東京高裁は、Xらには入院が必要であるとした医師の判断を尊重しつつも、実際のXらの行動などから通院治療が可能になった時期を判断しており、実態に即した相当な範囲の入院期間を認定したものといえるでしょう。

治療の必要性や相当性については、示談交渉の段階でもよく争いが生じる点の1つです。まだ症状が改善していない状態で、治療が必要でない、もしくは相当でないとして、相手方に治療費の支払を拒否されてしまうのは、被害者にとって、経済的にも精神的にも大きな負担となります。そのような場合は、弁護士にご相談をいただければと思います。

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確定申告はきちんとしましょう【後遺障害14級】(東京地判平成28年1月22日)

事案の概要

Yが所有し運転する自動車が首都高速道路を進行中、その前方を進行するX1運転の自動車(同乗者X2あり)に追突した事故で、傷害を負ったXらが、Yに対し、損害賠償を求めた事案。

<主な争点>

①休業損害・逸失利益:基礎収入
②素因減額

<主張及び認定>

①X1の損害

主張 認定
治療費等 27万6210円
※未払い分のみ
65万0681円
※治療費全体の額
診断書作成料等 1万1840円 1万1840円
通院交通費 32万2440円 8万7200円
休業損害 162万5085円 62万9796円
通院慰謝料 240万0000円 68万0000円
後遺障害逸失利益 279万9637円 79万4181円
後遺障害慰謝料 224万0000円 110万0000円
素因減額 ▲0円 ▲39万5370円
損害のてん補 ▲85万0000円 ▲150万0681円
弁護士費用 85万0000円 21万0000円

②X2の損害

主張 認定
治療費等 2万9240円
※未払い分のみ
65万0681円
※治療費全体の額
通院交通費 32万2500円 28万9500円
休業損害 352万9225円 98万5326円
通院慰謝料 240万0000円 126万0000円
後遺障害逸失利益 79万4181円 279万9637円
後遺障害慰謝料 224万0000円 110万0000円
損害のてん補 ▲107万4000円 ▲154万4100円
弁護士費用 85万0000円 34万0000円

<判断のポイント>

(1)基礎収入の根拠資料:確定申告書の有無

交通事故に遭ってお怪我をされた場合、通院や療養のためにお仕事をお休みしなければならないことがあります。

また、治療をしたけれども後遺障害が残ってしまった場合、将来の労働能力、すなわち収入にも影響が出てきてしまう場合があります。

このようにお仕事をお休みされた場合の収入減少は「休業損害」として、後遺障害による将来の収入減少は「逸失利益」として、相手方に請求することができるのです。

休業損害も、逸失利益も、「基礎収入」がいくらかによって金額が変わってきますが、基本的に「基礎収入」=“事故前の収入”として計算されることになります。

“事故にあってない状態”で“現在”に一番近い時期の収入を基礎とするんだと考えれば分かりやすいですね。

この“事故前の収入”の資料としては、サラリーマンやOLなどの給与所得者の方でしたら「源泉徴収票」と「休業損害証明書」が考えられますが、個人事業主などの方の場合、「確定申告書」がもっとも重要な資料とされています。

本件でも、確定申告書の有無が休業損害及び逸失利益の金額に大きく影響しました。

X1は,不動産売買の仲介を業とする会社等2つの会社の代表取締役でしたが、実質的にはX1個人で事業をしているところ、本件事故により休業せざるを得なくなったとして、①X1の基礎収入は、会社の本件事故前の1年間の売上げが1120万3646円であり,少なくともその60%以上である672万2187円が粗利益となるから、仮に1か月に20日(年240日)働いた場合には1日当たりの粗利益は2万8009円となるので,少なくとも平成23年賃金センサスから算出した1日当たり1万6415円の基礎収入は認められると主張しました。

これに対し、裁判所は、X1が本件事故の前後を通じてA等の代表者として不動産仲介業を営んでいたことは認められるものの,①(a)確定申告をしていないとして課税証明書や確定申告書等の証拠がないなど、諸経費の額につきこれを認めるに足りる的確な証拠がない以上、X1が主張する会社の実所得を認めるに足りる的確な証拠はないため、会社の所得額を認定することはできない。

また、②会社の代表者取締役としてのX1の報酬額(のうち労務対価部分)についても、これを認定するに足りる的確な証拠はない。

そうすると、X1が主張する基礎収入を認めることはできない。

もっとも、X1において、一定程度の所得を得られる相当程度の蓋然性は認められるから、X1の基礎収入は,本件事故が発生した平成24年の賃金センサス男性全年齢学歴計である529万6800円の7割である370万7760円(日額1万0158円。小数点以下切り捨て。以下同じ。)とするのが相当であると判断しました。

X2も同様に、建築業及び不動産仲介業等の会社を営んでいるとして少なくとも平成23年賃金センサスから算出した1日当たり1万6415円の基礎収入は認められると主張しましたが、X1と同様に確定申告書等の提出がなく、X2の主張する基礎収入は認められませんでした。

このように個人事業主や会社役員の方が休業損害・逸失利益を請求する際には、確定申告書等の所得に関する公的な資料が非常に重要となります。

節税のために確定申告上は所得が低くなるように申告していらっしゃる方も多いことと思います。

しかし、交通事故に遭ってしまい、いざ適正な賠償を受けようとしたときに、極めて不利になってしまうのです。

もっとも、確定申告をしていないから、もしくは確定申告書上の所得がゼロだからといって、休業損害や逸失利益も必ずゼロと決まってしまうわけではありません。

本件でも、確定申告書等の提出はなかったけれども、一定程度の所得は得られただろうとして、休業損害や逸失利益が認められています。

(2)素因減額

X1については、椎間板ヘルニア等の持病があったことから、「素因減額」すべきか否かも争点となりました。

「素因減額」については、別の裁判例解説「ぶつけていないほうの目も…!?」でも触れていますが、“被害者側の要因で損害が大きくなっている場合には、その分加害者が払うべき賠償額を少なくする”ことが公平だという考え方に基づいています。

つまり、Yに全額賠償責任を負わせるのは“公平でない”と考えられる場合に、素因減額が認められることになります。

本件で、Xは素因減額すべきでないと主張しました。

これに対して、裁判所は、①X1には30年前から腰椎椎間板ヘルニアがあり、平成19,20年頃から左腰痛、左下肢しびれの症状が生じるようになり、事故の数ヶ月前にも間欠跛行の症状があり、レントゲン検査により第5腰椎第1仙椎間椎間腔狭小が認められて、医師から腰部脊柱管狭窄症による間欠跛行(左第5腰神経症状)と診断されたこと、②X1は、腰部脊柱管狭窄症のため本件事故前から通院して腰部硬膜外ブロック等の治療を継続して受けていたことからすると、X1の腰部脊柱管狭窄症は,加齢性変化というよりももはや疾患といえるものであり、これが本件事故による間欠跛行や左腰下肢痛、しびれの発生、拡大に一定程度寄与したと認められ、本件事故の態様に照らすとX1の腰部に相当程度の力が加わったと認められることや、X1の治療期間等を併せ考慮すると、損害の公平な分担の見地から、損害額の1割を減額するのが相当であると判断しました。

お怪我の部位や症状に関連する持病があるからといって、ただちに素因減額が認められるわけではありません。

事故前は症状がなかったり、事故の衝撃が大きいためにそれだけで症状が発生することも十分考えられる場合などは、たとえ持病があったとしても素因減額されないことが多いのです。

本件では、椎間板ヘルニアや椎間腔狭窄等の持病があったことに加え、事故前から本件事故と同様の症状があったことが重視されて素因減額が認められています。

その上で、事故の衝撃が相当程度大きかったこと等から、素因の影響が相対的に小さく捉えられ、減額の割合が1割に抑えられたものと考えられます。

休業損害や逸失利益の請求に関しては、まず第一に、きちんと実態に即した確定申告をすることが、ご自分の身を守る上で大切なことです。

ですが、たとえそれができなかったとしても、その状況の中でもできるだけ高い賠償を得られるようできることはあります。

素因減額については、ご自身で避けられる性質のものではありませんが、持病があるからといって諦めずに請求すべき場合の方が多いものです。

ぜひ当事務所にご相談ください。

お客様のおかれた状況の中での適正な賠償を受けられるよう精一杯お手伝いさせていただきます。

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神経・精神
脊髄損傷
首・腰のむちうち(捻挫)

中心性脊髄損傷を認め後遺障害等級9級10号を認定した裁判例【後遺障害等級9級10号】(名古屋地裁平成30年4月18日判決)

事案の概要

49歳の男性Xの運転する普通乗用車が赤信号で停車中、Yの運転する普通貨物車に追突され、先行車に玉突き追突して、頚椎捻挫、胸椎捻挫等の傷害を負った。

症状固定後もXが訴えていた四肢のしびれ等の神経症状については、項部・頭・背部痛が生じているとして、自賠責から後遺障害等級14級9号が認定されるにとどまった。

そのため、Xは、本件事故によって7級4号の後遺障害として中心性脊髄損傷による四肢の神経症状が残存したとして、Yに対して、損害賠償請求訴訟を提起した。

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 111万0582円 111万0582円
通院交通費 2万3355円 2万3355円
文書料等 9260円 9260円
休業損害 268万2190円 213万7153円
逸失利益 2235万5356円 1436万7938円
傷害慰謝料 159万4667円 155万0000円
後遺障害慰謝料 1000万0000円 690万0000円
小計 3776万5410円 2609万8288円
既払金 ▲186万0582円 ▲186万0582円
確定遅延損害金 289万2217円 197万1632円
弁護士費用 366万5483円 250万0000円
合計 4246万2528円 2870万9338円

<当事者の主張>

本件では、Xは、自身に生じた後遺障害の程度について、本件事故により中心性脊髄損傷、頚部捻挫、胸椎捻挫、右前腕挫傷等の傷害を負った結果、頭痛、頚部痛・頚椎可動域制限、背部痛、両前腕から右手掌・拇指側を中心としたしびれ感、右手指伸展制限、両大腿部後面から脹脛、第1趾を中心としたしびれ感が残存したため、後遺障害7級4号の「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に相当すると主張しました。

これに対して、Yは、初診時においてXの脊髄に重大な損傷が生じたことを示唆するような症状が出ていたとの記載はなく、神経学的異常所見も記載されていないこと、Xが四肢のしびれの症状を訴えるようになったのが事故から3か月ほど経った頃からであること、自賠責保険も中心性脊髄損傷を否定していることなどから、Xが本件事故により中心性脊髄損傷の傷害を負ったとは認められず、四肢のしびれの症状と本件事故との因果関係がなく、後遺障害等級は14級9号にとどまると主張しました。

<裁判所の判断>

上記のような当事者の主張に対し、裁判所は、Xが初診時から右手指の巧緻性にかかる症状(細かい運動の障害)を訴えていて、検査の結果では右に異常が認められていること、受傷後MRI検査を受けるまで1か月半経過しているが、初診医はXの訴える症状について、むち打ち症に包含されるものと理解していたために時間が空いたものであるから、この点は重視できないこと、本件事故後のXの症状経過に関する説明は基本的に信用できることなどから、Xの症状は本件事故直後から生じていたものと認められる、と判断しました。

その上で、XのMRI画像上認められる異常所見(脊髄空洞症)についても、外傷性であると認められるとして、Xには本件事故によって中心性脊髄損傷の傷害が生じたと認定しました。

そして、Xに生じている頭痛、背部痛、上下肢のしびれ感等の症状については、Xが主張した後遺障害7級4号までは認めなかったものの、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服する労務が相当な程度に制限されるもの」に相当するとして、後遺障害9級10号を認めています。

その結果、逸失利益、後遺障害慰謝料を含め、合計で約2870万円もの賠償が認められることとなりました。

まとめ

本件事故でXに生じた中心性脊髄損傷は、脊柱に強い外力が加わることにより、脊柱の変形等とともに、脊髄が損傷する病態です。脊髄が損傷することによって、脳から身体の各部位への信号を送るという中枢神経の役割が果たされなくなり、その結果、四肢の麻痺や感覚障害、排泄機能障害等の障害が生じることになります。

このように、中心性脊髄損傷による症状は重篤な障害ですが、自賠責保険では末梢神経にかかる障害として認定されてしまうこともあり、簡単には適切な等級認定がされるものではありません。

本件で裁判所が認定したように、より重い中枢神経にかかる障害と認められるには、画像検査や神経学的検査、医師の意見書などによってしっかりと立証していくことが重要です。

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主治医の診断を採用せずに後遺障害の程度を判断した裁判例【後遺障害14級9号】(大阪地裁平成28年6月30日判決)

事案の概要

家族4人(母X1、子3人X2、X3、X4)が乗っていた乗用車が、交差点内で右折をするため停止していたところ、Y運転車両に追突された。

X1及びX4は、事故後に残った後遺症について、損保料率機構より、それぞれ後遺障害14級9号が認定されたが、X1は、主治医より外傷性頚椎椎間板ヘルニア及び頚椎捻挫の診断を受け、また、X4については、中心性頚髄損傷、環軸椎関節亜脱臼及び外傷性頚椎環軸不安定症との診断を受けていたことから、X1及びX4がそれぞれ、より重度の後遺障害に該当すると主張して損害賠償を求めた事案(X2、X3も同様に訴訟を提起した)。

<主な争点>

①X1及びX4の後遺障害の程度
②X4(症状固定時11歳)の後遺症による逸失利益

<主張及び認定>

①X1

主張 認定
治療費 164万4162円 164万4162円
薬代 10万4410円 10万4410円
通院交通費 8万3974円 4万3355円
休業損害 95万6702円 95万1666円
入通院慰謝料 185万0000円 130万0000円
逸失利益 547万8082円 76万7880円
後遺障害慰謝料 390万0000円 120万0000円
損害の填補 ▲179万4327円 ▲179万4327円
弁護士費用 122万0000円 42万0000円
合計 1344万3003円 463万7146円

②X4

主張 認定
治療費 179万7970円 179万7970円
薬代 9万1760円 9万1760円
入院雑費 2万8500円 2万8500円
通院付添費 56万7000円 56万7000円
通院交通費 3万4135円 3万4135円
入通院慰謝料 215万0000円 145万0000円
後遺障害慰謝料 550万0000円 120万0000円
小計 2391万0011円 516万9365円
損害の填補 ▲213万2043円 ▲213万2043円
弁護士費用 217万0000円 30万0000円
合計 2394万7968円 333万7322円

<判断のポイント>

1.X1及びX4の後遺障害の程度

裁判所の判断
X1は、本件事故後に左肩・首・肩甲骨周辺の重いつっぱり感や左肩・肩甲骨の疼痛など、頚部から左肩、左小指・薬指にかけて疼痛に伴う神経症状が生じていること、頚椎のMRIでも残存症状に整合する外傷性頚椎椎間板ヘルニアの画像所見が出ており、主治医であるA医師からも外傷性頚椎椎間板ヘルニアとの診断を受けていること、A医師の意見として、X1の主婦としての労働能力は20%程度、ピアノ講師としての労働能力は40%程度喪失しているとの判断があることなどを根拠に、少なくとも12級13号相当の後遺障害が残存していると主張しました。

また、X4は、本件事故後に左手の筋力低下、左手の知覚障害などの症状が残っていること、A医師から環軸椎関節亜脱臼、外傷性頚椎環軸関節不安定症、中心性頚髄損傷等の診断を受けており、また、X4の肉体的労働能力は30%喪失しているとの意見を受けていることなどを根拠に、9級10号相当の後遺障害が残存していると主張しました。

しかし、裁判所は、カルテの記載内容や頚椎MRI検査を行った他院の医師の読影結果などから、事故後まもない時期に行われた神経学的検査上異常がなかったことやMRI検査結果の内容から、X1の受傷内容は外傷性頚椎椎間板ヘルニアではなく、変形性頚椎症(画像上異常所見がない、もしくは経年性変化により頚部痛等の症状が出ている状態)であると判断しました。

また、X4の受傷内容についても、X1と同様に、カルテの内容や他院での画像の読影結果などから、A医師の上記診断を否定し、X1及びX4の残存症状については、損保料率機構の認定と同様に、いずれも局部の神経症状として、14級9号の後遺障害であると認定しました。

コメント
以上のように、裁判所は、X1及びX4のいずれの残存症状についても、より上位の後遺障害等級を認定せず、損保料率機構の判断どおり、後遺障害14級9号に該当すると判断しました。
この事案においてポイントとなるのは、裁判所が、X1及びX4の主治医であったA医師の診断をすべて採用しなかったことです。

(1)医師の診断の正確性
医師のイメージとして、医学の知識や経験が豊富であり、診断内容が間違っていることはあまり考えられないと思う方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、医師の先生は、医師になるための知識や経験を積んできており、実際、多くの先生が正しい診断をされていると思います。

しかし、医師も人間である以上、絶対に正しい診断がされる保証はありません。たとえば、患者さんに寄り添おうとする思いが強いあまりに、客観的にはそこまでひどい怪我でなくとも、実際に残っている症状よりも重い症状が残っていると診断されてしまうこともあります。

また、逆に、本当は重い症状が残っているにもかかわらず、そこまで大した怪我ではないとの理由で、軽い症状で診断されてしまうという場合もあります。

前者の医師の先生は、特に交通事故被害者の方からすると、自分のことを親身に思ってくれる良い先生という側面もありますが、他方で、実際に生じている症状について、客観的な診断をしてもらえないおそれがあるという側面もあります。

もちろん、その先生の診断結果は、その患者さんの傷病に対する1つの見解であって、それが必ずしも間違っているとはいえません。

ただ、画像所見や自覚症状、様々な検査結果などの事情に照らしても、客観的に見ると、そのような診断結果になることは通常考えにくい、と思われるような診断がなされることがあるのも事実です。

そのような場合に、信頼している主治医の先生がそう言っているから間違いないと信じきってしまうと、実際に裁判で診断内容とはかけ離れた認定がされ、期待はずれの結果になってしまうということにもなりかねません。

(2)本件について
本事案では、A医師は、X1の受傷内容については外傷性頚椎椎間板ヘルニア、X4については中心性頚髄損傷、環軸椎関節亜脱臼及び外傷性頚椎環軸関節不安定症と診断していましたが、いずれもそれを根拠付ける明らかな画像所見や神経学的所見はほとんど見受けられず、かえって他院の医師からはそれらの診断を否定する所見が出ていました。

そのため、裁判所は、A医師の診断内容について、X1及びX4の症状を医学的証明できる他覚的所見がない、もしくは合理的に説明することは困難であるとして、A医師の診断をすべて採用しなかったのです。

X1及びX4としては、何年にも渡って自分たちの治療を続けてきたA医師が、積極的に裁判にも協力し、X1やX4の労働能力喪失の程度まで具体的に意見を述べていたことから、A医師の診断内容に誤りはないと信じて後遺障害等級を争ったのではないかと思います。

客観的な検査結果等と診断内容があまりにもかけ離れていると、治療の経過全体の信用性に疑いをもたれてしまうという事態にもなりかねません。

被害者の方は、特に自分に有利な診断内容に疑いを持ちにくいとは思いますが、自分の怪我や症状と診断内容にギャップを感じた場合には、一度他院にセカンドオピニオンに行ってみるというのもよいかもしれません。

2.X4の後遺症による逸失利益

裁判所の判断
X4は、残存した症状が後遺障害9級10号に相当することを前提に、基礎年収を賃金センサスとしたうえで、症状固定時11歳のX4が就労するであろう年齢である18歳から67歳まで、労働能力が30%喪失するとして後遺症による逸失利益を請求しましたが、裁判所は、14級9号の後遺障害を前提とすると、X4には後遺障害逸失利益を観念することができないとして、逸失利益自体を否定しました。

コメント
(1)後遺症による逸失利益の計算方法
後遺症による逸失利益は、事故前年の年収に、労働能力喪失率と労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(中間利息控除係数)をかけて計算されることになります。

たとえば、事故前年の年収が200万円であった人が、後遺障害14級9号の認定を受けた場合、14級9号の労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は5年が目安とされていることから、200万円×0.05×4.3295(労働能力喪失期間5年のライプニッツ係数)=43万2950円が後遺障害による逸失利益となるのです。

(2)未成年者の後遺症逸失利益
しかし、本事案のように、いまだ働いていない未成年者の場合、基礎年収をどうするか、労働能力喪失期間をどう考えるかという問題が生じます。

まず、基礎年収については、原則として、事故前年の賃金センサスの全年齢の平均賃金を基準として算定することになります。

ここで、男子の場合は、男子全年齢の平均賃金が基準となりますが、女子の場合は、女子全年齢ではなく、男女全年齢の平均賃金が基準とされる点がポイントです。

また、いつから労働が制限されると考えるか、という点については、交通事故に遭わなければ就労によって得られたであろう平均的な金額が逸失利益になると考えられていることから、症状固定時18歳未満の未就労者の場合は、18歳から就労を開始すると考えることなるため、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数から、症状固定時の年齢から18歳までの年数分のライプニッツ係数を差し引くことになります。

たとえば、症状固定時の年齢が16歳であった被害者が、後遺障害14級9号が認定された場合、目安とされる5年を労働能力喪失期間とすると、
4.3295(5年のライプニッツ係数)-1.8549(18歳-16歳=2年のライプニッツ係数) =2.4746
を基礎年収と労働能力喪失率に掛けることになるのです。

(3)本件について
本事案において、裁判所は、X4が症状固定時11歳であったことから、認定した後遺障害14級9号の労働能力喪失期間の目安とされる5年が経過しても、まだ16歳で、労働開始年齢に達していないということ理由に、後遺症による逸失利益を観念することはできないとして、X4の逸失利益を認めませんでした。

このような判断は、(2)のような賠償実務上の考え方からすると、やむを得ないものといえますが、個人的には、後遺障害慰謝料を増額するなどの考慮があってもよかったのではないかとも思います。

受傷内容や残存した症状については、基本的には主治医の先生に診断してもらうのが一番ですが、治療を受けていくうちに、診察内容や治療方針等に不安を感じられることもまれではありません。

そのようなお悩みをお持ちの方についても、ご事情を伺ったうえで、アドバイスをさせていただくこともできますので、まずは当事務所までお気軽にご連絡ください。

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