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裁判例: 脊髄損傷

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脊髄損傷
首・腰のむちうち(捻挫)

中心性脊髄損傷を認め後遺障害等級9級10号を認定した裁判例【後遺障害等級9級10号】(名古屋地裁平成30年4月18日判決)

事案の概要

49歳の男性Xの運転する普通乗用車が赤信号で停車中、Yの運転する普通貨物車に追突され、先行車に玉突き追突して、頚椎捻挫、胸椎捻挫等の傷害を負った。

症状固定後もXが訴えていた四肢のしびれ等の神経症状については、項部・頭・背部痛が生じているとして、自賠責から後遺障害等級14級9号が認定されるにとどまった。

そのため、Xは、本件事故によって7級4号の後遺障害として中心性脊髄損傷による四肢の神経症状が残存したとして、Yに対して、損害賠償請求訴訟を提起した。

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 111万0582円 111万0582円
通院交通費 2万3355円 2万3355円
文書料等 9260円 9260円
休業損害 268万2190円 213万7153円
逸失利益 2235万5356円 1436万7938円
傷害慰謝料 159万4667円 155万0000円
後遺障害慰謝料 1000万0000円 690万0000円
小計 3776万5410円 2609万8288円
既払金 ▲186万0582円 ▲186万0582円
確定遅延損害金 289万2217円 197万1632円
弁護士費用 366万5483円 250万0000円
合計 4246万2528円 2870万9338円

<当事者の主張>

本件では、Xは、自身に生じた後遺障害の程度について、本件事故により中心性脊髄損傷、頚部捻挫、胸椎捻挫、右前腕挫傷等の傷害を負った結果、頭痛、頚部痛・頚椎可動域制限、背部痛、両前腕から右手掌・拇指側を中心としたしびれ感、右手指伸展制限、両大腿部後面から脹脛、第1趾を中心としたしびれ感が残存したため、後遺障害7級4号の「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に相当すると主張しました。

これに対して、Yは、初診時においてXの脊髄に重大な損傷が生じたことを示唆するような症状が出ていたとの記載はなく、神経学的異常所見も記載されていないこと、Xが四肢のしびれの症状を訴えるようになったのが事故から3か月ほど経った頃からであること、自賠責保険も中心性脊髄損傷を否定していることなどから、Xが本件事故により中心性脊髄損傷の傷害を負ったとは認められず、四肢のしびれの症状と本件事故との因果関係がなく、後遺障害等級は14級9号にとどまると主張しました。

<裁判所の判断>

上記のような当事者の主張に対し、裁判所は、Xが初診時から右手指の巧緻性にかかる症状(細かい運動の障害)を訴えていて、検査の結果では右に異常が認められていること、受傷後MRI検査を受けるまで1か月半経過しているが、初診医はXの訴える症状について、むち打ち症に包含されるものと理解していたために時間が空いたものであるから、この点は重視できないこと、本件事故後のXの症状経過に関する説明は基本的に信用できることなどから、Xの症状は本件事故直後から生じていたものと認められる、と判断しました。

その上で、XのMRI画像上認められる異常所見(脊髄空洞症)についても、外傷性であると認められるとして、Xには本件事故によって中心性脊髄損傷の傷害が生じたと認定しました。

そして、Xに生じている頭痛、背部痛、上下肢のしびれ感等の症状については、Xが主張した後遺障害7級4号までは認めなかったものの、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服する労務が相当な程度に制限されるもの」に相当するとして、後遺障害9級10号を認めています。

その結果、逸失利益、後遺障害慰謝料を含め、合計で約2870万円もの賠償が認められることとなりました。

まとめ

本件事故でXに生じた中心性脊髄損傷は、脊柱に強い外力が加わることにより、脊柱の変形等とともに、脊髄が損傷する病態です。脊髄が損傷することによって、脳から身体の各部位への信号を送るという中枢神経の役割が果たされなくなり、その結果、四肢の麻痺や感覚障害、排泄機能障害等の障害が生じることになります。

このように、中心性脊髄損傷による症状は重篤な障害ですが、自賠責保険では末梢神経にかかる障害として認定されてしまうこともあり、簡単には適切な等級認定がされるものではありません。

本件で裁判所が認定したように、より重い中枢神経にかかる障害と認められるには、画像検査や神経学的検査、医師の意見書などによってしっかりと立証していくことが重要です。

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被害者には何が必要なのか【後遺障害5級相当】(大阪地判平成26年5月14日)

事案の概要

Xが一方通行の山道を先行車両に続いて普通自動二輪車で走行していたところ、前方からY運転の普通乗用車が逆送をしてきたため、Y車両と先行車両が衝突し、その後X車両もY車両と衝突した。

Xは、この事故で頚髄を損傷したとして、Yに対し損害賠償の請求をした。

<争点>

①過失割合
②Xの後遺障害の重さ
③損害額

<請求額及び認定額>

主張 認定
治療費 1157万0179円 1157万0179円
通院費 31万9720円 31万9720円
入院雑費 24万7500円 24万7500円
後遺障害診断書作成費用 1万0500円 1万0500円
家族交通費・引越費用等 22万7006円 22万7006円
症状固定日までの付添看護費 272万0000円 43万5200円
休業損害 684万3520円 632万5632円
本件料理教室廃業による損害 25万0000円 10万0000円
自動車買替等に伴う損害 35万8000円 0円
症状固定後の治療費 18万7116円 18万7116円
将来の成人用おむつ費用 207万6514円 173万0395円
将来の付添看護費 207万6514円 173万0395円
将来の成人用おむつ費用 207万6514円 173万0395円
将来の付添看護費 606万8352円 0円
将来の自動車買替費用 114万4260円 74万5491円
後遺障害逸失利益 6463万1672円 4617万3920円
後遺障害慰謝料 2000万0000円 1440万0000円
入通院慰謝料 370万0000円 295万0000円
住宅改造費 488万7390円 97万7478円
弁護士費用 2094万0240円 400万0000円

<判断のポイント>

(1)過失割合

本件事故は、X車の前に先行車両がいたため、Xが先行車両との車間距離を空けていれば損害が生じなかったのではないかと、Y側から過失相殺の主張がありました。

確かに、車間距離をつめすぎていて玉突きのようになった場合には、離れていれば避けることができたとして、過失割合をとられる可能性があります。

本件では、証拠から車間距離が20メートルは取られていたと認定した上で、具体的な道の状況が、カーブの続く山道でありかつ上り坂であることから、X車両は早くとも時速40キロメートル程度しか出ていなかったとし、この場合には制動距離との兼ね合いで20メートルの車間距離があれば十分と判断しました。

車間距離は、どれだけ離していれば大丈夫というものではなく、走行速度から算出される制動距離との関係で判断されます。

速度がわからない場合には、車間距離が十分だったかどうかの判断が難航する場合がありますが、本件のように道の状況などから推認することもできます。

(2)Xの後遺障害の重さ

Xは頚髄損傷の傷害を負い、四肢の感覚異常、知覚異常、痺れ、疼痛や尿・便失禁などの症状が残存しました。

これらの症状について、裁判提起前の損害保険料率算出機構における審査では、後遺障害等級の5級2号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当するという判断が出されていました。

Xは、裁判においては、後遺障害等級3級3号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの)に該当すると主張し、Yはこれを争いました。

本裁判においては、まず、Xに具体的にどんな症状が残存しているかを、診療録等を手がかりに認定していきました。

症状が重かったり、残存症状の数が多かったりすると、加害者側は「その症状は事故によるものではない」「その症状はカルテに記載がない」等と争ってくることがあります。

これは、カルテや治療経過で作成される資料が、必ずしも完璧に記載されているわけではないためです。

本件でも、リハビリテーション計画書上の自覚症状について、「疼痛」にチェックがなされていなかったことをもって、「この時点では疼痛は存在しなかった」という反論が出されていました。

しかし、本裁判例は、同資料がリハビリテーションを行うための計画書であるから、リハビリ箇所に関係しない部位の症状は必ずしも記載されない可能性があること、感覚傷害にはチェックがあり「四肢しびれ」の記載があることから、疼痛もこの中に含まれているとも考えられること等から、疼痛欄にチェックの記載がないことのみをもって、Xに同期間疼痛がなかったとまで言うことはできない、と判断しました。

このように、単に記載の内容だけを見るのではなく、その資料は何のために作成されているものか、記載があること又はないことを、合理的に説明することができないかという観点から検討することが大切になります。

次に、それらの症状がXの生活にどの程度制限を加えているかの判断がなされました。

本件のような脊髄損傷については、尊称の程度によってその制限の程度もさまざまです。

半身不随になる場合もあれば、巧緻作業がしづらくなる程度のものまで有り得ます。

したがって、症状があるとしても、それがどの程度なのかという点は、非常に大きな問題となります。

本件では、Xは上記の症状が強く残っていることは認定されましたが、他方でXが一人で4時間運転をして和歌山まで出かけたり、12時間運転をして山梨まで出かけたりした事実が認められました。

このように、一人で運転して出かけられるということは、周囲の助けをあまり必要としていないという評価につながりますので、「まったく労務に服することができない」とまではいえません。

そのため、本件では、事前に認定を受けていた後遺障害等級5級が相当であると判断されました。

(3)Xの損害内容

本件の損害認定でユニークな認定をしているのは、症状固定日までの付添看護費についてです。

付添看護費は、怪我の状態や医師の指示により、家族等が付き添いを必要とする状況であれば、被害者の損害として認められます。

他方で、単に家族が被害者のお見舞いに行くだけでは、なかなか必要性が認められない場合もあります。

本件でXが入院していたのは、完全看護体制の病院でした。そのため、家族等が付き添いをしても、具体的に看護や介護をする必要性は乏しくなってしまいます。

しかし、本裁判例は、Xは命にかかわる重傷を負っており、ここから回復するためには家族による精神的な支援が必要だったと認定しました。

具体的な行動というよりは精神的な支援であるため、金額こそ1日800円という小額になってはいますが、精神的支援の必要性を認めたものとして、意義のある判決だと思われます。

また、もう一点特徴的なのは、将来の自動車買替費用を認めたことです。

Xは上記のとおり、事故後も長時間かけて自動車移動が可能でしたが、これは逆を言えば自動車でなければ移動が困難ということになります。

四肢に痺れや疼痛が残っているため、長距離の移動や物品の運搬は、もっぱら自動車を利用するほかありません。

そのため、今後の人生で自動車が必要不可欠となるということで、将来自動車を買い替えるための費用を認めました。

車椅子や義足などの、医療用器具であれば認める例は多数ありますが、自動車についても必要性を認めた点で特徴的な判断といえるでしょう。

まとめ

脊髄損傷をしてしまうと、残念ながら、ほとんど回復は見込めなくなります。

したがって、その症状といかにうまく付き合いながら生活していくかという点を考える必要が出てきます。

しかし、加害者側の保険会社や代理人は、被害者のこの先の生活を気にしてはくれません。

どのような請求が可能なのか、どのような補償が必要なのかをきちんと検討するためにも、まずは被害者のための弁護士にご相談ください。

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玉突き事故の果て【後遺障害1級】(神戸地判平成20年4月11日)

事案の概要

X1(当時43歳・女性)が普通乗用自動車に乗り信号待ち停車中、後続車が2台Xの後方に停車したところ、そのさらに後方からY運転の普通乗用自動車が追突。

Xは4台玉突き事故の先頭車両として、追突を受けた。

これによりX1は、脊髄損傷により両上下肢に麻痺が残ったとして、Yに対し損害賠償を請求。X1の父母であるX2及びX3も、固有の損害を請求した。

<争点>

①X1が脊髄損傷等を本件事故によって負ったといえるか
②事故時に無職であった被害者に、逸失利益が認められるか
③X2及びX3に、固有の損害が認められるか

<請求額及び認定額>

<X1の損害>

主張 認定
入院雑費 26万9100円 26万9100円
付添看護費 1618万4000円 780万1000円
将来の介護費 1億0973万9580円 9043万1517円
車椅子購入費 520万6966円 514万4479円
自動車改造費 382万2781円 382万2780円
介護用ベッド 2万1400円 6万7185円
福祉機器等 451万8877円 409万3980円
家屋改造費 2625万7650円 2625万7650円
休業損害 2318万5788円 0円
逸失利益 5411万4158円 3704万2341円
入通院慰謝料 600万0000円 468万0000円
後遺障害慰謝料 3000万0000円 2300万0000円
弁護士費用 1000万0000円 1000万0000円

<X2の損害>

主張 認定
慰謝料 500万0000円 200万0000円

<X3の損害>

主張 認定
慰謝料 500万0000円 200万0000円

<判断のポイント>

①X1が脊髄損傷等を本件事故によって負ったといえるか
本件でまず問題となったのは、X1の症状と本件事故との因果関係です。

本件事故は、加害車両含む4台もの追突事故ではありますが、間の二車両の乗員に傷害結果は発生しておらず、X1車両の損傷状況も、バンパーが少し凹んだ程度でした。

そうすると、果たしてX1に脊髄損傷という重大な傷害を負わせるような事故であったかという点が問題となります。

また、X1の症状推移も、一時は知覚障害や麻痺が軽快したものの悪化していることが見受けられ、脊髄損傷における症状の推移とは整合しない点でも問題となります。

しかし、本件で裁判所は、これらの点について、X1が本件事故以前には身体に障害を負っていなかったこと、X1にみられた椎間板ヘルニアが画像上外傷性だと認められること、各種検査上X1に確かに麻痺や排尿障害が生じていると認められることから、X1に残存した障害は、本件事故によって生じたものであると認定しました。

そして、脊髄損傷における症状の推移と整合しない点については、確かにX1の「症状を全て脊髄損傷によって説明することには無理がある」としながらも、「その全てを脊髄損傷によって説明することができなくても、本件事故による脊髄損傷及びこれに起因する何らかの原因によって生じたというべきであり、その原因が明らかではなくてもX1の両上下肢麻痺及び排尿障害は社会通念上本件事故によって生じたものである」と判断しました。

つまり裁判所は、
(1)事故によって脊髄損傷が生じたことは画像上認められる
(2)脊髄損傷に伴う症状が出ている
(3)整合しない症状についても、本件事故が原因といえるだろう
というような判断をしていることになります。

さらに着目すべきは、裁判所が「むしろ、Y1が上記の原因が本件事故とは無関係の事由によって生じたものであることを主張及び立証すべきである」と付言しているところです。

通常、交通事故に基づく損害賠償請求をする際には、その事故によって損害が発生したということと、その損害の額は、請求する側、つまり被害者がしなければなりません。

これを立証責任といいます。

つまり「事故によって身体のどこそこがどうなってどういうメカニズムで現在の症状が出ています」ということを主張するのみならず、立証しなければならないのです。しかし、現代医学が発展してきているとはいえ、身体のことは未だ分からないことだらけ。被害者が抱えている症状について、全てをこと細かく立証するということは事実上不可能であることは少なくありません。

この点本件では、障害の大元となる脊髄損傷とそれに伴う症状が認められれば、その他の症状について多少整合しないものがあったとしても、これは社会通念上本件事故によって生じたものとし、そうでないことを加害者が立証すべきだとしているのです。

②事故時に無職であった被害者に、逸失利益が認められるか
X1は本件事故にあった時点では、腎臓を悪くし、無職でした。

そのため、休業損害は認められませんでした。

では、このような場合、将来分の休業損害とも言える逸失利益は認められるでしょうか。

一般的には、就労の蓋然性があれば事故時に無職であっても一定範囲で逸失利益が認められます。就労の蓋然性というと難しいですが、「働く意欲」と「働ける能力」があるかどうかということです。

本件では、X1は確かに事故時に無職でしたが、それは腎臓を悪くしたことで仕事を休んでいたという理由があり、高校卒業後は、学習塾の講師や家庭教師をしてきたという実績があるため、「将来的には収入を得ることができたというべき」と判断されました。このように、資格や職歴、そして無職である理由などが大きな意味を持つことになります。

③X2及びX3に、固有の損害が認められるか
本件では、事故には直接遭っていないX1の両親であるX2及びX3も損害賠償請求をしています。

両親や配偶者、子どもなどは、近親者が死亡した場合に固有の慰謝料が認められます。

これは必ずしも死亡に限らず、死亡に匹敵するような場合(植物状態等)にも近親者固有の慰謝料が認められる可能性があります。

本件では、X1は本件事故によって脊髄損傷を負い、両上下肢麻痺及び排尿障害の後遺障害を残して症状固定し、移動には車椅子が必要で、食事には介助具が必要であるため、日常生活が困難であり、日常動作全般に介助が必要な状態であることから、「死亡にも比肩すべき精神的苦痛を被った」と認定し、両親に200万円の慰謝料を認めました。

まとめ

本件は、軽微な事故態様と思える交通事故の被害者に対して、高額な損害を認めた点が非常に特徴的です。

上記のとおり、一般的には受傷の事実や損害の金額について、被害者が立証しなければならず、立証ができていないと判断される場合には、その部分については0円となってしまいます。

本件のような、物損が軽微な事故の場合、そもそも「受傷自体したといえるのか?」という点から争いになることも多く、この立証に苦心することも少なくありません。

本件で大きかったのは、画像上外傷性の椎間板ヘルニアであると認められているところです。通常は、この立証が最も困難ですが、本件では治療期間が相当長期に及んだことから、MRI画像における椎間板ヘルニアの状態を時系列で観察することができ、その推移から外傷性であると認定されているようです。

もし、この椎間板ヘルニアが外傷性だとの認定が受けられなかった場合には、

(1)軽微な事故であるから、ヘルニアが生じるとはいえない
(2)したがって、既往症のヘルニアが悪化したのみである

などの論理で、受傷が認められなかったり、大幅な素因減額がされていた可能性も否定できません。

やはり、医学的にどのようなことがいえるか、どのような立証材料があるかという点が非常に重要になってきます。

後から「あの時画像を撮っておけば…」となっても、後の祭りという場合もあります。

そのような憂き目に遭わないためにも、交通事故後に身体の調子が思わしくなかったら病院に受診するのと同時に、弁護士にもご相談ください。

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後遺障害1級か、14級か【後遺障害14級9号】(東京地判平成22年9月9日)

事案の概要

X(46歳女性、兼業主婦)は、普通乗用自動車に乗車し、赤色信号規制に従い停止していたところ、Yの運転する普通乗用車がX車の後部に追突。

Xは、頚椎以下の両上下肢の知覚鈍磨・異常感覚・筋力低下、肩・肘・手・股・膝・足・足趾の関節機能障害、膀胱直腸障害等を訴え、損害保険料率算出機構へ後遺障害の申請をしたが、いずれも非該当と判断された。

異議申立をしても結果が変わらなかったことから、Xは残存している障害は後遺障害等級併合1級に該当するとして、Y及びYの勤務先に対して損害賠償の請求をした。

<争点>

Xに後遺障害が認められるかが主な争点となりました。
具体的には、Xに残存している症状の内容・程度と、事故との因果関係の有無が問題となりました。

<請求額及び認定額>

主張 認定
後遺障害等級 併合1級 14級9号
入院付添費 46万8000円 46万8000円
休業損害 1546万8050円 262万6650円
逸失利益 3948万3802円 75万5562円
入通院慰謝料 600万0000円 210万0000円
退院後付添費及び介護費 6726万6268円 0円
損害のてん補 ▲163万5900円
弁護士費用 1500万0000円 54万0000円
請求額(一部請求) 9821万5952円
合計 595万4312円

※治療費については、既に任意保険会社より支払いを受けており、争いなし。

<判断のポイント>

本件では、原告側が併合1級の後遺障害の主張をしていたのに対して、裁判所は頚部痛について14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当するとのみ判断し、それ以外の後遺障害を認めませんでした。

一般的な傾向としては、損害保険料率算出機構での結果を裁判で覆すのは難しいと言われますが、本判決では、単に損害保険料率算出機構の結論を追認するのではなく、症状の発症時期、内容、その後の推移等を、医師の診断書や看護師の看護記録等から丹念に認定していった上で、結論付けています。

本件は、事故直後に知覚障害・運動障害が認められ頚髄損傷の診断を受け、その後知覚障害等は順調に軽快しましたが、事故から約5ヶ月後に一転して体のしびれ等を訴え始め、意識消失や膀胱障害も見られるようになっています。

これらについて、裁判所は、そのような症状の存在自体は認めたうえで、一般的な頚髄損傷の経過と異なる点(突然悪化することはない)、Xのような症状が引き起こされる頚髄損傷であれば見られるはずのMRI画像所見が見られない点等から、Xの症状は本件事故に起因するものではなく、Xの心因的な要因に基づいて発症したものであるとし、事故との因果関係を認めませんでした。

もっとも、頚部の残存疼痛については、本件事故態様からかなり大きな衝撃がXの身体に加わったといえること、それまでの診療経緯から、「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害14級9号に該当すると認めました。

まとめ

本件ではまず「今どういう症状があるか」ということが問題になりました。

仮に診断書上「脊髄損傷」と記載があるとしても、実際のところはどうなのか、どのような症状があるのか、ということが争いになりえます。

これについては、それまでの診療記録や看護記録、適時実施された画像検査結果や意見書の内容などを利用し、具体的で詳細な主張立証をしていく必要があります。

そのためには、適切に入通院をし、きちんと自覚症状を医師または看護師に伝えていくことが重要になります。

また、本件ではそのほかに、「それが交通事故と因果関係があるか」ということも問題となりました。

ここにいう「因果関係」というものは、法律上加害者に責任を負わせるべきか否か、という価値判断を含むものなので、一般的に使われる「因果関係」とは異なります。

たとえば医学的に見れば、事故に遭ったことを契機として、精神に負荷がかかりそのような症状を発症しているといういみで「因果関係がある」と言えるのかもしれませんが、法律上は必ずしもその判断と同じにはならないのです。

この法律上の因果関係の有無はかなり専門的な判断になります。

いずれの点についても、「診断書に書いてあるんだから」「裁判官はきっと分かってくれるはずだ」との過信は禁物です。

自身の損害について適切に賠償を受けることをお考えの方は、なるべく早いうちに、当事務所の弁護士までご相談ください。

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治療費・リフォームはどこまで認められる?【後遺障害等級3級】(東京地判平成26年12月24日)

事案の概要

X(51歳男性、自営業)は、大型自動二輪車で第2車線を直進していたところ、その前方道路において路外駐車場へ後退進入するために切り返し中だったY(被告)車両と衝突。

Xは、脊髄損傷、四肢麻痺等の傷害を負い、後遺障害等級3級3号が認定されたため、Y及びその勤務先である会社に対し、損害賠償を請求した。

<請求額及び認定額>

請求額 認定額
治療費 737万0957円 653万2343円
リハビリ費用 719万1240円 7万4340円
下肢装具費 51万9825円 35万4938円
自宅付添費 5046万2452円 1716万7504円
入院雑費 21万6000円 21万6000円
その他諸雑費 96万7889円 86万2639円
通院交通費 3416万1112円 1803万5079円
家屋改造費 1301万4605円 46万2953円
休業損害 3069万4755円 2897万8737円
逸失利益 2億2133万7678円 1億4443万5642円
入通院慰謝料 264万0000円 264万0000円
後遺傷害慰謝料 1990万0000円 1990万0000円
物的損害 500万1761円 374万0081円
過失相殺(5%) ▲1217万0014円
損害の填補 ▲2472万3850円
弁護士費用 3776万0748円 2065万0000円
合計 2億2715万6392円

<判断のポイント>

一般的に、治療費やリハビリ費用は症状固定時までしか相手方に請求することはできません。

しかし、症状固定後も治療やリハビリ等の必要性があると立証することができれば、相当といえる範囲内で将来分の費用の賠償請求が可能となります。

本件では、原告側は、原告の症状(左手指の巧緻運動障害、左下肢支持性低下、膀胱直腸障害等)の程度からすれば、症状固定後も治療やリハビリが必要だと主張して、将来分の治療費やリハビリ費用、通院交通費を請求していました。

これについて裁判所は、主治医らの「今後増悪の可能性がありアフターケアを要する」や「永久に自己導尿が必要と考える」等の診断結果から、症状固定後も、平均余命に至るまで、症状の増悪防止及び排尿管理のため、整形外科及び泌尿器科を継続的に受信する必要性・相当性が認められると判断し、整形外科及び泌尿器科への通院については将来分の治療費を認めました。そして、これに伴う範囲での、リハビリ費用や通院交通費も認容されました。

もっとも、内科や眼科など、後遺障害それ自体と直接関連しない通院については、必要性を認めませんでした。

<家屋改造費について>

脊髄損傷により四肢麻痺等になると、家屋をバリアフリーに改造する必要が生じることがあります。

本件でも、原告は階段昇降機の設置や、トイレのウォシュレット機能増設等の改造が必要だとして、これらの費用を請求していました。

もっとも、裁判所は、Xの症状の内容や程度に加え、Xが退院後も本訴訟に及ぶまでの間階段昇降機やウォシュレットが未施工であるにもかかわらず日常生活を送っていることから、自宅付添費とは別にこれらの設置の必要性はないと判断しました。(一部トイレは既に改修済みであり、この費用は認めています。)

<過失割合について>

本件は、過失割合の認定も興味深いところです。

本件事故は、路外の駐車場にバックで進入しようとしていたY車両が、切り返しの際にXが直進進行していた第2車線まで前進して塞いでしまい、衝突したという事案です。

原告側は、Yは、Y車両を幹線道路の第2車線まで前進させる際には、十分に走行車線の安全を確認すべきであり、また、そもそもそのような運転行為をしなくても十分に切り返しはできるため、Yに著しい過失があり、Yの一方的な過失であると主張しました。

対して、被告側は、Xは見通しのいい幹線道路を走行していたのであるから、Y車両と衝突するにはXの側にも脇見運転に近い前方不注視があったとし、Xに3割の過失があると主張しました。

この点裁判所は、Yは、X車両が走行してくることに気づいたにもかかわらず、切り返しを行い、Y車両を第2車線まで前進させたという過失があり、この過失は大きいとしながらも、Xとしても、ハザードランプを点灯させた状態で駐車場前の路側帯に停車していたY車両を認識していたのであるから、この動静に注意すべきであったとして、Xに5%の過失を認めました。

まとめ

非常に丁寧な事実認定を行い、一つ一つの論点に判断を下している裁判例です。

過失割合にしろ、損害額にしろ、「どのような事実があるのか」ということが大切で、これを立証できるかが鍵となります。

本件でも、主治医の診断書や意見書の記載が重要視され、それに基づく事実認定がされていますので、通院期間を通して、主治医の先生とのコミュニケーションをうまくとり、自身の症状や医師としての見解を書面に固定化してもらっておくことが肝要となります。

ひとつの事実が認められるか否かで大きく賠償額が変わってくることもあるので、重度後遺障害が見込まれる場合には、お早めに弁護士にご相談いただき、後の立証に備えていただきたく思います。

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