東京事務所八重洲口「東京駅」徒歩3

宇都宮事務所西口「宇都宮駅」徒歩5

大宮事務所東口「大宮駅」徒歩3

小山事務所東口「小山駅」徒歩1

裁判例: 神経・精神

交通事故
神経・精神
首・腰のむちうち(捻挫)

14級9号の後遺障害を認めた裁判例【後遺障害14級9号】(東京地裁 平成15年1月28日判決)

事案の概要

X(原告:58歳女性)が、普通乗用車を道路左側に寄せて停止していたところ、後方からYの運転する普通乗用車に追突され、頚椎捻挫、腰部捻挫の傷害を負い、左上肢のしびれ、左手握力低下などの後遺障害を残したとして(自賠責非該当)、後遺障害等級12級を主張して訴えを提起した。

<主な争点>

後遺障害の有無及び内容

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 102万5734円 41万5823円
通院交通費 12万0180円 3万3580円
装具代 6万3669円 6万3669円
休業損害 825万7920円 364万8003円
入通院慰謝料 185万0000円 130万0000円
後遺障害逸失利益 2213万2475円 72万5499円
通院慰謝料 113万0000円 114万円0000円
後遺障害慰謝料 483万0000円 110万0000円
小計 3755万9978円 712万6574円
既往症 ▲20%
既払金 ▲395万7806円 ▲395万7806円
合計 3911万5412円 174万3454円

<Xの主張及びYの反論>

(1)後遺障害の有無及び内容

Xは、左下腿のしびれと痛みによる歩行障害があり、頚部のMRI検査により異常所見が認められ、医師による異常所見もあることから、後遺障害等級12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当すると主張しました。

その中でXは、サーモグラフィーによる検査により、身体の痛い箇所は血流が悪いために低体温となり青色に映るが、Xにしびれが残存する部分は、サーモグラフィーの検査により青色に映っている部分と一致していることから、同症状は他覚所見によって裏付けられていると主張しています。

これに対し、Yは、本件事故の形態及び衝撃の程度等を考えると、Xの主張するような後遺障害が生じることはあり得ない、後遺障害診断書には、本人の愁訴(患者自身の症状の訴え)による自覚症状が記載されているだけで、他覚的、客観的所見は何ら記載されていない、サーモグラフィーは単に疼痛部位を示すにすぎず本件事故と因果関係を示すものではないと反論しました。

本件でXに生じた傷害は、頚椎捻挫、腰部捻挫であり、いわゆるむち打ちと言われるものです。

むち打ちは、自覚症状が残っているにもかかわらず、後遺障害が認められるかについてはよく争われるところであり、認定されるかどうかも難しい症状です。
そこで、むち打ちについて少し説明をしたいと思います。

(2)むち打ちとは

いわゆるむち打ちは、交通事故でもっとも多い症状と言っても過言ではありません。
しかし、後遺障害認定を求めるにあたり、とてもやっかいな症状であるともいえます。

そもそも、むち打ちとは、正式な医学用語ではありません。診断書に記載される傷病名としては、「頚椎捻挫」「頚部挫傷」「外傷性頚部症候群」「外傷性頭頚部症候群」「むち打ち損傷」など様々です。

一応、むち打ちの医学的説明としては、「骨折や脱臼のない頚部脊柱の軟部支持組織(靭帯・椎間板・関節包・頚部筋群の筋、筋膜)の損傷」とされるのが一般的です。

そして、むち打ちがやっかいな症状であると述べたのは、痛みやしびれなどの自覚症状があるにもかかわらず、レントゲンやMRIで異常が発見されにくいという点です。また、MRIの結果、変性所見が認められたとしても、それが交通事故によって生じたものであるとの説明がつかないと判断されることもあります。

そこで、むち打ちで後遺障害認定を求めるにあたっては、検査結果や医師の意見が重要となってきます。

(3)むち打ちで後遺障害が認められるには

むち打ちは、自賠責保険における後遺障害認定において、局部の神経系統の障害として取り扱われます。
後遺障害等級としては、

12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」

14級9号の「局部に神経症状を残すもの」

の2つがありますが、この区分が客観的に明白になっているわけではありません。

ただ、実務的には、
12級13号は、「障害の存在が医学的に証明できるもの」
14級9号は、「障害の存在が医学的に説明可能なもの」あるいは「自覚症状が故意の誇張でないと医学的に推定されるもの」
であれば認定されています。
他方、自覚症状のみで、それに対する医学的説明すらないものは後遺障害非該当となります。

12級、14級のどちらに該当するか、あるいは非該当となるかは、上で述べたように、検査結果や医師の意見に影響されることになります。具体的には、他覚所見、すなわち画像所見や神経学的所見が認められるかどうかにかかってきます。

したがって、むち打ちで後遺障害認定を求めるためには、訴えられている症状に対して、どのような検査所見が、どのように、どの程度揃っているかを慎重に評価することが重要となります。

そこで、交通事故に遭ったら、早い段階でレントゲンやMRIを撮ったり、関節可動域や筋力、反射などの測定をして、たくさんの検査所見を集めるようにしましょう。

<判断のポイント>

本件に戻って裁判所の判断を見てみます。
Xは、本件事故により頚椎捻挫、腰部捻挫などの傷害を負ったが、その後同事故を契機として、左腕のしびれ感、脱力感などの神経症が出現し、同症状は悪化と軽快を一進一退に繰り返していると認定しました。
そして、CT、MRIなどの検査によって精神、神経障害が医学的に証明しえるものとは認められないものの、Xは受傷後から一貫して疼痛を訴えていること、医師作成の後遺障害診断書があること及び受傷時の状態や治療の経過などを総合すると、その訴えは医学上説明のつくものであり、故意に誇張された訴えではないと判断できるとして、後遺障害等級14級9号を認めました。

また、裁判所は、サーモグラフィーの検査により他覚所見があるとのXの主張に対しては、サーモグラフィーは、機能的な障害による温度変化から疾患の障害領域を判断できるメリットがあるにとどまり、本件事故によって神経障害が生じていることを医学的に証明しうるものではないとしました。

確かに、画像所見であっても、サーモグラフィーの所見は多くの要因によって変動しやすいため、再現性の点で劣り、客観性は低いとの指摘があり、本件でもそのような判断がされているようです。

ただ、MRI画像など他の他覚所見と併せることによって、医学的に説明ないし証明することは可能であり、そのように判断した裁判例もあります。

本件では、サーモグラフィーの検査結果を単独で見て、症状を医学的に証明することはできないと判断されていますが、検査結果は必ずしも固定的に評価されるものではありません。どのような検査がどの程度揃っているかを評価することが重要です。

Xにしびれが残存する部分は、サーモグラフィーの検査により青色に映っている部分と一致していることから、同症状は他覚所見によって裏付けられている。

まとめ

今回は、交通事故で多く生じるむち打ちに焦点を当てましたが、一口にむち打ちといっても、適切な賠償額を得るために考えなければならないことはたくさんあります。

後遺障害認定を求めるにあたり考えなければならないことは述べましたが、この他にも、そもそも治療費や休業損害がいつまで支払われるか、必要性・相当性を欠く診療(過剰診療)ではないかなど、むち打ちは、様々な場面で様々な問題が生じうる症状です。

たかがむち打ちと思って、あまり病院に行かなかったり、具体的に症状を伝えなかったりして適切な検査を受けないと、治療費や休業損害、後遺障害慰謝料で適切な賠償額が得られないかもしれません。

交通事故に遭われましたら、適切な賠償額を得るためにも、是非当事務所にご相談いただければと思います。

閉じる
交通事故
上肢
神経・精神

職業を重視して認定された等級以上の労働能力喪失率を認めた裁判例【後遺障害併合12級】(大阪地裁 平成18年6月16日判決)

事案の概要

交差点の横断歩道上のX運転の自転車に、Y運転の普通乗用車が衝突したという交通事故により、右肩・肘・膝の打撲傷、右肩関節外傷後拘縮、右上肢不全麻痺等の傷害を負ったXがYに対し、損害賠償を求めた事案。

Xの職業は画家だったが、本件事故によって利き手の右手が思うように使えなくなる、絵が書けなくなるなど、主に右上肢に運動機能障害、脱力感、知覚障害などの自覚症状が生じていた。自賠責保険からは、右肩関節の運動機能障害につき後遺障害等級12級6号、右手指の神経症状につき後遺障害等級12級12号(現13号)に該当するとされ、後遺障害等級併合11級の認定を受けていた(他の右膝関節の症状については非該当)。

<主な争点>

①右肩関節の運動機能障害と右手指の神経症状の後遺障害等級
②右手指の神経症状による労働能力喪失率

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 69万7490円 69万7490円
休業損害 294万6904円 254万6005円
傷害慰謝料 80万0000円 80万0000円
逸失利益 5850万0726円 1814万6213円
生活介護費用 441万1025円 0円
後遺障害慰謝料 390万0000円 390万0000円
小計 7125万6145円 2608万9708円
損害の填補 ▲547万8722円 ▲547万8722円
弁護士費用 600万0000円 200万0000円
合計 7177万7423円 2261万0986円

<判断のポイント>

(1)Xの右肩関節の運動機能障害については、自賠責保険から、腱板損傷後の拘縮により、患側の右肩関節の可動域が健側の左肩関節の4分の3まで制限されているとして12級6号の後遺障害が認定されていました。

しかし、裁判所は、症状固定前の検査では健側の4分の3まで制限されていたものの、症状固定後、しばらく経過した後に行われた検査では、可動域が改善され、健側の4分の3までは可動域が制限されていなかったこと、また、可動域制限以外に他覚的所見が認められないことを認定し、右肩関節の症状については、局部の神経症状として14級10号(現9号)に該当すると判断しました。

自賠責保険の後遺障害等級認定は、症状固定日までの症状の経過や治療状況、検査結果を記載した診断書等の書面に基づいて審査され、その審査の結果、認定基準を満たすと判断されれば、後遺障害と認定されることになります。

そのため、本件の自賠責保険の認定は、あくまでも症状固定日までの検査結果に基づくものとして、一概に誤った判断とは言い難いと思います。

他方で、後遺障害は、形式的には症状がずっと残ることが前提となっているので、症状固定後に症状が改善したことにより、後遺障害等級の認定基準を満たさなくなったということであれば、それは後遺障害等級には該当しないと判断されるのもいわば当然であり、裁判所の判断は妥当なものといえるでしょう。

(2)右手指の神経症状については、裁判所は、神経学的所見として、筋力低下や知覚障害、筋電図の異常所見が見られること、事故の態様からすると右腕神経叢不全損傷の可能性も否定できないことから、局部の頑固な神経症状として12級12号に該当すると判断しました。

この点、後遺障害等級12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」として認定されるためには、他覚的所見によって、神経症状の存在が医学的に証明される必要があります。

たとえば、骨折後に生じた神経症状であれば、骨がうまくくっ付いていない(癒合不全)の状態であることが、レントゲン画像によってはっきり分かる場合には、神経症状の存在が医学的に証明されているものとして、12級が認定される可能性は高いです。

この事案で裁判所は、Xの右手指の症状の原因として認定した、右腕神経叢不全損傷について、画像所見等が存在しないことから、「可能性も否定できない」と直接的な表現は避けていますが、神経学的検査の結果、多数の異常所見が認められることや、事故態様などにより、間接的に証明されたものとして12級の後遺障害を認定したものと思われます。

画像所見のような直接的な証拠がなくても、間接的な証拠の積み重ねによって、神経症状の存在が証明されるという、X側の立証活動が功を奏した例といえるのではないでしょうか。

(1)前置きが少し長くなりましたが、今回の事案で着目すべきは、裁判所が認定したXの労働能力喪失率です。

上記のように、右肩関節の運動機能障害について14級の局部の神経症状として認定された結果、Xの後遺障害等級は、併合11級ではなく、併合12級と、自賠責保険の認定よりも下の等級が認定されました。
もっとも、Xの労働能力喪失率について、裁判所は、Xが画家としての能力を喪失していると認められること、Xの年齢(症状固定時61歳)や経歴、後遺障害の程度を考えると、Xが就くことができる職業がかなり限られることを考慮すると、労働能力の喪失の割合は、一般的な事例と比較して大きく評価するのが相当であるとの判断を示しました。

そして、後遺障害の部位が右手指と右肩のみで、身体全体の機能はかなりの割合で維持されているため、Xの主張していた100%の労働能力の喪失は認めなかったものの、50%という喪失率を認定しました。

(2)後遺障害等級12級の労働能力喪失率の目安は、14%とされており、裁判所も、この目安に従って喪失率を認定するのが通常です。

もっとも、この喪失率はあくまでも目安に過ぎないため、それ以上に労働能力が喪失していることが立証されれば、より高い喪失率が認定されることもあります(逆に低い喪失率が認定される場合もあります)。

今回は、Xが、本件事故当時、画家として絵画教室を行い、また、描いた絵画を展覧会に出品し、販売するなど、絵画のみで生計を立てていたこと、後遺障害により利き手である右手で絵を描くことができなくなったことなどの事実が認定されており、これに61歳という年齢や経歴から、他の職業に就くことが難しいという事情も考慮されて、目安の14%を大きく上回る50%という労働能力喪失率が認定されました。

労働能力喪失率は、仕事にどれだけ影響を及ぼすか、という点が大きいため、後遺障害の程度もさることながら、被害者の方の職業やその職業と後遺障害が残存した身体の部位との関係が重視されます。

たとえば、骨盤や右橈骨の骨折後の神経症状につき併合14級が認定されたダンスのインストラクターについて、神経症状によって身体の部位の可動域が制限され、指導ができなくなったことなどから、同様に50%の労働能力の喪失を認めた裁判例もあります(札幌地裁平成27年2月27日判決)。

神経症状の後遺障害で50%という喪失率が認定されるのは、かなりレアケースですが、裁判では様々な事情が考慮されて、事実認定や評価が行われるため、目安とされる喪失率を超える割合を認定した事案は、少なからず存在します。

しかし、目安よりも高い喪失率が認定されるためには、その根拠となる事情についてしっかりと主張立証することが必要でしょう。

目安とされる労働能力喪失率や喪失期間よりも実際の影響が大きいと考えられる職業の方でも、示談交渉において、相手方の任意保険会社が目安より高い喪失率や喪失期間を認めることはかなり少なく、逆に目安よりも低い提示さえしてくることも珍しくありません。

相手方の提示に納得が行かないという場合には、まずはご相談いただければと思います。

閉じる
交通事故
上肢
神経・精神

関節の可動域制限における参考運動の重要性 【後遺障害14級9号】(東京地裁 平成25年12月18日判決)

事案の概要

平成19年2月23日午後7時28分頃、Xが丁字路交差点の横断歩道を歩行中に、交差点を右折しようとしたY運転の自動車に衝突され、第3・第4腰椎右横突起骨折、歯牙損傷、顔面打撲、全身打撲等の傷害を負ったため、Yに対し、損害賠償を求めた事案。

<主な争点>

①過失割合
②Xの左肩関節の可動域制限の後遺障害等級

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 73万8979円 17万4825円
通院交通費 111万5480円 4万0650円
食費 47万4500円 0円
宿泊費 41万5174円 19万2000円
雑費(入院雑費) 47万9817円 10万2000円
入院付添費 47万4500円 3万2500円
通院付添費 25万4100円 7万2600円
入通院慰謝料 122万0000円 122万0000円
後遺障害慰謝料 290万0000円 110万0000円
弁護士費用 350万0000円 35万0000円
小計 830万8151円 293万4575円
弁護士費用 81万5067円 30万0000円
合計 912万3218円 323万4575円

※治療関係費については、温泉費用、スポーツクラブの費用等が含まれており、これらは本件事故との相当因果関係のある損害であるとまでは認められないとされた。
※食費についても、事故の有無にかかわらず生じうるもので、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められないとされた。

<過失割合について>

・裁判所の判断

Y側は、本件事故が信号機の設置されていない横断歩道上の自己であったことや、Xが夜間では見えづらい黒っぽい服装であったこと、本件事故現場が車両や人の交通量が少ないため、車両がある程度速度を出して走行してくることもまったく予見不可能とまではいえないとして、Xにも前方不注視等の過失があり、少なくとも5%の過失相殺がされるべきであると主張しましたが、裁判所は、Y側のこの主張を認めませんでした。

・コメント

歩行者の、信号のない横断歩道の横断中の事故における基本的な過失割合は、歩行者0:車両10ですが、これらに修正要素が加わり、歩行者にも過失が出る場合があります。

本件事故は午後7時28分頃発生したもので、夜間に当たります。

夜間は暗いので、車の運転者側からすれば、歩行者の発見が昼間より難しいため、そのことは歩行者としても予測可能であるとして、通常は歩行者には過失が5%プラスに修正されることになるのです。

しかし、本件で裁判所は、Yが本件事故現場の交差点を右折するに当たって、横断歩道上の歩行者の有無に十分な注意を払っていなかったこと、Yが交差点を時速20km~25kmもの速度で漫然と通過しようとしたなどの著しい過失があったとして、Yにもさらに過失を加算する要素を認め、結局、Xには過失がないと認定したのです。

このように、本件は、Yにも過失を加算する要素があったために、プラスマイナスゼロでXの過失が認定されないという判断が下されましたが、仮にYにまったく過失を加算する要素がなかった場合には、Xにも多少であれ過失が認められたと考えられる事案です。

歩行者としては、横断歩道という渡ることが許された場所なのだから、自らの過失が認められることはないと思ってしまうかもしれませんが、実際にはそうとは限らない、ということは肝に銘じておいたほうがいいでしょう。

<左肩関節の可動域制限の後遺障害等級について>

・裁判所の判断

Xは、本件事故により、第3・第4腰椎右横突起骨折が発生するほどの全身打撲を受け、それによって、肩甲骨周囲筋(三角筋など)や、肩関節腱板等の腱、上腕から肩関節に付着する二頭筋、三頭筋の腱・筋などが損傷を受けたために、左肩関節の機能障害が発生し、左肩について、後遺障害等級第12級6号の「1上肢の3大関節中の1関節の機能に傷害を残すもの」の後遺障害に該当する、と主張しました。

しかし、裁判所は、これを否定し、Xの頚部及び腰部の神経症状についてのみ、後遺障害等級第14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当すると認定しました。

・コメント

肩関節の可動域制限(機能障害)については、重いものから、
後遺障害等級8級6号「上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」、
10級10号「上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」、
12級6号「上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」
の3段階に区分されます。

今回Xが主張した後遺障害等級12級6号は、健側(健康な方)に比して患側(怪我をしてしまった方)の可動域が4分の3以下に制限されている場合に、認定されることになります。

そしてこの可動域は、
屈曲(腕を下げた状態から、体に直角に腕を振り上げる動作)、
外転(腕を下げた状態から、体に平行に腕を振り上げる動作)
という「主要運動」と呼ばれる動作が、
他動でどの範囲までできるのかで測定されます。

そのため、健側が180°まで上がる場合、
主要運動のいずれかで患側が90°を超え、135°以下の範囲の制限が生じているときに、12級6号が認定されることになるのです。

本件では、後遺障害診断書の記載上、Xの肩の可動域は、外転について右の他動及び自動で各140°、左の他動及び自動で各110°、屈曲について右の他動及び自動で各150°、左の他動及び自動で各120°とされていました。

そのため、左肩の外転については、140°の4分の3に当たる105°以下に、屈曲については150°の4分の3に当たる115°(正確には112.5°ですが、判定は5°単位で切り上げされます)以下に制限されている必要があるため、外転、屈曲とも判定基準には5°足りず、4分の3以下という後遺障害12級6号の認定基準には達していないことになります。

もっとも、主要運動の可動域が基準をわずかに上回る場合、12級6号ではその関節の参考運動(伸展、外旋、内旋)が、4分の3以下に制限されているときは、後遺障害が認定されることになります。

そして、この「わずか」とは、12級6号の判断では、5°とされているため、本件では、外転、屈曲とも「基準をわずかに上回る場合」に当たり、参考運動が4分の3以下に制限されていれば、12級6号が認定される可能性がありました。

しかし、Xの後遺障害診断書には、参考運動の測定結果が記載されていなかったため、裁判所も、「原告(X)の患側の可動域は、いずれも健側の可動域の4分の3をわずかに上回っていることが認められ」る、としながらも、「参考運動が測定されていない以上、原告に左肩関節の機能障害を認めることは困難である。」と判示して、12級6号の後遺障害には該当しないと認定したのです(ただし、本件では症状固定時期も争点となっており、裁判所はXの主張する症状固定日よりも1年以上前の時点を症状固定時期と認定したため、この時点での可動域制限が明らかになっていなかったことも、非該当と認定した理由の1つとしています。)。

したがって、もし参考運動についてもきちんと測定されていたとしたら、Xの左肩関節の可動域制限について12級6号が認定されていた可能性があったかもしれません。

このように、主要運動が可動域制限の基準をわずかに上回っている場合、参考運動の測定結果が極めて重要となり、それを測定しているか否かで、賠償金額が大きく変わる可能性があるため、参考運動は決して軽視することができないものなのです。

以上のように、関節の可動域制限について後遺障害が認定されるためには、後遺障害診断書を作成してもらうに当たり、正しい方式で、必要な測定を漏れなく行ってもらうことが極めて重要ですが、お医者さんによっては、どのように測定すればいいのか、どこまで記載する必要があるのかを理解されていない場合もあります。

当事務所では、適切な後遺障害診断書の作成の仕方についてもお医者さんにご案内することで、被害者の方が適正な後遺障害等級認定を受けるお手伝いもしています。まずは当事務所まで一度ご連絡ください。

閉じる
交通事故
神経・精神
顔(目・耳・鼻・口)
高次脳機能障害

後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めた裁判例【後遺障害3級3号】(札幌高裁 平成30年6月29日判決)

事案の概要

4歳の男児X1が、市道を歩行横断中、Yの運転する大型貨物車に衝突され、脳挫傷、びまん性軸索損傷等の傷害を負い、症状固定後も残存した高次脳機能障害につき、後遺障害等級3級3号が認定された。

その後、X1とその両親X2及びX3は、Yに対して、将来介護費と後遺障害逸失利益については定期金賠償を求める形で、損害賠償請求訴訟を提起した。

<主な争点>

後遺障害の逸失利益の支払方法について、定期金賠償が認められるか

<本事案の経過>

(1)当事者の主張と第一審判決
本件では、X1が3級3号という重度の高次脳機能障害により、将来において単独で日常生活を送ることは到底不可能であるとして、将来介護費の定期金賠償を求めました。

また、本件事故によって労働能力が100%喪失したとして、男子学歴計全年齢の平均賃金を基礎収入として、18歳から67歳までの49年間にわたり、月1回の定期金賠償を命じる判決を求めました。

これに対しては、Yが、定期金賠償を求めている点を含め、逸失利益自体を争ったところ、第一審である札幌地裁(平成29年6月23日判決)は、判決において、X1の高次脳機能障害について、将来において完全に自立した生活を送ることができる見込みがないと認定したうえで、X1は本件事故により労働能力を完全に喪失したと認めました。

そしてそのうえで、逸失利益の定期金賠償の可否についても、X側が求めるとおりの算定方法により計算した金額の月1回の定期金賠償を認める判断を行いました。

(2)控訴審判決
控訴審判決も、第一審判決同様に、後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めました。

同判決は、その理由として、

①実務上定期金賠償が一般的に認められている将来介護費と比較した場合、事故発生時にその損害が一定の内容のものとして発生しているという点や、将来の時間的経過によって請求権が具体化するという点で、後遺障害逸失利益も共通していること

②定期金賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えについて規定する民訴法117条も、後遺障害逸失利益について、定期金賠償が命じられる可能性があることを前提にしていること

③本件におけるX1の後遺障害逸失利益については、将来の事情変更の可能性が比較的高いものと考えられること

④被害者側が定期金賠償によることを強く求めていること

⑤④が、後遺障害や賃金水準の変化への対応可能性といった定期金賠償の特質を踏まえた正当な理由によるものであること

⑥将来介護費について長期の定期金賠償が認められている以上、本件において後遺障害逸失利益について定期金賠償を認めても、Y側の損害賠償債務の支払管理等において特に過重な負担にはならないと考えられることを挙げました。

まとめ

(1)定期金賠償
定期金賠償とは、交通事故によって発生した損害の賠償方法のひとつで、その損害を一括ではなく分割して、将来にわたって定期的に賠償をする方法です。

定期金賠償は、損害の性質上、交通事故の場合に多くみられる一括払いの方法(一時金賠償)では不都合が生じると考えられる場合に用いられる方法で、たとえば、本件でも認められているように、一生涯にわたって他者による介護を要するような重度の障害を負ってしまった場合の将来介護費などは、現実にいつまで必要となるかが分からないので、「被害者が死亡するまで」、という不確定期間の定期金で支払が行われることが多いです。

定期金賠償については、色々なメリット・デメリットがあるのですが、この点についてもう少し詳細が知りたいという方は、当サイトの「定期金賠償のメリットデメリットを解説!一時金賠償方式との違いとは?」のコラムをご覧ください。

(2)本件について
本件では、第一審判決、控訴審判決のいずれも、後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めました。

将来介護費については、定期金賠償での請求方法が確立されているため、これを請求する場合、そのほとんどが定期金賠償の方法で行われていますが、これに対して、後遺障害逸失利益については、基本的に一時金賠償で請求されているため、後遺障害逸失利益の定期金賠償の可否について問題になることはありませんでした。

もっとも、上記①で指摘されているように、後遺障害逸失利益も、将来介護費と同様に、事故の時点で一定の内容として発生し、将来において具体化する損害という点で共通していますので、本来は、一時金賠償よりも定期金賠償になじむものといえます。

それにもかかわらず、後遺障害逸失利益については一時金賠償で請求されることが多いのは、第一審判決で指摘されている、適切な金額の算定が可能であり、多くの場合、被害者側が一時金による賠償を望んでいるから、という理由に尽きます。

そのため、被害者側が望み、また、定期金賠償によることが相当といえる場合には、定期金賠償を認めても何ら問題ないと考えられます。

そして、定期金賠償の方法が相当かどうか、という点について、控訴審判決は、上記③~⑥の事情を総合的に考慮して、これを認めたのです。

一時金賠償は、短期間にまとまった金額が得られるという意味でのメリットは大きいものの、中間利息控除によって、定期金賠償よりも得られる総額が少なくなる可能性があるというデメリットもあるため、どちらの方法も選択できるというのは、被害者にとって望ましいことといえるでしょう。

本事案は、後遺障害逸失利益についても定期金賠償が可能であるということを明確にしたという点で、大きな意義があるものといえます。

損害賠償の請求において、どのような方法をとることができるのか、そして、被害者の方にとってどの方法が一番望ましいか、具体的な事情に応じてそれを提案するのも、弁護士の役割であるといえます。

交通事故でお困りの方は、当事務所にご相談ください。

閉じる
交通事故
神経・精神
首・腰のむちうち(捻挫)

入院治療期間の相当性について判断をした裁判例(東京高裁平成26年4月24日判決)

事案の概要

X1(父)、X2(母)、X3(長女)、X4(次女)の4名の乗る普通乗用車が、交差点において赤信号で停止していたところ、その後方から来たY運転のタクシーに追突され、それぞれ、頚椎挫傷、腰部挫傷の傷害を負った。

Xらは、事故後、搬送された整形外科で治療を受け、頚部や腰部の疼痛、めまい、嘔気、上肢のしびれ等が激しいなどとして、全員について入院が必要と判断された。

そのため、Xらは別の整形外科に入院をし、X1は48日間、X2は36日間、X3は28日間、X4は36日間の入院治療を行った。

その後、XらがYに対して、損害賠償請求をしたところ、Y側はXらの治療の必要性・相当性を争ったため、XらがYに対して損害賠償請求訴訟を提起した。

<主な争点>

①Xらに入院治療の必要が認められるか否か
②必要性が認められるとしても、入院治療期間として相当であったか否か

<争点のポイント>

交通事故により負傷した場合、その治療にかかった費用の賠償責任は、加害者が負い、通常の場合、加害者の加入する任意保険会社が負担してくれますが、事故の態様や程度からすると負傷をしていない、もしくは負傷していても治療が過度になされていると判断した場合には、治療費の支払を拒んでくることがあります。

また、事故後しばらくは治療費の支払を認めていても、医療機関での通院記録などを見て、もはや治療の必要がない段階(症状固定)に至っていると判断する場合には、治療費の支払いを打ち切ってきます。

そして、裁判においても、治療の必要性や相当性がないと判断される場合には、加害者の治療費の支払義務は認められません。

ただし、どの程度の治療が必要なのか、相当なのかという判断は困難を伴い、特に、一見して外傷が明らかでないむち打ち症などについて、治療として相当な範囲を明確にすることは、裁判所であっても、極めて困難であるといえます。

本件においては、以下のとおり、Xらの入院治療の必要性が認められるか否か、認められるとしてもそれらの入院治療期間は相当な範囲にあったといえるか否かが争われました。

<Y側の主張>
本件事故により生じた物的損害は極めて軽微であり、また、Xらの症状や入院期間中の頻繁な外出等の事情をも考慮すると、入院の必要性は認められず、また、認められたとしても相当な入院期間は数日程度である。

<X側の主張>
Xらの入院は、病院や担当医師が入院の必要性があると判断したことによるもので、その判断は相当であり、Xらはその指示に従っただけである。また、Xらの症状は決して軽微ではなく、入院期間中の外出についても、やむを得ない事情があった。

(1)原審(地方裁判所)の判断

Xら及びYに主張について、原審の横浜地裁相模原支部(以下、単に「横浜地裁」といいます。)は、治療のための入院が相当な長期にわたらない限り、担当医師の裁量の範囲内であり、不相当とはいえないとして、Xら全員の入院治療の必要性、入院期間の全期間について相当性を認めました。

(2)高等裁判所の判断

上記のような原審の判断に対して、東京高裁は、入院治療の必要性を認めつつも、相当な入院期間の範囲については、X1については48日中17日、X2については36日中15日、X3については28日中4日、X4については36日中7日に限定して認定しました。

この判決においては、X1について、裁判所は、原審でX1の本件事故による傷害について相当と認められる入院治療期間は、10日間との鑑定されていたこと、X1が入院期間中に合計9回の外出もしくは外泊をしていたことを前提事実として、「それぞれの外出又は外泊には一応相当の理由が認められるものの、そのような外出や外泊が可能であったことは、上記鑑定結果のとおり、入院後約10日を経過したあとは通院治療が可能な状態になっていたことを推認させるものである。」と判示しました。

そのうえで、X1の症状に関する医学的意見書の内容を考慮して、X1が別の整形外科に転院するために退院した日までの17日間について、相当な入院期間であると認定されています。

まとめ

以上のように、Xらの入院の必要性については、地裁と高裁のいずれも認めていますが、入院期間の相当性については、判断が分かれています。

(1)横浜地裁の判断について
横浜地裁は、受傷後の症状の変化については予測が困難なため、被害者が医師に入院を要望したなどの特段の事情がない限り、被害者の症状やその変化を診ている医師が、入院治療が必要であると判断すれば、それはその医師の裁量の範囲内に属する判断として、入院期間が相当長期でなければ、不相当とはいえないとの認定基準を設定して判断しています。

横浜地裁の示した認定基準は、言ってしまえば、医師が治療のために入院が必要と判断すれば、明らかに相当でないような長期間でない限り、基本的には実際に入院した期間は相当な範囲であるとするものであり、これは、被害者にとってみれば、かなり有利な基準です。

ただ、このような基準では、被害者の実際の症状や治療の経過ではなく、医師の判断次第で相当か否かが判断されることになるため、第三者的な立場からみると、それが実態に即した公平な判断といえるのか疑問ではあります。

また、横浜地裁は、医師が相当と認めた入院期間については、「入院させなかったり、早期に退院させたときの方が後に病状が悪化した場合など医師の責任が問われかねない」ということも考慮されており、それも含めて医師の裁量であると考えられているようですが、被害者本人の症状に対する治療の相当性を考えるときに、本人に直接関わらない事情を考慮するのが適切妥当なのかも一考の余地があるでしょう。

(2)東京高裁の判断について
これに対して、東京高裁は、Xらの受傷の程度や外出の頻度等の事情、第三者による鑑定結果などの客観的な事実を総合的に考慮して、相当性を判断しています。この判断は、横浜地裁のある意味大雑把な認定にNGを出したものといえるでしょう。

確かに、担当医師は被害者の症状を直接診てきた医療の専門家であり、その判断が重視されるべきであることは間違いありません。

もっとも、裁判での事実認定は、裁判において提出されたすべての証拠に基づいて行われるものであるため、一部の証拠のみから判断されるべきでないのも事実です。

今回、東京高裁が重視したのは、Xらが入院中にもかかわらず、頻繁に外出をしていたという点です。

通常、入院が必要な患者さんとして考えられるのは、入院をしなければ怪我の治療に必要な処置や手術ができない場合や、歩行ができない、または困難であるために通院治療が難しい場合などです。しかし、Xらの怪我は頚椎捻挫や腰椎捻挫などに留まり、特に手術等が必要な場合ではなく、また、1度や2度に留まらず、頻繁に外出していたという事実は、歩行にも特に困難が生じていなかったことを推認させるものであるため、少なくとも外出ができるようになった時点で、入院を続ける必要はなくなったと考えるのが素直です。

東京高裁は、Xらには入院が必要であるとした医師の判断を尊重しつつも、実際のXらの行動などから通院治療が可能になった時期を判断しており、実態に即した相当な範囲の入院期間を認定したものといえるでしょう。

治療の必要性や相当性については、示談交渉の段階でもよく争いが生じる点の1つです。まだ症状が改善していない状態で、治療が必要でない、もしくは相当でないとして、相手方に治療費の支払を拒否されてしまうのは、被害者にとって、経済的にも精神的にも大きな負担となります。そのような場合は、弁護士にご相談をいただければと思います。

閉じる