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裁判例: 胸腹部

交通事故
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産道狭窄と逸失利益【後遺障害併合8級】(大阪地判平成17年1月31日)

事案の概要

車道を自転車走行中だったX(19歳・女性)は、すぐ横を通り過ぎようとした路線バスと接触し転倒。骨盤骨折等の傷害を負ったため、同バスの運行会社であるYらに対して、損害賠償の請求に及んだ。

<争点>

①Xに過失相殺されるだけの不注意があるか
②Xの後遺障害は何級か?
ⅰ)労働能力喪失率は何%か?
ⅱ)後遺障害慰謝料はいくらか?

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 209万8640円 199万9820円
付添看護費 109万8500円 109万5500円
交通費 38万7000円 4万1650円
消耗品費 36万2320円 36万2320円
休業損害 1003万8525円 497万9529円
逸失利益 5720万2846円 2586万2503円
将来分消耗品費 279万4298円 266万1229円
入通院慰謝料 280万0000円 280万0000円
後遺障害慰謝料 2000万0000円 1200万0000円
入院雑費 21万7100円 21万7100円
物損 1万0000円 1万0000円
損害のてん補 ▲936万5035円 ▲936万5035円
弁護士費用 900万0000円 400万0000円

<判断のポイント>

(1)Xに過失相殺されるだけの不注意があるか

①Xに過失相殺されるだけの不注意があるか  本件事故は、車道を走行する自転車と路線バスが接触して、自転車が転倒したものです。

この点、Y側からは「Xがふらついて勝手にぶつかってきた」「路側帯ではなく車道を走っているのが悪い」等の主張がされ、過失相殺がなされるか争われました。

裁判所は、刑事事件の記録上、Yの運転手が事故の原因を「自転車を追い抜いて行くことが分かっていながら、…対向車の動きにばかり気がいってしまい、相手の自転車に全然注意しなかったこと、それに、相手は私の車が追い越すときは、当然除けてくれるものと思って進んでしまったこと」と供述していることから、Y側に重大な不注意があったと判断しました。他方で、Xは自転車で走行をしていただけであるため、過失相殺は認められませんでした。

自転車は、道路交通法上は軽車両として車両に含んで扱われています。

そして車両は、路側帯と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならないと定められています。Y側は「路側帯を走らなければならなかった」と主張していますが、自転車が車道を走行することは法律上問題ありません。

もっとも、軽車両は自動車等に比べて走行速度が遅いため、車道を走行する際には左端に寄って走行し、追いつかれた際には適切な避譲措置をとることが求められます。

本件では、Xは路側帯寄りを走行していたため、特段過失相殺となるような不注意は認定されませんでした。

(2)Xの後遺障害は何級か?

Xは、本件事故によって身体の各部に傷害を負い、以下のような後遺障害が残存したと主張しました。

(1)人工肛門装着による身体の各所の痛み、全身の疲労感(後遺障害5級3号)
(2)骨盤骨変形(後遺障害12級5号)
(3)骨盤骨変形による通常分娩の困難性(後遺障害9級16号)
(4)外貌の醜状(後遺障害7級12号)
(5)右下肢の短縮(後遺障害13級8号)
(6)頭痛、右手痺れ感等(12級12号)

これらのうち、(1)、(2)、(5)、(6)については、裁判所はXの人工肛門による弊害や実際の就労状況等を詳細に認定した上で、それぞれ9級11号、12級5号、14級12号に該当すると認定しました。((5)については、(2)で評価されていると判断しました。)

また、(3)については、骨盤骨が変形し、それによって賛同が競作し、通常分娩が困難な状況となっていることを認定しながらも、労働能力には影響しないため逸失利益の算定には考慮しないとし、具体的に後遺障害何級に該当する、という判断はしませんでした。

(4)について、Xは人工肛門になってしまったこと及び背部や大腿部に小さな瘢痕があることを主張していましたが、人工肛門自体は外貌醜状とはいえないし、瘢痕も大きさが規定に達しないことから、後遺障害には該当しないと判断しましたが、慰謝料の算定に考慮するとしました。

以上から、裁判所はXの後遺障害を併合8級と判断し、労働能力喪失率は45%と認定しました。

しかし、裁判所は「女性でありながら生涯にわたり人工肛門を装着しなければならないこと、骨盤骨の変形によって産道が狭窄し、通常分娩が困難な状況にあるといえること、腹部や大腿部などに複数の醜状痕をのこしていること」などから、後遺障害慰謝料は8級の基準額である830万円を大きく超える1200万円を認定しました。

まとめ

昨今、自転車の交通ルールについて厳罰化が進められ、それに伴い自転車側に過失があるという主張は以前より強まっているように感じます。

本件事故は平成9年のものなので、厳罰化傾向となる前ですが、現在の道路交通法に照らしても、Xには特に過失相殺すべき不注意は認められないでしょう。

自転車は歩行者よりも高速度かつ制動困難であり、自動車に比べればはるかに脆弱なので、交通ルールをしっかり守って、万が一に備えることが重要といえます。

なお、上述のとおり自転車を含む軽車両は、歩道と車道が区別してある場合には原則として車道を走行しなければなりません。

しかし、歩行者の通行を著しく妨げない限り道路左側の路側帯を通行することもできますし、車道を走行することが危険である場合には歩道を走行することもできます。

自動車や歩行者の妨害にならないように、臨機応変な運行が求められますが、なによりも優先すべきは、自身や他人の安全ということですね。

本事案で注目すべきところは、後遺障害の認定の仕方です。一般的には後遺障害の認定がされた場合、その認定された等級にあわせた後遺障害慰謝料と逸失利益が認められます。

これらは、各等級である程度の基準化がなされています。例えば、後遺障害8級の場合には、慰謝料は830万円、逸失利益の算定の基となる労働能力喪失率は45%となります。

もっとも、残存障害によって肉体的精神的に受ける損害と、労働に関して生じる支障は必ずしもリンクしないこともあります。

例えば、外貌醜状であれば、精神的には大きなダメージを受けるでしょうが、顔に傷痕が残ることは必ずしもお仕事上の支障や収入減にはつながらないでしょう。

そうすると、「後遺障害が何級か?」ということと、「後遺障害慰謝料がいくらか?」及び「逸失利益はいくらになるか?」ということは、論理必然性がないことになります。

そこで本裁判例では、まずXに残存している症状をひとつひとつ認定した上で、それが労働能力に影響を与えているかを検討しています。

その意味では、骨盤骨変形による通常分娩の困難性や、人工肛門装着等は、労働能力には影響しないとしています。

しかし、それらの症状が残存しているのは確かであるため、これらが与える精神的損害は確かに存在するとして、後遺障害慰謝料を後遺障害8級どころか、6級をも上回る1200万円もの金額を認めています。

これは、非常に合理的な認定のされ方のように思われます。特に本件のように負傷部位が多く、様々な症状が残存しているような事案においては、それらを一律に「後遺障害」という言葉で論じていては、具体的で妥当な解決には結びつきません。

重要なのは、その症状が仕事にどのような影響を与えるか?ということと、その症状が精神や肉体にどのような影響を与えているか?ということです。

これらを裁判所に適切に認めてもらうには、地道な立証作業が必要です。

傷害部位や残存症状が多い場合には、是非とも弁護士にご相談ください。

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交通事故
胸腹部

加害者の重大な不注意の持つ意味【後遺障害7級5号】(神戸地判平成17年7月21日)

事案の概要

Xは、普通乗用自動車に乗車しトンネル内を走行していたところ、Yの運転する普通乗用自動車が対向車線からセンターラインをオーバーしてきてX車両に衝突。

Xは、これにより膵損傷、腹腔内膿瘍、大動脈解離等の傷害を追ったため、Yに対して損害賠償請求をした。

<争点>

①過失相殺が認められるか?
→Xはシートベルトをしていなかったため、これによって過失相殺がされるか。
②既往症減額が認められるか?
→Xは糖尿病及び高血圧の既往歴があるとして、これによって損害額が減額されるか。
③損害額は?
→将来の治療費や逸失利益など、適正な金額はいくらか。

<主張及び認定>

主張 認定
将来の治療費 34万3988円 28万7689円
入院雑費 25万4800円 25万4800円
付添看護費 117万6000円 97万9000円
休業損害 942万3372円 714万2916円
入通院慰謝料 400万0000円 350万0000円
後遺症慰謝料 2800万0000円 1000万0000円
逸失利益 2222万9688円 476万5689円
家屋改造費 1301万4605円 46万2953円
既払金 ▲863万3090円 ▲863万3090円
逸失利益 2億2133万7678円 1億4443万5642円
弁護士費用 500万0000円 180万0000円
合計 6179万4758円 2009万7004円

 

<判断のポイント>

(1)過失相殺について

本件事故では、Xにシートベルト不着用という車両運転者としては基本的な義務違反があります。

この点、本裁判例は「原告が本件事故により負った傷害の部位、内容からすると、シートベルトの不着用が原告に生じた損害の拡大に影響していることは否定し難く、この点において、原告にも落ち度がなかったとは言い難い」と説示しています。

つまり、もしもXがシートベルトを着用していれば、膵損傷などの重篤な損害が生じていなかったかもしれないので、Xの損害結果についてはシートベルトの不着用が関係している可能性があるといっているのです。

通常であれば、このようにXの側の落ち度で損害が拡大している場合には、損害の公平な分担という見地から、賠償額が一定範囲で減額されてしまいます。

しかし、本件事故では、Yの側にはさらに重大な不注意が多数ありました。Yは、本件事故当時、酒気帯び運転のうえ法定速度を30キロメートルも超過しており、さらにカーステレオの操作に気をとられて前方を注視せず、センターラインをオーバーしています。

このように、Yの側に自動車運転者として看過しがたい過失が複数ある以上、Xの落ち度を理由に過失相殺することは逆に損害の公平な分担にならないとして、過失相殺を否定しました。

シートベルトを着用していないというのは一般的には大きな落ち度ですが、本件ではそれを超える重大な過失がYにあったために、過失相殺が否定されたという、珍しい判断です。

(2)既往症減額について

もし、被害者に固有の既往症や疾病があり、それが事故と相まって重大な損害を生じさせた場合には、発生した損害を事故だけのせいにすることは公平とは言えない場合があります。

既往症減額とは、そのような事故以外の原因が被害者にある場合に、その割合によって賠償額を減額する考え方をいいます。

本件では、Xには既往症として糖尿病及び高血圧があり、これによって大動脈解離が引き起こされたという主張がありました。

もっとも、Xの糖尿病及び高血圧が軽度であったこと、本件事故の態様からすると事故のみによる受傷によっても現実に生じた障害結果が発生した蓋然性が相当あるといえることから、本件では既往症減額は否定されました。

(3)損害額について

一般に症状固定後の治療費は認められませんが、固定した症状の悪化を防ぐために定期的なケアが必要である場合には、将来分の治療費が認められることがあります。

本件では、Xは大動脈解離の傷害を被っており、この悪化を防ぐための血圧コントロール等が継続的に必要でした。

そこで、Xは今後の通院頻度と1月あたりの治療費から、将来分の治療費を請求し、必要な範囲で認められました。

また、本件ではXの後遺障害の重さも問題となりました。

Xは訴訟提起の前に後遺障害等級第7級5号に該当していましたが、Xは請求段階では第1級相当の後遺障害が残っているという主張で損害額を算定しています。

もっとも、この点については、Xの具体的な症状を判断した上で、判決においても第7級5号の後遺障害であると認められ、これに相当する慰謝料及び逸失利益が認定されました。

まとめ

本裁判例のポイントは、Xのシートベルト不着用や高血圧などが、損害発生と関係ないとは言えないとした上で、実際の事故態様と照らし合わせて、損害額の減額は相当ではないと判断しているところです。

これは、Yの運転態様や衝突の仕方について、適切に証拠により立証できたことから出された判断だと思われます。

事故状況の立証はとても難しい問題がある場合が多いため、専門家である弁護士と綿密な事前準備が必要となります。

損害額についても、適切に判断されていると思われます。

裁判所は、請求金額以上の金額は認定できないという決まりがあります。

たとえば、裁判官が原告の損害額を1000万円だと思ったとしても、原告が100万円しか請求していなかった場合には、100万円までしか判決できません。

そのため、弁護士はあえて妥当な金額よりも高めに請求をするということがよくあります。

本件では、Xの労働能力喪失率を100%とする主張で請求していたため、認定金額が大きく下がったようにみえますが、後遺障害7級であることを前提とすれば、ほぼ適切な金額での判決がなされていると言えます。

このように、どの程度の認定がされそうか、そのためにどの程度の請求をすべきかという点も専門的な知識や経験に基づく判断が必要となるのです。

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交通事故
胸腹部

残存する腎臓でも生体活動を維持していくうえでの機能はあり、食事制限・運動制限は不要とされても、後遺障害等級13級に応じた逸失利益を認めた事例【後遺障害13級11号】(横浜地方裁判所川崎支部判決 平成28年5月31日)

事案の概要

Y(被告)運転の普通貨物自動車が、交差点の横断歩道を歩行中のX(原告:3歳女児)に衝突しXを転倒させ、Xの背中等を礫過した。

Xは、左前頭葉急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、後頭骨骨折、左腎茎部損傷、後腹膜血腫、左肺挫傷、右第10、11肋骨骨折、両側気胸の傷害を負い、「胸腹部臓器の機能に障害を残すもの」として自賠責13級11号後遺障害認定を受け、Yに対して、1132万7409円を求めて訴えを提起した。

<争点>

① Xの後遺障害の程度
② Xの逸失利益の有無

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 358万5850円 358万5850円
装具代 2万8737円 2万8737円
文書代 1万0500円 1万0500円
入院付添費・X母の休業損害 69万8600円 69万8600円
保育料及び入院雑費 29万7463円 29万7463円
付添人交通費 3万7240円 3万7240円
後遺症による逸失利益 370万1249円 370万1249円
傷害慰謝料 90万円 120万円
後遺障害慰謝料 420万円 230万円
小計 1345万9639円 1185万9639円
既払金 ▲347万2230円 ▲347万2230円
弁護士費用 134万円 83万円
合計 1132万7409円 921万7409円

<判断のポイント>

本件においては、事故により、Xは左の腎臓の動脈断裂があり、腎臓への血流が絶たれ、左腎の機能を完全に喪失してしまいました。

もっとも、右の腎臓は正常に機能しており、一つの腎臓でも生体活動をしていくうえでの機能は最低限あり、訴え提起時点では食事制限や運動制限、透析などの腎代替療法は不要とされていました。

そこで、本件では、一つの腎臓の機能喪失の後遺障害を負ったXにつき、残存する腎臓でも生体活動を維持していくうえでの機能はあり、食事制限・運動制限は不要とされていても逸失利益は認められるのか、また、Xが事故当時3歳の女児であることから、将来の損害である逸失利益につき、考慮要素が極めて限定されることから、どの程度まで算定根拠を立証すればいいのかが争われました。

(1)Xの後遺障害の程度

・腎臓の障害について
腎臓は、さまざまな働きをしていますが、最も重要なのは体内を流れる血液を糸球体(毛細血管が糸玉のように球状に集まったもの)で濾過してきれいにするとともに、血液から取り除いた老廃物を尿として体外に排出することです。

なお、健康な成人男性の場合、1日あたりの排泄尿の量は約1.5Lとなります。

他方で、糸球体で1分間に濾過される血液の量は100ml~110mlであり、1日あたりに換算すると144Lにもなります。

ということは、濾過された血液の99%は体内へ再吸収されることになります。

この腎臓の機能が正常に働かないと、老廃物が体外に排出されなくなり、糖尿病や慢性糸球体腎炎、腎硬化症などさまざまな症状を引き起こすことになります。

血液量も増えるため、血圧が上がり高血圧も引き起こします。そして高血圧が長く続くと、最悪の場合、脳卒中や心筋梗塞などを起こすこともあります。

腎臓が正常に働いているかどうかは、糸球体できちんと濾過されているかどうかであることから、後遺障害の認定についても、腎臓の亡失の有無及び糸球体濾過値(GFR)による腎機能の低下の程度により判断されることになります。

GFRの値 31~50ml/分 51~70ml/分 71~92ml/分 91ml/分
腎臓の亡失 7級 9級 11級 13級
腎臓を失っていない 9級 11級 13級

*GFRとは、1分間に糸球体で濾過される血液の量のことです。正常な場合は、100ml~110ml/分です。

・X及びYの主張
Xは、本件事故により左の腎臓が完全に喪失したこと、これにより総腎機能としては70%前後になるにとどまり、予備力がない状態であること、一時的にせよ、糸球体濾過値(GFR)の数値が「胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの」(後遺障害等級11級10号)に当たる、89.8ml/分を示すなど、左腎像を喪失したことによって残存している右腎臓にそれ相応の負担がかかっていると主張しました。

また、そのために、今後食事や活動に制限がかかる障害へと進行する可能性が否定できない状態にあることから、一つの腎臓でも生体活動をしていくうえでの機能があるとはいえ、右腎臓にできるだけ負担を掛けない生活をすることを一生涯余儀なくされ、一生涯にわたって重労働に従事することを控えることになると主張しました。

これに対してYは、右腎臓は正常であり、Xが主張するGFR値89.8mlの結果を出した検査手法は「eGFR」であり、その検査結果は特に子どもの場合には腎機能を正確に測定できない欠点があること、他方、事故から約3年後に行われた24時間クレアチニンクリアランス法は、少ない負担で比較的正確なGFR値を得られ、臨床上広く利用されている検査手法であるところ、これによって111.9ml/分という正常値を出しているため、腎機能は正常であると判断されると反論しました。

・裁判所の判断
X及びYの主張に対して裁判所は、以下のとおり判断しました。

Xの左腎の機能喪失の後遺障害についてみると、現時点におけるXの右腎臓の機能は正常であり、ひとつの腎臓でも生体活動を維持していくうえでの機能は最低限あるとされ、現時点で食事制限、運動制限は不要と診断されている。

しかし、成長過程にある小児の腎機能として固定はしていないと考えられ、今後身体の成長とともに相対的に腎機能が低下してくる可能性が高いと思われると診断されている。また、Xの右腎臓の腎機能は予備力がない状態であり、定期的な医師の検査と診察を受ける必要があり、通常であれば問題がないレベルのイベントでも、食事や活動に制限がかかる障害へ進行する可能性は否定できないと診断されている。

そのため、Xにおいては、残存する右腎臓の腎機能にできるだけ負担を掛けない生活上の不利益を受け、あるいは就労上の配慮を要することになることが十分に予測することができるのであり、右腎臓が外傷や疾患によりその機能を失ったときは腎機能が全廃になり、透析療法か腎移植の療法によらざるを得なくなり、場合によっては生命を失う危険性もあることから、そのような生活上、就労上の配慮が欠かせないと考えられるとしました。

(2)Xの逸失利益の有無

・X及びYの主張
Xは、後遺障害等級が13級であったことから、その労働能力喪失率は9%であり、就労の始期は18歳であり、就労の終期は67歳であるから、男女を含む全労働者の全年齢。学歴計平均賃金を基礎年収額(470万5700円)とすると、Xの逸失利益は370万1249円が相当と主張しました。

これに対してYは、上記のとおり、腎機能については何ら問題が生じておらず、医学的にも、腎臓が片方あれば基本的に生活上の支障はなく、食事制限や運動制限も特段必要とされていない、また、Xの右腎臓に問題が発生する可能はあるものの、それはあくまで可能性が否定できないというレベルの想定であり、それをもって労働能力の喪失の要素と見るべきではないとし、逸失利益は認められないと主張しました。

また、仮に逸失利益が認められるとしても、基礎収入額については、女子労働者学歴計全年齢平均賃金(355万9000円)の限度で認められるべきであると主張しました。

・裁判所の判断
X及びYの主張に対して裁判所は、以下のとおり判断しました。

後遺症を負った被害者が幼児ないし年少者の場合の逸失利益の算定においては、被害者の就業が遠い将来のことであり、未だ就業に就いていないために、事故前後の稼働状況や収入の変化等を考慮すること自体不可能であり、労働生活における不便、不都合の有無も感得することができない。

また、将来の昇級、昇進、転職等に際して不利益な取扱いを受けるおそれや失業の可能性を具体的に認定することは困難である。

しかし、その算定困難の故をもって逸失利益を否定するのは妥当なことではなく、被害者の後遺障害等級及びその労働能力喪失率の主張立証は、被害者が提出する有力な証拠資料としてそれに見合った労働能力の喪失の程度及びこれによる逸失利益があることを事実上推定させ、これにより一応の立証がされるものと解するのが相当である。

したがって、Xは、左腎機能の全廃により後遺障害等級である9%程度の労働能力を喪失しており、これに見合った逸失利益があると事実上推定され、一応認めることができるとし、この認定を否定する証拠はない。

そして、女子年少者の逸失利益の計算における基礎収入額は、女性労働者の全年例平均ではなく、男女を含む全労働者の全年齢平均で算定するのが一般的であるとし、Xの主張したとおりの370万1249円を認めました。

まとめ

本件では、片方の腎臓の全廃により後遺障害等級13級が認められたにもかかわらず、もう片方の腎臓の機能が失われておらず、生体活動を維持していくうえで支障はないことから逸失利益が認められないと争われています。また、逸失利益の証明の程度についても争われています。

このように、交通事故被害による訴訟では、法的な知識はもちろん、医学的な専門知識も必要となります。これは、訴訟に限らず、相手方の保険会社などと交渉する場合も同様です。ある程度はインターネットなどで調べることも可能ですが、時間もかかりそれが本当に正しいのか不安もあるところです。

当事務所は、交通事故に強く医学的知見に深い弁護士がたくさんいますし、弁護士であれば医療照会などを作成して医師に意見を聞くこともできます。

今の症状でどのくらいの賠償額を請求することができるのか、お悩みの方は是非当事務所にご相談いただければと思います。

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