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裁判例: 下肢

交通事故
下肢
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就活中の被害者の逸失利益を、事故前年収入の7割を基礎収入として計算した事例【後遺障害併合12級】(さいたま地裁 平成30年12月28日判決)

<事案の概要>

Xは、見通しの悪いカーブ地点で自動二輪車を運転走行中、対向車線のY運転の乗用車に衝突され、右肩甲骨骨折、右鎖骨遠位端骨折、左大腿骨転子部骨折等の傷害を負った。

Xは、自賠責保険より、右肩につき後遺障害等級12級6号に該当する関節機能障害、左大腿部痛につき14級9号に該当する神経症状が認定されたため、併合12級の後遺障害が残存したとして、Yに損害賠償を請求した。

<主な争点>

1 過失割合
2 逸失利益を算定するに当たっての基礎収入額

<請求額及び認定額>

<X1の損害>

主張 認定
治療費 232万7370円 232万7370円
入院雑費 12万0000円 12万0000円
通院交通費 6375円 6375円
休業損害 462万2950円 231万1475円
入通院慰謝料 230万0000円 230万0000円
逸失利益 754万8312円 528万3818円
後遺障害慰謝料 290万0000円 290万0000円
小計 1982万5007円 1524万9020円
高額療養費還付金 ▲100万4981円 ▲100万4981円
過失相殺(4割) ▲609万9608円
人身傷害補償保険金 ▲574万4606円 ▲4万6990円
物損 48万9602円 27万6392円
過失相殺(4割) ▲11万0557円
人損+物損 1356万5022円 866万5268円
弁護士費用 130万0000円 87万0000円
確定遅延損害金 29万4290円 29万4016円
合計 1515万9312円 982万29284円

<過失割合について>

本件事故は、見通しの悪いカーブ地点において、X運転の自動二輪車が道路中央部分を走行していたため、対向車線を走行していたY車に衝突したものです。

裁判所は、事故現場の道路は、中央線がない峠道で、右カーブで見通しの悪い状況にあったことから、Y車は道路左側を進行して、また、対向車両との衝突を回避する措置を採り得る適切な速度に減速して走行すべき義務を負っていたにもかかわらず、中央部分を若干はみ出し、また、十分に徐行していなかったとして、Yに上記の義務違反を認定しました。

他方、Xについても、本件道路の左側を走行すべき義務があるにもかかわらず道路中央部分を走行していた、また、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転すべき安全運転義務があったにもかかわらず、十分に減速することなく走行していたとして、注意義務違反を認定しました。

そして、本件事故の原因がX・Y双方が本件道路の中央部分を走行したことにあるとして、Xの過失割合を4割、Yの過失割合を6割としました。

道路交通法17条4項では、車両は、道路(車道)の中央から左の部分を通行しなければならない、と定められており、本件事故に関しては、X、Y双方とも道路の中央寄りを走行していたという点において、道交法違反が認められます。

この場合、どちらも同程度の過失が認められると考えられますが、Xのほうが自動二輪車で普通乗用車よりも優先して保護される立場にあったことから、Xに1割有利に考えてXを4割、Yを6割と過失割合を認定したのだと思われます。

<逸失利益を算定するに当たっての基礎収入額について>

本件においてもうひとつ争いとなったのが、Xの逸失利益を算定するに当たっての基礎収入の金額です。

Xは本件事故の約3か月前に前職を退職し、事故の前日に就職活動で会社の面接を受け、採用が決まりかけていたものの、本件事故が原因で就職がなくなったという事情がありました。

面接を受けた会社では、月額15万円の給与が予定されていたことから、裁判所は、本件事故によって生じた休業損害については、同額を基礎収入として算定しました。

一方、逸失利益については、Xが前職の会社で事故前年に得ていた収入が約420万円であったことから、裁判所は、基礎収入の金額を休業損害と同様に月額15万円(年額180万円)とするのは相当でないとし、少なくとも、前職の年収の7割に当たる約295万円収入を得られる蓋然性が認められるとして、これを基礎収入として逸失利益を算定しました。

逸失利益は、その算定の基礎とすべき収入に、後遺障害による労働能力喪失率と、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて計算します。

そして、通常は、事故前年の年収額を基礎収入とすることが多いのですが、事故当時に職に就いていない場合、事故前年に収入があっても、それをそのまま基礎収入とすることは困難です。

なぜなら、逸失利益は、あくまでも後遺障害によって将来にわたって得られるはずの収入が得られなくなったことに対する補償なので、事故当時に就職していなければ、事故前年と同様の収入額が得られるとは認められないからです。

もっとも、事故前年の年収額は、被害者が、事故当時、どれだけ収入を得る能力を有しているかを、一定程度示す指標となり得るため、全額は認められなくとも、ある程度事故前年の年収に寄せた金額を基礎収入とする手法は、よく用いられています。

本件でも、裁判所は、Xの事故前年の年収からすると、事故当時就職予定であった会社の当初収入では、Xの逸失利益を適切に算定することはできないと考えて、Xの事故前年の年収を基準に、その7割を基礎収入としたのです。

後遺障害による逸失利益は、基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間のいずれもが適切な数値で計算されないと、認定される金額が大きく減ってしまう可能性があります。ご自身に生じた後遺障害の逸失利益はどれくらいが適正なのかとお悩みの方は、弁護士にご相談ください。

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自賠責非該当の左足関節機能障害について10級10号を認めた裁判例【後遺障害10級10号】

事案の概要

交差点を自転車で進行中のXが、左方一時停止道路から進入してきたY運転車両に衝突され、頚椎捻挫、左第5中足骨骨折等の傷害を負ったXが、Yに対し損害賠償を求めた事案。

Xの右肩・肘関節疼痛については、自賠責保険から、局部の神経症状として後遺障害14級9号の認定を受け、左足の関節機能障害については非該当との認定を受けていた。

Xは、裁判において右肩関節について10級10号の、左足関節について10級11号の関節機能障害がそれぞれ生じているとして併合9級を主張していた。

<主な争点>

右肩・左足の関節機能障害の後遺障害等級

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 106万9224円 106万9224円
通院交通費 42万4480円 42万4480円
通院看護料 15万0920円 15万0920円
休業損害 230万5888円 125万8111円
通院慰謝料 193万7000円 120万0000円
逸失利益 1631万7170円 1258万7531円円
後遺障害慰謝料 690万0000円 510万0000円
小計 2910万4682円 2179万0266円
過失相殺(1割) ▲217万9026円
既払金 ▲422万6216円 ▲422万6216円
弁護士費用 240万0000円 154万0000円
合計 2727万8466円 1692万5023円

<判断のポイント>

(1)Xは、右肩の神経学的検査やMRI画像所見から、右肩腱板損傷が生じ、それにより右肩の関節可動域が左肩の可動域角度の2分の1以下に制限されているとして、10級10号の関節機能障害に該当すると主張しました。

(2)しかし、裁判所は、事故からまもない時期に作成された診断書に右肩に関する傷害の記載がなく、その際に画像撮影も行われていないこと、診療録上は腱板損傷を窺わせる記載や画像所見の記載がないことなどの理由から、右肩腱板損傷の存在を否定し、右肩に生じている可動域制限と本件事故との因果関係を否定しました。

そのうえで、右肩・肘関節の疼痛については、自賠責保険の認定どおり、14級9号と認めました。

(1)Xは、左足関節自体は骨折していないものの、左第5中足骨骨折による内出血が原因で長期間腫れが生じ、軟部組織が炎症を起こすなどして生じた癒着状態が関節機能障害の原因となっているとして、10級11号の関節機能障害に該当すると主張しました。

(2)この点について、裁判所は、まず、事故直後に左足に長期間腫れが続き、内出血が生じていた事実を認定しました。

そのうえで、関節拘縮の発生機序に関する医師の詳細な意見書に基づき、Xの左足に認められる関節拘縮による可動域制限は、左足の腫れや内出血による関節組織周辺の筋短縮や血流障害等の器質的原因によるものであると認めました。

これに加え、事故態様からもXの左足はかなりの衝撃を受けたと認められるとして、本件事故との因果関係も認め、Xの主張どおり、10級11号の後遺障害等級を認定しました。

まとめ

本件では、右肩の後遺障害については、Xの主張する腱板損傷は否認されましたが、左足の後遺障害については、関節拘縮による可動域制限が認められ、10級11号の認定がされました。

裁判所がこのような認定に至るうえで、特に重視されたのは、医師の意見書だと思われます。

医師の意見書は、その医師の医学的な知見に基づいて、患者に生じている症状が、どのような原因で生じていると考えられるものなのかや、その発生メカニズムなどを、合理的な説明を交えつつ、作成されるものです。

その内容が説得力を有するものであればあるほど、証拠としての価値も高く、後遺障害の認定判断において重視されると言えるでしょう。

本件についていえば、長期間の腫れや内出血が原因で可動域制限を伴うような関節拘縮が生じるかどうか、という点がポイントになっていたものと思われます。

この点について、X側の提出した医師の意見書では、関節拘縮の発生要因として、腫れや内出血等、皮膚、皮下組織の異常を挙げており、また、関節拘縮の生じるメカニズムについても、詳細な説明がなされていました。

そして、裁判所は、この意見書の内容に依拠し、Xに事故後長期間にわたって腫れや内出血が生じていたという事実に基づき、関節拘縮による可動域制限を認定したのです。

このように、医師の意見書は、裁判所が後遺障害等級の認定判断を行うにあたって参考にされるものとして、とても大きな役割を持つものであるため、被害者側としては、充実かつ説得力のある内容の意見書が得られるか否かが重要になるのです。

本件のように、自賠責でも認定されなかった後遺障害等級を裁判所から認定してもらえるケースは、それほど多くはありません。

しかし、裁判所は、自賠責の判断には拘束されずに判断するので、しっかりとした意見書などの証拠が得られれば、自賠責で認定されなくとも、適切な等級認定が得られる可能性があるのも事実です。

後遺障害等級の認定について悩まれている方は、まずは弊所まで一度ご相談ください。

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交通事故
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事故後に発症した右半月板損傷について右膝関節外側痛を認めた事例 【後遺障害12級相当】

事案の概要

X(原告:44歳男性)が、自動二輪車を運転して片側2車線道路の左側車線を進行中、右側車線から左側車線に車線変更したY運転の自動二輪車に接触し転倒、右足挫滅創、右足関節内骨折及び右母趾屈筋腱障害等の傷害を負い、また、二次性のものとして右膝半月板を損傷し、12級右母基部底側痛の他、12級右膝関節機能障害があり、後遺障害等級併合11級に相当するとして、既払金484万5508円を除いた2905万0623円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>

①Xの傷害、後遺障害の有無、逸失利益
②Xの過失の程度と過失相殺の可否

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 307万5061円 307万3061円
雑費 1万1587円 3152円
休業損害 228万8466円 228万8466円
後遺障害逸失利益 1970万3736円 1379万2615円
通院慰謝料 200万0000円 200万0000円
後遺障害慰謝料 400万0000円 350万0000円
物損 1万3000円 6500円
装具費等 18万7186円 18万7186円
小計 3109万1850円 2485万0980円
過失相殺 ▲5%
既払金 ▲484万5508円 ▲484万5508円
弁護士費用 260万0000円 188万0000円
合計 2884万6342円 2064万2923円

<判断のポイント>

① Xの傷害、後遺障害の有無、逸失利益

(本件事故と右膝半月板損傷の因果関係)
本件において、Xは、本件事故により、右足挫滅創、右足関節内骨折、右母趾屈筋腱障害の他、右膝半月板を損傷したと主張したのに対し、Yは、右膝半月板損傷については、本件事故発生時には認められず、本件事故から3年以上経過して初めて同傷害の診断がなされているので、因果関係が認められないと主張しました。

因果関係は、その事故が原因でその傷害が生じたことが相当であるといえる場合に認められるものです。

交通事故事件においては、通常は、事故によって直接発症した傷害について因果関係が認められます。

もっとも、本件において裁判所は、Xは、本件事故によって走行中の自動二輪車から路上に転倒したことにより、ほぼ全身に及ぶ挫創、挫傷の傷害を負ったが、特に右足については、右足挫滅創、右距骨骨挫傷、右母趾屈筋腱損傷の傷害を負い、そのため、長期間にわたり右足をかばって歩くなどしたことから、右膝に負担がかかり、右膝半月板損傷が生じるに至ったものと認められるとしています。

すなわち、右膝半月板損傷は、本件事故によって直接発症した傷害ではないものの、本件事故が原因で右足をかばって歩くことになりその結果生じたものであるとして、本件事故との間の因果関係を認めています。

<後遺障害の有無>

また、Xは、右母趾屈筋腱の損傷癒着により、右母趾関節の運動が制限され、歩行時に右母趾基部の底側に激しい痛みが生じている、また、右膝に痛みと運動制限があるとして、右母趾及び右膝の各後遺障害は12級13号に該当し、併合して後遺障害11級に相当すると主張しました。

これに対して裁判所は、後遺障害として、右膝関節外側の痛みのほか、右母趾基部底側の痛み、右母趾のMP関節及びIP関節の屈曲が困難であるなどの関節可動域制限が残存したものと認められると判断しました。

すなわち、交通事故との因果関係が認められた右膝半月板損傷が、右膝関節外側の痛みとして後遺障害まで認められたことになります。

また、ここで、MP関節や屈曲という言葉が出て来たので、その説明ついでに足の母趾関節にどのくらいの可動域制限が認められれば後遺障害が認められるのか確認します。

足の母趾関節については、医学的には、指先に近い方からIP関節、MP関節といいます。

そして、いずれかの関節の正常可動域の合計値が3分の1以下に制限された場合、「足指の用を廃した」といい、1足の母趾の用を廃したときには、12級11号の後遺障害等級が認定されます。

IP関節では、60°曲げる(屈曲といいます)ことができれば正常とされていることから、その3分の1である30°以下の屈曲しか認められないのであれば用廃が認められます。

また、MP関節では、35°曲げることができ、60°反らす(伸展といいます)ことができれば正常とされていることから、その合計値である95°の3分の1以下の屈曲及び伸展しか認められないのであれば用廃が認められます。

本件に戻りますが、裁判所は明確に後遺障害等級について言及はしなかったものの、後遺障害慰謝料として350万円を認めました。

Xがどのような仕事や日常生活をしておりどのくらいの苦痛が生じているかによっても慰謝料は左右されますが、後遺障害等級12級が290万円であることから、裁判所は少なくともXの後遺障害について12級相当は認めていると判断したと考えられます。

<逸失利益について>

Xは、後遺障害等級併合11級を前提に、労働能力喪失率を20%、労働能力喪失期間を就労可能年数の19年と主張したのに対し、Yは、労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は最大でも3年間であると主張しました。

裁判所は、上で述べたように、右膝関節外側の痛みなどを後遺障害と認めており、これらを前提に、労働能力喪失率は14%、労働能力喪失率はXの主張のとおり19年と認めました。

なお、後遺障害等級12級の場合、通常、労働能力喪失率は14%とされることから、この点についても、裁判所はXの後遺障害を12級相当と認めていると考えられます。

ここでも、右膝半月板損傷が、交通事故によって生じた傷害と判断され、後遺障害も認められたことによって、逸失利益の判断においても考慮されています。

② Xの過失の程度と過失相殺の可否

左側車線を走行していたXは、Yが右折の指示器を出したまま走行していたにもかかわらず、突然、左側車線に進入しXの進路方向に入ってきたことから、急ブレーキをかけ右方向に避けようとしたものの間に合わず、接触し転倒したと主張しました。

これに対してYは、右折の指示器は出しておらず左折の指示器を出して、後方を確認した上で左側車線に進入したと反論しました。

本件では、Yが左側車線進入の直前に右折指示器を出していたかどうかが争われています。

裁判所は、尋問において、Yが左側の方向指示器を点灯させたか否か記憶があいまいであるどころか、右側の方向指示器を点灯させた可能性まであることも述べるなど、あいまいな供述をしており、Yの主張は認められないとしました。

一方で、Xについても、Y車両を左方から追い抜くにあたって、その動静について十分慎重に確認していたならば、本件事故を回避し得た可能性があったとは否定し難いとして、5%の過失を認めています。

まとめ

本件では、右足挫滅創等を負ったXが事故時に発症していなかった右膝半月板損傷について、右足をかばって歩くなどしたことから負担がかかって生じたとして事故との因果関係を認めたことが注目されます。

そして、母趾関節の可動域制限などを障害と認め、それらを前提に、後遺障害等級12級相当である14%の労働能力喪失率を認めています。

仮に、右膝半月板損傷について、本件事故との間の因果関係を否定されていたら、後遺障害慰謝料や逸失利益の額に大きな差が生じていたでしょう。

交通事故には、因果関係や後遺障害の有無、逸失利益の算定、過失割合など、難しい法的判断が伴うものもあり、個人で適切な賠償額を請求するのは困難な場合があります。

適切な賠償額を請求するためにも、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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自転車vs自動車 ~傘差し運転の過失割合【後遺障害12級13号相当】

事案の概要

X(原告:64歳女性)が、交差点で傘を差して自転車に搭乗中、衝突までXに気付かなかったY(被告:83歳男性)運転の乗用車に出会頭に衝突され、左大腿骨転子下骨折、左下腿打撲等の傷害を負い、約1年2ヶ月入通院して、自賠責14級9号後遺障害認定を受けたが、12級7号または13号左股関節部の疼痛、14級9号左足関節の痛み等から併合12級後遺障害を残したとして、既払金201万8006円を控除し、1354万3374円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>

①Xの過失の程度と過失相殺の可否
②Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 151万8006円 151万8006円
入院雑費 9万9000円 9万9000円
通院交通費 1793円 1793円
文書料 1万0800円 1万0800円
装具購入費 1万9300円 1万9300円
休業損害 246万5545円 124万3400円
後遺障害逸失利益 440万1436円 236万7911円
入通院慰謝料 225万0000円 200万0000円
後遺障害慰謝料 350万0000円 280万0000円
物損 9万5500円 9550円
過失相殺 ▲15%
既払金 ▲201万8006円 ▲201万8006円
弁護士費用 120万0000円 65万0000円
合計 1354万3374円 719万1290円

<判断のポイント>

① Xの過失の程度と過失相殺の可否

本件の具体的な検討に入る前に、過失や過失相殺について少し説明をします。

過失とは、ざっくりと言えば不注意のことを言います(法律的には客観的注意義務違反といいます)。

そして過失相殺とは、被害者が加害者に対して損害賠償請求をする場合、被害者にも過失があったときに、公平の観点から、損害賠償額を減額することを言います。

その減額の度合いは過失割合で決まります。

交通事故においては、過失割合は事故態様に応じて類型化されており、ある程度決まっています。

実務においては、判例タイムズ社という出版社が出している「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本が使われていますが、これは裁判例をもとにして過失割合の基準が決められています。

典型的な事故の場合には、その基準をそのまま用いる場合もありますが、ある程度修正要素も定められており、個別具体的な事情に応じて過失割合の修正がなされます(あくまで目安ですが)。

例えば、本件のように、自転車と四輪者が信号のない同幅員の交差点で出会いがしらの衝突事故に遭った場合、基本的には自転車が2割、自動車が8割の過失があるとされます(20:80と表現されます)。

ただ、自転車の側が児童や高齢者である場合には被害者の過失割合から-5の修正を行い(すなわち15:85)、自動車に著しい過失(要はひどい不注意)がある場合には被害者の過失割合から-10の修正を行うとされています(すなわち10:90となります)。

過失割合は、上で述べたように、過失相殺で減額する度合いを言いますから、被害者が請求できる損害賠償額にかかわってきます。

つまり、被害者が怪我をして100万円の損害が生じている場合、20:80の過失割合であるときには、被害者は80万円の請求しかできないことになります。

それでは、これらの点を踏まえて本件の裁判例を見てみたいと思います。

本件では、Xは、高齢者に準ずる者であること、Y車の速度の点やY車が衝突するまでX車に気付かない点でYに著しい過失があることからすれば、過失相殺すべき事案ではないと主張しています。

これに対してYは、Y車がX車の左方車であり優先関係にあること、Xが折りたたみ傘を持って片手運転をしていたことから、Yの過失割合を加重する理由にはならないと反論しました。

この点につき裁判所は、Yには、X車と衝突した後にすら、右方から進入してきたX車について、左方から進入してきたと当初思っていたほどX車の発見が遅れたことからすれば、Yには前方不注視及び交差道路の安全不確認という点で、一般的に想定される程度以上の著しい過失があるとしました。

また、Xには、右手に傘を差したまま片手で自転車を運転した点、左方のY車を発見したにもかかわらず停止するものと軽信して進行したことについて過失があるとする一方、64歳であり注意力・判断力が低下しがちな要保護性の高い存在であることも考慮すべきとしました。

その結果、Xに15%の過失相殺を行うのが相当と判断しました。

上で述べた過失相殺の例のように、目安としては、自転車の運転者が高齢者の場合は-5、相手に著しい過失がある場合は-10を、被害者の過失割合において修正します。

もっとも本件では、その両方が考慮されているにもかかわらず、Xに15%の過失割合が認定されています。

すなわち、Xの傘差し運転などの過失が相当程度考慮されていることがわかります。

近年、自転車事故が多くなり、取り締まりや罰則も厳しくなっていることからも、この裁判例の結論は妥当なものと言えるでしょう。

② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

本件では、Xの後遺障害逸失利益も争点となりました。

Xは、左股関節部につき12級7号又は12級13号、左足関節部につき14級9号、左下肢の醜状につき準114級とされるべきで、併合12級が相当であると主張し、Yは全面的に否認しました。

裁判所は、Xは、本件事故により左大腿骨転子下骨折の傷害を負い、インプラント(髄内釘)を固定する手術を受けたこと、骨癒合が完成し症状固定時まで一貫して疼痛を訴えていたこと、症状固定時において疼痛が残存し、担当医師は症状固定時においても大転子部にインプラント突出部位があることが疼痛の原因となっている旨診断していることを認定しました。

そのうえで、Xの左臀部の疼痛は、インプラントの突出部位の刺激によると説明でき、この症状は疼痛と整合する部位にインプラントが残置されていることに裏付けられ、医師の診断もあることから、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害等級12級13号に該当すると判断しました。

まとめ

本件は、自転車と自動車の事故を紹介しました。

そして、例に出した事故態様だと、過失割合は20:80が基準となります。

ここで、そもそも修正前の過失割合が、自動車の側に不利になっていることに疑問をもたれる方もいらっしゃると思います。

もっとも、これは自動車の方がスピードも出るし車体が大きく安定性があるので、自転車と自動車が衝突した場合、双方の損害に必然的に差が生じることからです。

そこで、交通事故を避けるべき注意義務は、自動車の側に大きく課されることになります。

そして、修正を行って適正な過失割合を決めて賠償額を確定するのですが、過失割合は本件のように様々な事情を考慮して決められるものです。

過失割合が5%も違えば、賠償額も大きく異なります。

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事故前の怪我の影響【後遺障害併合12級相当】

事案の概要

X(原告:32歳女性)が、交差点を歩行横断中、左後方から右折してきたY(被告)が運転する普通乗用自動車に衝突されて転倒し、腰椎捻挫、頚椎不安定症、外傷後梨状筋症候群坐骨神経痛等の傷害を負ったため、約2年1ヶ月入通院して自賠責併合12級後遺障害認定を受け、Yに対して訴えを提起した。

<主な争点>

① 本件事故の具体的態様と過失相殺の可否
② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容
③ 素因減額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 480万5037円 628万5427円
入院雑費 2万5500円 2万5500円
入院看護費 10万2000円 0円
通院看護費 129万9000円 0円
通院交通費 84万8650円 84万8650円
文書料 53万7419円 50万5319円
装具購入費 30万5450円 0円
休業損害 769万8684円 384万9342円
後遺障害逸失利益 846万8701円 765万3645円
入通院慰謝料 380万0000円 260万0000円
後遺障害慰謝料 400万0000円 280万0000円
素因減額 ▲20%
過失相殺 ▲5%
既払金 ▲1609万7690円 ▲1760万円7812円
弁護士費用 158万0000円 10万0000円
合計 2663万5841円 116万3778円

<判断のポイント>

① 本件事故の具体的態様と過失相殺の可否

本件では、Yは、Xに20%の過失があると主張しているのに対して、Xは、道路横断前に左右の安全を確認し、かつ、左方の安全を確認した際には、左後方の一旦停止線を越えて進入してきている車両がないことを確認しており、必要十分な安全確認を行っているとして過失はないと主張していました。

この点につき裁判所は、Xにおいても、右折車が走行してくることは予測することができたのに、左方の状況を十分確認していたとは認められないから、本件事故の発生については、原告にも左方の状況を十分確認しなかった点で過失があるとし、本件では5%の過失相殺をするのが相当であると判示しました。

ここでは、原告が、現に衝突までYの運転する自動車の存在に気付いていないことが認定されてしまい、左方の安全確認が不十分であるとして5%の過失相殺がされてしまいました。

② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

Xは、上記の傷害結果を負い、左臀部から左下肢にかけての痛み等の症状が残存していることから、自賠責の認定通り後遺障害等級12級13号に該当すると主張しました。

これに対してYは、Xはもともと坐骨神経が梨状筋の中を通過するタイプDという坐骨神経痛が発症しやすい稀有な身体条件を備えていたこと、本件事故以前から坐骨神経痛を訴えていたことなどから、Xの罹患した梨状筋症候群は本件事故前からあったものであり、本件事故で発症したものではないとして、事故との因果関係は認められないと主張しました。

そもそも、梨状筋症候群とは、尾骨の上にある三角形の仙骨と大腿骨の付け根の大転子とをつなぐ梨状筋という筋肉(要はおしりの筋肉の1つです)が原因で生ずる鈍痛のことをいいます。

これは、骨盤から足にかけて伸びている神経(坐骨神経といいます)が梨状筋部で圧迫を受けることによって現れる痛みです。

そして、坐骨神経が骨盤から足に至る経路は4タイプあります。

その中にYが主張している坐骨神経が神経幹として梨状筋を貫通するタイプがあり、それは全体の約1%という割合と確かに稀有なタイプではあります。

しかし、裁判所は、ⅰ本件事故によりXは、衝突地点から約1,2メートル離れた地点で臀部や肘をついて転倒したと認定でき、このような事故態様からXに加わった衝撃は相当程度のものであったと推認できること

ⅱ通院していた整骨院で、本件事故前の施術録には記載されていなかった「左臀部利状M」との記載が本件事故の施術録にあること

ⅲ本件事故前から訴えていた痛みの範囲が本件事故により広がり、さらに痺れも訴えるようになっていること

から、本件事故とXの梨状筋症候群発症との間には相当因果関係が認められるとしました。

そして、頚椎捻挫・頚椎不安定症に伴う頚部から肩甲部にかけての疼痛等及び腰痛も認めたうえ、自賠責同様併合12級の後遺障害等級を認めました。

ただ、Yの主張した坐骨神経のタイプには結局触れずに、事故態様や施術録の記録、本人の自覚症状から後遺障害を認定しています。

このように、本人の自覚症状と客観的な記録が矛盾なく整合している場合には、後遺障害等級は認定されやすいことがわかります。

③ 素因減額

まず、「素因減額」とは、交通事故による損害の発生・拡大が、被害者自身の素因に原因がある場合に、賠償金を減額することをいいます。つまり、何らかの怪我や病気を抱えている人が交通事故に遭い、その怪我や病気がひどくなった場合には、全ての損害に対する補償を加害者に負担させることは公平性に欠けるということで、ひどくなった分の補償額部分が減額されることになります。

本件でも、Yから、本件事故の負荷の程度、発症時期、Xの身体的特徴を考えると、Xの症状に寄与した割合が圧倒的に大きいから、70%程度の減額を行うことが公平であると主張していました。

この点につき裁判所は、Xは本件事故前にも腰痛、左臀部痛、左坐骨神経痛という症状が出ており、左梨状筋を切除した後も後遺障害が残ったことに照らせば、Xの既往症(過去にかかった病気で現在は治癒しているものをいいます)が影響していると考えられると述べ、20%を同素因によるものとして減額するのが相当であると判示しています。

まとめ

本件のように、交通事故においては、過失割合や素因減額など様々な要素が考慮されて賠償額を確定することは少なくありません。

そして、訴訟においては、そのような要素を立証するために多くの事実を用いて裁判官を説得しなければなりません。

訴訟でなくても、保険会社と過失割合などについて話し合うためには、ある程度の法的知識が必要になってきます。

交通事故に遭い、保険会社から過失割合の話をされて、判断に困ってしまったら、是非当事務所の弁護士にご相談ください。

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