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裁判例: 顔(目・耳・鼻・口)

交通事故
外貌醜状
神経・精神
顔(目・耳・鼻・口)

ぶつけていないほうの目も…!?【後遺障害併合7級】(東京地方裁判所平成21年12月10日 )

事案の概要

国道において、Y1運転のタクシーが、駐車あるいは停車中の事業用大型貨物自動車(Xが乗客として乗っていた)の後部に、時速約70キロメートルの速度で追突。

XはY1(タクシー運転者)とY2(タクシー会社)に対して、損害賠償請求をした事案。

Xは、外傷性くも膜下出血、左眼球破裂、左頬骨骨折、頸椎椎体骨折、脳挫傷等の傷害を負い、自賠責保険からは、異議申立を経た上で、①左眼球破裂に伴う左眼球の摘出(目脂の腐敗臭、左眼球摘出後流涙を含む。)について、1眼を失明したものとして後遺障害等級8級1号に、②左眼瞼の障害(左眼瞼のまつげはげを含む。)について、1眼の瞼に著しい欠損を残すものとして同11級3号に、③頭部外傷に伴う脳挫傷痕の残存について、局部にがん固な神経症状を残すものとして同12級12号に、④左頬骨骨折後の頬部知覚障害について、局部にがん固な神経症状を残すものとして同12級12号に、⑤鼻骨骨折に伴う骨・軟骨性斜鼻、気管切開術に伴う頸部の瘢痕について、男子の外貌に醜状を残すものとして同14級11号にそれぞれ該当するとして自賠等級併合7級適用に該当するとの判断がなされた。

<争点>

その他の後遺障害(特に右眼の視力低下)がXにあるといえるか
:因果関係の有無、素因減額の可否

<主張及び認定>

主張 認定
入院雑費 22万5000円 22万5000円
通院交通費 3万8480円 3万8480円
付添看護費 34万4500円 34万4500円
通院付添費 10万2300円 10万2300円
逸失利益 1億2656万9633円 3743万1739円
入通院慰謝料 500万0000円 400万0000円
後遺障害慰謝料 2100万0000円 1200万0000円
弁護士費用 1071万8377円 200万0000円

<判断のポイント>

①外傷のない右眼の視力低下と事故との間に因果関係があるか
②素因減額すべきか
③保険金や年金を損害賠償金の元本に充当すべきか

交通事故による「後遺障害」といえるためには、その残ってしまった症状と事故との間に「因果関係」がある、つまり“その事故から、この症状が生じた”といえる必要があります。

本件では、「右眼の視力が低下したというけれども、右眼はぶつけていないのだから、事故から生じたものとはいえないのでは?」という点が問題となりました。

X側は、右眼の視力低下については、①器質的病変が認められる検査結果は得られていないが、あくまで検査結果として認められていないだけで、現実に器質的病変が存する余地はあるし、仮にそうでなかったとしても、②本件事故により心因性の視力低下を発症したとも考えられる。

また、③自賠責の等級認定において、頭部画像上、脳挫傷痕の残遺が指摘されていること、家族の日常生活状況報告書によれば性格変化が指摘されていること、主治医の所見においても、神経学的に明らかにとらえられる後遺症はないが、本人の話から総合的に判断すると、性格変化の可能性があると指摘されていることからすると、本件事故により、原告に高次脳機能障害が残存し、そのために右目の視力が低下したと考えることもできるし,④①~③の事情が複合的に作用し、このような症状が生じたと考えることも十分可能であるとして、様々な角度から因果関係があることを主張しました。

これに対し、裁判所は、②事故により心因性の視力障害を発症したものと判断しました。

具体的には、右眼について器質的病変は認められないものの、(ⅰ)心因性視力障害の特徴とされる求心性視野狭窄や螺旋状視野の所見がみられ、視力の測定値が変動していること等から、心因性の視力低下であると認めることが相当であるとしたうえで、(ⅱ)右眼の視力低下は事故の発生及び事故による傷害を契機として出現していることは明白であること、本件事故の態様は激しいものであったこと、Xは事故により重篤かつ多数の傷害を負ったものであり、特に左眼を摘出して失明するという深刻な傷害を負い、その後もこれに付随して症状が継続していること、Xが本件事故により甚だしい衝撃・苦痛を受け、かつこれが継続していることは明らかであるとして、本件事故と右眼視力低下との間に相当因果関係を認めたのです。

つまり、裁判所は、Xの右眼の視力低下は(ⅰ)心因性のものであること、(ⅱ)事故によって引き起こされた心の状態が視力低下の原因となったと判断しました。

また、本件では「素因減額」も問題となりました。

「素因減額」とは、要するに“被害者側の要因で損害が大きくなっている場合には、その分加害者が払うべき賠償額は少なくする”という考え方です。「心因性」も“被害者側の要因”といえるのではないかということで、本件でも問題になったのです。

本件では、裁判所は、慰謝料(カ・キ)や逸失利益(オ)の算定にあたり、右眼の視力低下にはXの神経質な性格など本件事故以外の要因が寄与していること等を考慮しましたが、その他の項目を含めた全体について「素因減額」はしないとしました。

外傷による症状のように分かりやすいものではなく、「心因性」による症状となると、そもそも因果関係が認められないとする裁判例もあります。

また、因果関係が認められたとしても、「素因減額」すべきとする裁判例もあるのです。

さらに、本件では、Xがもらった保険金や年金が損害の“どこ”に充当されるべきか問題となりました。

Xは自賠責保険、労災保険、国民年金及び厚生年金から、Xに残ってしまった障害の重さに応じた保険金や年金を受け取っていました。

このような保険金や年金は、Xに生じた“損害の穴”を“埋める”ものであるため、法的にYに請求できる損害賠償金はその分“減る”と考えられます。

ただ、“損害の穴”には2つあり、1つは損害賠償金の「元本」、もう1つは「遅延損害金」と呼ばれています。

「遅延損害金」は簡単に言えば、損害賠償金に生じる“利息”のようなものです。法的には、事故が発生した瞬間から、加害者は被害者に対して、損害賠償しなければならず、損害賠償金の「元本」について、事故発生日から“利息”のように「遅延損害金」が少しずつ発生するのです。

保険金や返金が「遅延損害金」の穴を埋めるものだとすれば、損害賠償金の「元本」は減らないので、そこにまた「遅延損害金」が発生していくことになり、最終的な損害賠償額(損害賠償金の元本+遅延損害金)は大きくなります。

反対に、損害賠償金の「元本」の穴を埋めるものだとすれば、損害賠償金の「元本」が減るので、そこから発生する「遅延損害金」も小さくなり、最終的な損害賠償額が小さくなるのです。

Xとしては、保険金も年金も「「遅延損害金」の穴を埋めるものだ!」と主張しましたが、裁判所は、①自賠責保険からの保険金については「不法行為に基づく損害賠償債務の支払の性格を有する」ので、「遅延損害金」の穴を埋めるものだが、②労災保険や国民年金、厚生年金からの年金については、「いずれも加害者の損害賠償責任を前提とするものではなく、支給額全額が労働者や受給権者に生じた障害に対する給付」であり、「これらの給付がされた場合は、給付者である政府はその給付の価額の限度で損害賠償請求権を取得することとされ、給付額の一部が損害賠償金の遅延損害金に充当されることを予定しているとは解されない」として、損害賠償金の「元本」の穴を埋めるものと判断しました。

裁判所の判断の前提として、事故の「損害賠償」としてなされた支払いは、まず、「遅延損害金」の穴を埋めるという考え方があります。

自賠責保険からの保険金は、「損害賠償」の性質があるけれど、労災保険等からの年金は「損害賠償」ではないし、また、労災保険等からの年金の場合、「支払を受けた分だけ、加害者に損害賠償請求権できる立場が被害者から政府に移る」という仕組みになっていることを考えても、労災保険等からの年金は損害賠償金の「元本」の穴を埋めるものと考えるべきと、裁判所は判断したのです。

まとめ

どのような理屈で「因果関係」が認められるか、どのような事情があれば「因果関係」が認められるか、弁護士でも見通しが難しいことがあります。

それに加え、本件ではもう一つのハードルとして「素因減額」の可能性が立ちはだかりました。

このような場合に、最終的に勝ち取れる金額をあらかじめ見通すことは極めて困難です。

しかし、本件のように訴訟提起したことにより、自賠では認められなかった症状(右眼の視力低下についても、「後遺障害」として裁判所に認めてもらい、併合の等級も1つ上がることもあるのです。

必ずしも成功することばかりではありませんが、適切な賠償を目指す場合には、難しい問題や高いハードルにもチャレンジしていく必要があるということが分かりますね。

チャレンジしたい!そんなときは、ぜひ当事務所にご相談ください。全力でサポートさせていただきます。

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事故と早産の影響【後遺障害4級相当】(東京地判平成4年11月13日)

事案の概要

Yは2トン車両で制限速度時速40キロメートルの道路を、時速約50キロメートルで走行中に前方不注意により被害車両に追突した。被害車両は追突の衝撃でさらに前方車両へ衝突し、玉突き事故となった。

なお、被害車両にはAが乗車しており、AはXを身ごもっていた。

事故から約2ヵ月後に、AはXを妊娠7ヶ月で出産したが、Xは難聴及び精神発達遅滞等の障害を有していた。

Xは同障害を事故によるものであるとして、Yに損害賠償の請求をした。

<争点>
・Xの障害が、本件事故によって発生したものといえるか
・Xの労働能力喪失率はどの程度か

<主張及び認定>

主張 認定
逸失利益 2724万7631円 1777万1372円
後遺障害慰謝料 1373万0000円 600万0000円

<判断のポイント>

(1)Xの障害が、本件事故によって発生したものといえるか

本件は、事故時に胎児だったXが、障害をもって産まれたことで、同障害は事故によって生じたものであるという主張がなされ、裁判所はこれを認めました。

事故の加害者に対する損害賠償請求が認められるためには、その損害が事故によって発生したものであるという因果関係の立証が必要になります。

そしてこの因果関係の立証は、事故から時間が経てば経つほど難しくなるのが通常です。

本件では、
①事故によって、早産となった
②早産によって、障害が生じた

という二つの因果関係を立証することによって、障害の発生と事故との因果関係を結びつけることに成功しました。

①事故によって、早産となったこと
本件では、Xは妊娠7ヶ月で誕生しており、これは明らかに早産であるといえます。

したがって問題は、この早産が事故の影響によるものといえるかどうかという点です。

本件では、まず、事故前には母子ともに健康で、特段の異常はないことが確認されています。

そのような状況の中、2トン車が時速50キロメートルで追突をし、かつ玉突き事故になっているという本件事故状況からすると、Aには相当強度な衝撃が加わったと裁判所は推察しました。

また、Aは、本件事故前は健康であったにもかかわらず、本件事故後に性器出血、腹部の緊張、下腹部痛等の異常が出現していました。これらの異常は一時的におさまるも、結局事故から2ヵ月後、Xは妊娠7ヶ月で産まれるに至っています。

これらの事実からすれば、Xの早産は、本件事故による母体Aへの衝撃が影響しているといえ、Xは本件事故によって、早産となったと認定されました。

②早産によって、障害が生じたこと
Xの障害は、聴覚障害、言語発達遅滞及び精神発達遅滞です。

これらの障害について、脳や鼓膜に器質的損傷はなく、事故の衝撃で直接Xが怪我を負った、障害が発生したと考えるのは、難しいところです。

しかし、X及びAの診察をした医師らは、「未熟児が感音性難聴になる比率はきわめて高い」「低体重出生の場合、先天性難聴の発症が普通の10倍になる」ことに加え、Xが仮死状態であったことから「仮死状態での出産は脳の酸素欠乏状態が継続することにより高度難聴や精神運動発達遅滞となる確率が高い」と意見を述べました。

これらの意見によれば、Xの障害は、未成熟児として仮死状態での早産が原因であるとは、医学上いえそうだということになります。

裁判所は、上記①及び②を認定することによって、Xに生じた障害はつまるところ事故によって発生したものであるという、因果関係を肯定しました。

(2)Xの労働能力喪失率はどの程度か

Xに事故による障害が残存し、これが治癒の見込がないのであれば、通常の交通事故受傷と同様に、後遺障害の判断をすることになります。

本件では、Xは生まれながらに障害を負うこととなり、聴力は全周波数域で80デシベル以上の損失であり、知能指数は3歳11ヶ月の時点でIQは60~69程度となっている。

これらの症状について、裁判所は後遺障害等級の4級に相当すると判断しました。

ここで問題となるのは、Xの労働能力喪失率です。

成人が後遺障害を負った場合には、その時点から労働能力の喪失が認められ、将来得られるはずだった賃金について逸失利益が生じます。

しかし、本件ではXは未だ3歳11ヶ月であり、実際に(年齢的に)労働に従事することができるようになるまでには、かなりの期間を要します。

したがって、必ずしも現在時点での障害の程度が、将来の労働に影響するとはいえないことになるのです。

本件で裁判所は、「難聴自体には改善の可能性はほとんどみられない」としつつ、「比較的早期の時点から、難聴や精神発達遅滞の用事・自動のための専門的施設で教育・訓練を受けていることが認められることから、その将来の労働に従事する年齢に達した際の労働能力の低下やこれに伴う収入減については、通常人に比して60パーセントが減じられたものとみるのが相当」と認定し、労働能力喪失率を60%と判断しました。

通常、自賠責保険においては、後遺障害4級であれば92%もの労働能力喪失が規定されています。しかし本件では労働可能年齢になるまでに相当の訓練をすることが可能である点から、労働能力喪失率が再検討されたものです。

まとめ

日本の民法上、権利の主体となるためには、原則として出生することが求められます。

つまり、胎児の状態では、どのような障害が生じたとしても、胎児からの損害賠償請求はできないのです。

他方で、事故から時を経て出生してからの請求では、因果関係の判断がぼやけてしまうという難点があります。

事故の衝撃で直接頭蓋骨が割れた、等であれば因果関係の判断はしやすいですが、そうでないとすると「果たして事故の影響なのか」という点の立証は簡単ではありません。

本件では、直接事故の衝撃で障害が生じた、という認定ではなく、事故の衝撃で早産となり、早産となった影響で障害が生じた、という認定がなされています。

このような細かい分析によって、事故との因果関係の立証に成功しているのです。

胎児の問題に限らず、「事故によるものといえるかどうか」という問題は多くあります。

さまざまな要素が絡む難しい問題ではありますが、詳細な分析のもとに主張を組み立てることで認定を受けることができる場合もあります。

本判例は、労働能力喪失率の認定の点では、被害者側としては釈然としない認定ともいえますが、因果関係判断については詳細な分析をした好例といえるでしょう。

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どこまでが事故による傷害か【後遺障害併合10級】(東京地判平成25年11月25日)

事案の概要

信号機による交通整理が行われておらず見通しの利かない交差点で、X運転の自転車とY運転の原動機付自転車とが出合い頭に衝突した事故。

Xは、右オトガイ部骨折、左下顎枝骨折、左下第一小臼歯破折の傷害を負い、労災による後遺障害認定で併合10級の認定を受けた。

<争点>

・本件傷害は本件事故によるものか(因果関係)
・X側の過失割合(過失相殺)

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 184万7853円 184万7853円
入院雑費 1万6500円 1万6500円
通院交通費等 3万6160円 8520円
休業損害 382万3047円 214万3433円
後遺障害による逸失利益 1512万8546円 1358万4175円
入通院慰謝料 223万円 58万円
後遺障害慰謝料 550万円 550万円
小計 2368万0481円
過失割合 1420万8287円(4割)
弁護士費用 260万円 118万円

<判断のポイント>

・因果関係:資料に基づく認定
・過失割合:損害の公平な分担

本件では、Xの身体に、Yの原動機付自転車が接触したことはないことから、Y側は、そもそもXの傷害は本件事故によって起きたものではないと主張しました。

これに対して、裁判所は、①Xが本件事故時に自分の運転する自転車のブレーキ等に顔面を強打したこと、②Xは本件事故の直後に医療機関に受診し、本件事故当日には骨折が認められたこと、③Xの自転車は、Yの原動機付自転車との衝突により右方向に進み、かご、ハンドル、ブレーキ等が曲がっており、Xは,Y車両との衝突により相当の衝撃を受けたということができること、④Xは、本件事故の前から継続的に歯科治療を受けていたものの、本件事故の前に、右オトガイ部骨折、左下顎枝骨折、左下第一小臼歯破折が認められたことはなく、オトガイ部周辺のしびれ等を訴えることもなく、かみ合わせやそしゃくについて医学的に問題があるとは見受けられなかったこと、⑤本件事故の他に前示受傷の原因は見当たらないこと等に照らすと、Yの主張は失当であると判断しました。

交通事故による怪我は、なにも自動車などが直接ぶつかって生じたものに限られません。本件のように、相手の車両とぶつかった時に、自分の車両の一部に当たったことで生じたものでもいいのです。

このように相手が直接ぶつかった箇所でなくとも、「因果関係」さえ認められれば、交通事故による怪我として認められます。

ただ、この「因果関係」が曲者なのです。加害者が認めていない場合、被害者の言い分だけではこの「因果関係」も基本的には認められません。

被害者は「当事者」なので、どうしても“客観的な”資料とはいえないからです。

「因果関係」が認められるためには、分かりやすく言えば、何も知らない第三者から見て、「ああ、こういう事実があるということは、この事故からこの怪我が発生したんだな。」と思わせるような事実を、資料に基づいて示していかなければならないのです。

まとめ

本件では、Xがブレーキ等に顔面をぶつけたこと、事故後当日に骨折が認められたこと、ブレーキ等が曲がっていたこと、事故前の歯の治療では顎の骨折やしびれ、かみ合わせ等に問題がなかったこと等の事実を、X側の提出した証拠資料から裁判所が認められると判断した結果、「この事故からこの怪我が発生したんだな。」と裁判所に思わせることができたのです。

「事故や怪我のことを一番よく知っているのは、被害者なのに!被害者の言い分だけで認められないのはおかしい!」とお思いになられる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、裁判所は、全く事故のことを知らない第三者です。そして、法律的な考え方を使って、全く知らない事故について判断しようとしている人たちなのです。そのような裁判所や法律的な考え方との特徴を正確に理解した上で、適切な主張立証をしていくことが非常に重要になってきます。

また、本件では、X車両が走行していた道路に一時停止規制があったこと等から、Y側はYに過失がないこと、あったとしてもX側の過失が8割あるのでその分損害賠償額も過失相殺されるべきと主張しました。

これに対して、裁判所は、X車両の進路に一時停止の交通規制がされていたなどの本件事故の態様や本件交差点の状況等を考慮すると、X側の過失は4割が相当であると判断しました。

確かに交差点において一時停止規制がある道路を走っているほうがその規制を守らなかったことから「悪い」というイメージがあるかもしれません。そのようなイメージからすると、X側の過失が4割で、Y側の過失6割よりも小さいことには納得がいかない方もおられるかもしれませんね。

しかし、過失相殺というものは、「損害の公平な分担」という考え方に基づいて認められるものです。

つまり、被害者の方に発生してしまった損害について、被害者の方にも「落ち度」があった場合には、一定程度損害を分担させるのが「公平」ではないかという考え方に基づいているのです。ど

ういう場合にどの程度の過失割合とするのが「公平」なのかという観点から、過失割合は考えられます。本件では判決文の中に明示的に「公平」という言葉が出てくるわけではありませんが、過失割合というものと語る以上、当然の前提として「損害の公平な分配」という考えがあるものといえるのです。

このように一般的な、直感的なイメージと、法律の世界での考え方には乖離があるかもしれません。ですが、きちんと色々な場合を想定して理屈が立てられているのです。

いずれにしても、法律的な根拠に基づいて相手方に請求していく、言ってみれば“裁判所を味方につけて”相手方に請求していくには、法律的な考え方に精通した専門家の力が必要な場合が多いといえます。

適切な賠償を得るためには、このように“裁判所を味方につけた”法律的な考え方が極めて重要です。

ぜひ当事務所にご相談ください。きっとお手伝いできることがあることと思います。

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閉ざされたソムリエの夢【後遺障害併合11級】(東京地判平成25年11月13日)

事案の概要

信号機のある交差点を右折しようとしたA運転のタクシーに、対向方向から直進してきたX運転の普通自動二輪車が衝突。

XはY1(タクシー会社)とY2(Y1の自動車保険会社)に対して、損害賠償請求をした事案。

Xは顔面骨多発骨折、歯牙損傷、脳挫傷(味覚・嗅覚麻痺)等の傷害を負い、事前認定において自賠責保険から、①嗅覚障害につき嗅覚脱失といえるので後遺障害等級12級、歯牙破折による歯牙障害について後遺障害等級13級5号、顔面部の醜状障害について後遺障害等級14級10号に該当するとの判断がなされた。

<主な争点>

事故態様、過失相殺の有無
Xの被った損害額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 182万3834円 179万1394円
入院付添費 26万0000円 6000円
入院雑費 9万0000円 9万0000円
交通費 107万8600円 15万9290円
文書料 19万1100円 19万1100円
休業損害 603万1362円 551万1010円
傷害慰謝料 213万6880円 213万6880円
後遺障害逸失利益 1352万8056円 946万9639円
後遺障害慰謝料 546万0000円 500万0000円
弁護士費用 198万4445円 110万0000円

<判断のポイント>

(1)後遺障害と逸失利益:障害の内容と仕事の内容

逸失利益とは、“後遺障害が残らなかったら、(もっと)稼げたはずの収入”です。

逸失利益が認められるためには、被害者の方の仕事に、後遺障害が“関係する”必要があります。

つまり、“その後遺障害が残ってしまったせいで、その仕事をするときに困るだろう”といえるような関係が必要なのです。

変な話かもしれませんが、例えば「匂いが分からなくても問題なく働けるでしょ」と言われてしまうようなお仕事の場合、嗅覚障害による逸失利益は認められないのです。

まとめ

本件では、Xに、①嗅覚の障害、②歯の障害、③顔の傷痕という3つの後遺障害が残ってしまいました。

X側は、①Xには、料理界で独立し、和食の飲食店を開店するという夢があり、日本酒ソムリエの資格取得を目指すとともに、有名な焼き鳥店に勤めながら努力してきたが、本件事故で嗅覚障害が残ってしまい、もはや料理の世界で働くことが不可能になった、②Xは現在、3トン貨物トラックで酒箱を配送する肉体労働の仕事についているが、咬合せの異常のために正常に歯を噛みしめることができず、異常な噛みしめを行っているせいで腰痛が生じている、③Xの顔の傷痕は、対人折衝や勤務先での評価等に影響を及ぼし、不利益を生じさせるおそれがあるほか、選択できる職業の範囲を狭め、将来の再就職に問題を生じさせたり、減収を生じさせる可能性や仕事の能率や意欲を低下させる可能性があるとして、①~③合わせて20%の労働能力喪失率が認められるべきと主張しました。

これに対して、裁判所は、以下のように判断しました。

①Xが和食の飲食店を自ら開店する夢を持ち焼き鳥店で働いていたと認められるので、Xは、焼き鳥店での勤務や、将来の和食の飲食店の開店に不可欠ともいえる嗅覚脱出に陥ったということができ、そのせいで焼き鳥店での勤務や将来の和食の飲食店開店を断念しなければならなくなったということができる。

そうするとXには、嗅覚障害によって労働能力を一部喪失したものと評価すべきであり、その喪失率は14%に及ぶものとするのが相当である。

もっとも、②歯の障害については、Xが現在3トン貨物トラックで酒箱を配送する業務に従事しているとしても、咬合い時に痛み等が認められない状況にあると認められるから,これにより将来にわたる労働能力を喪失したと認めることまではできない。

③顔の傷痕については、裁判所は特に判断を示していませんが、②歯の障害と同じように、Xが今後働く上で“困る”ことにはならないと判断したのでしょう。

このように嗅覚障害でXは仕事で“困る”ことになるとして、裁判所は嗅覚障害による逸失利益を認めました。料理に携わる上で、嗅覚は不可欠な要素といえるので、みなさまも納得の結果ではないでしょうか。

実は、裁判所は、後遺障害の慰謝料のところでも、料理界で生きていく夢を絶たれたXの無念を評価しています。

11級の後遺障害の場合、基本的には420万円という金額の慰謝料を認めるのが裁判所の基準となっています。

しかし、本件では、Xの無念を考慮して500万円の慰謝料を裁判所が認めているのです。

どういう障害が、その仕事において、どういう風に“困る”ことになるのか、適切に主張していくことが、適正な賠償を得るためには重要です。

また、本件では、後遺障害の中でも嗅覚障害がポイントとなり、逸失利益としてだけでなく、後遺障害慰謝料の増額事由として、Xの損害賠償請求に大きく貢献しました。

様々な角度から後遺障害というものを考える必要があるということですね。

後遺障害が認められたら自動的に充分な賠償が受けられるわけではありません。

適切な観点からの適切な主張立証で、みなさまが適正な賠償を受けられるように力を尽くしていきたいと思っております。

ぜひお気軽に当事務所にご相談ください。

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交通事故
顔(目・耳・鼻・口)

主婦による家事の内容を具体的に認定した例【後遺障害9級相当】(東京地判平成6年10月4日)

事案の概要

Xは、足踏自転車に乗り信号規制のない交差点を直進しようとしたところ、交差道路からY運転の乗用自動車が直進してきたため、交差店内で衝突。

Xは、これにより脳内出血、肝機能障害、嗅覚障害、聴覚障害等の残存を受けたため、Yに対して損害賠償請求をした。

<主な争点>

原告の後遺障害等級は何級か?
①平衡感覚障害について
②嗅覚障害について
③肝機能障害について
④聴覚障害について

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 203万4415円 203万4315円
療養看護費 1065万0000円 786万1933円
逸失利益 1811万2847円 699万6520円
傷害慰謝料 500万0000円 400万0000円
後遺障害慰謝料 1200万0000円 550万0000円
過失相殺 10%
弁護士費用 477万8000円 150万0000円

<判断のポイント>

(1)原告の後遺障害等級について

本件事故は、交差点で自転車と自動車が出合い頭に衝突するという形態で、Xは硬膜外出血及びこれによる脳幹圧迫、頭蓋骨骨折の重傷を負いました。

これらによって、様々な後遺症が生じているため、それぞれがどの程度の傷害として認められるか、そしてその結果を総合するとXにはどの程度の補償が相当かという点が問題となりました。

(2)平衡感覚障害について

Xは、硬膜下血腫除去手術後に脳波異常が見られ、手術の際の頭皮切開に起因する右後頭神経痛が認められ、訴訟以前に12級の認定を受けています。

しかし、Xはこれのみではなく、錐体骨骨折に基づく平衡感覚異常や、これに起因する内耳性めまいなども認められ、これらの症状によって家事をするにも時々転倒するなど十分な動きができない事実がありました。裁判所は、Xが専業主婦であり、体を常に動かす作業を行う必要があり、特に拭き掃除の場合は、頭位を終始動かす必要があり、これによってめまいが生じるということを重視し、12級よりも重度の平衡感覚障害があると認めました。

(3)嗅覚障害について

Xは、本件事故による頭部の外傷により、嗅神経が切断され、それにより嗅覚を喪失していました。

これにより、訴訟以前に後遺障害12級相当と判断されており、裁判所もこれと同様の判断をしました。

(4)肝機能障害について

Xは、硬膜下血腫除去手術の直後に薬物投与による肝炎を引き起こし、結果として血液中の血小板の量が通常の6分の1程度まで減少してしまいました。

この血小板の減少については、訴訟以前には後遺障害には該当しないという判断がされています。

しかし、裁判所は、血小板が減少すると少しの打撲や接触でも皮下出血(あざ)が生じてしまうことから、Xが専業主婦として身体を常に動かす作業に従事し、家具や買い物袋等との接触が多々あることと考え合わせれば、血小板の減少はXの労働能力に直接の影響を与えるものであると認め、12級に相当する後遺障害であると認定しました。

(5)聴覚障害について

Xは錐体骨骨折に伴って、難聴となっており、聴覚検査の結果平均50デシベル程度の聴力となっていました。

もっとも、Xは、日常生活において終始不便であるとまではいえないと感じており、この点を斟酌して、裁判所は、聴覚障害については14級と認めました。

(6)総合判断

以上からすると、Xに認められる後遺障害は12級が2つ、14級が1つ、12級より重度のものが1つとなります。

裁判所は、これらの等級を単純に後遺障害等級の規定によって併合するのではなく、総合考慮とした上で、Xは本件事故により9級に相当する後遺障害を残したと認めました。

まとめ

本件事故は、昭和61年のものであり、本裁判例で言及されている後遺障害等級は現行のものとは異なります。

しかし、本裁判例がXに残存した障害の重さを認定する上でのプロセスは今でも通ずるものがあります。

本件で、裁判所は、Xの傷害内容や残存する症状を丁寧に認定しましたが、その後、それらの症状がXにとってどのような影響を持つのか、という点にさらに踏み入って判断しています。

本裁判例では最終的に、専業主婦であるXにとっては、料理をする際に嗅覚が重要であり、実際にXが事故後なべを焦がすなどしていたことから、労働能力喪失が大きいと考え、9級相当としています。

通常の事務作業等をする会社員などでは、このような認定はされなかったかもしれません。

このように、後遺障害の重さは、その個人にとってどのような意味を持つ傷害なのかをしっかりと認定してもらわなければなりません。

そして、そのためには、残存障害によって日常生活や日常業務にどのような影響が出ているかを、きちんと主張、立証する必要があるといえます。

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