東京事務所八重洲口「東京駅」徒歩3

宇都宮事務所西口「宇都宮駅」徒歩5

大宮事務所東口「大宮駅」徒歩3

小山事務所東口「小山駅」徒歩1

裁判例: 死亡

交通事故
死亡

信号のない交差点の横断歩道上を横断中に普通自動車に衝突された自転車の過失割合3割に認定した裁判例(福岡高裁平成30年1月18日判決)

事案の概要

A(原告:71歳女性)は、信号のない交差点の横断歩道上を自転車で進行中、Y運転の普通乗用車に衝突され死亡した。

Aの相続人Xらは既払金357万9,288円を控除した4,757万4,326円の支払いを求めて訴えを提起した。

<争点>

過失割合

<判断のポイント>

(1) 過失割合

交通事故は、当事者双方またはいずれか一方の過失によって生じるものですが、当事者間における過失の割合のことを「過失割合」といいます。

過失割合は、過去の裁判例を基準とし、当該事故の具体的事情に応じた修正を加えながら決定されます。

(2) Xら及びYの主張

1審において、Xらは、事故当時Aが71歳と高齢であったこと、本件事故が横断歩道上で発生したものであること、Aの運転する自転車が先に交差点に進入していたことなどから、AとYの過失割合は0対10であると主張しました。

これに対し、Yは、Aにおいても、車道を走行する車両の有無及びその存在を確認すべき注意義務があったのにこれを怠り、漫然と本件道路を横断した過失があるとして、AとYの過失割合は3.5対6.5であると主張しました。

(3) 裁判所の判断

1審裁判所は、AとYの過失割合を3対7と認定しました。

その理由として、1審裁判所は、Yに「前方及び右方の注視義務違反」が認められる一方で、本件交差点が見通しのきく交差点であることから、Aにも「本件歩道の横断を開始する際の左方への注視義務違反」が認められることを挙げています。

そして、本件事故が信号機による交通整理が行われていない交差点で発生したこと、Y車両の進行していた道路が優先道路であったこと、本件事故発生当時、Aは71歳であったことから、「自転車が横断歩道上を通行する際は、車両等が他の歩行者と同様に注意を向けてくれるものと期待することが通常であることを総合考慮すれば、AとYの過失割合を3対7と認めるのが相当である」と認定しました。

2審裁判所も、1審判決を支持してAとYの過失割合を3対7と認定し、控訴を棄却しました。

その理由として、2審裁判所は、「道路交通法は歩行者と軽車両である自転車を明確に区別しており、自転車を押して歩いている者は、歩行者とみなして歩行者と同様の保護を与えているのに対し、自転車の運転者に対しては歩行者に準ずるような特別な扱いはしておらず、同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せないものの、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは道路交通法上の要保護性には明らかな差がある」ことなどを挙げています。

まとめ

道路交通法は歩行者と軽車両である自転車を明確に区別しており、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは、必要とされる保護の程度に大きな差を認めています。

今回ご紹介した裁判例では、自転車側に3割の過失が認められました。自転車と自動車の間で事故が発生した場合、思いもよらない結果が生じて大きな不安を感じることもあるかもしれません。

お困りの際には、お気軽にご相談ください。

閉じる
交通事故
死亡

死亡慰謝料の増額が認められた裁判例【死亡事故】(名古屋地裁一宮支部平成31年3月28日判決)

事案の概要

信号のない交差点の横断歩道を集団下校で歩行横断中、左方から進行してきたY運転の普通貨物車に衝突され、外傷性くも膜下出血当の障害を負い、死亡した9歳の男子小学生Aの遺族であるX1(父)、X2(母)、X3(兄)、X4(祖父)及びX5(祖母)が、Yに対し損害賠償を求めた事案。Yは、以前から夢中になっていたスマートフォンのゲームをしながら運転をしていたため前方を注視しておらず、衝突する直前まで横断歩道上のAに気づいていなかった。

<主な争点>

死亡慰謝料の増額事由

<主張及び認定>

A固有の損害 請求額 認定額
入院付添費 3万2500円 6500円
入院雑費 1500円 1500円
近親者葬儀参列費 34万7220円 0円
文書料 4090円 4090円
逸失利益 3284万7322円 3217万3796円
入院慰謝料 2万2967円 1万7666円
死亡慰謝料 3000万円 2500万円
小計 6325万5599円 5720万3552円
既払金 ▲3000万5190円 ▲3000万5190円
遅延損害金 263万2620円 238万2175円
合計 3588万3029円 2958万0537円
X1の損害 請求額 認定額
葬儀関係費 642万1893円 150万円
固有の慰謝料 300万円 200万円
相続金(※) 1794万1515円 1479万0269円
小計 2736万3408円 1829万0269円
弁護士費用 273万6341円 182万9026円
合計 3009万9749円 2011万9295円
X2の損害 請求額 認定額
固有の慰謝料 300万円 200万円
相続金(※) 1794万1515円 1479万0269円
小計 2094万1514円 1679万0268円
弁護士費用 209万151円 167万9026円
合計 2303万5665円 1846万9294円
X3の損害 請求額 認定額
固有の慰謝料 200万円 100万円
弁護士費用 20万円 10万円
合計 220万円 110万円
X4・X5の損害 請求額 認定額
固有の慰謝料 各100万円 各50万円
弁護士費用 各10万円 各5万円
合計 各110万円 各55万円

※Aの固有の損害賠償金の法定相続分

<死亡慰謝料について>

死亡慰謝料の金額は、裁判実務上、

一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他(独身の男女、子供、幼児等) 2000万円~2500万円

という基準を目安として算定されており、具体的な斟酌事由により、増減されます。

また、民法711条では、「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」と定められており、被害者本人だけでなく近親者等の固有の慰謝料が認められているところ、上記の基準は、死亡慰謝料の総額であり、近親者等の固有の慰謝料も含まれています。

<慰謝料の増額事由>

加害者に無免許運転やひき逃げ、飲酒運転等の故意または重過失がある場合や、事故後、加害者に著しく不誠実な態度等があるような場合には、被害者本人やその遺族はより大きな精神的苦痛を受けることになるとして、目安となる基準よりも慰謝料を増額して算定されることがあります。

まとめ

本件は、被害者Aが9歳という若さで、スマートフォンでゲームをしながら運転していたYの車両に轢かれて命を落とすという大変痛ましい事故でした。

裁判所は、特に、Yの前方不注視の原因が、夢中になっていたゲームに気を取られていたという、単にY自身の欲求から出るものであったことや、Yが本件事故以前から、ゲームをしながら運転することの危険性を十分に認識していたことなどから、本件事故を発生させたYの責任は極めて重大である、と述べています。

そして、A固有の死亡慰謝料として2500万円を、近親者等の固有の慰謝料としてX1とX2にはそれぞれ200万円、X3には100万円、X4とX5にはそれぞれ50万円を認め、慰謝料だけで合計3100万円を認定しました。

9歳男児であるAは、上記の表の「その他(独身の男女、子供、幼児等)」であり、慰謝料の目安となる基準の金額は高くても2500万円ですが、裁判所はそれを600万円上回る3100万円と認定しており、それだけ本件事故におけるYの責任は重いと判断したのでしょう。

なお、本件事故をきっかけに、いわゆる「ながら運転」の罰則強化の検討が進み、令和元年12月1日の改正道路交通法の施行により、運転中のスマートフォン等の使用や画面の注視に関する罰則が強化されました。

今後の損害賠償請求訴訟における「ながら運転」事案では、本件と同様に慰謝料の増額が認められる可能性が高くなると思われます。

加害者の悪質な運転による重大事故によって被った被害者本人や遺族の精神的苦痛は、決して金銭で解決できるものではありません。

しかし、本件のような重大な結果が生じた事故による巨額の損害賠償請求は、加害者にその責任の重さを痛感させるうえで、刑事罰と同じように重要なことだと思います。

閉じる
交通事故
死亡

休業損害や逸失利益~算定の基礎とされる収入は?~【死亡事故】(大阪地裁平成27年10月9日判決)

事案の概要

81歳女性医師であるAが横断歩道を横断中、Y1運転・Y2所有の車両に衝突され、121日の入院後に死亡したため、Aの夫X1及び子X2・X3がY1及びY2に対し損害賠償を求めた事案。

なお、X1は本件事故当時、認知症を患っており、本件事故前まではAがその監護を行っていた。

<主な争点>

①亡Aの基礎収入
②X1の監護料

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 1911万5933円 1911万5933円
入院雑費 18万1500円 18万1500円
通院交通費 53万0550円 17万9680円
付添看護費 84万7000円 72万6000円
葬儀費用 150万円 150万円
X1の監護料 2183万4920円 0円
休業損害 653万2548円 97万9934円
傷害慰謝料 223万円 223万円
死亡逸失利益 1億0651万3025円 1720万8032円
死亡慰謝料 2500万円 2200万円
小計 1億8428万5476円 6412万1079円
既払金 ▲1934万7833円 ▲1911万5933円
合計 1億6493万7643円 4500万5146円

<判断のポイント>

(1)Xらの主張と裁判所の判断
Xらは、亡Aが精神医学専門医で老年精神医学の権威であり、過去に1970万5695円の年収を得ていたことを根拠に、亡Aの休業損害及び死亡逸失利益の算定に当たってはこれを基礎とすべき収入であると主張しました。

しかし、裁判所は、亡Aは本件事故の3年ほど前からは、自宅の外で仕事をしておらず、本件事故当時の亡Aの労働は、X1の世話と家事であったと認められるとして、Xらの主張する、亡Aの医師としての過去の年収を基礎収入とすることは認めませんでした。

(2)コメント
亡Aは、精神医学の専門医として、病院の副院長を務めたり、定年退職後も複数の病院での非常勤医師としての勤務や家庭裁判所での精神鑑定の依頼を受けるなど、長年精神医学に携わっており、本件事故の10年ほど前までは、1000万円を超える年収を得ていました。

そのため、Xらは、本件事故当時は認知症を患っているX1のために監護に専念していたに過ぎず、本件事故当時においてもなお上記の年収を得る蓋然性があり、本件事故がなければ、亡Aが医師として稼働し、過去の年収を基準とした収入を得ることが可能であったとして、その年収を基礎収入とした休業損害及び逸失利益を請求したものと考えられます。

確かに、お医者さんは特に年齢に関係なく働こうと思えば働くことができるので、本件事故に遭わなければ、Xらの主張するような過去の年収を基準とした収入を得られるがまったくなかったとは言い切れません。しかし、亡Aは本件事故の3年ほど前から、医師としての仕事で得た収入はまったくなく、日常生活上も、医師の仕事をせずに自宅でX1の世話や家事をするのみだったので、亡Aが事故に遭わなくとも、医師としての収入を得られていた可能性はほとんどなかったといえるでしょう。

裁判所も、過去に亡AがXらの主張するとおりの年収を得ていたことを認めながらも、本件事故前の3年間には医師としての稼働実績がまったくなく、自宅でのX1の監護や家事が亡Aの労働内容であったとして、医師としての過去の年収ではなく、事故前年の賃金センサスの女性全年齢学歴計の平均収入である295万6000円を基礎収入として、休業損害及び逸失利益を算定しました。

なお、Xらは、老齢精神医学の権威であった亡AによるX1の監護についても言及していましたが、裁判所はその経済的価値については、老齢精神医学の専門的な知見を有していたとしても、そのことで賃金センサスの平均収入を上回る価値を有すると認めるには足りないとして、これを考慮することはありませんでした。

このように、損害賠償実務では、休業損害や逸失利益の算定の基礎収入について、被害者の主張する収入が得られる蓋然性があるかどうかが、具体的な事実から判断されることになります。本件では、上記のとおり、亡Aが事故前には医師として稼働していなかったことなどから医師としての年収を基礎収入として認めませんでしたが、もし亡Aが本件事故当時、医師として復帰する具体的な予定があったなどの事情が認められたのであれば、医師としての過去の年収もしくはそれに近い額を基礎収入として算定されたかもしれません。

(3)Xらの主張と裁判所の判断
Xらは、X1が本件事故当時から認知症を患っており、本件事故前までは亡Aが精神専門医の立場から服薬管理、生活管理、カウンセリングなどの監護を行っていたが、本件事故により亡Aによる監護が不可能となったとして、事故後にX1が入居した介護付有料老人ホームの10年分の監護料相当額が損害として発生していると主張しました。

しかし、裁判所は、亡Aの労働内容は自宅でのX1の監護や家事であったことからすると、本件事故発生から亡Aが死亡するまでの間の監護料及び死亡した後の監護料は、亡Aの休業損害及び逸失利益と実質的に同じ内容のものであるとして、X1の監護料を休業損害や逸失利益とは別の損害としては認めませんでした。

(4)コメント
本件では、認知症を患っているX1の監護を亡Aが行っていたという事情があり、事故によってこれを行うことができなくなった場合、老人ホームに入居させるなど、別途X1の監護費用がかかってしまうのはやむを得ないとも思われ、その費用は認められてもよさそうに思えます。

しかし、裁判所は、X1の監護が本件事故当時の亡Aの仕事そのものであった以上、それに加えて監護料という損害が発生することはないという理由で、これを認めなかったのです。

確かに、亡Aの仕事の内容がX1の監護であるとすれば、X1の監護料は亡Aの休業損害や逸失利益に吸収されることになるので、別途監護料を認めると、二重取りを認めることになってしまいかねません。そのため、裁判所の判断は適切なものであったように思います。

重篤な後遺障害が残ってしまった場合もそうですが、死亡事故の場合、様々な損害が観念されるため、ご遺族の方が相手方に対して適切な賠償請求を行うことは困難を伴います。

ご遺族として、相手方に対して、どのような請求が可能なのか、まずは当事務所までご相談いただければと思います。

閉じる
交通事故
死亡

電動アシスト自転車の特殊性を過失割合に反映しなかった事例【死亡事故】(神戸地判平成26年3月28日)

事案の概要

X(73歳男性)は、信号機のない丁字路交差点において、一時停止規制のある交差道路から右折侵入しようとしたところ、丁字路交差点を直進するY運転の電動アシスト自転車と出会い頭に衝突した。Xは脳挫傷、腰椎捻挫等の傷害を負い、労働者災害補償保険では後遺障害5級が認定された。

Xは、本件事故に起因しない膵臓がんによって死亡したため、Xの相続人(原告)は、Xの生前の損害賠償請求権を相続し、Yにその支払いを求めた。

<主な争点>

①過失割合

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 300万7412円 300万7412円
入院雑費 7万0500円 7万0500円
付添看護費 90万3000円 87万9500円
通院交通費 5万8925円 5050円
休業損害 420万8820円 420万8820円
逸失利益 1222万1856円 1205万4671円
入通院慰謝料 223万6667円 216万円
後遺障害慰謝料 1440万円 1440万円
過失相殺 20% 85%
既払金 ▲770万3234円 ▲770万3234円
(損益相殺含む)
弁護士費用 308万6010円 24万8000円
合計 3394万6116円 273万2000円

<判断のポイント>

(1)電動アシスト自転車の特徴と過失割合

電動アシスト自転車は、漕ぎ出しがスムーズで初速が速いことや、道路形状によってスピードが変わらないことが特徴的です。

一方で、相手方からすると、通常の自転車と見た目がそれほど変わらず、エンジン音等もないため、通常の自転車と大して変わらないだろうと甘く見がちです。

通常、過失割合は、道路形状、交通規制(信号機や一時停止の標識)、双方の車両の種類(車、二輪車、自転車)、双方の進路、速度などの事情によって定められます。

電動アシスト自転車の特殊性は、双方の車両の種類、速度に密接に関わります。

(2)Xの及びYの主張

Xの相続人は、「Xの自転車の速度は、一時停止をした後、右折しようと進行を始めた直後であったため、ほぼ歩行者と同様の速度であった。」、「Yの電動アシスト自転車は、ほとんど力を入れなくても進行し、衝突後Xが数メートル先の本件電柱まで飛ばされていることから、Yの電動アシスト自転車が、相当な高速度で交差点に進入した。」、「両者の速度からして、本件事故は、実質的に歩行者と二輪車の事故と同視できる。」として、Xの過失は20%を超えることはないと主張しました。

これに対し、Yは、「Xの自転車は一時停止していなかった。」、「Yの電動アシストのスイッチを切っていた。Yの電動アシスト自転車の速度は、時速10キロメートルないし15キロメートル程度にすぎなかった。さらに、Yは、本件交差点手前でブレーキを掛けて減速していたから、衝突時の速度は更に遅くなっていた。」として、Xには85%の過失があると主張しました。

<裁判所の判断>

裁判所は、損害の公平な分担との見地にたって、過失割合の判断を行います。

本件では、電動アシスト自転車の特殊性(初速が速いことや、道路形状によって速度が変わらないこと)を過失割合の判断要素としませんでした。

裁判所は、「電動アシスト自転車だから速度が速い」、「自動二輪車と同等だ」と短絡的に判断するのではなく、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの事情を総合的に考慮した結果、Yの主張を認めており、実態に則した適正な判決といえます。

本件のように、電動アシスト自転車の特殊性は、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの基本的な事情と密接に関わります。

ご自身が電動アシスト自転車に乗っていた場合、相手方が電動アシスト自転車に乗っていた場合のいずれであっても、当事務所にお気軽にご相談下さい。

<判断のポイント>

裁判所は、損害の公平な分担との見地にたって、過失割合の判断を行います。本件では、電動アシスト自転車の特殊性(初速が速いことや、道路形状によって速度が変わらないこと)を過失割合の判断要素としませんでした。裁判所は、「電動アシスト自転車だから速度が速い」、「自動二輪車と同等だ」と短絡的に判断するのではなく、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの事情を総合的に考慮した結果、Yの主張を認めており、実態に則した適正な判決といえます。

本件のように、電動アシスト自転車の特殊性は、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの基本的な事情と密接に関わります。

ご自身が電動アシスト自転車に乗っていた場合、相手方が電動アシスト自転車に乗っていた場合のいずれであっても、当事務所にお気軽にご相談下さい。

閉じる
交通事故
死亡

生活を助け合っている家族が亡くなったとき~扶養利益~(大坂地判平成27年10月14日)

事案の概要

東西に通じる道路と、その道路に南方から通じる道路が丁字に交わる交差点の東方に設けられた横断歩道上で、青信号に従って南方から交差点に進入し東方に右折したY車が、横断中の亡Cに衝突。

その結果、亡Cは死亡し、(1)亡Cの内縁の夫X1は、自己固有の人的損害を、(2)亡Cの子であるX2らは、亡Cの人的損害の相続分について、それぞれ支払を求めた事案。

<主な争点>

①X1は「内縁の夫」か否か
②X1の固有の損害の有無・額
③X2らの損害額

<主張及び認定>

①X1

主張 認定
扶養利益の喪失 2070万8069円 655万0533円
固有の慰謝料 1200万0000円 600万0000円
弁護士費用 320万0000円 100万0000円

②X2ら

主張 認定
葬儀費用 518万4426円 150万0000円
死亡逸失利益 3451万7484円
・稼動分 2457万8619円
・年金分 993万8865円
1791万2885円
・稼動分 1310万1066円
・年金分 481万1819円
死亡慰謝料 2800万0000円 1800万0000円
弁護士費用 680万4808円 各100万円

<判断のポイント>

(1)内縁関係

「内縁」とは、結婚する意思をもって一緒に生活し、社会的にも夫婦と認められているけれども、婚姻届を提出していないため、法律上の配偶者と認められない関係を意味します。

内縁の妻または夫は、パートナーについて、法律上の配偶者ではないため、相続権がありません。

ですので、パートナーが交通事故で亡くなった場合、パートナー自身が加害者や保険会社に請求できる権利を相続して行使することはできません。

もっとも、裁判実務では、たとえば、内縁の妻または夫は、パートナーが亡くなったことに対する自分自身の慰謝料=「固有の慰謝料」を請求することができると考えられていますし、一定範囲の家族に認められる「扶養利益」も認められる場合があります。

本件で、裁判所は、「X1は、昭和60年頃から本件事故時までの約28年間、継続して亡Cと同居し、二人の収入による同一家計で生活しており、亡Cの子であるX2らの結婚式や結納にも、父親(亡Cの夫)という立場で出席していた。しかも、X1は、X2らが全て独立した後で、本件事故の約4年半前の平成21年2月には、亡Cの申出により、亡Cと結婚式を挙げ、その際二人で今後も夫婦としての共同生活を続けることを誓っている。

そして、X1と亡Cに対しては、家族以外の者からも連名の年賀状が送られており、これらの事実を総合すれば、X1と亡Cは本件事故当時、事実上の夫婦共同生活を送る意思を有し、かつ、社会通念上夫婦としての共同生活の実態も有していたと評価することができる。」として、X1が亡Cの内縁の夫であったことを認めました。

(2)扶養利益

民法上、親子や同居の親族については「お互いに助け合う必要がある」と規定されています。

この「お互いに助け合う必要がある」とは、お互いに扶養義務を負っているということを意味します。

扶養利益は、この義務に基づき、被害者から扶養される利益といえます。

内縁の妻または夫は、配偶者と同視できるので、この扶養利益が認められる可能性があるのです。

そして、扶養利益は、簡単に言うと、扶養されていた額×扶養を受けられたであろう期間(ライプニッツ係数)で計算されます。

X1は、「本件事故前、X1と亡Cは、X1の年金(月額約15万円)と亡Cのアルバイト収入(月額約13万円)によって二人で生活しており、亡Cが家事をしていた。ところが、本件事故によって亡Cが死亡したため、原告X1は、亡Cのアルバイト収入が得られなくなるとともに、亡Cによる家事も受けられなくなったから、扶養利益を喪失したというべきである。」として、X1に扶養される利益を失ったと主張しました。

そして、X1は、平成25年賃金センサスの女性労働者・学歴計・60歳~64歳の平均賃金である年額298万8600円を基礎とし、生活費控除率を30パーセント、喪失期間を14年として、喪失した扶養利益を計算しました。

これに対して、裁判所は、X1に扶養利益の喪失の損害が生じたことは認めましたが、その額は,平成25年賃金センサス女性労働者・学歴計・60歳~64歳の平均賃金である298万8600円を基礎とし,亡Cの生活費控除率を30パーセント,就労可能年数を61歳女性の平均余命の約半分である13年間として算定した上で,その3分の1に当たる金額をもって相当と認めました。

上のX1の主張では、亡Cの稼いだお金などは全てX1の生活費などに充てられていた=X1の扶養に充てられていたということになります。

裁判所は、その主張は認めず、(期間も若干短く認定しましたが)その約3分の1の金額をXが扶養されていた金額としました。

亡C本人の生活費については、「生活費控除率30パーセント」というところで考慮されているにしても、亡C本人の生活費以外=X1の扶養に充てられた金額とは単純に考えられないということですね。

(3)年金の生活費控除率

生活費控除率とは、被害者が亡くなったことで将来かからなくなった生活費を逸失利益の計算の際に差し引くために使われる概念です。

この点、年金は、生活を保障するために支払われるものなので、年金は、他の収入に比べ、生活費の占める割合が高いと考えられています。

X2らは、亡Cの逸失利益に関して、アルバイトでの収入も年金収入も同じく生活費控除率30%として計算しています。

これに対して、裁判所は、アルバイトでの収入については生活費控除率30%、年金収入については生活費控除率60%として計算しました。

X2らと裁判所との計算方法には、他にも細々として違いがありますが、大きなところではこの生活費控除率を何%と考えるかの違いが、金額の差に影響していると考えられます。

また、裁判所は、亡Cのアルバイトでの収入についての逸失利益のうち、X1の扶養利益として認定した額は、X1の扶養に充てられるべき金額であるので、これを除いた金額が、亡Cの逸失利益として認められるべきと判断しました。

まとめ

扶養利益と死亡被害者の逸失利益との間にはこのような関係もあるので注意が必要ですね。

身近な方が亡くなっただけでも大きな精神的ダメージを被ることと思います。

しかし、その方が、自分の生活を経済的に支えてくれていた場合に、その経済的損失を加害者に請求したいというのは当然のことです。

交通事故で大切な方を亡くされた場合、扶養利益が請求できるのか、その金額はどの程度になるのかなど、どうぞ当事務所の弁護士にご相談ください。

死亡事故の場合は、請求金額も高額となりますので、プロの法律家の目で漏れなく主張・立証していくことが大切です。

閉じる