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裁判例: 高次脳機能障害

交通事故
高次脳機能障害

将来介護費に関する裁判例【後遺障害2級1号】(さいたま地裁 平成31年3月19日判決)

<事案の概要>

63歳の男性会社員Xが、店舗敷地内にあるマンホールの蓋を開いて作業していたところ、Yの運転する乗用車が敷地内に進入し、Xの頭部を礫過した。

Xは、外傷性くも膜下出血、頭蓋骨開放性陥没骨折、脳挫傷等の傷害を負い、右上下肢麻痺、失語及び嚥下障害等の症状が残存したため、損保料率機構より、後遺障害等級2級1号の後遺障害が認定された。その後、XはYに対して、損害賠償を求めて訴訟を提起した。

<主な争点>

将来介護費(常時介護の必要性)

<請求額及び認定額>

<Xの損害>

主張 認定
治療関係費 2976万1420円 2976万1420円
症状固定後治療費 253万2550円 145万0236円
入院雑費 73万0500円 68万8500円
通院交通費 31万4412円 5万8375円
入院付添費 316万5500円 260万0000円
将来介護費 9971万8183円 5828万0061円
家屋改造費等※ 996万6168円 724万8395円
休業損害 704万6784円 704万6784円
逸失利益 4586万7902円 4586万7902円
傷害慰謝料 500万0000円 400万0000円
後遺障害慰謝料 2500万0000円 2500万0000円
小計 2億2910万3419円 1億8200万1673円
既払金 ▲7441万1779円 ▲7441万1779円
遅延損害金 1551万1847円
弁護士費用 1758万4283円 1231万0174円
合計 1億9342万7110円 1億3541万1915円

※家屋改造費のほか、福祉機能付自動車や介護福祉用具の購入費用

<将来介護費について>

(1)特に重篤な後遺障害が残存した被害者については、自分自身で日常生活の基本動作のほとんどを行うことが困難となり第三者の介護が必要となった場合、親族や職業として介護に従事する人(職業介護人)への介護の対価、すなわち介護費用を負担しなければならなくなります。

そのため、将来にわたって発生する介護費用(将来介護費)も損害賠償の対象となりますが、将来介護費は、基本的に被害者が亡くなるときまでにかかる介護費用であるため、特に高額になることが多いことから、当事者間において対立が大きくなり得る損害費目の1つです。

(2)そして、将来介護費が認められるか否かにおいて大きく争われる点が、介護の必要性及びその程度です。

高次脳機能障害の場合、後遺障害としてはその症状の重さに応じて、第1級~第3級、第5、第7、第9級に該当する可能性があります。

その中でも第1級1号の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」と第2級1号の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」は、被害者に介護を要することが前提ですので、将来介護費が認められることはほぼ間違いないですが、「常に介護を要する」か「随時介護を要する」かという点で異なります。

特に第2級1号の場合、「随時介護」であるため、将来にわたってどの程度の介護が必要になるのか、職業付添人による介護が必要かなどで将来介護費の金額が変わってくることになるのです。

なお、第1級、第2級に達しない高次脳機能障害であっても、介護を要する事情が認められる場合には、将来介護費が認められる場合があります。

また、いわゆる赤い本では、職業付添人の介護費用は実費、近親者付添人は日額8000円が目安とされており、職業付添人の介護費用のほうが一般的には高額になります(東京地裁では第1級の場合日額1万5000円ないし1万8000円程度を認めることが多いです)。

まとめ

(1)本件では、Xに認定された高次脳機能障害が第2級1号であったものの、Xの妻が67歳(就労可能年限)になるまでの近親付添人としての将来介護費日額2万円と、それ以降平均余命までの職業付添人の将来介護費日額2万5000円が認められるべきであると主張しました。

これに対して、Yは、Xが自力で日常生活の基本動作を行えている部分があること、後遺障害2級の随時介護と判断されていることを主張し、将来介護費は近親付添人による介護を前提にした日額7000円とし、これが困難となった場合に職業付添人の費用を検討すべきであると主張しました。

(2)裁判所は、Xの介護を要する程度を判断するうえで、後遺障害の内容や、医師の見解、Xが食事動作や車椅子の操作はときどき介助を要し、排泄動作はほとんどすることができないなどの日常生活動作の観点から見る限りは、随時の介護で足りるものの、現実には常時に近い適宜の見守りが必要ということができ、また、Xの妻と一緒にXと同居して介護に当たっている息子が、近く独立して別居する生活をするであろうことを想定すべきである、としました。

そのうえで、Xの妻が67歳になるまでは日額8000円、それ以降、Xの平均余命までの期間の職業付添人による介護費を日額1万8000円とするのが相当であると認定しました。

(3)Xの請求した日額までは認めなかったものの、第2級1号の高次脳機能障害であっても、現実のXの日常生活動作の状況等から、常時に近い見守りが必要であるとして、Xの平均余命までの全期間について近親者介護及び職業付添人による介護の費用を認めたという点において意義を有するものといえます。

高次脳機能障害は、それ自体重い後遺障害であり、将来介護費以外の請求費目も多岐にわたり、金額も高額になる傾向にあります。

そのため、被害者自身や親族の方のみの力だけでは適切な賠償を受けることは難しく、専門家に相談すべき案件であるといえます。まずは当事務所までご相談ください。

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後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めた裁判例【後遺障害3級3号】(札幌高裁 平成30年6月29日判決)

事案の概要

4歳の男児X1が、市道を歩行横断中、Yの運転する大型貨物車に衝突され、脳挫傷、びまん性軸索損傷等の傷害を負い、症状固定後も残存した高次脳機能障害につき、後遺障害等級3級3号が認定された。

その後、X1とその両親X2及びX3は、Yに対して、将来介護費と後遺障害逸失利益については定期金賠償を求める形で、損害賠償請求訴訟を提起した。

<主な争点>

後遺障害の逸失利益の支払方法について、定期金賠償が認められるか

<本事案の経過>

(1)当事者の主張と第一審判決
本件では、X1が3級3号という重度の高次脳機能障害により、将来において単独で日常生活を送ることは到底不可能であるとして、将来介護費の定期金賠償を求めました。

また、本件事故によって労働能力が100%喪失したとして、男子学歴計全年齢の平均賃金を基礎収入として、18歳から67歳までの49年間にわたり、月1回の定期金賠償を命じる判決を求めました。

これに対しては、Yが、定期金賠償を求めている点を含め、逸失利益自体を争ったところ、第一審である札幌地裁(平成29年6月23日判決)は、判決において、X1の高次脳機能障害について、将来において完全に自立した生活を送ることができる見込みがないと認定したうえで、X1は本件事故により労働能力を完全に喪失したと認めました。

そしてそのうえで、逸失利益の定期金賠償の可否についても、X側が求めるとおりの算定方法により計算した金額の月1回の定期金賠償を認める判断を行いました。

(2)控訴審判決
控訴審判決も、第一審判決同様に、後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めました。

同判決は、その理由として、

①実務上定期金賠償が一般的に認められている将来介護費と比較した場合、事故発生時にその損害が一定の内容のものとして発生しているという点や、将来の時間的経過によって請求権が具体化するという点で、後遺障害逸失利益も共通していること

②定期金賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えについて規定する民訴法117条も、後遺障害逸失利益について、定期金賠償が命じられる可能性があることを前提にしていること

③本件におけるX1の後遺障害逸失利益については、将来の事情変更の可能性が比較的高いものと考えられること

④被害者側が定期金賠償によることを強く求めていること

⑤④が、後遺障害や賃金水準の変化への対応可能性といった定期金賠償の特質を踏まえた正当な理由によるものであること

⑥将来介護費について長期の定期金賠償が認められている以上、本件において後遺障害逸失利益について定期金賠償を認めても、Y側の損害賠償債務の支払管理等において特に過重な負担にはならないと考えられることを挙げました。

まとめ

(1)定期金賠償
定期金賠償とは、交通事故によって発生した損害の賠償方法のひとつで、その損害を一括ではなく分割して、将来にわたって定期的に賠償をする方法です。

定期金賠償は、損害の性質上、交通事故の場合に多くみられる一括払いの方法(一時金賠償)では不都合が生じると考えられる場合に用いられる方法で、たとえば、本件でも認められているように、一生涯にわたって他者による介護を要するような重度の障害を負ってしまった場合の将来介護費などは、現実にいつまで必要となるかが分からないので、「被害者が死亡するまで」、という不確定期間の定期金で支払が行われることが多いです。

定期金賠償については、色々なメリット・デメリットがあるのですが、この点についてもう少し詳細が知りたいという方は、当サイトの「定期金賠償のメリットデメリットを解説!一時金賠償方式との違いとは?」のコラムをご覧ください。

(2)本件について
本件では、第一審判決、控訴審判決のいずれも、後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めました。

将来介護費については、定期金賠償での請求方法が確立されているため、これを請求する場合、そのほとんどが定期金賠償の方法で行われていますが、これに対して、後遺障害逸失利益については、基本的に一時金賠償で請求されているため、後遺障害逸失利益の定期金賠償の可否について問題になることはありませんでした。

もっとも、上記①で指摘されているように、後遺障害逸失利益も、将来介護費と同様に、事故の時点で一定の内容として発生し、将来において具体化する損害という点で共通していますので、本来は、一時金賠償よりも定期金賠償になじむものといえます。

それにもかかわらず、後遺障害逸失利益については一時金賠償で請求されることが多いのは、第一審判決で指摘されている、適切な金額の算定が可能であり、多くの場合、被害者側が一時金による賠償を望んでいるから、という理由に尽きます。

そのため、被害者側が望み、また、定期金賠償によることが相当といえる場合には、定期金賠償を認めても何ら問題ないと考えられます。

そして、定期金賠償の方法が相当かどうか、という点について、控訴審判決は、上記③~⑥の事情を総合的に考慮して、これを認めたのです。

一時金賠償は、短期間にまとまった金額が得られるという意味でのメリットは大きいものの、中間利息控除によって、定期金賠償よりも得られる総額が少なくなる可能性があるというデメリットもあるため、どちらの方法も選択できるというのは、被害者にとって望ましいことといえるでしょう。

本事案は、後遺障害逸失利益についても定期金賠償が可能であるということを明確にしたという点で、大きな意義があるものといえます。

損害賠償の請求において、どのような方法をとることができるのか、そして、被害者の方にとってどの方法が一番望ましいか、具体的な事情に応じてそれを提案するのも、弁護士の役割であるといえます。

交通事故でお困りの方は、当事務所にご相談ください。

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高次脳機能障害

意識障害もなく画像所見もはっきりしない被害者につき高次脳機能障害を認めた裁判例(札幌高等裁判所平成18年5月26日判決)

高次脳機能障害とは

高次脳機能障害が争われる場合には、被害者の精神症状が脳の器質的損傷に基づくものなのか、もっぱら精神的なものが原因なのか(非器質的)が問題となります。

そもそも高次脳機能障害とは、脳の器質的損傷(身体の組織そのものに生じた損傷のことをいいます)に基づいた精神症状をいい、精神的なものを原因とする場合、高次脳機能障害は認められません。

高次脳機能障害の症状は目に見えないため、医学的に証明することが難しいと言われています。

上記のとおり、器質的損傷に基づくものといえなければ高次脳機能障害は認められません。

しかし、意識障害もなく画像所見もはっきりしない被害者において、脳の器質的損傷による高次脳機能障害を認定し、約1億1000万円の支払いを命じた裁判例があります。

この裁判例において、被害者側はどのような立証をして、裁判所はどのような認定をして高次脳機能障害を認めたのか、説明したいと思います。

事案の概要

平成9年6月14日午前10時25分ころ、中学3年生女子X(原告)がシートベルトを装着し、A運転の車の後部座席に同乗中、赤信号交差点手前で停止していたところ、後方からY(被告)運転のトラックが追突し、Xはむち打ち症を負いました。

第一審(札幌地方裁判所)では、XのMRI等の画像から、頭部外傷を疑わせる形跡が見当たらなかったことを理由に高次脳機能障害を否定したため、これを不服としたXが控訴をしました。

<争点>

Xの後遺障害(高次脳機能障害)の有無

<請求額及び認定額>

主張 認定
治療費 92万6692円 92万6692円
通院交通費 7万7600円 7万7600円
通院慰謝料 198万円 190万円
後遺障害慰謝料 1990万円 1990万円
後遺障害による逸失利益 8986万1130円 8605万9619円
弁護士費用 1213万3683円 1000万円
既払い額 ▲92万6692円 ▲93万2292円
合計 1億2395万2413円 1億1793万1619円

<争点の具体的内容>

高次脳機能障害が認められるかどうかについては、日弁連交通事故相談センターが発行している「高次脳機能障害相談マニュアル」が用いられます。

そこでの判断基準は以下のとおりです。

1.交通事故による脳の損傷があること
2.一定期間の意識障害が継続したこと
3.一定の異常な傾向が生じること

本件においても、この判断基準が用いられましたが、Xが高次脳機能障害でないとする医師も、Xに精神症状があること自体は認めていたため、「3.一定の異常な傾向が生じること」については、大きな論争の対象にはなりませんでした。

結局、本件では、むち打ち程度の軽度の外傷で脳に器質的損傷が起こりうるかどうかということであり、上記1、2をどう判断するかが問題となりました。

<Xの主張>

Xは、①各種検査において高次脳機能障害を示す検査結果が示され、学業成績も大きく下降したこと、②Xの脳機能障害は本件事故以外に見当たらないこと、③画像検査や客観的なデータに基づく検査においても高次脳機能障害が認められる結果が出ていること、④鑑定結果は、「MRS検査が信頼できるとすると、責任病巣は前頭葉白質である」というものであったことを理由に、脳に器質的損傷が生じたと主張しました。

<Yの主張>

これに対して、Yは、脳の器質的損傷による高次脳機能障害は認められないと反論しました。

すなわち、①上記の3要素がいずれも基準を満たしていないこと、②本件事故による衝撃は軽微であり、意識障害が継続していた記載がなく、事故後の入試の試験結果でも記憶障害は認められないこと、③事故後の初期診療で脳機能障害が疑われていないこと、④Xの症状は心因反応であること、⑤各検査でもXが高次脳機能障害であることは証明されなかったことを理由に、脳に器質的損傷は生じていないと反論しました。

<裁判所の判断>

1.判断基準の有効性

裁判所は、まず、上記の3要素の判断基準の有効性について、以下のように言及しました。

⇒「2.一定の期間の意識障害が継続したこと」の要素については、意識障害を伴わない軽微な外傷でも高次脳機能障害が起きるかどうかについては見解が分かれており、これを短期間の意識消失でもより軽い軸索損傷は起こるとする文献がある。

外傷性による高次脳機能障害は、近時においてようやく社会的認識が定着しつつあるものであり、今後もその解明が期待される分野であることからすれば、「2.一定の期間の意識障害が継続したこと」の要素は、厳格に解する必要がないものといえる。

2.Xの高次脳機能障害の有無

そして、X及びYがそれぞれ提出した、合計6人の医師の意見について以下のように言及し、Xに後遺障害等級3級3号に相当する高次脳機能障害を認めました。

⇒本件が、高次脳機能の要素を充足しているかについては、医学的見地から十分な判断ができない状況にある。

そして、専門家の間でも、Xが高次脳機能障害であるとする見解(肯定説=3人)、条件付で高次脳機能障害がないとは言い切れないとする見解(条件付肯定説=2人)、高次脳機能障害ではないとする見解(否定説=1人(Z医師))に分かれており、Z医師の弁明は到底採用できないとされました。

これは、肯定説を呈した医師2人が、Z医師自身の論文で望ましいとされている鑑定方法を実施したところ、高次脳機能障害がないとはいえないとの結論が出されたため、Z医師の見解は信用されませんでした。

そして、本件で採用するに足りる専門家の意見は、肯定説と条件付肯定説となったとして、Xの頭部外傷による脳の器質的損傷による高次脳機能障害を認めました。

まとめ

本件では、X及びYの主張、多数の医学的文献、見解の異なる多数の医師の意見などを総合判断して高次脳機能障害が認められました。

この裁判例は、意識障害もなく画像所見もはっきりしない被害者において、脳の器質的損傷による高次脳機能障害を認定しており、その後の裁判でも、この札幌高裁の裁判例自体や、この裁判で提出された医学文献が提出されています。

高次脳機能障害は立証が困難と言われており、本件のように多数の医学的文献や多数の医師の意見が必要です。

また前提として、いくつもの検査を行う必要があります。

これらを個人で行うのはかなりの負担ですし、まず何をすればいいのかわからないことが多いと思います。

高次脳機能障害が認められるかどうかお困りの際には、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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変わってしまった夫【後遺障害併合2級】(名古屋地判平成26年4月22日)

事案の概要

Yは、片側1車線の追い越しのための右側部分はみ出しが禁止されている道路において、渋滞を避けるために対向車線にはみ出して普通乗用車両を走行させていたところ、路外から同道路へ侵入してきたX1(当時62歳)運転の原動機付自転車と衝突。

X1は、外傷性くも膜下出血、広範性脳損傷、高次脳機能障害、右頬骨・眼窩・右鎖骨骨折及び右上顎中切歯外傷性歯牙破折の傷害を負ったため、X1、及びX1の妻であるX2と、子であるX3及びX4は、本件損害賠償請求に及んだ。

<争点>

・後遺障害の有無及びその程度
・介護の必要性

<請求額及び認定額>

<X1の損害>

主張 認定
治療費等 156万2033円 156万2033円
入院雑費 10万0500円 10万0500円
入院付添費 107万2000円 53万6000円
通院付添費 229万0000円 103万0000円
通院交通費 5万3681円 2万7630円
家族の交通費 36万7104円 36万7104円
休業損害 70万4760円 68万8333円
入通院慰謝料 350万0000円 230万0000円
後遺障害逸失利益 3064万4338円 324万3114円
後遺障害慰謝料 3500万0000円 2400万0000円
症状固定後の介護費用 8822万2690円 4411万1345円
書籍代 11万9858円 11万9858円
物損 17万1619円 15万4457円
既払金 ▲2518万0000円 ▲2518万0000円
弁護士費用 1380万0000円 260万0000円

<X2の損害>

主張 認定
慰謝料 500万0000円 100万0000円
旅行キャンセル料 6万1740円 6万1740円
弁護士費用 50万0000円 10万0000円

<X3の損害>

主張 認定
慰謝料 400万0000円 50万0000円
旅行キャンセル料 6万1740円 6万1740円
弁護士費用 40万0000円 5万0000円

<X4の損害>

主張 認定
慰謝料 400万0000円 50万0000円
弁護士費用 40万0000円 5万0000円

<判断のポイント>

(1)高次脳機能障害とは

脳は、感覚器官から入力のあった情報を認識したり、認識した情報に基づいて行動や言動を起こすための重要な役割を果たしています。

これは、脳の各部位が連携することによって実現されているため、脳に損傷が生じるとその連携が崩れることによって、様々な症状が生じます。

これを高次脳機能障害といいます。 被害者自身には病識がないことも多く、周囲の人間の協力が必要となる障害といえます。

「高次脳機能障害」について詳しくはこちら

<症状の推移>

高次脳機能障害は、脳がダメージを受けたことによって脳機能が不全を起こすことをいいます。

しかし、それらの症状は外部からは分かりづらいことも多くあります。例えば、人格変化や易怒性などは、医師からすると「もともとそういう人間なのか」「障害によってそうなっているのか」という判断がつきづらい場合が多くあります。

また、受傷直後の症状は一過性のものもあるため、ある程度の期間をもって様子をうかがわなければ、障害が残存しているか否か乃判断がつきづらいという面もあります。

本件では、X1は、事故直後の入院中から興奮性が強く、大声で叫ぶ、看護師に抵抗して叩く、蹴る、脱抑制などの行動が多く見られており、これは明らかに通常の範疇を超えていると言えます。

その後、症状が落ち着く時期もありますが、運転中のX3に暴力を振るい怪我を負わせたり、食器を洗う音にも敏感に反応し、3日間怒り続けたりすることもあったようです。

このような入院治療上、及び日常生活上の支障や生活状況をひとつひとつ認定していく作業が必要になります。

<後遺障害の程度>

一口に「高次脳機能障害」と言っても、その症状の種類や重症度によって、後遺障害として認められる等級も様々です。

重症のものでは1級や2級、比較的軽症なものだと9級の認定もあり得ます。

これらの等級判断の際には、介護の必要性と、労働可能性がキーとなります。

本件では、X1は買い物に出かけたり、ソフトボールへ出かけたりなどの行動は可能で、一定程度の社会活動を行っていました。

しかし、裁判所は、上述の通りのX1の症状を認定した上で、「人格変化、健忘症状は著しく、易怒性等の精神症状の悪化による社会適応性の欠如は明らかである」と判断し、「高次脳機能障害による症状のため、生命維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが、『労務に服することができないもの』として、後遺障害等級3級に相当する後遺障害が残っている」と認定しました。

<介護の必要性>

上では、高次脳機能障害の判断は、介護の必要性と労働可能性がキーとなると説明しました。

一般的な後遺障害としては、1級及び2級が介護を要するものと判断されます。

しかし、高次脳機能障害では、3級だとしても介護の必要性が認められることがあります。

確かに、高次脳機能障害があっても、一般的な会話や行動は出来るという場合もあります。

そのような場合、例えば遷延性意識障害(植物状態)や半身不随などのような介護は必要ではないかもしれません。

しかし、高次脳機能障害の方は、自分自身病識がない場合も多く、また他人からも一見して障害者であるとは分かりづらい場合があります。

その中で、健忘症状や易怒性のある方が何ら他人のサポートなく生活が出来るかというと、相当な疑問が残ります。

語弊を恐れずに言えば、暴力や暴言、失見当識など社会的に問題となる行動を、ふと取ってしまうことがありうるのです。

本件では、確かにX1は、買い物やソフトボールは行えることは認められます。

しかし、上述の通り、社会適応性は著しく欠落しており「X1の症状を理解している家族や医療、福祉の専門家による随時の看視や見守りの限度での介護の必要性はある」と判断し、介護の必要性が認められました。

もっとも、X1らは、自宅における職業介護人による介護を前提とした請求をしていましたが、これまでのX2の行動や症状の程度、及びそれらによってX2らがうつ症状を呈していることからすると、「現段階において完全な在宅介護を実施できる蓋然性は認め難い」とし、「今後も医療保護入院が続く蓋然性が高いといえる」と判断しました。

このように、「介護が必要か」と一口に言っても、どの程度の介護が必要か、どのような介護方法が適切か、などの様々な観点からの検討が必要となります。

まとめ

現代の医学や科学においても、脳の機能は完全に解明できていません。

従って、高次脳機能障害も、厳格に「脳のどの部位が損傷しているためどのような症状が出ている」という特定は困難です。

そのため、高次脳機能障害は、そもそも後遺障害として認定させることから簡単ではありません。

事故直後の意識障害・画像上の異常所見・運動機能や認知能力に対する支障等の様々な事実を証拠によって積み上げなければなりません。

また、後遺障害が認定された場合にも、本件のようにその程度や介護の必要性等で争いになることもあります。

交通事故により頭部を受傷され、意識障害があったような場合には、お早めに弁護士にご相談ください。

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成長への影響と、親の思い【後遺障害5級相当】(名古屋地判平成25年3月19日)

事案の概要

X1(10歳)が自転車で車道を横断中にYの運転する自動車に衝突させられた。

X1は、頭部外傷、肺挫傷、肋骨骨折、顔面骨折、顔面打撲等の傷害を負い、約2年間の治療を受けたが、高次脳機能障害が残存したため、これについて損害賠償請求をした。

また、X1の父であるX2は、X1が将来通常の労務ができないことが見込まれるため、勤務先を退職し、X1のためにNPO法人を設立することを企図したため、勤務先退職による逸失利益を請求した。

X1の母であるX3は、X1が事故に遭った後の場面を目撃したことにより、フラッシュバック等の症状が出、この治療を受けたため。この治療費等を請求した。

<争点>

①X1の後遺障害の重さ
②X2の損害内容
③X3の損害内容

<請求額及び認定額>

<X1の損害>

主張 認定
治療費・通院交通費 12万1655円 12万1655円
入院雑費 31万4094円 12万6000円
入院付添看護費 54万6000円 52万9200円
退院後介護費 427万7000円 263万2000円
入通院慰謝料 304万8000円 200万0000円
逸失利益 8371万5099円 5346万9656円
後遺障害慰謝料 2500万0000円 1400万0000円
将来付添費 4581万2501円 2114万4231円
雑費その他 35万3779円 0円
症状固定後の検査費用等 58万1679円 58万1679円
弁護士費用 800万0000円 425万0000円

<X2,X3の損害>

主張 認定
X2の逸失利益 2500万0000円 0円
X3の治療費・通院交通費 18万3430円 0円
X2、X3固有の慰謝料 各1000万0000円 各250万0000円

<判断のポイント>

(1)X1の後遺障害の重さ

X1は事故により脳損傷を負い、高次脳機能障害が生じています。

しかし、高次脳機能障害と一言で言っても、その程度や症状はさまざまです。

したがって、被害者それぞれに、事故前には何ができたのか、事故後には何ができて何ができないのかという点をきちんと確認する必要があります。

また、高次脳機能障害は、被害者本人には症状の自覚がないことがほとんどですので、ご家族や周囲の方の助けが必要となります。

X1は10歳の時に事故に遭い、事故後は1ヶ月以上意識不明の状態でした。意識が回復した後は、言葉を発せず、医師からは3歳児の状態であるといわれるほどでした。

その後、徐々に回復し本件訴訟時には中学校の普通学級に進学してはいましたが、易怒性、性格の異常等の人格変化、記銘記憶力、認知力、言語力、理解力、判断力、集中力などが軒並み低下していました。

裁判所は、これらを認定した上で、周囲の支援の下一人で通学している点も踏まえ、「単純繰り返し作業に限定すれば、一般就労ができない又は極めて困難であると評価することはできない」と判断し、後遺障害等級5級相当であると判断しました。

高次脳機能障害は、このように、できないことやその程度から、就労可能性を判断して等級を認定します。

社会生活に服することができるか、という観点からの分析が必要となりますので、家庭や学校、職場での状況が重要な資料になるのです。

(2)X2の損害内容

X2は、X1のために自身が退職してNPO法人を設立することを決意しています。そのため、退職後の逸失利益を請求していますが、裁判所はこれを事故による損害と否定しました。

そもそも、直接事故の被害に遭った人間以外は、賠償請求が認められることはかなり難しくなります。

本件では、裁判所は「退職すること自体、X2の意志に基づくものである」とした上で「X1に対する就労支援や作業所が必要であるとしても、後遺障害が残存したX1に対する随時の声かけ、看視のための将来の介護費、後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料が損害として認められる」ことから、それ以上にX2固有の損害として逸失利益を認めることは相当でないと判断しました。

X2としては、息子の将来の受け皿を作るために、お金度外視で頑張るという意図だったものと思われますが、X1の将来の不利益については、X1に対する慰謝料や逸失利益によって補填されていると判断されたものです。

もっとも、将来ある息子が、生死不明状態になり、回復後も重度の後遺障害を残しているという点は、死亡に比肩し得る損害を受けたものといえるため、固有の慰謝料を認めました。

(3)X3の損害内容

X3は、本件事故によりフラッシュバック等に悩まされるようになったことで、この治療費等を請求しましたが、これも裁判所は否定しました。

これもやはり、X3は、事故後のX1の様子を目撃してはいますが、本件事故を直接に体験した被害者であるとは言えないため、間接損害となってしまうことから、事故と因果関係のある損害といえないためです。

事故をきっかけに生じた損害が何でも賠償されることになってしまうと、無限に賠償範囲が広がってしまいますし、加害者としてもどこまで賠償すればよいかが予測できなくなってしまいます。

したがって、基本的には、直接の被害者に事故によって通常生じうる範囲の損害が、賠償の範囲となります。

本件では、X3は事故直後の現場を目撃してはいますが、これは直接交通事故を体験したわけではないため、間接的な損害となってしまいます。

もっとも、X2と同じ理由から、固有の慰謝料は認められています。

まとめ

事故によって、脳損傷が生じた場合は、高次脳機能障害が発生する可能性があります。

本件では、かなり重度の障害が残ったため、立証はそこまで困難ではなかったと予測されますが、年少者が事故に遭った場合には、障害の立証が難しい場合もあり得ます。

成長過程ということもあり、どこまでが高次脳機能障害の影響で、どこからが単純な学力の問題なのかが判然としないこともあるからです。

事故後に、今までと比べて学力が落ちた、理解力が落ちたという場合には、脳損傷が影響している可能性があります。

そのような可能性については、事故後の治療や検査の状況から、脳の障害を立証できないかどうかの慎重な検討が必要となります。

学習障害や発達障害が急に見られるようになった裏に、外傷による高次脳機能障害が隠れているかもしれません。

軽はずみに示談をしてしまう前に、弁護士にご相談ください。

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