腹部の後遺障害
2022.01.25

腹部の内臓は、食道、胃、小腸、大腸、肝臓等の消化器系と、腎臓、尿管、膀胱、尿道等の泌尿器系、生殖器系があります。
注意しておくべき点としては、腹部臓器の障害は症状固定後に症状が悪化する可能性が高く、また治癒した場合も再発しやすいという点です。この点を考慮して、検査結果は残しておく必要があります。
また、胸腹部の後遺障害等級認定においては、治療に必要な検査と後遺障害の等級認定に必要な検査が一致していない場合があるため、注意が必要です。そのため自賠責保険に後遺障害認定申請を行う場合は、医師に検査の必要性を説明して理解してもらうこと、理解してもらったうえで検査に協力してもらうことが重要です。

1.消化器系の後遺障害

消化器系の後遺障害は、後遺障害等級としては、5級、7級、9級、11級、13級があります。

消化器系の後遺障害認定基準

等級 後遺障害
第5級3号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、
特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第7級5号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、
軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第9級11号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、
服することができる労務が相当程度に制限されるもの
第11級10号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、
労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
第13級11号 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの

消化器系の後遺障害判断基準

消化器系の後遺障害は、食道、胃、小腸及び大腸、肝臓及び胆のう、膵臓、脾臓というように部位ごとに分類され、それぞれに基準が設けられています。
検査には、X線画像、内視鏡検査、消化液検査、糞便検査、機能検査(主に肝臓、膵臓、腎臓)そして血液検査等があります。

食道

第9級11号  食道の狭窄による通過障害を残すもの
食道の後遺障害の認定基準はひとつのみです。
以下のいずれにもあてはまる場合がこれに該当します。
① 通過障害の自覚症状があるもの。
② 消化管造影検査により、食道の狭窄による造影剤のうっ滞が認められるもの。

胃の後遺障害に関する後遺障害等級は、7級、9級、11級、13級の4つがあります。胃の一部又は全部を切除した場合は、少なくとも13級が認定されます。それ以上の等級は、以下に記載する①~③の症状の内、いくつに当てはまるかによって等級が認定されます。
①消化吸収障害
胃の一部又は全部を切除したことにより、食べたものがうまく消化吸収されない状態のことです。BMIの数値が20以下の場合がこれに該当します。

②ダンピング症候群
食後30分以内の眩暈や起立不能等の症状、又は食後2時間から3時間後に眩暈、全身の脱力感等の症状がみられます。

③胃切除術後逆流性食道炎
胃の入り口の部分を切除したことにより、胃液が食道に逆流し、胸やけ、食道の潰瘍やびらん等の症状がみられます。
この①~③の3つの症状すべてに当てはまる場合は第7級5号、3つの症状のうち、いずれか2つに当てはまる場合は第9級11号、3つの症状のうち、いずれか1つに当てはまる場合は第11級10号、3つのどれにも該当しないが、胃の噴門部(入口の部分)又は幽門部(出口の部分)を含む胃の一部を亡失した場合は第13級11号が認定されます。

小腸及び大腸

①小腸及び大腸を大量に切除したもの
小腸はだいたい3メートル程度の長さがある内臓です。
自賠責保険に後遺障害認定申請をする際は、実際に残像している長さを測るのではなく、切除した長さを元に判断することになります。このため、切除する際は、前もって計測する必要があることを医師に説明しておく必要があります。
消化吸収障害の程度は、BMI指数によって立証します。

第9級11号 残存する空腸及び回腸の長さが100センチメートル以下になったもの
第11級10号 残存する空腸及び回腸の長さが100センチメートルを超え300センチメートル未満となったものであって、消化吸収障害が認められるもの
第11級10号 大腸のすべてを切除する等、大腸のほとんどを切除したもの

②人工肛門を増設したもの

第5級3号 小腸又は大腸の内容が漏出することによりストマ(人工排泄口)周辺又は皮膚瘻周辺に著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
第7級5号 人工肛門を装着したもののうち、5級に該当するもの以外のもの

③小腸又は大腸の皮膚瘻を残すもの

第5級3号 瘻孔から小腸又は大腸の内容の全部又は大部分が漏出するもののうち、皮膚瘻周辺に漏出による著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
第7級5号 Ⅰ 瘻孔から小腸又は大腸の内容の全部又は大部分が漏出するもの
Ⅱ 瘻孔から漏出する小腸又は大腸の内容が100ml/日以上のもののうち、パウチ等による維持管理が困難であるもの
第9級11号 瘻孔から漏出する小腸又は大腸の内容が100ml/日以上のもの
第11級10号 瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸又は大腸の内容が
漏出する程度のもの

④小腸又は大腸に狭窄を残すもの
第11級10号 小腸又は大腸に狭窄を残すもの
次のいずれにも該当する場合がこれに該当することになります。
Ⅰ 1ヶ月に1回程度、腹痛、腹部膨満感、吐き気、嘔吐等の症状が認められるもの
Ⅱ 単純X線像においてケルクリングひだ像が認められるもの

⑤便秘を残すもの

第9級11号 用手摘便要すると認められるもの
第11級10号 9級に該当しないもの

交通事故に遭う前から便秘の方もいますので、後遺障害等級認定上、便秘とは、次のいずれにも該当する場合に認定されます。
Ⅰ 排便反射を支配する神経の損傷がMRI画像又はCT画像等により確認できるもの
Ⅱ 排便回数が週2回以下の頻度であって、恒常的に硬便であるもの

⑥便失禁を残すもの

第9級11号 用手摘便要すると認められるもの
第11級10号 9級に該当しないもの

交通事故に遭う前から便秘の方もいますので、後遺障害等級認定上、便秘とは、次のいずれにも該当する場合に認定されます。
Ⅰ 排便反射を支配する神経の損傷がMRI画像又はCT画像等により確認できるもの
Ⅱ 排便回数が週2回以下の頻度であって、恒常的に硬便であるもの

⑥便失禁を残すもの

第7級5号 完全便失禁
第9級11号 常時おむつの装着が必要なもの
第11級10号 常時おむつの装着は必要ないものの、明らかに便失禁があると認められるもの

肝臓及び胆のう

第9級11号 肝硬変であり、ウイルスの持続感染が認められ、且つGOT・GPTが持続的に低値であるもの
第11級10号 慢性肝炎であり、ウイルスの持続感染が認められ、且つGOT・GPTが持続的に低値であるもの
第13級11号 胆のうを失ったもの

膵臓

第9級11号 外分泌機能の障害と内分泌機能の障害の両方が認められるもの
第11級10号 外分泌機能の障害又は内分泌機能の障害のいずれかが認められるもの

脾臓

第13級11号 脾臓を失ったもの

2.泌尿器系の後遺障害

泌尿器は腎臓、尿管、膀胱、尿道で構成されています。

泌尿器系の後遺障害認定基準

等級 後遺障害
第5級3号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第7級5号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第9級11号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、
服することができる労務が相当程度に制限されるもの
第11級10号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、
労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
第13級11号 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの

泌尿器系の後遺障害判断基準

腎臓

腎臓の障害は、腎臓の亡失の有無と糸球体濾過値(しきゅうたいろかち、GFR)の2つを用いて判断します。
GFRとは腎臓の機能を数値化したものです。求め方は、イヌリンという炭水化物の一種を血管内に持続的に静注し、その間の尿を採取してイヌリンの濃度を元に算出します。
肝臓の亡失の有無とGFRの値に応じて認定される等級は、以下の表のとおりです。

GFRの値 31~50ml/分 51~70ml/分 71~92ml/分 91ml/分
腎臓の亡失 7級 9級 11級 13級
腎臓を失っていない 9級 11級 13級

尿管、膀胱及び尿道

①尿路変更術を行ったもの

第5級3号 非尿禁制型尿路変更術を行ったもののうち、尿の漏出によりストマ周辺に著しいびらんを生じ、パッド等の装着ができないもの
第7級5号 Ⅰ 非尿禁制型尿路変更術を行ったもの
Ⅱ 禁制型尿リザボアの術式を行ったもの
第9級11号 尿禁制型尿路変更術を行ったもののうち、禁制型尿リザボア及び
外尿道口形成術を除くもの
第11級10号 外尿道口形成術を行ったもの又は尿道カテーテルを留置したもの

②排尿障害を残すもの

第9級11号 膀胱の機能障害により、残尿が100ml以上であるもの
第11級10号 Ⅰ 膀胱の機能障害により、残尿が50ml以上100ml未満であるもの
Ⅱ 尿道狭窄のため、糸状ブジーを必要とするもの
第14級(相当) 尿道狭窄のため、糸状ブジー第20番がかろうじて通り、時々拡張術を行う必要のあるもの

③蓄尿障害を残すもの

第7級5号 Ⅰ 持続性尿失禁を残すもの
Ⅱ 切迫性尿失禁及び腹圧性尿失禁のため、終日パッド等を装着し、且つパッドをしばしば交換するもの
第9級11号 切迫性尿失禁又は腹圧性尿失禁のため、常時パッド等を装着しているが、パッドの交換を要しないもの
第11級10号 切迫性尿失禁又は腹圧性尿失禁のため、パッドの装着は要しないが、下着が少し濡れるもの

切迫性尿失禁とは、前触れもなく突然強い尿意が起こり失禁してしまう場合をいい、腹圧性尿失禁とは、日常動作の中で腹部に力が加わった時に失禁してしまう場合をいいます。
また、頻尿とは次に記載する症状の全てに該当する場合をいいます。
・器質的病変による膀胱容量の器質的な減少又は膀胱若しくは尿道の支配神経の損傷が認められること
・日中8回以上の排尿が認められること
・多飲等の他の原因が認められないこと

3.生殖器の後遺障害

等級 後遺障害
第7級13号 両側の睾丸を失ったもの
第9級17号 生殖器に著しい障害を残すもの