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労働災害
雇用主への損害賠償請求3~労働者が注意を守らなかった末の転落事故~

事案の概要

Xは、会社代表者Yの指揮の下、工場のトタン屋根の張替工事に従事していた。

張替用のトタン屋根を他の作業員と運んでいるときに、会社代表者の指示に反して母屋(屋根の骨組み)から足を踏み外し、下にある工場へ転落してしまい、頭を強く打ち死亡した。

遺族は、会社代表者に対して損害賠償請求訴訟を提起した。

<争点>

Xの責任及び会社代表者Yの責任の有無とその程度。

<判決の内容>

(Xの責任)
会社代表者Yが作業実施中にXを含む作業員全員に対し、「母屋から足をふみ外さぬように気をつけろ」と再三注意していた。

他の作業員は、注意を守り、墜落等の事故が発生しなかったのに、ひとりXだけが、不用意に母屋(骨組み)でない部分に足をふみ外し、墜落するに至った。

したがって、Xに過失があったことは明らかである。

(会社代表者Yの責任)
母屋(骨組み)の上の部分を歩かないと危険であり、母屋のある部分はフックボート(屋根の止め具。この下に骨組みがある)がトタン板の上に突き出ていたので、一応見ればわかる。

しかし、後ろ向きになって新しい屋根を運ぶ作業もあった。加えて、母屋と母屋との間隔は約九〇センチメートルもあるのであるから、後向きの形で歩く者は母屋を踏み外すという危険性が十分考えられた。

現に別の作業員らに足場板を使用させて安全を図っていたこともあった。

Yは、転落場所について、「足場板を使用することが作業上不便であり、困難であった。」旨供述している。

しかし、その場所で足場板を使うことは、不便であるにせよ、決して不可能ではなかったと考えられ、不便であったとしても適当な長さに切って使用する方法もあったと考えられる。

もし、足場板を用いる作業方法をとっていたなら本件のような事故は発生しなかったものと考えられる。

したがって、Yは、現場における作業指揮者としての注意義務を欠いたものと認めるほかない。

(結論)
以上のとおり、本件事故はYの過失及びXの過失とが競合して発生したものと判断される。

その損害分担の割合は平等負担すなわち、全損害額の半額を被告に負担させるのが公平な割合であると考えられる(過失相殺)。

まとめ

本訴訟では、Xの安全遵守義務違反は当然認められることとして、主にYの安全配慮義務違反の有無が争われました。

つまり、本件では、Yは指揮監督者として、作業前にしっかりと作業員に対して母屋を踏み外さないよう注意しており、他の従業員はしっかり守っていたため、それでもYの安全配慮義務違反が認められるのかが問題となりました。

この点、作業員は屋根の上を後ろ向きで歩くこともありました。

そのため、常に足元を確認することはできず、母屋を踏み外す危険が十分にありました。

足元が見えない作業が伴う以上、「踏み外さないように」という口頭注意だけでは不十分です。

したがって、上記の注意以上の対策が必要であったのでは無いか、ということが問題になります。

現に、足場板を敷くなどの対策をしている場合もありました。そこで、裁判所は、Xが作業していたところにも足場板を敷くべきだったと認定しました。

ちなみに、「足場板の使用のほか、防網の取りつけや命綱の使用については、検証の結果によれば本件事故発生現場においては、屋根の下に防網を張ることは事実上不可能に近く、また本件作業のように移動する作業の場合には命綱は作業に困難を来たすので適切ではない」とも言っています。

不可能を強いるわけには行かないため、設置が非現実的である防網や命綱が無かったことは、安全配慮義務違反の根拠とはなりませんでした。

そして、損害の公平な分担から5分5分で責任を負う、と示しました。

過失相殺は、互いの落ち度に応じて責任割合を決めるという考え方だけでなく、損害の公平な分担という趣旨もあることによります。

以上のとおり、会社の注意に従わなかった場合、従業員の責任も大きく認められますが、作業の具体的内容に応じて会社の注意が不十分と認められれば使用者の責任も問うことが出来ます。一度、弁護士にご相談下さい。

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