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FC契約締結の際における情報提供義務違反

フランチャイズ契約締結の際における情報提供義務違反について(平成14年3月28日大阪地裁判決)

<事案の概要>
約15年間寿司店を経営していたX(フランチャイジー)が、フランチャイズ契約締結前に、Y(フランチャイザー)から売上予測等に関する情報提供を受けてYとフランチャイズ契約を締結したが、Yが適正かつ正確な売上予測を説明しなかったためにXに損害が発生したとして、損害賠償請求をした事案。

<主な争点>
・フランチャイザーは、フランチャイジーに対し、売上予測等に関する情報を提供する義務を負うか。
・情報提供義務を負うとして、どの程度の情報提供があればその義務を果たしたことになるか(どの程度の情報提供をし なければならないか)。

<判決の内容>
1 フランチャイザー(本部)のフランチャイジー(加盟店)に対する情報提供義務について(一般論)
フランチャイザーは、フランチャイジーになろうとする者に対して、できる限り客観的かつ正確な売上予測等の情報を提供すべき信義則上の義務を負う。
そして、フランチャイザーが客観性、正確性を欠く売上予測等の情報を提供し、フランチャイジーになろうとする者の判断を誤らせるおそれがある場合には、フランチャイザーは、フランチャイジーが被った損害を賠償する責任を負う。

2 本件において情報提供義務違反があったか否か
本件においては、①商圏外ではあるがその周辺にコンビニエンスストアが数店舗あり、これらとの競合を考慮した場合には売上予測が下方修正されること、②Yが独自に行った市場調査に基づく売上予測の得点方式によると、予測月商は約1200万円であったが、Yは、月商1400万円を売上予測として最終決定し、これをXに説明したこと、③Xが予測していた損益分岐点が約月商約1200万円であることから、月商が1200万円にとどまるか、月商1400に達するか否かは、Xにとって極めて重要な要素であったこと等から、YがXに対して提供した情報は、客観性、正確性を欠き、できる限り客観的かつ正確な情報を提供すべき信義則上の義務に違反している。

解説

1 フランチャイザーの情報提供義務について
裁判所は、売上や営業利益の予測に関する情報は、フランチャイズに加盟しようとする者にとって、契約を結ぶか否かの意思決定に重要な影響を与える情報であることを根拠に、このような情報についてできる限り客観的かつ正確な情報提供をしなければならず、これを怠った場合には、損害賠償責任を負うとしています。
このように、フランチャイザーが、売上予測に関する情報提供をすべき義務を負うことは多くの裁判例が認めています。もっとも、売上や収益の予測は将来の不確定な事実であるため、その情報の客観性、正確性については、本裁判例のように「できる限り客観的かつ正確な情報」と、あるフランチャイザーの裁量を認める傾向にあります。
本裁判例は、フランチャイザーの売上予測に関する判断の手法に立ち入って、その売上予測が合理的なものであったか否かを判断しており、近時はこのように、フランチャイザーの売上予測に関する判断にある程度の裁量を認めながらも、その判断に合理性があるかどうか、その判断過程を綿密に検討する裁判例が徐々に出てきています。
本裁判例では、①顧客の来店方法を具体的に検討して競合圏を判断していること、②フランチャイザー独自の売上予測算定のシステム自体を前提にしつつ、このシステムにしたがって算出された売上予測と対応しない売上予測をXに説明している点に着目をしていること等、フランチャイザーの売上予測に関する判断過程に踏み込んでいる点に特徴があります。

2 その他の論点
本裁判例では、フランチャイザーが情報提供義務を怠っているかどうかの判断の他にも、①フランチャイザーが負う賠償責任の範囲や、②過失相殺についても判断がされています。

①フランチャイザーが負う賠償責任の範囲については、店舗の開設や営業開始するために要した費用(広告費、研修費、店舗保険料、加盟料、保証金等)については、損害賠償が肯定されましたが、オーナー人件費やロイヤリティの支払により発生した損金については賠償が否定されています。後者については、オーナー人件費は情報提供義務違反により発生した損害とはいえないこと、ロイヤリティは、フランチャイズシステム等の継続使用に対する対価であることから、損金を計算するにあたってはこれらの費用は経費から除外すると、損金が発生しないことが理由とされています。

②過失相殺については、Xが約15年間、寿司店を経営していたことから、売上予測が実績と異なる場合も十分ありうることを経験上知り得たにもかかわらず、フランチャイザーから提供された情報を十分吟味せずにフランチャイズ契約を締結したこと等を考慮し、3分の1の過失相殺がされています(Yが賠償責任を負う範囲が3分の2に制限されています)。

このように、フランチャイジーになる側としても、自らの責任で経営をすることになるのですから、フランチャイザーから提供される情報を鵜呑みにせずに、提供された情報が正しいかどうかを十分に吟味することがある程度求められていると考えて良いでしょう。

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