雇用主と親会社への損害賠償請求12 ~腰痛の発症~ (東京地裁平成3年3月22日判決)

事案の概要

XらはY1社従業員であって、航空機の機内クリーニングの業務に従事していたところ、筋々膜性腰痛等を発症した。
そこで、Xらは、Y1社及びY1社の親会社で航空会社であるY2社に対して損害賠償請求訴訟を提起した。

 

<争点>
①腰痛と業務の因果関係
②Y1社の安全配慮義務違反の有無、
③親会社であるY2社は安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負うか。

 

判決の内容

①腰痛と業務の因果関係について
・業務内容、量、期間、
・腰痛発症の経緯
・労働基準監督署が労災認定をしたこと
・嘱託医や健康保健組合が、腰痛症が業務に関連する旨の推論をしていたこと
・Xらと同様の業務に従事していたY1社の腰痛者名簿に登載されている腰痛患者の在籍人員に対して占める割合が2割を越えている月もあることなど
その他の事情を総合考慮すれば、Xらの疾病と業務との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当。

②Y1社の安全配慮義務違反の有無
使用者には、雇用契約上の付随的義務として、被用者の健康保持についてはもとより、被用者が、健康を害し、そのまま業務を遂行させると健康を維持できなくなり、または悪化させるおそれがある場合は、速やかに休養させるか、他業務に配転させるなど、従業員の健康についての安全に配慮すべき義務がある。
特にY1社は、嘱託医により被用者の就労能力、勤務能力を判断させていたのであるから、診断結果が確実に被用者の就労、勤務時間に反映されるよう適切な措置を取るべき義務を負っている。
また、Y1社は、職員の腰痛症が業務に起因することを示唆する嘱託医の調査結果が明らかとなり、それ以降も同一内容の調査結果が報告されていたから、休憩時間、休憩場所の状況などについて必要かつ適切な措置を講じ、また、作業員が適切な休憩時間を取りうるような作業量にみあった人員を確保するなどの措置を講じるべき義務を負う。
Y1社はこれを怠ったため、安全配慮義務違反がある。

③親会社Y2社の責任
安全配慮義務が、使用者の労務指揮、労務に対する支配権に付随する義務であることからして、注文者であるY2社は、請負人であるY1社の被用者に対して、被用者に対するY2社の指揮監督、管理支配の関係が及んでいる場合に、その管理支配の範囲において安全配慮義務の責任が問われる。
本件では、Y2社の指揮監督、管理支配の関係がXらには及んでいないため、Y2社は損害賠償責任を負わない。

(結論)
Y1社は、安全配慮義務違反の債務不履行(及び民法715条1項)に基づいて、本件事故によりXらに生じた損害を賠償する責任を負う。

解説

腰痛につき業務上疾病として取り扱う基準を定める通達によれば、「重量物を取り扱う業務等腰部に過度の負担のかかる業務に従事する労働者に腰痛が発症した場合で当該労働者の作業態様、従事期間及び身体条件から見て、当該腰痛が業務に起因して発症したものと認められ、かつ、医学上療養を必要とするもの」としています。また、腰部に過度の負担のかかる業務がどのようなものかも示しており、これらを参考にして、腰痛と業務の因果関係を検討していくことができるでしょう。本件でも、腰痛が、専門的判断知識を有する行政官庁によって労災認定されていること自体が、一つの重要な考慮要素とされています。
Y1社の安全配慮義務違反については、業務内容を熟知する嘱託医による診断があるにもかかわらず、それを従業員の健康保持のために役立てていなかったこと、役立てていれば休養や配転を通じて腰痛の発症を回避できた可能性があることから、義務違反が認定されています。
このように、腰痛といえども、過酷な業務等が原因であれば、労災として認定されるだけでなく、会社に対して責任を追及できる余地があります。
但し、賠償請求者にもともとの疾病があれば、賠償額は減額され得ますので、ご注意ください。