保育所事故と法的責任 ~うつ伏せ寝と死亡事故、乳幼児突然死症候群~

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保育所内では、あらゆる事故の危険があります。

その中でも今回は、うつ伏せ寝による窒息死を取り上げたいと思います。

うつ伏せ寝による窒息死と判断された場合、保育所側には、法的な責任が生じ得ます。

一方で、乳幼児の場合、乳幼児突然死症候群(SIDS)による睡眠中の死亡事例も発生しています。

この突然死とうつ伏せ寝による窒息死は、その区別が問題となります。

1.刑事上、民事上の責任

乳幼児突然死症候群とは、健康的な乳児に予兆もなく突然死をもたらす疾患です。

そして、その原因は外因、外傷性ではなく内因性であると考えられるものの、その具体的死因を特定することができないものです。

乳幼児突然死症候群と認定された場合、保育所側には法的責任は生じないと判断されるでしょう。

なぜなら、法的責任が認められるには、少なくとも保育所側に過失があることや過失と死亡との因果関係が必要になります。

しかしながら、乳幼児突然死症候群では、上記のとおり、死因が特定できないため、保育士らの過失や因果関係が認定できないのです。

対して、うつ伏せ寝による窒息死と認定された場合は、うつ伏せ寝になったこと自体や、それを放置していたことに不注意(注意義務違反)があると判断されるケースも十分あり得ます。

その場合は保育所側に過失が認定され、法的責任が生じ、数千万以上の多額の損害賠償責任を負うことが見込まれます。

2.実際の発生事例と法的責任の判断

生後4ヶ月の乳児Aが、睡眠中死亡した事案で、両親が認可外保育施設運営会社と市などに損害賠償請求を求めた事案。

Aは、保育ルームの床の上でうつ伏せ寝の体位で泣いていたことから、保育従事者がベビーベッドの上に移動させ、仰向けに寝かせたが、その後、うつ伏せ寝の体位で心肺停止状態になっているところを発見され、その後死亡が確認された。

(1)裁判所の判断

ア 第一審(大阪地裁平成26年9月24日判決)

第一審裁判所は、保育従事者の証言を信用した上で、Aの死因は鼻口閉鎖等による窒息死ではなく、乳幼児突然死症候群と認めました。

その結果、両親らの請求は全部棄却とされています。

イ 控訴審(大阪高裁平成27年11月25日判決)

しかしながら、控訴審裁判所では、保育従事者の証言を採用せず、保育従事者らはAがうつ伏せ寝によくなることを知っていたのに、寝かせた後はこれをチェックせず放置していたと認定しました。

また、死因も窒息死として認定し、運営会社側に合計約5000万円の損害賠償の支払を命じました。

(2)損害額

民事上、法的責任が認められた場合、高額の損害賠償責任が認められることとなります。

本件では、両親らにそれぞれ約2500万円、合計で約5000万円の損害が認定されましたが、その内訳は以下のとおりです。

ア 死亡逸失利益 1999万9380円

死亡した乳児が将来得られたであろう収入分の補償です。もっとも、将来利息分は、ライプニッツ係数という係数を用いて控除されます。

本件では、本件事故発生時の男性の平均賃金を基礎収入として、18歳から67歳までに得られたであろう収入から将来利息分を控除した1999万9380円が認定されました。

イ 死亡慰謝料 2000万円

被害者に生じたといえる精神的損害額です。

本件では、本件事故態様や被害者の年齢等その他一切を考慮して、2000万円と認定されました。

ウ 葬儀関連費用 150万円

葬儀に一般的に必要となる費用の補償で、150万円の認定となりました。

エ 両親ら固有の慰謝料 各200万円

近親者に生じる精神的損害の補償です。
本件では、両親らにそれぞれ200万円が認定されました。

オ 弁護士費用 各227万5000円

本件では両親にそれぞれ227万5000円が認定されました。

まとめ

乳幼児突然死症候群による死亡であるか否かは大きな争点となります。

そこで、外因性ではないことを裏付けるために、医師の意見書や睡眠環境等の精査などが必要になってきます。

遺族から法的責任を追及された場合には、高額な損害賠償責任を回避するためにも、弁護士への依頼を強くお勧めします。